(2025年8月1日付掲載)

東京でおこなわれた「令和の百姓一揆」を前にステージに登壇して挨拶するトラクター運転手たち(3月30日、青山公園)
農業者(百姓)は、安全でおいしい農産物をつくるために、日々土を耕し、家畜を養い、自然と向き合い農業を営んできました。また、農業生産を通して、地域の共同体を維持し農村の集落を守ってきました。環境を守り、生態系を維持することにも努めてきました。しかし、残念ながらこのような農業を続けていくことが困難になってきました。村も農民も農の現場から締め出されようとしています。私たちは、次代に安全な食と農の「タスキ」を渡したい!との思いで、農業者(百姓)がなにか行動を起こせないかと立ち上がりました。3月30日の東京でのトラクター行進を皮切りに、全国の都道府県20カ所で令和の百姓一揆実行委員会が結成されて、百姓の声を伝えるとりくみが広がっています。
日米関税交渉でコメをはじめアメリカからの農産物の輸入拡大が焦点になっています。これまでも自動車などの輸出のために日本のコメをはじめとする農業が犠牲になってきました。異常気象による災害、農業の担い手不足、農業経営の赤字などにより農家人口は年々減少し、食料自給率も低迷しています。さらに追い打ちをかけるように、アメリカのコメの輸入拡大が浮上しています。
今回のコメ不足の原因はコメの作況指数と流通量の大きな乖離があることに起因しています。作況は101(単位面積当りの収穫量)ですが、高温の影響やカメムシの発生により等級落ちのコメが多く発生しており、コメの流通量は大きく減少しています。現場の感覚では作況96くらいで毎年約30万㌧とれていません。そのようななか、2025年度産米についても減反・転作が緩和されていません。
コメの価格高騰の原因は
今回のコメの価格高騰の原因は誤った作況指数をもとに生産調整(減反)をおこない続けたことによるものです。しかし、一部に誤った認識、情報が流されました。一つは、農家が悪い(農家がもうけている)、JAが悪いと指摘されている点です。
コメの価格が2倍以上に高騰しました。本来、通常の商品流通の仕組みであれば、当然生産者の収入も2倍以上になるわけですが、実際には1・5倍程度にしかなっていません。一方、生産者のコストである肥料代、燃料代などはそれ以上に上昇しています。また、多くの方から標的にされたJAは赤字が続いています。
JAはあくまでも委託販売です。通常の商系の販売業者は安く仕入れて高く売ることで利益をあげていますが、JAの場合、農家から手数料を徴収しているのみで、これはコメの価格が高くなろうが一定です。それをもとに保管、流通を担っています。
しかし、今回のコメ不足により、商系の農家からの直接購入に拍車がかかり、JAの集荷量は大幅に減少しています。大型の低温貯蔵庫、カントリーエレベーターなどのおかげでコメが夏場でもおいしく食べられるように保管されています。このような施設の維持、管理はコメの集荷量が減ってもコストは変わりません。
令和の百姓一揆実行委員会では当初より、コメ不足の背景は、くり返されてきた減反と異常気象の影響による流通量の減少があると指摘してきました。ようやく気が付いてきたようですが、そもそも、生産者農家が少なくなっていることも大きな課題です。
今年になりコメの増産を呼びかける方も多くいますが、農業はそう簡単ではありません。一度耕作放棄地となった農地を水田に戻し、本来の土壌機能を発揮できるようにするためには数年かかります。また、種もみの調達もすぐにはできません。農業をやめてしまった耕作放棄地を他の用地に切りかえることはすぐにできますが、逆に土づくりをおこない、生物を育む農地をつくるのは多くの手間暇が必要なことを理解していただきたいと思います。今回のコメ高騰を教訓化し、農業の担い手の確保、優良な農地の保全、種子の確保などをおこなうことが必須です。
備蓄米騒動がもたらしたものは
まず、今回の備蓄米の放出を受けて、あるマスコミから備蓄米の食味についてコメントを求められました。しかし、コメの銘柄、県産、年産などがわからないまま、備蓄米総体をおいしいの、まずいのと評価することはできないと申し上げました。
長年、農家生産者はコメの食味を向上させる努力をしてきました。その土地や気候にあった品種を守り、土づくり、苗づくり、水管理をおこない、今の日本のコメのブランド価値ができ上がってきました。コメは主食です。それほど農家が味にこだわって生産を続けてきました。
しかし、今回の備蓄米の販売では、「備蓄米(複数原料米)」としか表示されないものがほとんどです。いわゆる「コメなら何でもいい」という販売が主流になりました。本来コメの表示基準では、県産・地域・銘柄・年産の表示が必要不可欠です。しかし、それらを無視した販売によって、これまで農家がつくってきたブランドを無視し、価格のみに焦点が当てられるようになりました。一方消費者にとっては正しい表示による「消費者の選ぶ権利」が奪われたことになります。また、国の法律である「米トレーサビリティ法」の考えも無視した販売といわざるを得ません。
また大規模流通を拙速に急ぐあまり、これまで食味、銘柄にこだわってきた街のお米屋さんが淘汰されようとしています。年産が古いコメでも以前の古古米のようなひどい食味ではないようですが、それは農家やJAが長年努力して食味、保管技術を向上させてきた成果です。しかしそこには何の見返りも評価もありません。
そして、備蓄米の価格構造についてもきちんと明らかにすべきです。今回の備蓄米は保管料、流通経費、すべて国の税金で負担して流通されています。そうであるならば、通常のコメも同様にすべきであり、そうすれば、消費者の負担をかなり軽減できる価格での販売が可能となります【写真参照】。

備蓄米の表示

通常のコメ販売の表示
MA米の隠れた事実
日米関税交渉でコメをはじめアメリカからの農産物の輸入拡大が焦点になっています。これまでも自動車などの輸出のために日本のコメをはじめとする農業が犠牲になってきました。しかし、MA米では多くの税金が投入されていることを理解している方はあまりいません。
農水省のデータによると日本政府は、MA米を高く購入して安く販売しています。2022年では売買損益で約594億円、保管料などの販売経費80億円、あわせて、674億円のマイナスを出しています。2021年は477億円と、毎年のように500億円ほどの税金が投入されています【表参照】。なぜ税金を使って海外のコメを支援しなければならないのでしょうか。一方で国内の生産者には減反が推進されています。これは日本が海外のコメに対し、海外の生産者のために「所得補償」をしていることになります。
コメは年間分保管しなければなりません。国内のコメの流通では保管料はコメの価格に転嫁されています。MA米は国が保管料を負担しています。年間80億円です。同様に、国内のコメも国が保管料などの流通経費を負担すれば、消費者はもっと安く購入することが可能となります。
これ以上のしかも主食の輸入拡大で食料自給率38%の我が国の食料安全保障を最低の状態とすることは許されません。アメリカからの輸入には長距離の船便のため殺菌剤、防カビ剤が大量に使われ、消費者や子どもの健康障害を起こす危険があります。またアメリカや他国は温暖化による水不足が深刻で、長期的に日本にコメを供給する生産力は保証されていません。
今こそ、国内の農業、農村を守り、次世代の子どもたちに安全な食べ物、健康な生活ができることを残していくことが必要と考えます。