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『平成とは何だったのか 「アメリカの属州」化の完遂』 著・斎藤貴男

 ジャーナリストの著者は、元号による時代区分は日本だけの決め事でしかないと断りつつ、1989年からの平成の30年間を、「バブルの終焉とNTT株の暴落」からはじめて主要な出来事とともに振り返り、そこに「アメリカの属州化の完遂」を見ている。

 

 平成の30年間、戦後の「平等」の建前を覆して格差と貧困大国化が進むとともに、戦争の反省を覆して戦争のできる国への転換が進んだことを私たちは経験してきた。

 

 第一は労働法制の改革で、日経連が1995年に発表した「新時代の日本的経営」というレポートが、改定労働者派遣法になり、その後対象が製造業に拡大されて非正規化が一気に進んだ。また「戦後50年、落ちこぼれの底辺を上げることにばかり注いできた労力を、できる者を限りなく伸ばすことに振り向ける」という考え方で教育改革を進めて、教育の機会均等を破壊した。

 

 さらに、農産物の輸入自由化を進める一方、農地法を改定して株式会社が農地を賃貸で借り受けることができるようにし、今後大企業による農地の集約化が進めば、戦前の寄生地主と小作の関係に逆戻りしかねない事態に至っている。大規模小売店舗法の廃止と消費税の導入によって、中小企業や零細商店を成り立たなくさせ、地方都市の商店街はシャッター通りと化した。つまり構造改革とは「富める者をより富ませ、貧しい者をもっと貧しくする」ものだった。

 

 著者は、こうした平成における新自由主義改革は、日本の政財官界が独自に進めたものではなく、アメリカが日本の非関税障壁を解体するために突きつけた「年次改革要望書」によるものであったと指摘する。「年次改革要望書」は、バブル期にアメリカの対日赤字が激増したことから、日米二国間協議の場がもうけられたことが発端となった。そして現在、日本の有力企業の外国人持ち株比率は50%をこえており、株主利益至上主義のもとで日本の富がアメリカに吸い上げられ続けている。

 

 もう一つは戦争をしないという国是の覆しだが、これをめぐって著者は、9・11ニューヨーク・テロ事件直後の日本政府とマスメディアの対応に注目している。9・11直後の朝日新聞は1面で、米大統領「これは戦争だ」という見出しをつけ、天声人語が「よし、戦おうじゃないか。さあ、姿をみせろ」と書いた。米軍がアフガニスタンへの空爆を始めると、朝日は社説で「限定的ならやむをえない」と書いた。イラク戦争では米軍が各国の記者を従軍取材させ、自分たちに都合の良い報道をさせたが、そのとき朝日の記者は「米軍のバズーカ砲が命中して民家がドカーンと爆発したとき、兵士とともにヤッターと歓喜の絶叫をした」と書いた。

 

 アメリカへの攻撃をみずからへの攻撃よりも敏感に受け止め、戦争だ戦争だと騒ぎ立てたところに、日本のメディアの本性があらわれている。しかも、イラクの市民数十万人が犠牲になり、イラクに大量破壊兵器はなかったことがはっきりした後も、政府もメディアも何の総括もしていない。

 

 もちろんこうした対米従属関係は平成に始まったことではなく、それを明らかにするには第二次大戦の性質の解明が不可欠だ。これについて著者は、明治、大正、昭和にかけてアジア諸国に対する侵略を重ね、それらの国の人人を不幸に陥れてきた日本が、第二次大戦で敗北すると、今度は占領者によって中ソに対するアメリカの防波堤、不沈空母としてのみ生存を許されてきたと指摘する。経済大国になったのはその見返りで、日本人の努力や勤勉さは否定しないが、アメリカが朝鮮戦争やベトナム戦争の特需を与えるとともに、自国のマーケットを日本に開放したからだった。それが今日、米国内で戦争に若者を駆り出されるのは御免だという空気が強くなると、アメリカは日本に、基地を提供するかわりに稼がせてもらうだけでなく、市場をよこせ、代わりに血を流して戦えと要求している。つまり、アメリカから見ると「豚は太らせてから食え」ということなのだ。

 

 見逃せないのは、日本の為政者が不沈空母に甘んじ、独立への模索をまったく放棄してきたことで、そこにはアメリカにひたすらひれふし、国民をアメリカが喜ぶように操ることの見返りで偉くなった一族ばかりが権力を世襲するという日本の政治の現状がある。

 

 これをめぐって著者は、グルーと岸信介の深い関係を示して、「CIAは1948年以降、外国の政治家を金で買収し続けていた。しかし世界の有力国で、将来の指導者をCIAが選んだ最初の国は日本だった」というニューヨーク・タイムズ記者の証言を掲載している。それだけでなく、戦前の天皇制政府の中枢にいた朝日新聞主筆の緒方竹虎と読売新聞社主の正力松太郎が、いずれも戦後はCIAのエージェントだったことも、別の研究者が明らかにしている。

 

 現在、日本社会が陥っている衰退の根源はどこにあるのか? それは、天皇制を形だけ残して、戦後の民主化をやったと見せかけて、アメリカが権力の最高の座に座り、日本の売国的な為政者を従えて日本国民をひき続き支配してきたことにある。著者はそれを「天皇制のしくみはそのままにしておき、みずからはあまり表に出ない方が、日本国民を統治するには都合がよいと、本当の支配者が判断した」と表現している。以上のことを解明しようとする立場が、真実を追求する知識人やジャーナリストのなかで共有されつつあると思う。
 (秀和システム発行、B6判・292ページ、定価1500円+税

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この記事へのコメント

  1. 長崎のファン says:

    20年来の斎藤さんファンで『機会不平等』『消費税のカラクリ』講演会にも行きました。本書では30年いやそれ以前からの対米従属や「平和になっては困る」ヤツラの姿に留まらず「人々の心の荒廃」を進ませたことも1章立てのほか至る所で取り上げてくれたことも興味深かったです。
    最近の活動では長崎市で起こっているオチが映画『新聞記者』と一緒だったBSL4建設問題を雑誌で取り上げてくれたり私が読んだ『東京電力研究』では「長崎の平和」に決定的な問題点があったことを書いてくれてて感謝です。

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