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コロナ禍で迎えた異例の年の瀬 客足途絶え閉店や廃業も 下関市内の飲食店

 年の瀬を迎えるなかで「第三波」といわれる新型コロナウイルス感染が全国各地で再び急拡大し、3月以降およそ8カ月、売上減少にあえいできた飲食店や観光業などの廃業の動きが表面化し始めた。「勝負の3週間」もかけ声ばかりで具体的な対応策はなく、現在は「経済を回さなければいけないから会食は4人以下で」「マスクをして会食を」「新しい日常を」といいつつ、「自粛をお願いします」といった支離滅裂な呼びかけがなされている。飲食店やホテルなど観光関連の事業者はGoToキャンペーンで若干の息継ぎをしたといわれているが、それが感染が拡大させる悪循環を作り出しているのでは元も子もない。

 

 下関市内でのコロナ陽性者数は比較的低いものの、全国的な再拡大を受けて忘年会のキャンセルがあいつぎ、1年で最大の稼ぎ時の12月がそのほかの月よりも落ち込む状況となっている。年内で廃業する店、年明けに廃業するという店もある。居酒屋や小料理店、スナックやバーなど、この町の食文化を彩ってきた飲食店が消えようとしている。

 

夜も人通りが少ない下関市内の繁華街・豊前田(22日)

 今月1日、下関市で40年営業してきた東京第一ホテル(下関市赤間町)が実質的に廃業した。ホテル前に貼り出されたお知らせには、「新型コロナウイルス感染症の流行に伴いまして、当館も大変苦しい状況ではありましたが、皆様の御蔭で本日まで営業を続けて参りました」「事態回復の見通しがないなかでは、遺憾ながらこれ以上の営業継続は不可能と判断するに至りました」と記載されていた。素泊まり料金が1人6000円台~1万円台までと、比較的安価なホテルであったため、GoToトラベルで高額ホテルのような盛況には至らなかったと見られている。市内では、もともと厳しい経営状況が続くなかでコロナ禍が長引いたことが追い打ちをかけたのだと語られている。

 

 春先に歓送迎会が中止となり、各種集まりも開催が不可能な状況が続き、「忘年会シーズンには持ち直すのではないか」といった期待もあったが、収束の見通しは立たず、企業関係は軒並み忘年会を中止している。東京第一ホテルに限らず、宴会の割合が高く、従業員も多く抱えるホテルや宴会場の打撃はもっとも深刻だといわれる。

 

先行き見えぬ状況に不安…

 

 東京都や北海道、大阪など感染が爆発的に増加している地域と比べて少ないとはいえ、下関市でも11月以降、24日までで36件の新規陽性者が確認された。24日には、同じ飲食店で5人が感染し、初のクラスターが発生したと発表した。3月3日に初めての感染者が確認されてから今月24日現在で、公表されている67例(うち一例はのちに陰性を確認)のうち、約半数が11、12月の感染者だ。PCR検査体制が若干強化され、検査件数が増えたためという側面もあるが、施設や医療従事者で感染者が出るなどしており、医療や介護関係者の緊張感は高まっている。

 

 発熱者は以前よりPCR検査につながるようになったものの、無症状者を発見する体制にはないため、いつ、どこでが感染するかわからない。ましてや宴会などして感染者が出ようものなら周囲にも大変な影響を与えるため躊躇せざるをえず、「飲みに行って応援」は依然として難しい空気が覆っている。

 

 飲食店やホテルなどは、感染対策用の仕切りを導入するなどの内装を施し、消毒液を置き、換気するなど可能な限りの対策をとっている。また、春先から手探りでテイクアウトに挑戦する店舗も多く、「ありがたいことに応援の気持ちを込めて思った以上に注文してくれた」とも語られる。しかし、テイクアウトは容器代をはじめ、店舗ではかからない新たな経費が加わるため利益率は低い。店内飲食よりも単価を低く設定せざるを得ず、「テイクアウトのみでは厳しい」のも現実だ。年末も押し迫った時期に歓楽街でのクラスター発生を受けて休業する店舗もあり、先行きの見えない状況に拍車がかかっている。

 

 割烹料亭の店主は、「今年の暮れはどうなるのかと感じる」と不安を語る。常連客のみ、おせちの注文を受けていたが、「今年は子どもが帰省しないから…」という常連客もあって、全体の注文数は減少している。わずかに入っていた忘年会の予約もすべてキャンセルになったという。春先の売上減のさいに持続化給付金を受給したが、あっという間に支払いで消えた。融資を受けることも考えているが、2年後の返済開始を考えたとき、安易に借り入れることはできないという。「うちはGoToキャンペーンはほとんど関係ないので中止の影響はないが、唐戸市場などは物販でも利用者があったので困っていると思う。今、無利子・無担保の融資でつないでいる事業者も、2年後に支払いが始まるころに、あっちもこっちも夜逃げ状態…というような大変なことになるのではないか。本当は国がもう一度、200万円なりの給付金を出すなど、第三波に対応した支援策を打ち出すときではないかと思う」と話した。

 

 バラの花束の注文が入ったという生花店は「祝事の花束なら嬉しいが、長年営業した店舗の閉店にあたって贈る花束だと聞き、複雑な思いだ。別のスナックも今月末で閉店することが決まっている。花屋は以前から低迷しているが、飲食店などは新型コロナになってお客さんが利用しなくなり、大変なことになっている。これからもっと人出が減るのではないか」と話した。

 

1週間客がまったく来ない時も

 

 豊前田商店街ではスナックなど複数店舗が年内で閉店を決めているほか、年明けに飲食店が少なくとも5店舗閉店すると話題にされている。唐戸地区でもスナックなど複数店舗が年内での閉店を決めた。

 

 豊前田商店街の飲食店主は、「ここ最近、毎日キャンセル続きだ。また今日もキャンセルの電話があった。さすがに毎日続くと意気消沈もするが、今年はもう開き直っている」と話した。客のなかにはギリギリまで待ったうえで、「やっぱり中止になった」と申し訳なさそうに連絡してくる人もいるという。「今のままでは固定費が出ない。コロナが収まらない限りこの状態が続くだろうから、あと2、3年頑張ろうと思っていた年配の店主が今年いっぱいで閉店するケースが増えている」といった。例年2月は売上が低く「魔の2月」といわれており、その分を年末年始の売上で穴埋めしていた。今年はその年末年始の売上が低いので、2月を乗り切るだけの蓄えもできない。「年明けにも閉店する店が出てくるだろう」と話した。

 

 あるバーは、2台ある冷蔵庫のうち1台の電源を完全に切り、ビールサーバーの電源も落として瓶ビールに切り替えた。「緊急事態宣言が解除されてお客さんが戻ってきたというが、うちはまったく変わらず、ぼちぼち来るかなという程度だった。1週間お客さんがまったく来ない週もあったので、予約分以外は食材の仕入れをやめている。突然お客さんが来ると、食べ物がないので断らないといけない場合もあり、本当に難しい」と話した。10月は誕生日会の予約などがいくつか入ったが、それでも来店するのは日に1~2組ほど。12月に入ってからは予約がまったく入らないという。「持続化給付金で100万円をもらったが、収入がないので支払いで右から左に消えていった。豊前田はもともと景気が悪かったので、みんな体力がない状態でコロナ禍を迎えている。収束したときに残っている店はほんの一握りではないか」と話した。

 

 別の居酒屋店主も、「GoToキャンペーンで、この周辺のホテルも宿泊客が増え、飲食店も少し息継ぎをしたが、それも束の間。感染が拡大してGoToの中止が決まり、今はさらに深い海に潜っているような状態だ」と話した。忘年会の予約も入っていたが、キャンセルがあいついでいる。企業で役職についている知人たちも、「なにかあったら大変なことになるので、立場上飲みに行くことはできない」といっているという。「企業関係は忘年会は中止になっていて、数人で飲みに行くこともはばかられる状態だ。“コロナ対策をしています”というポスターを貼ったところで、自粛の空気が広がっているので、お客さんが安心して飲みに来てくれるような状況ではない」と深刻さを語った。

 

 市内でスナックを経営する店主も、「私1人で営業しているので、給料なしでなんとかやりくりし、大家さんが家賃を3カ月半額にしてくれたので助けられた。しかしお客さんがゼロの日もあり、いつまで続くのだろうかと思う」と話した。毎月定期的に利用していた団体客も当面はキャンセルで、忘年会もゼロだという。「持続化給付金も受けたが、100万円はあっという間に支払いで消えていった。食材も保存のきくものを最低限にしているので、飲食店だけでなく、関連するいろんな業者が厳しくなっていると思う」と話した。

 

 国の支援策である無利子・無担保の融資を受けて乗り切っている飲食店もある。しかし、食材の仕入れや人件費などを考えると、今現在の資金に余裕があっても先行きは見通せない。融資の条件が「事業を継続すること」なので店を開け続けているが、「だれも来ないのに店を開けるのもしんどいものだ。しかし借り入れの条件があるので、やめるにやめられない」と複雑な心境を語る店主もいた。

 

 飲食店の苦境は、食材などを納入する業者に直結する。ある酒類販売業者は、飲食店向けの酒類の売上は例年の四割ほどにとどまっていると話していた。野菜も需要の減少に豊作が追い打ちをかけ価格が大幅に下落しており、農家は肩を落としている。鮮魚の価格も春先から低迷したままだ。

 

 生鮮物の入りが多い下関港にも影響は及んでいる。ここで水揚げされるパプリカはほとんどが東京・大阪に送られるが、どちらも感染が拡大し、飲食店の時短営業や閉店が増加している。一方、パプリカは自宅用の需要が伸びる商品ではないため、輸入量が半分から3分の1程度に落ち込んでいるという。これまで「あまり影響がない」といわれていた港湾関係だが、こうした生鮮物の入荷量の減少が荷役、通関、倉庫、運送など、かかわるすべての業種に大きな影響を及ぼしている。

 

第三波受けた支援策が必須

 

客足が減っている唐戸市場(22日)

 毎年、大みそかには買い出し客でにぎわう唐戸市場も、今年は様子が違う。活き活き馬関街で毎週末に寿司を販売している業者たちも、今年は緊急事態宣言中は中止となり、売上が大幅に減少している。今月26日まで寿司イベントをおこない、それ以後は年末に向けた鮮魚販売に切り替えるが、どの程度買い出し客が来るか予想がつかないため、「売れ残らないよう仕入れを例年の半分ほどにしようという業者も多い」と語られている。例年なら年末は3日間は1カ月の約半分の売上を稼ぐ時期だ。

 

 業者の1人は、「寿司はもうかっているからいいだろうという人もいるが、一貫100円で販売すると実費は50円。作る人手の人件費が必要だし、販売するにも人手が必要だ。うちは学生アルバイトを雇っているが、一日1万円近くアルバイト代を支払っている。一人分のアルバイト代を稼ぐには200個売らなければいけない。一人200個売るなんて無理な話だ」と実情を語った。

 

 寿司を販売している業者の多くは鮮魚の仲卸が本業だ。しかし、スーパーや飲食チェーンの進出と地元鮮魚店の減少という流通の変化のなかで鮮魚が売れなくなり、観光客向けの寿司イベントでつないできた経緯がある。業者の一人は、「もともと魚で商売が成り立てばこんなことはしなくていいのだから、この間は本当に苦しんだ。じっとしていたらつぶれるのでみんな必死だが、どうなるだろうか」と話した。

 

 下関市内の水産業関係者は、「毎年、12月半ばごろになると相場が上がってきて、だいたい年末相場が読めるようになる。しかし、今の時点で今年はまったく読めない。GoTo自体は中止するのが遅すぎるぐらいだが、その影響で宿泊業や飲食業界はまた客が大幅に減るだろう。サービス業が低迷すれば、物が動かなくなり、物価も不安定になる。年末年始の人出もどれほど減るか想像もつかない。そのおかげで、唐戸市場の仲買のなかでは、年末31日売りの魚の仕入れを例年の半分にしようかという話も出ている。31日は市場のなかに多くの人が押し寄せて密集するし、そういう状況を警戒して人出がどれほどあるかもまったく読めない。“売れ残りがなければそれでいい”くらいの仕入れで、とにかく損だけは出さないようにと、慎重な荷動きになるのではないか」と話していた。

 

 また、今後のコロナの影響次第では打撃がいっそう深刻化することへの危惧も強まっている。鮮魚店主は「コロナが流行し始めたころは、コロナの補助金や貸付をできるだけ多く受けて、利子が多い借り入れの返済に充てる“借り換え”をしていた事業者も多かった。しかしここまで影響が長期化しているなかで、単純な売上では固定費の支払いさえも厳しくなっている。そのため、コロナ禍で融資が受けられやすい時期にできるだけ多く借りて返済にあて、年末年始を境に自己破産という最悪のケースも冗談抜きで起こり得ると話題になっている」と話していた。

 

 新型コロナの発生以後、国の持続化給付金や無利子・無担保融資のほか、下関市も「事業継続給付金」や農林水産物の販売促進、失業者への緊急雇用などの支援策をおこなってきたが、深刻な経済の落ち込みは、それだけでは支えきれない状況になっており、第三波を受けた支援策が必須となっている。ウイルスを封じ込めるには休業補償なりをして人の動きを止め、無症状者も含め感染者を隔離するほかない。事業者のあいだでは、再度の給付策のほか、消費税の減税などすべての国民に有効な施策を求める声が上がっている。

 

 「新しい日常」「ウィズコロナ」「マスク会食」などと呑気なことをいっているあいだに地域経済が壊滅しかねないところに来ている。

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