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令和の米騒動は序章に過ぎない 私たちの食卓に迫る本当の危機とは 東京大学大学院特任教授・鈴木宣弘

(2026年4月10日付掲載)

田植え作業に精を出す農家(下関市)

 熊本県保険医協会が主催する第32回熊本健康会議・市民公開講演会が4日にあった。今回のテーマは「食の未来を考える~令和の米騒動から地球の課題まで~」。鈴木宣弘氏(東京大学大学院特任教授)が「『令和の米騒動』は序章にすぎない~私たちの食卓に迫る本当の危機とは~」と題して特別講演をおこなったほか、南阿蘇で農業を営み、COP30(地球規模の気候変動対策を協議する国際会議)のジャパンパビリオンで農業を通じた環境改善を提案した大津愛梨氏が「農業なくして持続可能社会なし」と題し、農業の現場から持続可能な未来を描いた。熊本県保険医協会では、医療だけでなく県民の健康にかかわる問題を考える場として市民公開講演会を開催している。現在、ホルムズ海峡の封鎖で輸入に依存する燃料や肥料・飼料をはじめ食料をめぐる状況がさらに深刻化するなかで、改めて鈴木宣弘教授の講演を紹介したい(文責編集部、グラフ・表は鈴木教授の講演資料より作成)。

 

令和の米騒動の原因は 米国による占領政策

 

鈴木宣弘氏

 「令和の米騒動」がようやく落ち着くかとみられたところにホルムズ海峡の封鎖という状況に直面し、事態は刻々と悪化している。

 

 「令和の米騒動」がなぜ起きたのか、その理由をたどると米国による戦後の占領政策に遡る。戦後、米国の余った農産物を日本人に消費させるため、コメ以外の農産物の関税を一気に撤廃させられた。それによって麦や大豆、トウモロコシは一度壊滅状態になった。それでもまだ「日本人がコメを食べていると米国の小麦が胃袋に入れられない」と問題視し、慶應大医学部教授に「コメを食べるとバカになる」という本まで書かせ、ベストセラーにした。

 

 米国は日本人の食生活を改善すると見せかけつつ、「優秀な日本人が農業・食料で自立するとまた米国に刃向かいかねない。だから農業を弱体化させ、米国の農産物に依存しなければ生きていけないようにする」といっていた。この占領政策によって日本ではコメの消費が減っていく流れがつくられた。世界で主食の消費が減っているのは日本だけで、欧米の小麦の消費は減っていない。コメの消費減少には、じつは米国の戦略が大きく影響しているといえる。農業生産が回復し、増産できるようになると当然コメが余り、減反が始まった。それをやり過ぎたために今回ついにコメが足りないという事態が起こった。

 

 日本側も米国の思惑を活用しようとした。経産省中心の経済政策である。米国を喜ばせるために食料・農業を生け贄として差し出し、そのかわりに自動車輸出でもうけ、食料は安く輸入すればいい――これが日本の食料安全保障であり、経済発展だと考えた。ところがトランプ関税に令和の米騒動もからみ、この経済政策も最終局面を迎えてしまった。

 

 トランプ大統領は日本がもうけたい自動車の関税を25%にすると脅し、コメも米国産を食べろといい始めた。日本の差し出すリストにはコメと酪農くらいしか残っていなかったのに、最後の砦のコメさえも日本側は差し出してしまった。こんな「盗人に追銭交渉」をして勝てるわけがない。今までも密約で毎年36万㌧買わされていたが、75%増を要求されて毎年61万㌧のコメを米国一国から買わなければならなくなった。日本でもっとも生産量の多い新潟県の年間生産量(59万㌧)より多い量だ。すでに昨年から急激に増加している【グラフ①】

 

 自動車は守ったかのようにいわれたが、25%関税で脅されたものを15%に下げてもらっただけだ。米国は味をしめ「日本は脅せば1回に10兆円くらいむしりとれる」という構造になってしまった。事実、今回高市総理が米国に行って、また11・5兆円を約束してきた。米騒動は米国の思惑と完全に一致し、輸入米を増やすストーリーができてしまった。

 

 さらに米騒動を解決できない大きな要因が財務省の予算配分だ。米国からいわれたら巨額の武器などを買わなければならず、緊縮財政だからその分どこかの予算を切らなければならない。歴史的にその対象が農業予算だ。総予算に占める農業予算のシェアは1970年の11・54%から、2023年には1・83%と、もう2%を切っている。他国と比べると農業予算は雲泥の差だ【グラフ②】

 

 大きな自由貿易協定を一つ決めるごとに自動車が3兆円もうかり、農業は大赤字になる。日本の経済発展は、端的にいえば農業を犠牲にして自動車産業がもうける構造だ。

 

 米騒動で農家の疲弊が問題になったのに、財務省はいまだに「農業予算はまだ多すぎる」といい、飼料米の補助(水田を維持する安全保障政策の一環のはずだった)もやめる方向だ。長年、低米価・コスト高で苦しんでいる農家を支えるのではなく、耐えられる経営だけ残ればいいといっている。

 

 さらに驚くのが、国家備蓄に金がかかるから民間備蓄と輸入米にするといい、食糧法まで変更して、国が備蓄をやめていく方向を鮮明にしたことだ。そして、食料自給率を上げるのに金をかけるのはもったいないから輸入を増やせばいいといっている。

 

 この期に及んで驚くべき危機認識の欠如である。政府がみずから国民を飢え死にさせるような方向、まさにセルフ兵糧攻めのようなことをしている。

 

肥料が手に入らぬ危機 ホルムズ海峡封鎖で

 

 世界情勢は悪化してきた。「クワトロショック」――コロナ禍の物流停止、中国の爆買い(小麦、大豆、トウモロコシ、牧草、魚粉、肉、魚)と日本の買い負け、異常気象の通常気象化、ウクライナなど大規模戦争の長期化――で日本の農業は深刻な事態に陥った。戦争はウクライナだけでなくホルムズ海峡の封鎖まで来てしまった。すでに日本は穀物を十分に買えなくなっている。酪農・畜産のエサも約2倍まで高騰し、高止まりながら落ち着いたように見えたが、再び上がってきている。

 

 今問題になっているのが肥料だ。化学肥料の原料を日本はほぼ100%輸入に頼っている。もっとも依存していた中国がウクライナ戦争のさい輸出規制を強化。カリウム(100%輸入)を依存していたロシア・ベラルーシも敵国に売らないといい、肥料価格は約2倍に上昇、製造中止の配合肥料も出てきた。その後、価格が落ち着いてきたかと思っていたら、再び2倍の水準に戻ってきている。

 

 中東は、チッ素の生産が世界全体の4割を占めている。日本政府は「マレーシアなどから多く買っているから関係ない」といっているが、4割を占める中東から買えなくなれば、当然マレーシアも無関係ではいられない。今、マレーシアの肥料も5割高になっている。日本の農家の99・4%は化学肥料を使う慣行農業だ。そうした農業自体が持続できるのかという問題は、ますます深刻になっている。

 

 中国は米国との戦争に備え、14億人の人口が1・5年分食べられるだけの食料を備蓄するため、世界の穀物を買い占めている。日本は穀物(コメ以外)はほとんど輸入で備蓄もなく、コメの備蓄も現在30万㌧。わずか15日分だ。このたびの海峡封鎖のようなことが発生すれば飢え死にまで何カ月持つかという話になってくる。だからこそ、総力をあげて食料・コメを増産することが急がれる。

 

 日本は約1300万㌧のコメを生産できる能力がある。減反で700万㌧まで減産しているが、これを増産し、政府備蓄も増やすべきだ。1年分の備蓄を増やすだけでもあと700万㌧必要だ。アメリカの在庫処分の武器を100兆円規模で買う金があるなら、国民の命を守るために一番必要な食料、それを生み出す農業にかりにあと3兆円使ったとしても、それこそ先にやるべき安全保障だ。

 

 こうした議論をきちんとしなければ、イランの次は米国と中国の関係が問題になってくる。いまだに日本は「食料は輸入に頼ればよい」という議論が主流だが、食料も生産資材もお金を出せばいくらでも買える時代は終わった。国産が少々割高に見えても、今頑張っている農家を支えることが一番の安全保障だ。

 

食料自給率は実質数% エネルギー自給率勘案

 

 野菜の自給率は80%といわれるが、その種の9割が海外からの輸入であることを考えると実質8%。海外から運ばれてくる種が止まれば一巻の終わりだ。だからこそ地元の種をしっかり守り循環させていくことが命を守る源になる。しかし日本政府の動きは逆だ。

 

 グローバル種子・農薬企業は世界中の種子会社を買収し、自社の種子を買わなければ生産できないようにしようと奮闘しているが、世界中の農家や市民の猛反発を受けたため、彼らが「ラストリゾート」と呼ぶ日本にやって来た。日本政府は、まず種子法を廃止して公共の種子事業をやめさせ、公で守られてきた優良な種子を民間企業に譲渡させ、さらに農家の自家採種を禁止(種苗法改定)して、種を守るのではなく、どんどん流出する流れをつくってしまった。

 

 「シャインマスカットの苗が中国・韓国にとられたから日本の種苗を守らなければいけない」といって種苗法を改定したはずなのに、やっていることは逆だ。すでに日本の大事な種苗が400種類以上「よこせ」といわれているというデータもある。

 

 これまで肥料や種の自給率、さらに種の権利を海外に握られることを考慮すれば、食料自給率は最悪9・2%だと警告してきた。しかし、それでもまだ甘かった。この計算にはエネルギー自給率が含まれていない。今回、エネルギー供給が止まる事態が現実問題として起こり、これを勘案すれば9・2%どころか実質数%しかない。これがわれわれが突きつけられている現実だ。

 

生産者も消費者も救え 主食を守らぬ政府

 

 令和の米騒動の根本的な問題はなにか。米価は30年間で半分以下に下がり続け、1俵(60㌔)1万円で売らなければならない状況も出てきた。一方でコストは1俵当り2万円かかる。そんなことが続くはずがなく、離農が続出した。そのことが今回の米騒動に大きく影響している。「高い」といっても30年前の価格に戻っただけだ。

 

 昨年、今年と需給ギャップが大きくなって米騒動が起こったが、じつは10年ほど前から生産量が需要に届きにくくなっていた。生産調整(減反)のやり過ぎだ。政府は「コメの消費量は毎年10万㌧ずつ減っている」という単純な予測にもとづいて機械的に毎年10万㌧ずつ減産を続けた。そのため猛暑などで少し生産量が落ち込むと余力がないためすぐに不足に陥る。財務省などは「コメは余っているから田んぼはいらない」といい、1回限りの手切れ金で田んぼを潰す政策までした。

 

 一方で需要が一昨年、昨年と増加したのは、インバウンド需要の増加以上に、国民が貧しくなり、食品の値上がりが続くなかで値上がりしなかったコメでしのごうとする人が増えたことが大きい。日本はすでに国連FAOの飢餓マップでも飢餓国に仲間入りを果たした。先進国では日本だけだ。つまり日本は先進国ではなくなったのだ。日本人の所得の中央値は1993年の550万円から2023年には410万円と、30年間で140万円も減少している。東京で5㌔2000円の備蓄米を買うために徹夜で行列をつくったというが、それが現実だ。生産者も苦しくなっているが、消費者も苦しくなっているということだ。

 

 しかし政府は当初、「コメは足りている」といい続けて不足している状況を認めず、悪者をつくるために流通業界と農協が価格をつり上げているなどといい始めた。しかし、農協もコメが集まらなくて大騒ぎになったのであり、流通業者もコメがないから現場の農家まで出向いて高値で買い付けるなどした。流通業者や農協が悪者などありえない。コメが足りなくなった政策の失敗を認めなかったから対策が遅れ、事態がどんどん悪化した。

 

 そこで登場した小泉進次郎前農水大臣は財務省のバックアップのもと、備蓄米を入札から随意契約によって特定の大手小売り業者に直接売り渡す方法に超法規的に変更し、輸送費の負担を財務省が認めて「5㌔2000円のコメ」を演出した。小泉劇場は一時的に成功したかのように見えたが、結果として価格破壊となり、さらに増産するというから農家は怒り心頭だった。

 

 さらに、この状況のなかで輸出を8倍に伸ばすといい、輸出米の生産には60㌔5000円(10㌃当り4万円)の補助金を出すとした。それができるなら不足している国内用のコメ生産に補助金を出さないのか? である。そうすれば農家は所得が確保できて増産でき、消費者は安く買えるが、これだけは絶対にやらない。「5000億円以上かかる。そんなカネどこにあるんだ」と。「ザイム真理教」に犯されてしまっている。

 

 石破前総理はもともと増産し、それを支える仕組みも考えていた。2009年に農水大臣だった彼は、私のシミュレーションをベースにして「石破ビジョン」を発表したが、総理になった途端まったく消えてしまい、残ったのは「増産だ」のみだった。所得補償がなく「増産だ」だけ残れば、昨年は収穫量が若干上がったので、生産者は「また価格が下がるのではないか」と不安になってくる。

 

 そこで「積極財政」の高市政権に交代したが、農業だけはやはり緊縮財政だった。そして米価が下がらないように「つくるな」という方向に転換した。「増産だ」といった2カ月後だ。生産者サイドには「価格を維持してくれようとしているのかもしれない」という評価もあった。しかし生産を絞り込み過ぎて米騒動になったのだから、消費者は「また米騒動を起こすのか」という受け止めになる。そこで米価が高くて困る消費者を一時的にごまかす方策として考えついたのが「おこめ券」だった。付け焼き刃できちんと考えていない。

 

 一方でなにが起こったか。昨年なんと輸入米が100倍近くに増えた【グラフ③】。価格を5㌔4000円ほどに維持しようとし過ぎると輸入米に置き換わるだけで、結局は生産者の首をしめ、やめざるをえない方向にいってしまう。

 

 生産者に必要な支払い額が不足しているが、あまりに価格が上がると消費者も払えない。そのギャップを埋めるのは政策の役割だ。「それをやるためにコメで3500億円、酪農で750億円かかる」などと計算した時点で、「そんなカネどこにあるんだ」ということで終わる現状をどう脱却するかだ。超党派の議員立法で「食料安全保障推進法(仮称)」を成立させ、あと3兆円農業予算を増やせればしっかりとした政策を実行することが可能だ。まず生産費と消費者の払える金額のギャップを埋める政策をやれば双方が助かり、増産することができる。なんとかこれを実現させなければならない。

 

農業問題は消費者問題 最初に飢えるのは東京

 

 小泉前農相の備蓄米放出は、「郵政の二の米(二の舞い)」ともいわれた。小泉純一郎元首相と進次郎氏は親子2代でアメリカの要請を日本で実現する役割を負っているようだ。もっとも大きい350兆円のゆうちょマネーを握る郵政は完全に乗っとられてしまった。次は農林中金の100兆円とJA全共連の共済55兆円、あわせて155兆円のJAマネーだ。さらに日本の農産物流通の元締め組織である「全農」を米国の穀物メジャー・カーギルが買収したいといっている。しかし協同組合だから買収できないため、株式会社化させる話が出てきた。それを進次郎氏が10年前の自民党農林部長時代にやろうとし、挫折した経緯がある。

 

 米騒動のなかで彼が農水大臣になり、「悪者は農協だ」とメディアも特集を組んで農協を叩いた。実現してしまったら国民の大事な資金と大事な組織が外資に乗っとられてしまうところだった。こうした問題も小康状態になっているだけだということに注意が必要だ。考えなければならないのは「農業問題は消費者問題だ」ということだ。

 

 農家は高騰する生産コストを農産物価格に転嫁できない構造に置かれてきた【グラフ④】。高止まりしていたコストはホルムズ海峡封鎖で再び上がってきた。「農業は大変だ」と他人事のようにいっている人も少なくないが、この状況を放置して農家がいなくなれば、子どもたちの食べる物はどうするのか。農業問題は生産者の問題をはるかにこえて、消費者一人一人の命の問題だ。

 

 『世界で最初に飢えるのは日本』という私の本が衝撃を与えたが、北海道の食料自給率は223%、熊本県が60%、そして東京は0%。日本で最初に飢えるのは東京だ。だれのおかげで命がつながっているのかについて、都市部のみなさんはもう少し認識を持たなければいけない。ヨーロッパでは農家が高速道路を封鎖して食料を中心部から消し、 「No Farmers,No Food(農家なくして食料なし)」と訴えた。日本でも先日「令和の百姓一揆」がおこなわれたが、もう少し頑張らなくてはいけない。

 

 こうしたなかで25年ぶりに食料基本法が改定された。今度こそ食料自給率を上げるというのかと思ったら、「食料自給率」という言葉さえなくなった。

 

 「農業・農政に十分カネはかけてきた。潰れる方が悪い」「巨大企業にでも入ってきてもらってスマート農業で一部の人だけもうかればいいではないか」といわんばかりの方向になった。そんなことではコミュニティも食料供給も維持できない。そして有事になれば野菜農家も酪農・畜産農家も命令に従ってサツマイモをはじめとした穀物を強制増産・強制供出させ、従わなければ処罰するという有事立法が昨年4月に施行された。

 

 「地方に無理して人が住み、農業をして、行政が税金を使わなければならないのは無駄だ」という論理がいかに間違っているかはコロナ禍でも明らかになったはずなのに、今日本は再びこの方向性になっている。「原野に戻して拠点都市に移り住むのが一番効率的な日本の未来だ」と本気でいう人も増えている。こうした論調をわれわれは許すわけにはいかない。

 

農家追出しビジネスに スマート農業

 

 一方、ダボス会議では地球温暖化の主犯が水田のメタンガスと牛のゲップであるかのような論が公然と主張され、代替食料としてコオロギなどの昆虫食や人工培養肉を推奨する機運が醸成されている。水田は何千年も前からあるし、牛もずっと前からゲップしている。地球温暖化は過度な工業化が原因であるにもかかわらず、その責任を農業に転嫁し、新たなビジネスを展開しようとするものだろう。

 

 日本でも今や政権そのものがこの方向になっている。田んぼの中干し期間を延長しなければ補助金を出さないなどやり過ぎだ。「日本の田んぼに水を張るな」と主張しているのは世界一の農薬企業モンサント・バイエルの最高責任者だ。水を張らなければ雑草がはびこり、大量の農薬が必要になるからにほかならない。テレビで登場する成功している農家が使っている衛星を利用したスマート農業技術を提供しているのも、グローバル種子・農薬企業だ。

 

 また、「みどり戦略」で有機・自然栽培のとりくみを支援する流れができたものの、そこで大々的にいっているのが「スマート農業」だ。スマート農業を否定はしないが、グローバル種子・農薬企業やGAFAなどIT大手企業は、農家を追い出し、ドローンやセンサーで管理されたデジタル農業で、種から消費までのもうけを最大化するビジネスモデルを構築し、それを投資家に売る――というビジネス構想を持っているといわれている。フードテックの内容と合わせて考えると陰謀論ともいえないのではないだろうか。

 

 フードテックにはいい技術もあるが、農業を地球温暖化の悪者にし、代替的な食料生産に変えていくというもので、そのなかに人工肉、培養肉、昆虫食、植物工場、無人農場などがすべて入っている。こんなことをすると農業・農村は破壊され、食料自給率もおろそかにされて一部の企業がもうかり、政治に環流するだけだ。

 

 高市政権が苦しんでいる農家を放置してフードテックにお金を出すのは、じつは非常に整合性がとれている。この期に及んで「守るのはフードテックだ」などといっていると、日本は終わってしまう。

 

ローカル自給圏作りを 地域と健康守るため

 

 これまでも危機的な状況に警鐘を鳴らしてきたが、さらに状況は悪化している。にもかかわらず日本政府はとにかく米国から武器を買って攻めていくのだと今でもいっている。しかし日本周辺の海が封鎖されればどうなるか。戦ってはいけないが、戦う前に飢え死にして終わりだ。いくら武器を買い増しても、もっとも大事な食料・農業をないがしろにすれば、不測の事態に私たちはトマホークとオスプレイをかじって何日生き延びることができるだろうか。

 

 だからこそ、総力をあげて地域から食料自給率を100%にしていくような自給圏づくりを頑張る必要がある。「自給率がゼロでも自給力さえあればいい」というのは間違いだ。行政の文書はほとんど「自給力」になってしまったが、有事に校庭や道路にサツマイモを植えて飢えをしのぐのが自給力ではない。

 

 鎖国をしていた江戸時代、日本は地域の資源を徹底的に循環させて食料も経済も回していた。自然の摂理にそった循環の仕組みは世界を驚嘆させた。戦後の米国の占領政策でこれが一度壊滅させられたが、われわれはその底力を今こそ発揮するときではないか。

 

 農業を生け贄にしやすくするためにメディアを通じて農業過保護論を展開したが、日本の農家の所得に占める補助金の割合はせいぜい3割。フランスやスイスは100%だ。命を守り、環境を守り、地域コミュニティを守り、国境を守っている産業を国民あげて支えるのは世界の常識だ。じつは日本人が非常識なのだ。

 

 フランスの農家の平均年齢51・4歳に対して日本は69歳をこえている。全国各地で「あと五年もすればコメを作る人がいなくなる」という地域が山のように出てきている。政府は支援のお金を出そうとしない。放置すれば本当にあと5年で農業・農村が崩壊し、食べる物がなくなってしまう。それは地域の崩壊にとどまらず、ホルムズ海峡のような事態が起きれば国民が飢え死にする現実が目の前に来ていることを意味している。私たちに残された時間は多くない。生産者と消費者が一緒になって地域を守るとりくみを強化しなければ間に合わない。

 

 安い輸入品が増えたのは政府の政策だが、それを選択するのは消費者だ。安い物には必ず訳がある。だからこそ地元の物を大事にする消費者が増えなければならないが、日本は選択できないよう食品表示を消しており、2年前から「遺伝子組み換えでない」といった表示も難しくなっている。米国からの要望だ。ゲノム編集食品も審査も表示も不要にしろといわれ野放しにした。それでもゲノムトマトの販売会社は消費者が心配するだろうと考え、「子どもからだ」と全国の小学校に苗を無償配布した。日本の子どもたちを突破口とする戦略を販売会社は「ビジネスモデル」と国際セミナーで発表している。その利益は特許を持つ米国のグローバル種子企業に還元されるのだ。

 

 戦後の占領政策・洗脳政策は形を変えつつも、同じように続いている。米国の要求に答えるために日本は輸入をざるにしているので、世界の合言葉は「危ない物は日本へ」になってきている。安全性の情報をさらに共有していくことも必要だ。

 

学校給食が未来守る鍵 いすみ市等で取組も

 

 米国の思惑から子どもたちを守り、国民の未来を守る鍵は、地元の安全・安心な農産物を学校給食を通じて提供する活動・政策を強化することだ。今全国にそのうねりが起こっている。千葉県いすみ市は市長が「1俵2万4000円で有機米を買いとる」と宣言し、当初は有機農家が1軒もなかったが、4年間で市内の学校給食をすべて地元産の有機米に切り替えた。京都府亀岡市の市長も、私のセミナーの後で「うちはその2倍で買いとる」と宣言され、農家は拍手喝采だった。その後の交渉をへて1俵3万6000円ほどで買っているという。

 

 地元の農産物がない東京都の世田谷区や大阪府の泉大津市では、頑張っている全国の産地から高い価格で買いとるとりくみを広げていこうとしている。消費地の自治体と、産地の自治体が連携協定を結んで網の目のようなネットワークをつくり、産地から高い価格で買いとって消費地の給食などで安く提供する。国が動かないなら自治体の連携協定でやろうという動きが起こり、5月には連携の輪をいっそう広げる「コメ・サミット」も開催される予定だ。

 

 【表⑤】を見るとわかるように、農産物は全品目で買い叩かれている(数値が0・5を下回ると買い叩かれていることをあらわす)。仲買業者が「農家に支払う金額は流通業者の売値で決まる」と端的に話していたが、こんなビジネスが持続できるはずがない。今、東京の大田市場は出荷が減り、価格が上昇して悲鳴を上げている。猛暑や冷夏ではなく、農家が苦しくなって出荷が減少しているのが原因だ。「今だけ、カネだけ、自分だけ」で買い叩き続ければ、つくる人がいなくなって商売もできなくなる。消費者も安ければいいと思っていたら食べる物がなくなるということだ。「売り手よし、買い手よし、世間よし」で支えあう仕組みをどうつくっていくかだ。

 

強固なネットワークを 飢えるか植えるか運動

 

 国の政策を転換させる努力は不可欠だが、それ以上に重要なことは生産者と消費者が自分たちの力で自分たちの命と暮らしを守る強固なネットワークをつくることだ。一つは給食を核にして、地域の種を守り、地域でできた物を地域でまず循環的に消費するローカル自給圏を強化する。そのために私は「飢えるか植えるか」運動を呼びかけている。消費者・生産者という区別をなくし、住民が農家と一体化して市民全体で耕作放棄地も分担して耕し、家庭農園、市民農園を拡大することは、農業生産の振興と、安心・安全な食料の確保、食料危機に耐えられる日本を創る一つの鍵となりうる。

 

 食糧危機、農業危機は間違いなく深刻化してきた。だからこそ子どもたちの未来を守るという思いが高まっており、日本各地で頑張っている農家をまわりの市民が支える仕組みづくりが広がっている。このことこそが希望の光だ。みんなでつくり、みんなで食べる仕組みをさらに広げることで流れを変えていくことができるはずだ。

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