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ガザへの日本の役割――その問題点と展望 現代イスラム研究センター理事長・宮田律

(2026年1月1日付掲載)

 

 国連安保理は25年11月17日、米国トランプ大統領のガザ・プランを承認した。このプランには暫定統治機構の設立や、「ISF(国際安定化部隊:International Stabilizing Forces)」という国際部隊の創設が含まれ、ガザ地区を非武装化したり、パレスチナ警察に社会の治安維持を行うための訓練を施したりする任務が与えられる。また、ISFには民間人保護と人道支援の任務も付与される。

 

 暫定統治機構からはパレスチナ人が排除され、トランプ大統領など欧米人や、EUなど欧米機関によって構成される暫定統治機構のあり方は、ガザの民族自決権を奪うものだ。

 

 ガザ地区の半分以上を占領するイスラエル軍は植民地主義勢力といえるが、植民地主義勢力に対する武装抵抗は国際法でも認められているものの、トランプ和平案はガザの諸勢力の武装解除を意図している。

 

 またガザの人々は、25年2月に「ガザをリビエラのようなリゾートにする」といい、ガザ住民の放逐を考えたトランプ大統領をまったく信用していない。

 

 2026年もガザの人々にとって厳しい情勢になりそうだが、23年10月7日のハマスの攻撃を契機にガザでの戦争が始まって以来の日本の取り組みは、ガザの人道状況への配慮よりも日米同盟を優先したものだったといわざるを得ない。

 

 2024年5月に現在れいわ新選組参議院議員の伊勢崎賢治氏から「人道外交議員連盟」の勉強会の講師の依頼があった。人道外交議連は、イスラエルの攻撃を受けるガザの人道状況を憂慮する石破茂前首相を会長に、衆議院議員の阿部知子事務局長(立民)、同じく衆議院議員の近藤昭一幹事長(立民)などを中心に発足した。講師を引き受けてから現在に至るまで議連の勉強会には「有識者」としてほぼ毎回出席している。阿部議員が人命尊重という本質的な任務を担う医師であるということもあって、ガザに関連する国際機関や日本のNGOの医療関係者が講師になることが多く、ガザの傷病者の日本への医療避難(メディカル・エバキュエーション)も議連の主要なテーマだった。

 

人道援助も実現できぬ日本外交の体質

 

 政治的に一番の焦点になったのは、パレスチナ国家承認問題だった。25年9月の国連総会の開催を前にして従来パレスチナ国家を承認していなかった西ヨーロッパの国々の間で大きな動きがあった。国連では9月12日、7月にフランスとサウジアラビアが主導して成立したパレスチナ・イスラエル二国家共存による和平を訴える「ニューヨーク宣言」を支持する決議案が採決にかけられ、日本を含む142カ国の賛成で採択され、国際社会のパレスチナ承認もいっきに進むかと思われた。

 

 パレスチナ国家承認は持続可能な和平のために必要だ。国家をもたないパレスチナ人は法的な保護も受けることなく、彼らの福利や安全に責任を負う政府も機関も存在しない。イスラエルの占領下に置かれるパレスチナ人には日本国憲法で認められている表現の自由、集会・結社の自由もない。イスラエルの入植地拡大に反対するデモをおこなえば即座に逮捕され、裁判もなく拘禁される。また、パレスチナ国家承認は、パレスチナの国際的な地位を高め、国際社会における発言権を強化することにもなる。

 

 25年10月におこなわれた自民党総裁選の立候補者の顔ぶれを見ても、パレスチナ問題に関心がありそうな政治家はいなかった。ガザの人権問題を重視していた石破首相の政権の間にパレスチナ国家承認が果たされると期待された。実際、パレスチナ国家承認を求める議員の署名は与野党で206人も集まり、署名を受け取った岩屋毅外相も「206人の署名は非常に重たいし、ガザの現状は看過できない」と懸念をのべていた。

 

 ところが、岩屋毅外相は9月19日の記者会見で、パレスチナの国家承認を見送る方針を正式に表明する。「承認によりイスラエルが態度を硬化させ、パレスチナ自治区ガザの情勢が悪化することを懸念した」とのべた。岩屋氏は「承認を求める声が大きくなっているが、何が実際の解決につながるのかを総合的に判断した。現時点での承認は、停戦や中東和平の実現への影響は小さい」と説得力に欠けることを語った。

 

 ガザの傷病者は25年3月に自衛隊中央病院が2人を受け入れたが、その後いっこうに増えることがなかった。人道外交議連に参加して、傷病者の受け入れが増えないことについて外務省の担当者などにいくら尋ねても「付き添いが居住するところが見つからない」などの回答が返ってくるばかりだった。ウクライナ避難民は都営住宅に600人も居住しているが、ガザの傷病者に比べれば圧倒的な多さで、日本の官僚たちには二重基準や人種主義があるのかと思えるほどだ。

 

 石破首相もパレスチナの国家承認については「『するか否か』ではなく『いつするか』の問題だ」としたうえで、イスラエルが「二国家解決」への道を閉ざすさらなる行動をとる場合、パレスチナ国家を承認する可能性を示唆することを検討しているとのべた。ならば、9月の国連総会の時点で承認に踏み切ってもよいと思われた。石破首相は昨年2月の予算委員会でガザからの留学生を受け入れたいとも語っていた。それもまったく進まず、目下のところ、受け入れた留学生は一人もいない。人道外交議連の構想がなかなか実現されなかったのは、外務省の「日米同盟派」の主張が省内で「中東派」よりも優勢だからだという印象をもっている。

 

 米国が拒否権を行使する安保理とは異なって、ガザ戦争が始まって以来、国際司法裁判所(ICJ)、国際刑事裁判所(ICC)、また国連総会はイスラエルに対して厳しい判断を下してきた。本来ならば、こういうイスラエルに対して厳格な輪の中に日本は入るべきだが、高市首相はパレスチナ国家承認やガザ問題にほとんどまったく関心がないようだ。

 

 12月9日、人道外交議連の阿部知子事務局長たちは、『パレスチナ人道支援の更なる強化及び、外務省令和7年度補正予算案“以上の”拡充を求める要望書』を国光あやの外務副大臣に提出したが、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)やパレスチナ関連NGOへの予算づけが適切におこなわれること、ガザへの支援物資の搬入が滞りなく、円滑におこなわれるようイスラエルに働きかけること、医療避難者を受け入れるエジプトやヨルダンなど周辺諸国への支援強化などが要請された。至極もっともな内容ばかりだが、そこにはパレスチナ国家承認も、ガザの傷病者、留学生の受け入れもなくなった。

 

 日本のガザ支援の後退を感ぜざるを得ないが、政治家たちの主張や考えが実現されるには特に外務官僚たちの能動的、主体的な取り組みや協力が必要だ。ガザに対する日本の支援が現地住民たちから感謝され、国際社会から評価されるものになるためには、外務官僚たちがトランプ政権の威嚇や圧力を恐れていては何も進まない。

 

 親米的な高市政権の姿勢を考えると、日本のガザ支援には26年もあまり明るい要素はないが、それでも国会議員たちのガザへの関心を切らしては何の前進もないことは明らかだ。こちらも粘り強く議連と付き合い、少しでもガザの人道状況の改善が前に進むことを手伝いたいと思っている。

 

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 みやた・おさむ 1955年、山梨県生まれ。現代イスラム研究センター理事長。1983年、慶應義塾大学大学院文学研究科史学専攻修了。米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院修士課程(歴史学)修了。専門はイスラム地域研究、イラン政治史。著書に『黒い同盟 米国、サウジアラビア、イスラエル』(平凡社新書)、『武器ではなく命の水をおくりたい 中村哲医師の生き方』(平凡社)、『オリエント世界はなぜ崩壊したか』(新潮社)、『イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか』(新潮新書)、『石油・武器・麻薬』(講談社現代新書)、『アメリカのイスラーム観』(平凡社)、『イスラエルの自滅』(光文社新書)など多数。

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