いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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下関市立大学内部告発者様へ

下関市立大学内部告発者様へ
 

 

 「下関市立大学 取材担当記者様」宛てのお手紙をいただき、心より御礼申し上げます。名前のわからない匿名のあなたへ、こちらから連絡をとる術もありませんので、いただいたお手紙への返事をしたためた次第です。

 

 しっかりと熟読させていただきました。そして率直に感じたことは、あなたは下関市立大学の教員に非常に憎悪を抱いておられる方で、その立場は教員ではないのではないか? ずばり大学経営側の人間なのではないか? という事でした。それもこれも、名前を名乗っていただけないので想像するほかないのですが、縷々(るる)書かれておられる内容を読み進め、最後のオチで「なるほど」と思ったのです。この間、問題にされてきた「市長による大学私物化」を「9割の教員による大学私物化」へとすりかえ、陽動したいという思いがひしひしと伝わってくるものだったからです。こうした文章を書ける人物は誰か? その感情は誰に向いているのか? 何を意図しているのか? 手紙の消印がなぜ「博多北(3月25日18時過ぎ)」なのか? 日頃から文章の句読点は「、」ではなく「,」(コンマ)を使用される方なのだろうか? 再生紙を使用される環境なのか? 等々、細々とあなたの人物像を想像してみました。確か役所文書に「,」(コンマ)を使う文化は下関市役所の昔からの習わしだそうで、合併後に「、」に統一したともお聞きしました。

 

 匿名の内部告発の手紙やメールは、新聞社にもたまに寄せられるのですが、どこの誰かもわからない人間で、連絡すらとれない相手の話を鵜呑みにするようなことはまずありえないことをお断りしておきます。それが太郎であれ、二郎であれ、マサオであれ、やはり名前をしっかりと明記して頂いて、たがいに連絡をとり合い、対面したうえで、記者としては内部告発者様の匿名性を守りつつ、事実確認を進めていきたいのです。何がいいたいかと申しますと、みずからの立場を記者にも隠された状態では私たちも警戒しますし、一方的に信頼せよといわれても無理な話なのです。物陰に潜んで石ころをぶつけるような内部告発、つまり腹を括っていない状態ではとても付き合いきれないと思ってしまうのです。世の中には虚偽情報を意図的につかませて嵌めたりする輩もいるでしょう。それこそ新聞社の視線を陽動したり、さまざまなことがあります。そのなかで、取材を進めて記事にしていく記者や新聞社にとってはリスクもともなうわけですから、せめて記者にだけはご自身の身分を明かしていただき、ともに悪質な問題を是正していくという立場であってほしいと思います。「名無し」で相手に向かって石ころだけを投げつけるような手法は、やはり卑怯だと思うのです。

 

 さて、肝心な頂いたお手紙なのですが、大学内のあれこれについて書かれておられましたね。しかし、誰が何をしたのかという点について具体性がまるで乏しく、固有名詞が何一つ出てこないことにまず不思議な感情を抱きました。しかし、全体を通じて教員が恫喝や恐喝、いじめ、ハラスメントをおこなっており、専攻科設置に反対した9割の署名もそうした脅しによって集められたもので、教授会自治という名の下で教員が大学を私物化し、恐怖政治をおこなっている--等々がしたためられ、これらが具体的表記(誰がいつ何をしたのか)がないままに展開されておられました。書かれておられることが果たして事実なのかもわかったものではありませんが、ある意味出来上がっている話になっていることだけは確かなのです。あなたの怒りの矛先は「わがままで傲慢な教員」に向いているのです。そして結論的には、市による監督指導の強化と、大学の経営側による学内運営の改善と健全化、マスコミの中立的立場での報道を求めるというものです。

 

 つまり、昨今問題にされてきた前田市長による教員の縁故採用や乱暴きわまりない専攻科設置についてはまるで目をつむり、むしろそうした大学運営に反発する教員を制裁していく側にあなたはおられるのです。それを正当化するために、いかに教員が悪いかを縷々書かれたということなのでしょう。だから、具体的な固有名詞はまったく出てこないのです。誰が何をしたのかが問題なのではなく、抽象化された話をつなぎ合わせて教員全般を悪としてくくり、そんな教員を「監督指導」する、すなわち黙らせて従わせることに最大の眼目があるように思えました。一言で申しますと、印象操作以外の何物でもないな…と感じた訳です。

 

 このお手紙を読んだ後にすぐに思い浮かんだのは、専攻科設置問題について本池涼子市議(本紙記者)が一般質問をした後、立腹した今井総務部長が弊社の別の女性記者に向かって、斯く斯く然々で教員が悪いとのべていたことと、この手紙の内容がぴったりと符合することでした。1から10まで内容が同じなのですから、私はあなたは市役所の関係者だろうか? と思ったほどです。総務部長は大学運営には直接携わってはおらず、大学当局から報告を受ける身です。先ほどのでき上がったお話をあなたが今井総務部長に報告しているのだろうかと思うほど、同じ内容をオウム返ししていたのです。

 

 あの手紙に書かれていた内容は、大学執行部が市役所の総務部や自民党市議たちに対してまことしやかに吹聴してきた内容とピッタリなのです。本会議や委員会審議においては出てこない話なのだけど、「実は…」という形で、議会関係者や役所関係者のなかでひそひそと語り合われている内容とピッタリあてはまるのです。恐らく大学教員のみなさんに伝わるとどれもこれも嘘八百なので、矛盾を突かれることがわかって公式の場では発信できない。だって、同大学で恫喝や恐喝によって9割の署名が集められた事実などありませんし、この春に辞めていった教員の方々もいじめや恫喝に嫌気がさしたのではなく、経営陣すなわち役所関係者のあまりにもひどい大学運営の私物化に嫌悪して去って行かれたのが事実なのです。おそらくあなたは、教員をひどく描くことによって、大学を役所関係者なりが「管理」していく方便として、また正当化していく理由として「教員がむちゃくちゃだ」を流布することがどうしても必要になった。そうではありませんか? あなたの正体はおそらく、今井総務部長や自民党市議たちの認識形成にかかわった大学関係者なのではないかと推察いたします。

 

 ところで、今井総務部長はこの春で退職を迎えられるのですね。1年間は国勢調査にかかわるとお聞きしていますが、その後は大学事務局長ポスト(年収1200万円)に天下る可能性があるという話は本当でしょうか? 市退職者の方々が興味津々だそうで、「この間の市立大学問題の答弁や対応が認められて、晴れてご褒美でポストをもらえるのではないか?」などと話題にしておられるので、少し気になっております。信憑性はわかりませんが、砂原事務局長(市退職幹部)が事務局長任期を終えても彼は副学長(定款変更によって新設されたポスト)として残れるでしょうし、市役所幹部職員の天下りポストがまた増え、そこにおさまるとなると露骨過ぎる気もいたします。今後の推移を見守るしかないのだと思っています。

 

 そういえば、歴代の市立大学の経営陣・執行部がお抱えだった弁護士の先生が、この3月25日付けで県弁護士会より3カ月の弁護士資格停止の懲戒処分を受けておられましたね。1996年にも1カ月の懲戒処分を受けておられますので、これで2度目になりましょうか。幾人もの教員の方々が、それこそその弁護士の方を代理人にして恫喝されるように訴訟を起こされ、裁判中の身であると伺っています。それらの裁判の弁護は、今後誰が引き継がれるのだろうかと気になっております。私どもから見まして、教員の皆さんはあなたがおっしゃるような他人を恫喝する側ではなく、逆にいつも恫喝されっ放しであり、失礼を承知ではっきり申し上げると、大学経営陣をびびり過ぎではないか? と思うこともしばしばなのです。しかし、大学人としての矜持を持ってなんとか踏ん張っておられる。そのように見えて仕方がありません。たいへん非常識な市長界隈による私物化問題を抱える大学ではあると思いますが、そんななかでも学生たちに寄り添い、大学としての在り方を指摘されておられるのだと思います。

 

 最後になりましたが、太郎でも二郎でも、マサオでもかまいません。あなたの正体をこっそりでも構わないので是非私だけに教えて下さい。匿名性はお守りするつもりですが、場合によってはむしろ公表するかも知れません。私たちはあなたが書かれていたことが事実なのか否か、大学の教員の皆様にも取材を当てるつもりです。前述したように、見も知らぬ人の陽動に乗ったり、鵜呑みにするわけにはいかないからです。その取材によって仮に嘘八百であることがわかった時、あなたがなんの目的でこのような情報を流布しているのか、さらに追及していくことをお約束します。

 

 あなたが「名無し」である以上、担当記者としても名前をさらす必要はないように思いますので「名無し」とさせていただきます。あしからず。 名無しの記者より

 

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この記事へのコメント

  1. 水野 永 says:

    至極真っ当で行き届いたお返事と思います。

  2. いい新聞だ

  3. 石田誠司 says:

    すばらしい論旨だと思います。
    fbフレンドのシェアによって初めて貴紙を知りました。応援しております。

  4. 有馬小百合 says:

    内部告発者様には、名無しの記者さんを上回るウィットを持って再度告発に挑戦してもらいたいものです。期待しています。

  5. カッコいい

  6. 敢えて名無し says:

    正しい記者を今後も続けて頂きたく思います
    名無しの記者様、あなたのような人がいる限り、ペンは剣よりも強くいられると信じています

  7. 山本 純 says:

    下関市といえば山口県ではないか! 悪巧みの男たちばかりではなく、何という気骨。素晴らしい! 頑張ってください。

  8. 他県在住ですが、貴社の新聞を購読する事に決めました。

    貴新聞社の素晴らしい評判は前々から伺っておりましたが、この記事と記者本人様にはもう脱帽です。
    今日から早速友人や知人、会社関係者にも是非(この記事だけでも)読んでみて!と勧めて参る所存です。

    昨今の腐り切った腐敗政治と腐臭のする生ゴミ政治家共に対し、
    我々市井の人間はもう何が起ころうと許せない所まで来ています。
    本当に素敵な記事を読ませていただき、有り難うございました。
    これからは本気で応援させていただきます。

  9. 素晴らしい返信だと思います。名無しの記者様。

  10. 伊豆 洋治 says:

    すばらしい。ジャーナリズムかくありき!

  11. 久しぶりに、新聞記者魂というものに触れさせていただきました。
    定期購読手続きします。

  12. 本当!素晴らしい、これぞジャーナリストだ。

  13. イソコの新聞 says:

    方々の報道機関がマスゴミと言われて久しいですね。
    私の住む地方紙では単に批判のみの極端な左翼紙と化しております。
    貴社記者様の考え方は、それらと比較して雲泥の差です。
    名無しの記者様、逆風強いかと思いますが、どうぞこれからも真っ当なジャーナリズムを追求していって下さい。

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