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供給不足で滞るワクチン接種 初動が遅れた下関は置き去り 予約も始まらぬ20~40代

 新型コロナ感染者が東京オリンピックの開幕とともに首都圏を中心に爆発的に増加している。オリンピックや連休で人流が増加することは予測されたことであり、地方は今後、首都圏での感染爆発が広がってくることを警戒している。だが、ワクチン接種も一向に進んでおらず、五輪開幕を目前にして政府から供給される量が4~6月の1億回分から7~9月は7000万回分へと3割減少し、全国の自治体で混乱が広がった。山口県内の自治体は早く進行しているものの、現役世代への接種が本格化したところで供給が減少したため、一部の自治体で一時新規予約の停止がおこなわれるなどした。現在は県全体の調整などによって再開しているが、9月以降の供給計画は見通せないままだ。山口県内13市に現在の進捗状況を聞いた。

 

 全国のワクチン接種状況を見ると、7月30日時点で65歳以上の高齢者では、3548万6339人に対し、1回目の接種数は3054万1563人(接種率86・07%)、2回目の接種数が2644万7465人(同74・53%)となっており、高齢者についてはおおむね接種が終わったといえる状態になっている。

 

 しかし、全体では人口1億2712万8905人に対し、1回目の接種数は4305万6865人(接種率33・87%)、2回目の接種数は3029万4621人(同23・83%)にとどまっており、2回目の接種が終わって抗体ができた人が2割強と、「接種が進んだ」とはとてもいい難い状態だ。

 

各地で予約の一時停止 早い自治体影響なし

 

 山口県も6月中旬から0~1桁台で推移してきた新規感染者が四連休が明けた7月28日から10人をこえ、同30日には27人に急増するなど増加傾向にあり、県は「第五波に入った」との認識を示している。

 

 山口県は高齢化率が高いこともあって比較的ワクチンの確保が進んだほか、各自治体の迅速な対応もあって、高齢者の接種率は1回目が85・9%、2回目が79・6%と、接種率で見ると全国トップを走っている。自治体ごとにばらつきはあるものの、どの市でも65歳以上はおおむね8割をこえ、遅れをとっていた下関市もようやく7割をこえるところまで進んできた【表参照】。7月30日の県の発表によると、5月段階ではコロナ新規感染者の約30%を65歳以上が占めていたが、現在は3・4%まで減少している。

 

 

 下関市をのぞく12市では、早い段階で高齢者の優先接種に目途が立ち、6月中旬から7月初旬にかけて、次の段階の60~64歳や基礎疾患のある人などの予約・接種を開始し、現在では12歳以上の全年代の予約が可能になっている。若い世代でも重症化しやすいデルタ株が広がることが懸念されるなか、各自治体ともに若い世代への接種を急いでいる。

 

 こうしたなか、長門市は7月2日、国からのワクチン供給が減って確保の見通しが立たないとして、60歳未満の市民に対する集団接種の予約受付を一時中止し、1回目が8月以降の集団接種を中止すると発表した。7月5日に60歳未満の市民のうち基礎疾患を有する人など、優先接種対象者の集団接種の予約開始、その他の一般の集団接種の予約を同12日から受けつける予定だった。

 

 山口市も7月3日、国から示されたワクチン供給量が希望する量の半量まで減り、今後の供給の見通しも立たないとして、個別接種は8月以降の新規予約受付を一旦停止、集団接種は8月以降で市内四会場にて約1万2000人に接種できる体制を準備していたが、予約受付を一旦停止すると発表した。

 

 ただ、山口県内は接種が前倒しで進んでいた分、全体から見るとそれほど影響が甚大だったわけではないようだ。供給量の減少がわかって以降、県が各市町の需給を調査し、余裕のあるところから不足している自治体に回すなどの融通をおこなったほか、各市が医療機関との調整をおこない、山口市は7月12日、接種計画を見直したうえで8月以降の一部の予約受付を再開することを発表(7月22日受付開始)した。個別接種は8月も維持していくほか、1クール(2週間)に届く11箱+県の調整枠で配分されるワクチン量の範囲内で接種計画を立て直したのだという。受付停止の発表から2週間たたないうちの再開となった。長門市も8月4日に12歳以上のすべての市民の集団接種の予約を再開することになっている。長門市は10~11月に接種を完了する計画にとくに影響はないとしている。

 

 県の発表によると、山口県はワクチンの確保率も全国1位であり、8月末には接種対象の12歳以上の全人口の68・8%の県民が2回接種可能な量を確保できる見通しだという。7月前半に国が配分を見直した結果、山口県は予定より11箱多く配分されることになったことも関係しているものとみられる。

 

 この見直しは、国が「一定量を超える在庫がある」とみなした46自治体への供給を減らすかわりに削減分を都道府県の裁量で分配できるようにしたものだ。山口県では8月前半に73箱が供給される予定だったが、阿武町が1箱削減されたかわりに県の調整枠として新たに12箱が追加され、当初より11箱多い84箱(9万8289回分)が供給されることとなった。山口県にとっては好条件の見直しであったが、「在庫がある」とみなされて配送量を1割削減された自治体(大阪市約1万9000回分、名古屋市約1万5000回分、札幌市約1万3000回分など)からは反発の声があいついだ。接種終了後にシステムに入力するまでにタイムラグがあるため実際にはすでに接種したものや、予約済みのものも「在庫」に含まれているからだ。こうした自治体からの反発を受け、「一割削減」の方針は七月下旬にも撤回されている。

 

 山口県内の進行が早い自治体では「ほとんどワクチン不足の影響を受けていない」「まったく影響がない」との回答があった一方、スタートが遅れた下関市などは体制が整ったところで供給不足に直面するなど、自治体によって大きな差が生じている。また、これまで順調に進めてきた自治体からも「8月中旬以降の供給スケジュールを示すのも遅れがちだった」「先でどのくらい確保できるのかがわからなければ計画できない」「体制は整っているがワクチンが来ない」など、確実な配送を求める声が多く聞かれた。

 

医師による巡回接種も 先行した光や美祢

 

 全市民の1回目の接種率が71%、2回目の接種率が51%(7月28日現在)にのぼっている光市では、7月20日にすべての年代の人の予約を開始しており、同26日には接種が始まっている。対象が若い世代に移行するなかで、夕方の時間帯や土日の接種機会の確保をはかるとともに、独自に事業所での集団接種をとりくんだ。50人以上の事業所では医師が巡回して接種をおこない、50人未満の事業所は個別接種の計画のなかに組み込むなどし、計約1万人がこの事業で接種を受けている。ワクチンは計画的に国に要望していたため、供給減の影響はほとんどなく、9月末をめどに希望する市民(全市民の9割を想定)の2回目の接種が終了する見込みだ。同市は独自に、12週以降の妊婦も優先対象としており、7月初旬から市内の産科病院2院で接種が受けられる体制をとっているほか、妊婦の家族も次点の優先対象となっている。

 

 今後の課題は、毎月12歳の誕生日を迎える子どもたちや、打たないつもりだった人が打ちたいと思ったときに接種できるよう、これまでのフル回転状態から、細く長く継続していく体制を構築していくことだという。

 

 美祢市も、7月末時点で64歳以下の全世代の予約がほぼ終了している。65歳以上の接種率は1回目で90%、2回目が85%をこえており、全市民の6割をこえる人がすでに1回目の接種が終わっている。予約を受けつけてもほとんど予約が入らない状態となっているため、「希望者の予約は完了したと思われる」という。そのため、ワクチン不足による予約キャンセルや調整などは必要なく、今後も不足する見込みはないという。

 

希望の量届かず足踏み 宇部、山陽小野田、萩

 

 医療機関での個別接種が先行して進んだ宇部市は、高齢者の接種率が1回目、2回目ともに80%をこえたが、64歳以下は3割ほどとなっている。希望する量のワクチン配送がなくなったため、7月10日から個別接種の新規予約をストップした(12~15歳は現在も予約可能)。集団接種は通常通りおこなっており、同市に配送される基本計画枠の9箱で「なんとか10月末までに接種を終了できるのではないか」という。

 

 山陽小野田市も高齢者の1回目は約9割にのぼっているが、64歳以下は1回目が3割ほどとこれからだ。ワクチン供給の減少で、予約を停止するまでには至っていないが、医療機関とも調整をおこない、個別接種は2回目分の確保を優先して新規予約の人数を抑制する対応をとっている。集団接種も供給量を見ながら人数を決めて予約を受けつけざるを得ない状況だ。同市では10月末から11月にかけて、おおむね接種を完了する予定にしている。体制は整っているため、ワクチンの供給次第で予定通り終了できるかどうかが決まるようだ。

 

 萩市は、7月に個別接種のペースが上がったところで供給量が減少したため、接種の完了を当初の9月末から10月末に延期した。萩市と阿武町で合わせて3箱が基本枠だが、11クールについては萩市が2箱、阿武町が0箱となっている。萩市によると、全体で6万回分は確保できており、残りの希望量は1万5000回分。夏休み中に学校関係者などの接種が集中することが見込まれるため、この期間に十分なワクチンの配送を希望している。

 

64歳以下は1~27% 出遅れた下関や周南

 

 周南市の場合、人口割で示されたワクチンの基本計画枠が8箱で、要求量の半分以下だった。県の広域調整での配分はあるものの、希望量に達しない状態だ。同市はこれまで、ワクチンが確実に配送されるという前提で、1カ月先まで予約を受けつけるなど、「市民がまずは予約がとれて安心できるように」というところに力を注いできた。65歳以上の希望者への接種はほぼ終了したところだが、64歳以下については接種率が1・3%とまだ始まったばかりの状態だ。市は「県営会場で周南市枠をいただいたので、そこで吸収している部分もあるが、市営会場が思うように運営できない状態。県営会場はモデルナ製なので市民の希望もあるかと思う」と話した。

 

 ワクチン接種のスタートでもっとも遅れをとった下関市は、初動の遅れが尾を引き、供給不足が直撃する形となった。高齢者の予約開始から約1カ月半、体制の不備で混乱を極めたが、ようやく職員体制も拡充されて進み始めた矢先のことだ。高齢者の1回目については72%まで到達したものの、2回目は50%台であり、他市との差は依然としてある。64歳以下についてみると、7月初頭に12歳以上の市民約14万人に接種券を送付しているが、予約受付が始まっているのは60~64歳や基礎疾患を有する人など「ステップ3」に該当する人のみで、1回目の接種率は約27%と3割に満たない状態だ。他市で全世代の予約が開始されているなか、50代以下の市民から「いつになったら予約できるのか」という声もあいついでいる。

 

 下関市に配送されるワクチンは、8月の第1週・第2週(11クール)で14箱(1万6380回分)、第3週・第4週(12クール)で14箱(1万6380回分)の予定となっている。ワクチン供給量に応じて接種人数を決め、医療従事者の確保などをおこなう必要があり、これまでのように1カ月単位で予約を受けつけるのが難しいとの判断から、市の集団接種(県立下関武道館)については8月の第1週1020人、第2週1020人、個別接種は8月第1週3000人、第2週3000人と、2週間分の予約を受けつける体制に変更している(そのほか、県の広域接種〈海峡メッセ下関〉で7月31日~8月29日のうち11日間で3000人を下関枠として受けつける)。

 

 現在予約可能なステップ3に該当するのは「基礎疾患を有する人」「高齢者施設等の従事者」「障害者、障害者施設等の従事者」「幼稚園・保育所、児童福祉施設等の従事者」「60~64歳」「小・中・高校、特別支援学校の教職員」で、人数は推定で約5万人(重複もあるため、実数は3万~4万人とみられる)だ。これに対し、7月初頭に確保できた予約枠は約1万人分だった。高齢者ほど予約のスピードが早くなく、7月30日現在まだ予約が埋まっていないものの、潜在的には未予約の対象者がまだいるとみられることから、次の段階の50代(約3万2000人)の予約開始がなかなかできない状況が続き、8月3日よりようやく50~59歳と入試や就職活動で感染拡大地域への移動をおこなう学生の予約受付を開始した。

 

 現時点で下関市のワクチン接種がなかなか進まない要因は国のワクチン供給にあるものの、「“公平性”を気にするあまり、慎重になりすぎている」ことが、輪をかけているともみられている。県全体で人口の7割分のワクチンが確保できているとはいえ、早い自治体の接種率が8割、9割と上がってくれば「遅れた自治体は7割分を確保できない可能性が高い」との懸念も語られている。下関市は福岡県とも隣接しており、四連休には観光地に県外からの人々があふれている状況もあり、ワクチン接種の遅れが感染拡大につながることが危惧されている。国や県に対してワクチン供給を強く要望することも含めた早い対応が求められている。

 

 なお、ワクチン供給とともに共通して語られていたのは、若い世代の予約が思うように進まない状況だ。これまで順調に進みワクチン不足の心配がない自治体でも、「接種体制としては確保しているが、意外と予約が少なく需要がにぶい」「高齢者の接種については望む人はほとんど接種が完了し、これから若い世代の予約受付や接種に移っていくが、想定したよりも予約が少なく、集団接種、医療機関での個別接種ともに枠が残っている」といった状況があり、「65歳以上と違って、もう少し様子を見ようという人が多いのかもしれない」という自治体も少なくなかった。接種スピードが落ちる要因ともなっているようで、ワクチンについての知識や理解を広げることが課題となっている。

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