(2025年8月18日付掲載:最終更新日2025年8月24日)

熊本一規著『埋立と漁業の法律問題:公有水面埋立法の研究』(日本評論社、185㌻、定価4000円+税)
長年、漁業権問題を研究し、その成果を何冊もの書籍にまとめてきた明治学院大学名誉教授の熊本一規氏が7月、『埋立と漁業の法律問題:公有水面埋立法の研究』(日本評論社、185㌻、定価4000円+税)を上梓した。熊本氏は1976年に鹿児島県志布志湾の埋立に反対する住民運動にかかわり始めて以来、半世紀近くにわたって埋立問題にとりくんできた。埋立の手続きを定めている現行の公有水面埋立法は、1921(大正10)年に明治憲法の下で制定されたもので、埋立免許の効力は絶大であり、埋立免許取得者は漁業等の他の水面使用を排除して埋立工事をおこなえるかのように思わされてきた。そのため、これまで漁民の埋立反対の声はかき消され、埋立による水揚げ減少の前にみずから命を絶った人々も少なくない。
熊本氏はこうした漁民の無念の思いを無駄にしてはならないと、約半世紀にわたって公有水面埋立法研究にとりくみ、従来の解釈を覆し「埋立免許を得ても他の水面使用を排除できず、埋立事業者は他の水面使用者の同意と協力を得て埋立工事を実施しなければならない」との見解を提示した。これは埋立工事における優越者が埋立事業者から他の水面使用者へと逆転する画期的な解釈である。熊本氏は現在、上関原発計画をめぐって中国電力が祝島の漁民を訴えた裁判にもかかわっており、9月18日に証人として、公有水面埋立法についての画期的な見解にもとづいて陳述する。本書が原発建設や洋上風力発電建設、基地建設など国や大手企業の計画で生業である漁業を奪われることとたたかう人々の有力な武器となることを確信して紹介する。
◇ ◇

熊本一規氏
本書の序で熊本氏は「四方を海に囲まれた日本において、海を陸地に変える埋立事業は、安易な用地取得の手法として、さかんに用いられてきた。それは、一方で安価な工場用地を提供して経済成長を支えてきたものの、他方で、海洋環境を破壊し、漁業に甚大な被害をもたらし、景勝地や憩いの場という国民の共有財産を潰してきた。自然海岸の比率がほぼ半分にまで低下した国は、世界的にも他に例を見ないであろう」と記している。
そこでは、大正10年に制定されて以降、100年をこえて適用され続けている「公有水面埋立法」の存在を見逃すことはできない。しかも、同法の解釈についての著書は昭和29年に出された『公有水面埋立法』(山口眞弘・住田正二)しかなく、同法に批判的な立場からの著書はまったく存在しない。
熊本氏は、埋立が日本の海岸・海洋環境・漁業等にもたらした影響の大きさを思えば意外なことだとして、渾身の力をこめて公有水面埋立法制定以来初めての見解を世に送りだすことにし、これが「埋立事業に限らず、今後の公共事業全般のあり方、ひいては公権力と民衆の力関係にもかかわってくる」とのべている。

2012年3月、中国電力が上関原発計画のためにおこなうボーリング調査を阻止するために腕を組んで立ちはだかる祝島の住民たち(山口県上関町田ノ浦)
半世紀以上も抜本改正なく 公有水面埋立法
第1章では、公有水面埋立法の概要を紹介している。
公有水面埋立法の沿革を見ると、大正10年の第44回帝国議会の審議を経て、翌11年4月10日に制定されている。端的にいえば「水面を埋め立てて陸地となした者に土地所有権を付与する手続き」を定めた手続き法である。
この法律制定の趣旨は、その前身である「官有地取扱規則」および「公有水面埋立及使用免許取扱方」が、公衆の妨害となるような埋立を認めていなかったため、埋立が思うように進まないというなかで、埋立をより実施しやすくするという国や大企業の思惑に沿ったものであった。「官有地取扱規制」では公衆の妨害とならない限りでの埋立事業しか許されないのに対し、同意取得を要する権利を限定したり、同意が得られなくても埋立事業を実施できるようにした「公有水面埋立法」を定めたという経緯がある。「公有水面埋立法」は埋立事業をなにがなんでもやるという趣旨のもとに制定された法律である。
その後、公有水面埋立法制定から約半世紀を経ると、社会状況は一変し、とくに公害問題が大きな社会問題となった昭和40年代半ば以降は埋立についての批判が強くなり、昭和48年に一部が改正された。
昭和48年の一部改正を巡る国会論議で、大きな論争となったものの、改正に盛り込まれず、先送りになった論点について紹介されている。
(1)新憲法への適合性
公有水面埋立法が制定されたのは、旧憲法下の大正10年であり、戦後の新憲法に適合させる改正が必要であるが、昭和48年の一部改正では甚だ不十分であり、抜本改正が必要との指摘がおこなわれたが、現在に至るもおこなわれていない。
昭和48年6月27日の衆議院建設委員会で井上委員が「埋立事業を進めるために、そこのけそこのけお馬が通るで、ともかく利害関係者の考え方、権利を全部押しのけてつくられたのが公有水面埋立法であります。……ところが、明治憲法から民主憲法に変わった。国民の権利は守られなければならないことになっている。それに対して改正ができていない」と発言しているが、現在もなお抜本的な改正がされないままになっている。
(2)「埋立施行区域内の水面権」以外の財産権
旧憲法下では、財産権侵害のさいに損失補償を要するか否かは、個別法の規定に拠っていたのに対し、新憲法では、憲法29条に基づいて損失補償が必要とされた。そのため、公有水面埋立法の定める「埋立施行区域内の水面権者」以外の財産権者に対する補償が問題となった。
(3)憲法31条「適正手続きの保障」
憲法31条は「何人も法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」と規定されている。公権力が国民の生命・自由・財産を制限する場合には、当事者に予めその内容を告知するとともに、弁明と防御の機会を与えなければならないという規定だ。旧憲法下で制定された公有水面埋立法には、埋立事業に因る財産権侵害に関する適正手続きの規定がまったく欠如しており、昭和48年改正案でも不十分なままであった。
埋立地所有権の帰属 公有水面埋立法は、埋立事業者が埋立地を私有地として取得できることを定めた法律であるが、水面は公共用物であったのに、それを埋め立てたからといって埋立事業者の私有地として認めてよいのか、ということが問題になった。当時の金丸国務大臣は「今後抜本改正で検討しなければならない」と答弁しているが、その後、抜本改正はおこなわれていない。
熊本氏は「公共用水面を埋め立てて土地になれば公共用地になるのが当然であり、“国の所有に属する”水面を埋め立てて土地になれば国有地になるのが当然である。したがって、埋立地が埋立事業者の土地になると規定している公有水面埋立法の規定は不可解」としている。
(5)埋立事業者、免許権者、裁定者が同一
埋立の多くが都道府県が事業者となって実施されており、その場合、埋立免許と出願する埋立事業者(都道府県)の代表である知事と免許権者の知事が形式上同一になる。さらに、公有水面埋立法8条では、補償が難航した場合に知事が補償金額を裁定する旨、規定されており、その場合には、事業者と免許権者の三者が一致することになる。この問題についても検討すべきとの意見が出され、国は「今後考慮すべき問題の一つ」と答弁している。
こうした問題が昭和48年当時の国会で論議され、一部改正後に抜本改正をめざしそれらの諸問題を検討することを国は約束する答弁をおこなったが、その後、半世紀以上を経た現在も公有水面埋立法の抜本改正はとりくまれていない。
漁業補償算定の違法性 1年過ぎれば再算定必須
続いて、公有水面埋立法の重要条文についての解説がされている。
第1条については、まず、公共目的が記されておらず、公共目的で私権を制限したり、私法関係に介入したりする法律ではないと指摘している。
第4条第3項については、2号は工業立地目的の埋立等では漁業を無視して埋立免許を出せるとする乱暴な規定である。また3号は土地収用法を適用しうる事業ならば埋立免許を出せる旨を規定している。熊本氏は2号も3号も新憲法の下では違憲であるとしている。また、2号、3号に基づいて埋立免許を出したとしても、8条で「補償しなければ着工できない」旨を規定しているため、補償を支払わなければ埋め立てには着工できないとの見解を示している。
5条は公有水面に関して権利を有する者、すなわち同意を得ておくべき者を「水面権者」として四者を列挙している。新憲法の下では、埋立施行区域内のすべての財産権者を含んでおかなければならず、四者以外の財産権を無視しており、新憲法に違反する規定である。
また、水面権者として四者をあげたなかで、2号に「漁業権者又は入漁権者」としていることはとくに問題であるとしている。従来の公有水面埋立法の解釈として、「漁業権」とは、漁業法で漁業免許を受ける漁業権、すなわち、共同漁業権・定置漁業権・区画漁業権を意味するとの解釈が多くの解説書や判例等で示されているが、免許を受けない許可漁業・自由漁業も、漁民が営み続ければ「慣習上の権利」に成熟する、その内容は「漁業を営む権利」であるから財産権である。したがって、「慣習上の許可漁業・自由漁業を営む権利」が侵害される場合にも同意取得と損失補償が必要である。
また、「組合管理漁業権」の場合、漁業権者は免許を受ける漁協なのか、それとも漁業を営む組合員なのかという問題が生じ、長年の論争があったが、「漁業権」とは「漁業を営む権利」なのであるから、免許を受けるだけで当該漁業を営まない漁協が「漁業権者」であるはずはない。
漁業法は、免許や許可を誰に与えるかを定めた法律であるから、「免許を受ける者」を「漁業権者」としているのは当然だが、公有水面埋立法では、「損失補償を受ける者」が「漁業権者」であるから、「免許を受ける者」と「漁業を営む者」が分離している組合管理漁業権に関しては、漁業を営み、埋立により損失を受ける者が「漁業権者」となるはずだ。組合管理漁業権に関しては、漁業法上の漁業権者と公有水面埋立法上の漁業権者は異なる。
第6条は、損害防止施設を設置することにより損害を防止できる場合を除き損失補償が必要なことを明記している規定であり、第八条は、損失補償は埋立工事の前におこなわなければならないことを規定している。
損失補償が支払われた後、着工までに長期の期間がかかることも少なくない。なかには、埋立免許に定められた工事の着手期間を過ぎて「埋立免許の伸張」がおこなわれることもある。ただし損失補償と着工の間の期間が長期にわたる場合には、補償額が違法になる可能性がある。
漁業補償額の算定は、侵害行為(工事)直近の3~5年間の漁獲データをもとに算定されるから、損失補償から着工までの期間が1年をこえるような場合には、補償額の再算定および支払い済み補償額との調整が必要となるとしている。
ちなみに、上関原発建設をめぐって中国電力は、2000年4月に共同漁業権管理委員会(祝島漁協を含む8漁協から構成されていた)と交わした補償契約に基づき漁業補償金を支払っている。7漁協は受け取ったものの祝島漁協は受け取りを拒否しており、旧祝島漁協(現在は山口県漁協祝島支店)の組合員には補償がなされていない。公有水面埋立法の第八条では、「損失補償は埋立工事の前におこなわなければならない」と規定しており、祝島漁民には損失補償がなされておらず、埋立工事はできない。
また、漁業補償額の算定は侵害行為直近の3~5年間の漁獲データをもとに算定するとしており、上関原発建設では漁業補償金を支払ってから25年たっても埋立工事に着工しておらず、補償額の再算定や支払い済み補償額との調整が必要であるのは明白で、その後でなければ埋立工事着工はできないことになる。
自由漁業は排除できず 埋立免許や占有許可

上関原発建設計画をめぐり、中国電力のボーリング調査に抗議して台船を取り囲む祝島の漁業者たち(2005年6月、山口県上関町)
第2章では、公物法に基づく公有水面埋立法の検討をおこなっている。
はじめに、道路・公園や河川・湖・海等は、一般公衆の共同使用に供されており、法学上、「公共用物」に分類されているとし、公有水面埋立法について、公共用物に関する法律である「公物法」の視点から検討を加えている。
最初に公物法の基礎知識についてのべている。
(1)公共用物・公用物・公物とはなにか
「公共用物」とは、直接に公共の福祉の維持増進を目的とし、一般公衆の共同使用に供せられる物で、道路、公園、港湾、海、河川、湖沼、海浜等がそれにあたる。公共用物のうち、海、河川、湖沼等の水面及び水流を「公共用水面」という。
「公用物」とは、主として国又は公共団体等の行政主体自身の使用に供せられる物で、官公署の敷地・建物、国公立学校の校舎・敷地等がそれにあたる。「公共用物」と「公用物」を併せて「公物」という。
(2)公物法とはなにか
公物に関する公法の全体を「公物法」という。道路に私道があることが示すように、公物の大部分は私法の適用を受けるが、公物は、本来、公用又は公共の用に供する等「公の目的」に供用することを目的とするものであるから、その目的を達成させるに必要な限度において私権の行使を制限禁止するなど、私法的規律の適用を排除し、公法的規律に服せしめることが多く、また、その使用収益についても公法的な規律を加えることが少なくない。これらの公物に関する公法的規律の全体を「公物法」という。
(3)「公物の管理」と公物管理法
公物管理に関する一般的な法律は存在しないが、道路、河川、港湾等の個別の公共用物については、それぞれの管理について包括的な法律(道路法・河川法・港湾法等)が制定されており、これらを「公物管理法」と称する。
道路法で「道路の管理」というのは、道路管理者が道路の新設・改築・維持修繕をなし、又は道路の占用を許可するなど、公共用物としての道路本来の機能を発揮させるためにおこなわれる一切の作用をいう。
河川の管理、港湾の管理についても同様で、公共用物の管理は、私物の管理と異なり、単に物を財産的価値の客体として管理するのではなく、もっぱら公共用物本来の目的を達成させるために管理する点に特色がある。
(4)公共用物の使用
公共用物の使用には、自由使用、許可使用、特別使用の3種類がある。
〈自由使用〉
道路・河川等の公共用物は、本来、一般公衆の使用に供することを目的とする公共施設であり、原則として、一般公衆の自由な使用が認められる。誰もが他人の共同使用を妨げない限度で、許可その他の行為を要せず自由に使用することができる。これを「公共用物の自由使用(又は一般使用)」という。
自由使用は、公共用物本来の用法にしたがった使用の形態であり、道路の通行、公園の散歩、海での海水浴等が自由使用にあたる。
〈許可使用〉
公共用物の使用が自由使用の範囲をこえ、他人の共同使用を妨げたり、公共の秩序に障害を及ぼす恐れがある場合に、これを未然に防止し、又はその使用関係を調整するために、一般にはその自由な使用を禁止し、特定の場合に、一定の出願に基づき、その禁止を解除してその使用を許容することがある。これを「公共用物の許可使用」という。「許可」とは「一般的禁止の解除」を意味する。
「許可」は、公物管理権に基づいて出される場合と、公物警察権に基づいて出される場合とがある。「公物警察権」は、公物に関しておこなわれる警察であり、公物の安全を維持し、公物の使用関係の秩序を維持するための一般警察権の作用である。道路交通法では、公物警察権に基づき、道路における道路工事や工作物の設置、露店・屋台等の出店、デモ等に警察署長の許可が必要とされており、許可使用にあたる。
〈特別使用〉
公共用物本来の用法をこえ、特定人に特別の使用の権利を設定することがあり、「公共用物の特別使用(又は特許使用)」と呼んでいる。許可使用が単に一般的な禁止を解除し、公共用物本来の機能を害しない一時的な使用を許可するにすぎないのに対し、特別使用は、公物管理権により公共用物に一定の施設を設けて継続的に使用する特別の権利を設定するものである点に特色がある。
公物法では、この意味での特別使用を「公共用物の占用」と呼び、公物管理者による「占用の許可」によって公共用物を使用する権利(占用権)、「公共用物使用権」を設定するとされている。
公共用物使用権は、特許の形式によらず、慣行によって成立する場合も少なくない。慣行上の公共用物の使用が公共用物使用権として成立するためには、その利用が多年の慣習により、特定人、特定の住民又は団体など、ある限られた範囲の人々の間に特別な利益として成立し、かつ、その利用が長期にわたって継続して平穏かつ公然とおこなわれ、一般に正当な使用として社会的に承認されるに至ったものでなければならない。
慣行によって成立する公共用物使用権は、私法学者が「慣習法上の物権」とするもので、慣行水利権や温泉権が代表的なものだ。他方、特許によって成立する公共用物使用権は、公法学者によれば、公物管理権者に対する関係に基づき「公法上の債権」とされ、第三者に対する関係では財産権的性質を有し、第三者がこれを侵害した場合には、民事上の妨害排除請求権や損害賠償請求権を持つ。
特許あるいは慣行のいずれによって成立するにせよ、公共用物使用権は、侵害された場合には妨害排除請求権や損害賠償請求権を持つ。

漁業を排除する法的根拠がないため漁民に頭を下げて調査への協力を「お願い」する中電社員(2022年11月、上関町)
(5)公共用物使用権とその「一定の限界」
公共用物使用権は妨害排除請求権を持つものの、公共用物を使用する権利であることから「一定の限界」を持つ。「一定の限界」とは、使用目的達成のために必要な限度にとどまるという限界であり、他の使用を許さない排他的独占的な公共用物使用権は、公共用物としての性質に反するため、特許によっても慣行によっても成立しえない。もしも、公共用物使用権が公共用物の一定区域における排他独占的な権利であるとすれば、公共用物が一般公衆の共同使用に供され、自由使用を「本来の使用」とすることに反し、公共用物が公共用物でなくなってしまう。
以上のような公物法に基づいて、その水面の使用と占用について、河川・湖、海について解説している。このなかで、公有水面埋立法は公物管理法ではなく、埋立の手続き法にすぎず、何の公共目的も掲げられておらず、公共用物の使用許可や占用許可を出すことはできない。よって埋立免許によって使用許可や占用許可がなされるはずがなく、公物管理法上の許可を受けることが必要になる。
河川に関する公物管理法は河川法であるが、海については河川法のような海全体を一つの公共用物として規律している公物管理法は存在しない。海域は港湾法に基づいて指定される「港湾区域」、漁港漁場整備法に基づいて指定される「漁港区域」、海岸法に基づいて指定される「海岸保全区域」及び「一般公共海岸区域」に区分され、それぞれ「港湾法」「漁港漁場整備法」「海岸法」によって規律されている。法に基づく水域指定がない一般海域は、「法定外公共用物」と呼ばれ、その管理は各都道府県の一般海域管理条例あるいは一般海域管理規則によっておこなわれている。
水面の使用・占用と埋立事業については、公有水面埋立法は公物管理法ではないため、同法に基づいて使用許可や占用許可を出すことはできず、埋立事業を実施するには、埋立免許とは別に公物管理法もしくは公物管理条例に基づく使用許可及び占用許可が必要であるとしている。ただし公物管理法もしくは公物管理条例に「埋立免許に基づく事業についての適用除外規定」がある場合には、埋立免許に伴ってそれらの許可がなされたとみなされ、許可を受けることは不要である。
埋立事業においては、「工作物の建設」には「使用許可」が必要であり、「公共用物の許可使用」である。「水域の占用」には「占用許可」が必要であり、「公共用物の特別使用」となる。ただし、「占用許可」については自由使用を妨げない限りにおいて認められるという「一定の限界」があり、占用許可によって水面の自由使用が排除されることはない。
埋立工事と他の共同使用との関係では、第一に、埋立工事は許可使用であるから埋立施行区域内の他の水面使用を排除して実施することはできず、他の水面使用者に対して協力をお願いしつつ実施しなければならない。それは、道路工事の実施の際に通行人に協力をお願いしつつ実施しなければならないのと同じである。
第二に、埋立区域における他の水面使用は、「水域の占用」の許可によって不可能になるのではなく、「護岸の設置」や「埋立地の造成」の結果、水面でなくなることによって物理的に不可能になる。もしも「水域の占用」の許可によって埋立区域内の他の水面使用が不可能になるならば、埋立区域内の水面は公共用水面でなくなることになり、公有水面埋立法は適用できなくなるから、「水域の占用」の許可によって他の水面使用が不可能になることはあり得ない。
第三に、他の使用が財産権である場合には、損失補償の支払い等を通じて工事への同意を取得したうえで実施しなければならない。水面権以外の財産権に対しても、同様の損失補償ないし着工同意取得が必要である。
誤った法解釈の是正を 正当な権利を毀損
以上のような見解は、これまで埋立免許取得者が他の水面使用を排除して埋立工事をおこなえるとしてきた解釈を根底から覆している。
さらに公有水面埋立法に基づく法的効力と公物管理法に基づく法的効力として以下のようにまとめている。
埋立事業において「工作物の建設」ができるのは、公物管理法に基づく「使用許可」の法的効力であり、「水域の占用」ができるのは、公物管理法に基づく「占用許可」の法的効力である。公有水面埋立法は公物管理法ではないため、公有水面埋立法に基づく埋立免許は、使用許可や占用許可の法的効力を持たず、埋立免許に基づいて許可使用や特別使用が可能になることはない。埋立免許がなされても、従来から公共用水面に存在していた他の水面使用が制限されたり排除されたりすることはない。
埋立免許に伴う法的効力は、土地造成に関する法的効力であり、第一に竣功認可を条件として埋立地の所有権者になるものを予め確定しておくとう効力、第二に竣功認可には、その告示の日に埋立事業者が埋立地の所有権を取得する効力がある。竣功認可に伴う効力は「公用廃止」後、すなわち公共用物でなくなった後の効力であるから、公物管理法に基づく効力ではなく、公有水面埋立法に基づく効力である。公有水面埋立法は公物管理法ではないから、公共用物の権利関係には介入できないが、竣功認可によって公共用物でなくなった私有地については介入できる。
第2章の結論として、「埋立事業者は埋立免許によって他の水面使用を排除して埋立工事を実施できる」とする見解に反論している。
埋立工事の際にまず初めに必要な護岸建設は、埋立免許に基づくのではなく、公物管理法による「工作物建設の許可」に基づくものであるから、埋立工事は「公共用水面の許可使用」である。許可使用は、一般的には禁止されている使用が許可によって可能になるにすぎないから、許可を得て初めて自由使用と同じ立場に立つにすぎず、他の自由使用・許可使用を排除することはできない。
公有水面埋立法は公共用水面にしか適用できないから、埋立免許が出された後も埋立施行区域が公共用水面であることに変わりはない。埋立免許に基づいて他の水面使用が存在し得ない水面が生じることはない。他の水面使用が存在し得ない水面は公共用水面ではないから、そこにはもはや公有水面埋立法が適用できなくなり、竣功認可も土地所有権の取得も不可能になるからである。
従来の公有水面埋立法の解釈は、「公有水面埋立法に基づき埋立免許を得た事業者は、他の水面使用を排除して埋立工事を実施できる」であり、埋立反対運動も、埋立免許が出れば反対を諦めるか、埋立免許取消訴訟を提訴して敗訴するというパターンがほとんどであった。
熊本氏は100年も前に明治憲法下で制定された公有水面埋立法について、新憲法と照らして不十分性を明らかにするとともに、「もしも埋立免許取得者が他の水面使用を排除して埋立工事をおこなえるなら、埋立施行区域の水面は公共用水面(一般公衆の共同使用に供される水面)でなくなるので、公共用水面にのみ適用しうる公有水面埋立法を適用できなくなる」と従来の見解の誤りを指摘し、埋立免許によって、自由使用すなわち自由漁業ができなくなることはないとの見解を立証しており、画期的な内容となっている。





















