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クマを里に追出す、尾根筋を削る大規模風力発電 日本熊森協会会長・室谷悠子

(2026年1月1日付掲載)

北海道稚内市の陸上風力発電

奥羽山脈の尾根筋の森が破壊されるとの悲鳴

 

 「今、東北の山がどうなっているか知っているか。森を伐採し、次々とメガソーラーができている。奥羽山脈の尾根筋にはずらーっと風車が並ぶ計画がある。そうなれば、クマはみんな人里に出てきて、皆殺しにされてしまう」

 

 2019年と2020年はクマの大量出没が起こり、東北でも大きな問題となりました。2021年に入り、豊かな自然が残っている東北でも、クマについて対策が必要なときがきたと会員に呼びかけたところ、上記のような返事が戻ってきました。

 

 慌ててGoogle earthで衛星写真を見ると、山間部の至る所に森を削ってメガソーラーができ、150㍍をこえるような高さの風車を数十基規模で、尾根筋に建てるような計画が乱立していることもわかり、唖然としました。いつのまにか、再生可能エネルギー開発がクマの本来の生息地である「奥山」にまで広がり、森林を大規模に破壊しようとしていたのです。

 

 これを機に、私が会長を務める(一財)日本熊森協会は、再生可能エネルギーによる森林破壊の問題に乗り出すことになりました。私たちは、全国でクマをシンボルに生物多様性の豊かな水源の森の保全・再生にとりくんでいます。奥地の森の重要性や一度破壊すると再生に数百年単位の時間がかかることを痛いほど知っている自然保護団体として、乱開発を止めるために立ち上がらざるを得ませんでした。

 

 2021年7月には、メガソーラーや大規模風力発電による自然破壊・地域破壊を止めるために奮闘する全国の住民団体のネットワークである「全国再エネ問題連絡会」を立ち上げ、私は共同代表になりました。現在、全国再エネ問題連絡会には、約80地域の住民団体や個人が参加しており、過疎や高齢化の進む地域で、巨大資本が進める乱開発に対峙する住民らの活動を支援しています。

 

 2021年に再エネ特措法が施行され、国民から徴収した再エネ賦課金を原資に、太陽光発電や風力発電による発電を市場価格より高額で一定期間買いとる固定価格買取(FIT)制度により、再エネ開発は暴利を得ることができる事業となり、利益優先の乱開発が全国に広がりました。さらに、2020年10月には、当時の菅首相がカーボンニュートラル宣言をおこない、再エネ投資をさらに加速する方向に政策が進みます。2021年には、再エネ推進の妨げとなる規制の緩和が進められ、国有林や保安林でも風力発電建設を強力に進めていく方針が示されていました。

 

 林野庁のHPには、「国有林野は全国各地に広がり、その多くは奥地の急峻な山地や水源地域にあって、良質な水の供給、土砂災害の防止・軽減、地球温暖化の防止、生物多様性の保全など私たちが生活していくうえで大変重要な働きをしています」と書かれています。しかも、国有林のほとんどは水源涵養や土砂災害防止などを目的とする保安林です。

 

 林野庁自身が「私たちの生活に欠かすことのできない国民共有の大切な財産」であるとする国有林を、一事業者の利益追求のために破壊することを認めるというおかしな事態が起こっています。

 

陸上風力発電の適地はクマ生息地のど真ん中

 

 陸上風力発電の多くは、風況のいい尾根筋に計画されます。そこはまさにクマの生息地です。

 

 タワーのような大規模な風車建設のためには、一辺の幅や高さが数十㍍をこえる巨大な基礎とブレードを運ぶ大型トレーラーが通過できる大規模な道路建設が必要で、尾根筋の森林を伐採し、削って切土・盛土をしていくことになり、数十基の風車を建設しようとすると数十㌶規模の森林破壊をともなうことになります。

 

 2021年の秋、一度、風車の計画地と建設現場を見ておこうと、150~200㍍級の風車が190基近く立つ計画がある宮城県北部の加美町と大崎市を訪れました。風車建設中の現場近くにも行き、40㍍ほどの幅で森林が伐採され、切土・盛土により道路に変わりつつある場所を目の当たりにし、開発の規模の大きさを実感しました。周囲はミズナラなどが生える自然林で、クマの糞や木に登ってドングリを食べた跡であるクマ棚も発見しました。

 

 加美町から大崎市の鳴子温泉まで事業計画地やその付近を通り、峠をこえました。自然林が広がり、鳥獣保護区にも指定されている本当の奥山に巨大開発が入ろうとしていることに恐ろしくなりました。

 

 尾根筋の自然林は様々な動物が利用し、渡り鳥や猛禽類の飛行ルートになるだけでなく、山の保水力を維持し、脆く崩れやすい地盤を押さえ、土砂災害を防ぐ重要な役割をしています。広葉樹林を伐採し、スギ・ヒノキ等の植林がなされた拡大造林時代でも、国有林では、尾根筋は広葉樹林で残すという方法がとられました。脆く崩れやすい尾根筋を開発しなかったのは、自然とともに生きてきた祖先の知恵であると思います。

 

 尾根筋の大規模な森林伐採により、森に風の通り道ができ、乾燥化が始まり森林の劣化につながります。尾根からは、絶えず土砂が流れ、水質を悪化させ、災害の危険を増大させ、河川の川底を埋め、最後は海の地形を変えていきます。尾根筋の大規模改変は、その周囲だけでなく下流域全体に影響を及ぼす、国土を変える開発です。

 

 この一帯に大規模な風車が百数十基も建設されれば、クマたちは生息地を追われ、より一層人里に近づくことになることは明らかでした。そのような危機感は猟師の方たちにもあったようで、2022年12月には、地元加美町の猟友会が鳥獣の生息環境に多大な影響を及ぼすとして風車建設の中止を求める要望書を提出しています。

 

 また、巨大な風車の発する騒音・低周波音をクマなどの野生動物が忌避し、彼らをより一層、集落や市街地に近づけるという指摘もあります。日本ではまだ研究はありませんが、超低周波音を使って野生鳥獣を追い払い、被害を防ぐ装置が開発されており、山間部に風力発電を建設することは、この点においてもクマを里へ向かわせる要因となります。

 

 大崎市や加美町では、奥山の源流域を大規模に破壊することへの危機感が地域住民全体に広がり、大崎市鳴子温泉では環境影響評価で準備書段階まで進んでいた風力発電計画が中止となりました。

 

 加美町では、風力発電計画に反対する町長が誕生し、これ以上の風車建設に協力しないと宣言したため、町内にある約150基の風車建設計画は進んでいません。

 

2025年のクマ大量出没、大量捕殺後、クマ生息地の奥山で風力発電開発を進めることは、住民の人命の軽視とクマとの共存の放棄ではないか

 

 2023年に引き続き、2025年秋は、北海道・東北で山の実りが大凶作となり、前例のないクマの大量出没が起こり、人身事故も多発しました。

 

 東日本で森が豊かになり、クマが激増して山からあふれ出てきたとの一部の研究者の説が大きくとりあげられ、国はより一層捕殺の強化に突き進み、2025年10月末時点の数値で、ツキノワグマの捕殺数は過去最多を更新し、8781頭となっています。

 

 30年にわたり奥山の変遷を見続けてきた私たちは、スギ・ヒノキ等の放置人工林の深刻な荒廃や地球温暖化の影響によるナラ枯れの蔓延、昆虫や河川の生物の激減など、豊かであったはずの奥山が劣化をし続けてきた様子を見てきました。そのため、クマは爆発増加したのではなく、豊かでなくなった奥山を捨て、過疎と高齢化で人が少なくなり、木々が大きく成長し、藪が生い茂り、耕作放棄地や放置果樹も多い里山と集落周辺に移動し、定着しつつあり、人とクマの距離が極めて近くなっていることが、集落や市街地へのクマの出没や人身事故多発の原因であると考えています。

 

 人身事故を防ぎ、地域の住民の命を守りたいという気持ちは、私たちも強く持っています。しかし、クマが里周辺におりてしまっている状況を改善できなければ、クマの捕殺を続けても、また別のクマが来ることになり、絶滅させるかそれに近い状況までクマの数を減らさなければ、被害はなくなりません。

 

 人命を守るためにも、クマと棲みわけて共存するためにも、「クマと人の間に距離をつくる」――藪刈りなどの緩衝帯整備や電気柵の設置、不要果樹の除去・伐採など誘引物の徹底的な除去、訓練をした犬を使った追い払い等実施のための人材と予算の確保に全力を尽くすべきだと考えています。

 

 私たち自身も微力ながら、被害に苦しむ地元の方の問題解決のため、被害防除のお手伝いを続けています。

 

 クマを寄せ付けない集落づくりや、クマを本来の生息地である奥山に押し上げる活動が必要であるにもかかわらず、北海道や東北では、クマ生息地での大規模な風力発電開発計画が乱立し、建設へ向けた準備が着々と進められています。

 

 クマの捕獲檻設置のために自衛隊が派遣された秋田県鹿角市では、水源涵養保安林や国有林で複数の大規模な風力発電事業の計画があります。当然計画地はクマ生息地です。

 

 人身被害防止のためにも、クマを人里に近づかせない対策が何よりも重要になるにもかかわらず、確実にクマを里に追い出すであろう風力発電計画を進めることは、地域住民の生命や身体を危機に晒し、クマと棲みわけて共存する選択肢を放棄することにつながります。

 

 私たちは今、水源の森を破壊する大規模風力発電を規制することを求める署名を集めています。クマの被害防止という観点からも、メガソーラーだけでなく、風力発電も森林から撤退すべきです。

 

(全国再エネ問題連絡会共同代表、弁護士)

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この記事へのコメント

  1. 深田眞佐子 says:

    東北の旅で私も気付きました 同じ気持ちです
    頑張って下さい 出来る応援はしたいです

  2. 但木賢一 says:

    賢い筈の人間が、結果としてこのような愚かな事をやってしまうのか。コレは何かを犠牲にして政策を進めるのではなく、森を知り、動物の生息状況を熟知する方々の意見を踏まえ、日本の何を根本的に守るべきかという視点から、国の政策を決めてゆかなければいけないと思う。日本の何を守るべきか、大事な国土を異邦人に売り渡して良いのか、貴重な歴史、文化、風習、習慣等々。本当に誰の言う事を聞いて政府、国、自治体は仕事してんだ!

  3. 乱開発が、クマが街に出ざるを得ない原因、元凶ですね。このままだと、水源がなくなり、土砂災害は増加、地球温暖化が加速して、人間も終わりです。
    熊の出没は危機を知らせている、それを殺すのは問題のすり替えです。政府マスコミは熊による犠牲だけを強調して恐怖を煽り、補殺を正当化している。
    日本の将来を考え、このような見解に耳を向けるべきです。

  4. 記事を拝読し、即座に「全国再エネ問題連絡会」サイトで署名をしました。わずかながら応援寄付もしました。いつも稀少かつ貴重な記事をありがとうございます。

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