(2026年2月23日付掲載)

米国の軍事恫喝が強まるなか、街頭に出てイラン革命47周年を祝う人々(2月11日、テヘラン)

宮田律氏
トランプ政権による関税措置について米連邦最高裁判所は相互関税などの関税を課す権限は大統領に与えられていないとする判断を下したが、これに対してトランプ大統領は日本を含む幅広い国を対象に10%の新たな関税を課す文書に署名し、関税措置を続ける方針を明らかにした。この尋常ではない大統領は国内での求心力を維持するために、イランを攻撃する可能性がある。
イラク戦争の時と同じく米メディアは戦争を抑制するよりも煽る傾向にあるが、米国内ではイラク戦争の時とは違ってイラン攻撃支持のムードは強くない。
アメリカがイランを攻撃する正当な理由などない。イランを攻撃すれば、それは「予防戦争」という国際法に違反する行為だ。つまり、潜在的敵が軍事的に強大になる前に戦争でその能力を奪う、「戦争するなら今でしょ」という独善的なものだ。
言語学者ノーム・チョムスキーはブッシュ政権によるイラク戦争を指して「予防戦争とは、ニュールンベルク戦争裁判で『最悪の犯罪』と断罪されたものにほかならない」と主張した。予防戦争(将来の脅威を避けるための先制攻撃)は、基本的に国連憲章第二条四項の「武力行使禁止原則」に違反し、国際法上違法と見なされる。昨年六月にアメリカとイスラエルはイランの核関連施設を攻撃して大きなダメージを与えたが、これも国連決議すら経ない国際法違反の軍事行動であることは言うまでもない。
アメリカとイスラエルにはイラン・イスラム共和国体制を打倒し、イランを王制時代のように親米・親イスラエルの国に転換したいという目標があるに違いない。しかし、イランの体制転換はあくまでイランの内政問題で、イランの国民の意思によって決まるものだ。
体制転換、つまり革命には軍隊の動静がカギとなるが、ハメネイ最高指導者に忠実な革命防衛隊が体制打倒の側に容易に寝返るとは考えにくい。革命防衛隊はその名の通りイラン革命のイデオロギーによって思想訓練された軍隊で、イランのゼネコン、エネルギー、金融分野を支配するなどイスラム共和国体制から莫大な経済的利益を受けてきた。
トランプ大統領のアメリカがイランを攻撃しても、革命防衛隊は15万人の地上兵力、2万人の海軍要員、1万5000人の空軍、そして大規模なバシジ民兵組織を擁している。長年にわたって米軍による攻撃に備えてきたイランは、ホルムズ海峡を艦載機雷、高速攻撃艇、海軍ドローンで封鎖する能力を有していると見られている。革命防衛隊はイランの石油輸出の約50%を支配し、3000発以上の短距離、中距離ミサイルを保有・配備する。
これまでイランは米軍から攻撃を受けたさい、報復攻撃の事前通告をして米兵の避難を促す抑制的な措置をとってきたが、これではアメリカに対する抑止力にならないことが明らかになった。そのためイランはトランプ政権がイランを攻撃すれば、地域に駐留する米軍に対してより致命的で、破壊的な報復措置で対抗すると示唆している。カタール、サウジアラビア、クウェート、バーレーン、UAEの米軍基地、そしてイラン近海に派遣された米軍艦船などを標的に報復できる。イランを攻撃すれば、米軍も無傷ではいられないだろう。
アメリカがイラン攻撃に踏み切ればトランプ大統領は、ICE問題で揺れる内政とともに、外交でも大きな失点を負うことになる可能性がある。
アメリカのテッド・リュー下院議員は少女買春に関するエプスタイン・ファイルにトランプ大統領の名前が数千回も出ていると指摘しているが、そのエプスタイン人脈の中にいるとされるイギリスのアンドリュー元王子はエプスタイン氏への機密情報漏洩の疑いで逮捕された。エプスタイン・ファイルでトランプ氏の少女買春への関与が明らかになれば、大統領の弾劾にもなりかねない。
トランプ大統領がイラン攻撃を意図するのは、スキャンダル隠しだとも指摘されている。アメリカのコメディー映画『ウワサの真相(Wag the Dog)』(1997年)の世界だ。この映画では、大統領選挙期間中に明るみになった大統領のセックス・スキャンダルから国民の目をそらすために、「敵国」としてアルバニアが選ばれ、アルバニアの悪辣なイメージを強調するために、非道なアルバニアというイメージがねつ造されていく。
米国に強く自重促すとき 重要な日本の役割
日本はイラク戦争の際の小泉首相のように、アメリカのイラン攻撃に無条件で支持を与えるようなことがあってはならないが、日米同盟を重視し、中東への関心が希薄な高市首相が支持する可能性は否定できない。
カナダのイランを専門とする世論調査会社『Iran Poll』が2019年8月にイラン人1000人を対象に行った調査で、日本、中国、ロシア、ドイツ、国連、フランス、イギリス、米国についてその好感度を尋ねると、日本が最も好感をもてる国という調査結果が出た。
良好な対日感情は、日本がイランに対して欧米諸国のように、イラン内政に口を出さないことにも要因があるだろう。また、日本が歴史的にイランに対してネガティブな関与を行うことなく信頼関係を築けたこと、映画、ドラマ、文学、漫画、アニメなど日本のソフトパワーが良好な対日感情を築くことに貢献してきたことなどがある。特に橋田壽賀子氏原作のドラマ『おしん』はイランでは圧倒的な人気を誇り、良好な日本人像の形成に大きく貢献した。
22年5月4日付の『日経』新聞に「親日家のイラン人」という相川一俊・駐イラン大使(当時)による文章が掲載された。前回のイラン勤務の際に大使の運転手だったアリレザさんが「皆さんで食べてください」とザクロをいっぱいもってきてくれたという書き出しだ。テヘランの日本大使館で「日本語で日本の思い出を語る会」を催したらバブル期に日本で働いていたイラン人たちが石川さゆりの「津軽海峡・冬景色」を唱和し、中には涙を見せる人もいたという。
相川大使は「いまイランのどこに出かけても、流ちょうな日本語をあやつる人たちに遭遇する」と書いているが、イランに出かければ同様な体験をする人は少なくないだろう。テヘランなどの街を歩くと、日本語を知るイラン人は皆気さくに声をかけてくれる。バブル期に日本にいたイラン人たちは厳しいながらも規律があった日本社会を懐かしみ、同じ頃イランで放映された『おしん』の中で見られたような日本人の義理や人情などウェットな心情に日本で接したことは、弱者の救済を説くイスラムの宗教的徳とも重なるように思われ、イランに帰国しても忘れがたい記憶となっているに違いない。
日本が輸入する原油の90%以上はホルムズ海峡を通過するが、日本は危機の迫った今こそ歴史的に形成されたイランの良好な対日感情を損なわないためにもアメリカに対して強く自重を促すべきではないか。




















