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申告漏れ一斉摘発に見舞われた捕獲隊 「今後、鳥獣対策は国税にやってもらおう…」 

モリ&カケ野放しとは裏腹な取り立て話題に

 

捕獲したイノシシの解体をする猟友会メンバー(下関)

 日本全国で鳥獣被害が深刻化し、農業者も国・県・市町村もその対応に追われている。中山間地の多い山口県では、10年前とは比較にならないほどイノシシ、シカ、サルが勢力を拡大し、人間の生活領域にまで侵入している。農作物への被害が甚大になるなかで、下関市では単市の事業として捕獲奨励金を出しているほか、平成24年度から国がシカ、イノシシ1頭の駆除につき最大8000円を補助している。駆除に当たるのはおもに猟友会の会員で構成する有害鳥獣捕獲隊のメンバーだ。だが、最近ここに国税が税務調査に入り、捕獲奨励金やジビエセンターが買いとった肉代などについて所得の申告漏れを摘発し始め、ボランティア精神で駆除に当たってきた捕獲隊員たちを仰天させている。獣たちを相手にする労力や経費に比べて、「所得」など微々たるものだ。そのなかから払うべきものはきっちり払うが、モリ&カケ野放しの佐川長官率いる国税が、なぜ下関の捕獲隊みたいな組織に目くじらを立てるのか? と話題になっている。農村部を取材する記者たちで、何が起きているのか論議した。

 

 A 「税金をとられてやりきれない」という話を有害鳥獣捕獲隊のなかで耳にするようになった。聞いてみると、国税が2カ月ほど前に入ったのだという。真っ先に市の有害鳥獣対策室に来て、捕獲隊員がもらった奨励金などの一覧表を持って行き、ジビエ関係の業者のところにも入ったようだ。そこから隊員の収入を調べ、もうじき個人個人に「所得の申告漏れ」を通知してくることになっている。もし年明けから次の確定申告までに追加申告をしなければ、重加算税などの罰則が待っている。数多く駆除している人ほど奨励金の額が多いが、そういう人ほど追加申告しなければならない。「半数くらい引っかかるのではないか」という隊もあった。国税は、鹿児島や兵庫で「補助金詐取」があったから全国に税務調査に入っているといっていたそうだ。

 

  下関市内には、下関西部と東部、菊川、豊浦、豊田、豊北の6つの有害鳥獣捕獲隊があり、約300人が駆除にかかわっている。その多くが3年ほど前から、市の嘱託職員(報酬2000円)の扱いになる実施隊に任命されている。もっとも精力的に活動しているのは、農作物への鳥獣被害が早くから深刻になっていた豊北と豊田の捕獲隊だ。駆除活動は、猟期(11~翌3月)を除く4~10月の半年超に及ぶ。この期間、捕獲隊員は土・日を使って依頼のあった地域の山に入り、シカやイノシシの駆除に当たっている。

 

 隊員のほとんどが農業者だ。追加で支払う所得税はわずかかもしれないが、追加分が所得に加われば、来年から市県民税、介護保険料、国保料、後期高齢者医療保険料など、すべての料金に跳ね返ってくる。介護保険料や国保料が最高額になるのではないかと懸念している人もいた。捕獲隊の平均年齢は70代だ。きつい思いをしてボランティアで猟をしているのに、軒並み値上がりすることになると、もう辞めたいという人が出てきてもおかしくない。

 

  本来猟師は、イノシシやシカが一番おいしい時期に猟ができればそれでいいし、猟を生業にしているわけではない。年間通して猟に出ているのは、あくまでも作物への被害がひどく、農家や住民が困っているからだ。ある猟師は、「みながバカバカしいと思って辞めれば、困るのは農家や地域住民と市役所だ」といっていた。とくに豊北・豊田の捕獲隊は奨励金が出るようになる前から、手弁当で有害鳥獣駆除をしていた。そのときは何もいわず、奨励金が出るようになると税金のとり立てに来るから、みんな怒っている。

 

  捕獲奨励金の額は自治体ごとに違うが、下関の場合イノシシ1頭5000円、シカ1万円、サル2万6000円を市が補助している。イノシシとシカの成獣については、それにプラスして五年ほど前から国が1頭につき最大8000円の補助を出すようになった。ただこれは予算の枠内で配分するので必ず1頭8000円支払われる保証はないそうだ。

 

 捕獲隊のなかで一番多くもらっていた人でも200万円に満たない額だったという。確かに所得には変わりないのかもしれないが、それで飯を食っていけるような制度でもない。経費で消えていくくらいの額だ。例えば猟には犬が欠かせないが、猟犬を飼っている人は毎日エサ代がかかるし、猟に出る前には生肉を1㌔ずつくらい食べさせる。それでも相当体力を消耗するようで、1日を終えて帰る頃にはげっそりしているという。マダニを予防する薬や狂犬病などの予防注射も必要だし、イノシシなどとたたかって、深い傷を負えば病院につれて行くこともある。そうした経費を考えると1頭だけでもかなりの金額だ。複数飼っている猟師のなかには年間50万~60万円くらいかかるという人もいた。もちろんケガをしたり、年をとって猟に出られなくなった犬も殺すわけにはいかないから最期まで飼っている。

 

  そのほかの経費を聞いてみると、鉄砲の保持、弾、トラックのガソリンなどがあるほか、高齢化して、イノシシなど60㌔、70㌔、大きければ100㌔あるような個体をトラックに乗せるのが大変になってきたので、最近軽トラックにクレーンをつけた人も多いという。年間100万~200万円くらいの奨励金などあっという間に消えてしまう。山のなかを1日中捕獲に費やす労力だけでも考えてみたらわかるが、奨励金があるからやっているというような代物ではない。

 

 これが国税の手にかかると、「犬を猟に使うのは1カ月に何日か」とか、「軽トラックを駆除に使うのは何㌔か」となるから、現場の人たちはあきれている。猟に使わない日は犬にエサをやらなくていいのか? 猟に出られなくなったら捨てていいのか? と国税に聞いてみたくなると話していた。軽トラックにしても普段、農業や仕事に使う人も多いが、途中で「道路にシカの死骸が落ちている」と通報があれば回収に行くし、仕事の合間で罠の確認に行くこともある。「これは捕獲の経費」「これは農業の経費」と切り分けて計算できない部分が多い。

 

 E 下関はかなり真面目にやっているのが事実だ。尻尾と耳、それに証拠写真をとって市に提出し、みなで駆除するときには捕獲隊に奨励金が入るので、ルールに従って配分している。仕留めた人が少し高いくらいだ。関係する業者が傍から見ていても、かなり民主的・組織的にやっていると話していた。「“いかに補助金をとってやろうか”という人はおらず、むしろ行政を通して補助金をもらうのが面倒くさいので、自分で埋めておくという人も多い」と話す関係者もいた。そんな、不正などしていない下関の猟師たちのところに国税が入ってきて、申告漏れを摘発していった。

 

  豊北・豊田の捕獲隊などは、共同でほぼ毎週土・日を返上して駆除活動をしている。朝9時に集合なので、朝七時頃から動き始め、犬たちにエサをやって支度を整えて出かける。寒い時期も暑い時期も、丸1日山のなかを走り回るから体力が必要だ。豊北町の農業者が話していたが、猟師はほとんどが農業者で、生活をかけて猟をしている。放っておけば、生活の糧である農作物が荒らされるからだ。同じ場所で何時間も茂みに隠れて待ち伏せし、その場所を通るシカを撃つ。1日待ち伏せしていてもまったく通らないときもあるという。

 

 犬たちにとっても2日間の活動量はすさまじいものだ。重たい発信器をつけて山を走り、獣を見つけると人間が到着するまで囲んでひき留める。先日も、大きなイノシシとたたかっていた犬が喉を突かれていた。場所がもう少しずれていたら死ぬようなケガだ。犬も人間もある意味命がけの駆除活動をボランティア精神でやっている。猟銃免許を持つ人が少なくなっているのに、担っている人たちのやる気をそぐようなことをしたら、ほかにだれが駆除をするのかと思う。「今後は国税に通報して駆除してもらったらいい」という声もある。だいたい経費程度の補助金を税金で回収していくなら、何のための補助金なのかわからない。

 

県内でシカの被害拡大 県の保護獣指定機に

 

 C 近年、箱罠の免許をとる人は少し増えていて、箱罠で1度に複数捕獲できるイノシシはだいぶ減っているという。勢いが衰えないのがシカだ。山口県内でシカが生息しているのはおもに下関、長門、美祢の3市で、2年前の調査で約2万頭いると推測されている。しかし宇部や山陽小野田、萩、山口など周辺地域でも生息が確認されており、拡大する傾向にある。気まぐれに手近にあるエサを食べる習性なので罠で捕獲しにくく、猟で一頭ずつ仕留めるのがおもな駆除手段ということもあるようだ。山口県は最終的に500頭まで減らす目標を立てているが、まだまだだ。

 

  農家から一番聞くのもシカの被害だ。豊田町の山間部で野菜をつくっている農家は、何を植えても芽が出るとシカがきれいに食べてしまうので、一向に出荷できないと話していた。ニンジン、ダイコン、ハクサイ、落花生など、シカの犠牲になった作物は多岐にわたる。今年こそはと柵を高くしても、斜面を使って飛びこえたり、どこからか侵入して荒らしていく。最近ではシカが人間を恐れなくなり、家のすぐ前のプランターや花壇の花芽まで一晩で食べ尽くしてしまったという事例もよく聞くようになった。シカが食べそうなものには必ず籠などで蓋をして寝るという。

 

 増えすぎたシカがイノシシと同じ物を食べるようになったので、自然の法則でイノシシが淘汰されているという指摘もある。シカについていえば、県が長いあいだシカを保護獣に指定していたために頭数がふくれ上がり、現場の要請でようやく解除に至った頃には手がつけられない状態になっていた経緯がある。ところが県は10年ほど前から奨励金を負担しなくなり、猟期以外の駆除については今も各市町村が全額負担している。あまりにもシカが増えすぎたため、県も去年、ようやく猟期に2400頭を捕獲する方針を出し、メス1頭1万500円、オス1頭9000円を出すようになったが、自らが招いた事態を反省して市町村に丸投げしている部分についても考えないといけない。

 

国道を横断する猿(下関)

 B 農家にとって一番たちが悪いのはやはりサルだ。豊北町内では100匹くらいの大きな群れが阿川、特牛、神田、神玉周辺の森を移動しながらエサを探しており、それが畑にやって来る。群れが通過した後の畑は無惨だ。だいたい大きな見張り役のサルが数匹いて、安全を確認してから群れを呼び寄せ、片っ端から作物を荒らす。自分がとった野菜を一口かじって捨て、また次の野菜をとって一かじりする。それを群れ全体がやるから悲惨だ。ある年配の女性は、「追い払おうと思っても、年寄り1人ではどうしようもない」と話していた。見張り役のサルは年配の女性などを見ても逃げようとせず、逆に人間の方が近寄ると飛びつかれそうな雰囲気だという。賢くて女子どもは舐めてかかっている。

 

 収穫間際のカボチャやスイカをサルが両手に抱えて逃げていったとか、タマネギ畑に来て一口かじって放り、また一口かじって放るとか、屋根の上でダイコンを一口ずつかじって捨て、翌日に干しダイコンが大量にできていたなどの話は尽きない。笑い話のようだが、農家にとっては切実な問題だ。サルの群れの通り道になった地域は手のうちようがないからだ。

 

  農林業被害額でいうと、国では15年度で約176億円、山口県はここ数年5億円規模で推移している。下関市だけで見ても1億円をこしている。被害額は減少傾向だが、農業生産そのものが減っている側面を指摘する人の方が多い。また商品にしない作物はカウントされていないので実際の被害額は未知数だ。意欲をなくして田畑の耕作をやめる農家も増えている。今年はカキやクリが生り年で、山にエサがたくさんあったので、サルやシカ、イノシシが里に下りてくる頻度が減っていたが、これから冬になって山にエサがなくなると下りてくるだろうとみな警戒している。

 

 B ここ数年は、旧4町や農村部だけでなく、旧下関市の市街地にも出没するようになっている。細江町の警察署前の交差点をシカが歩いていたり、彦島でサルが出たり、長府でイノシシが毎日寺の境内を掘り返していたなど、旧市内の場合は1頭出ただけでも大騒ぎだ。火の山裏手から長府や一の宮につながる山手にも、巨大なイノシシが生息している。人口減少や農業者の減少で、人間の暮らしと獣の領域との境界線がなくなっていることが最大の問題で、この解決なくして鳥獣被害を解決することはできないという関係者は多い。だが、これほど獣たちの生息範囲が広がっているなかで、当面は頭数を減らすことが待ったなしだ。ここで捕獲隊員が「やめた」といったらかわりに駆除する人などいない。とくにサルは人間に近い姿をしており、捕獲にかかわる猟師たちの心痛は計り知れないものがある。そんな仕事を国税がかわりにするのか? だ。

 

 C 下関では数年前に自治会に税務署が入り、自動販売機などのわずかな売上に対して追徴課税したことが問題になった。今回の捕獲隊についても下関の奨励金は総額で2000万円ほどだ。そこからいくらの税金が徴収できるというのだろうか。国税庁の佐川長官がかかわった森友学園の8億円の値引きと比べると微微たる額ではないか。しかも詐取などしていない猟師からも税金をとりたてていった。今後サルの駆除にしろ、道路で倒れているシカやイノシシの回収にしろ、「国税に通報してくれ!」「佐川に頼んでくれ!」という声が高まることもやむを得ない。どちらにしても、「一生懸命やっている人からむげにとってはいけない」と、周囲の人人も指摘している。不正を暴くのなら、ボランティアで頑張っている捕獲隊より前に、何億円も所得がありながらタックスヘイブンを利用して脱税している大金持ちとか、多額の補助金詐取をしているところの摘発に精を出した方が税収も上がる。とりあえず、下関の捕獲隊よりも先にモリ&カケをどうにかせい! とみんなが話題にしている。

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