(2025年11月14日付掲載)

日本熊森協会の記者会見。右から室谷会長と北海道・東北4県の支部長(6日、東京)
実践自然保護団体・日本熊森協会は6日、農水大臣と環境大臣に対して「北海道・東北等のクマの異常出没を受けての緊急要請」を提出しその後、記者会見をおこなった。熊森協会は、「今年は北日本を中心にクマの出没と人身事故が甚大となっている原因を考えなければならない」とし、餌資源の乏しい広大な人工林ができて荒廃していること、地球温暖化によるナラ枯れでクマの餌である堅果類が不足してきたこと、さらには尾根筋の森林を伐採して風力発電やメガソーラーが建設され稼働していること――をあげ、それによってクマが奥山から追い出されて里周辺に移動し、定着しつつあると指摘した。緊急対策として、捕殺一辺倒ではなく、誘引物徹底排除や電気柵の設置、追い払いなど「クマを寄せ付けない集落作り」に国家予算をつけることを求めた。
記者会見で日本熊森協会の室谷悠子会長は、「私たちが守ろうとしているのはクマではなく、クマが住むような水源の森だ」とし、次のようにのべた。
クマの本来の生息地である奥山は、元々は堅果類(ドングリ)を実らせる広葉樹主体の森で、そこは人間にとっても水源地という大事な場所だった。そこが今どうなっているかというと、戦後のスギ、ヒノキの拡大造林で全国の奥山が人工林にかわり、それが放置されて荒れ放題になって、生き物が棲みにくい状態になっている。さらに2000年代になると地球温暖化の影響でナラ枯れが大流行して自然林も劣化し、堅果類と昆虫の減少、下層植生の衰退などで急速に豊かさが失われた。そのうえ近年は、尾根筋に風力発電やメガソーラーを建設して、クマの生息地を破壊してきた。
マスメディアは「クマが増えすぎて町にあふれてきている」という一部の研究者の説を報道しているが、私たちはそう見ていない。かつてクマは奥山におり、里山は人が利用していて、両者の棲み分けができていた。ところが中山間地域の過疎化や高齢化によって、クマが荒れてしまった奥山から、人が入らなくなった里山や耕作放棄地が増えた集落周辺に移動・定着してきた。人とクマの距離があまりにも近くなった。それが今の状況をもたらしている。これはたいへんよくない状態なので、私たちは数年前からクマの被害防除や山への追い払いを提言してきた。

クマ寄せ付けぬ集落作りを
今、ハンターが高齢化で減少している一方、クマの罠による捕獲が増えているが、集落周辺に米糠(ぬか)などを入れた罠を大量に設置することで、かえってクマを人里に誘引し、人身事故が起きやすい状況をつくっている。捕まえたクマを殺しているが、人の恐ろしさを知るという学習効果が残らないので、また別のクマが出てくるという悪循環になっている。
大事なのはクマを寄せ付けない集落作りで、集落のまわりの草刈り(クマは身を隠せる藪を通って人家や畑に近づく)、放置された柿の木を伐採するなど誘引物の徹底除去、電気柵の設置などだ。昔は地域でやられていたことだが、今は高齢化して困難になっているので、私たちはボランティアでやっているが、こうした改善措置によって集落内にはクマが入り込まないことが証明されている。国がそこに重点的に予算や人員を投入してほしい。人身事故を起こらないようにすることが一番大事なことで、だからこそ捕殺一辺倒ではなく、被害防除と追い払いに国の予算をつけるべきだ。
長期的には、クマの本来の生息地である奥山天然林の回復をめざし、そのためにも国が再エネなどによる無秩序な奥山の開発を規制することが必要だ。
クマは急増してはいない
続いて熊森協会の北海道、秋田、岩手、宮城、福島の各支部長が発言した。
北海道支部長は、「新聞配達員がクマに襲われた北海道福島町では、誘引物であるゴミが散乱している状態で、電気柵による出没抑止対策もとられていなかった。私たちは、ヒグマ対策ゴミステーション“とれんベア”を寄贈した。また、北海道ではヘア・トラップによるヒグマの生息頭数調査がやられているが、これはクマが好むクレオソートやハチミツなどでクマを誘引する。このヘア・トラップが道路の周辺や登山道周辺に設置されているため、人里にクマを呼び寄せる効果になっている。呼び寄せるのではなく、寄せ付けない体制が必要だ」と指摘した。
秋田県支部長は、「秋田県では2023年に2334頭というかつてない大量のクマの捕殺がおこなわれたが、事態はよくなるどころか悪化し、今年はそれ以上のペースで捕殺している。一昨年の捕獲資料を分析すると、少なくとも300頭の子グマが孤児となり、山での生活の仕方や人の恐ろしさ、冬ごもりの仕方などを母グマから教わらないまま大きくなり、それが人里に無警戒で近づいていると考えられる。子グマやおとなしく山にいたクマまでも箱罠に入れば殺処分する、というやり方が事態を悪化させている」とのべた。

そして「秋田県では昭和50年代から猟師が山に入って、目視でクマの生息調査をやってきている。それによるとクマの個体数はほぼ横ばいで、若干の減少傾向にあるようだ【グラフ参照】。一方、クマの捕殺数は1950~70年代までは年間100頭をこえることはまれで、2017年に500頭以上の捕殺があって以降、最近になって急激に増えている。だから、“クマの個体数が急激に増えたから、あふれて町に出てきている”のではなく、別の原因で山から下りてきていると推定される。山の中の餌や水の状況を調査し、奥山の森林環境を回復すること、森林を破壊する再生可能エネルギーの開発に規制をかけることを一刻も早く進めてほしい」と指摘した。
宮城県支部長は、「クマは奥山の森林生態系を構成する重要な要素で、生物間のバランスをコントロールする役割を果たしている。今なにがそのバランスを崩しているかを考えないといけない」とのべた。
室谷会長は、「捕殺によってクマの数を減らすというやり方が限界にきていると思う。いくら人員を投入して捕殺を続けても、クマが絶滅寸前になるまで捕殺をし続けなければならない。それよりもクマの被害防除と追い払い体制の確立を最優先課題とし、そこに十分な予算と人員を確保してほしい」とのべた。
実践例として、以下の事例を紹介した。兵庫県豊岡市では、「捕殺だけでは問題が解決しない」と、鳥獣対策員が集落を回ってクマが来そうな藪をチェックし、その藪を刈るのを熊森協会がお手伝いしている。それを3年やってきて効果があがっている。滋賀県は野生動物の被害額を激減させたが、まず被害防除の徹底――柵の設置や誘引物の除去、草刈り――によって環境を整備し、最後の手段として捕獲をしている。





















