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祝島の漁業を潰しにかかる推進勢力 合併後に水揚げは6割減

 山口県漁協祝島支店の経営をめぐって、昨年度の赤字が約940万円にふくらみ、53人の組合員でその穴埋めをしなければならないことが問題になっている。1人当たりの負担額は17万8000円と大きく、これを機に組合を辞めようとする人人も出ている。近年は慢性的な赤字体質からいっこうに抜け出せず、決算が迫る度に組合員が涙を呑んできた。「赤字のくり越しは認めない(黒字は本店に没収)」という県漁協ルールに基づいて、精算が迫られるからだ。おかげで漁協合併前に89人(平成17年度)いた正組合員は53人にまで減少し、水揚げは僅か8年の間に6~7割以上も減少する事態となっている。この間、上関原発計画を推進する勢力が、祝島の漁業権を剥奪するためにあの手この手で懐柔や恫喝をくり返してきたが、「3分の2同意」「補償金受領」を求めるだけでなく、真綿で首を絞めるようにして経済的に破綻させ、漁民がいない状態をつくっていることが暴露されている。
 
 福山で買い叩かれる魚の秘密

 決算時期が迫るなかで祝島支店の組合員には「部門別損益計算書」というペラ紙が配られ、最終損失が940万1455円であったこと、組合員1人当たりの負担金が17万8000円に上ることが通知された。また「販売事業に係る歩金の改正説明資料」が配布され、漁協に支払うべき歩金の見直しが検討されていることも報告された。例として最低水揚げを60万円とした場合、均等割りで1人あたりの歩金が約10万2500円となり、水揚げがない場合はさらに不足歩金(例として6万円)を多く支払わなければならないというものだった。その最高額は16万2500円と見積もられ、赤字尻拭いとは別に、こうした漁協経営を維持するための諸諸の負担が増すことになっている。
 今年3月31日現在の損益計算書の内訳を見てみると、水揚げによって増減する販売収益は2932万円で、前年の3474万円からおよそ2割近く減少している。祝島支店の組合員が53人がかりでとってきた年間水揚げ高を示し、それに対してかかった経費が約2600万円。利益は僅か335万円だった。共済や購買、製氷、加工といった部門もふくめた最終的な赤字額が940万円で、前年よりも200万円以上ふくらんだ。
 県漁協に合併する以前(平成17年度)の販売収益すなわち水揚げ高が8100万円だったのから比較すると63%減で、直接には水揚げの減少が支店経営悪化の最大要因となっている。県内でも角島や北浦海域では1人の組合員で1000万円以上水揚げしていく人もいるなかで、瀬戸内海でももっとも好漁場に恵まれた祝島では、その2~3人分にも満たない構造となっている。
 なぜこれほどまでに水揚げ高が落ち込んでいるのか?

 S社の言い値 相対契約で買い取られ

 関係する人人に取材したところ、祝島は離島という悪条件もあって、陸続きで出荷販売できるよその浜とは運搬経費などの面で明らかに差があり、マイナス要因を抱えている。しかし、それにも増して瀬戸内海の心臓部といわれる豊かな好漁場を有しており、祝島ブランドが持っている市場価値は揺るぎない。一本釣りのタイなど活魚として市場に持ち込まれ、関西方面の料亭に直行する魚も少なくないのに、なぜ祝島の漁師たちは食っていけないのか? である。
 出荷方法について調べてみると、山戸貞夫氏が組合長をしていた時期から長年にわたって広島県福山市の水産市場に出荷されている。近隣の柳井市、岩国市、広島市の水産市場ではなく、岡山県との県境まではるばる魚を運び、そこで鮮魚卸のS社にすべての魚が持ち込まれ、相対契約で買いとられている。漁師が沖からとってきた魚をS社が通知する言い値で祝島支店が買いとり、S社が料亭や出荷先に利益を上乗せして転売していく方法がとられている。かつては一番競りに出されるほど福山市場での信頼も厚く、相応の評価・値段がつけられていた。現在は市場の競りには出されておらず、競争にさらされないまま特定の鮮魚卸の手元におさまっていく仕組みになっている。
 漁師の話によると、現在タイの価格は一本釣りの活きたもので、キロ約1200~500円の間で推移しているという。建網などの締めたものはキロ500~400円程度。大ダイがキロ1200円で売れたとしても、出荷手数料などの形で30%が漁協に抜かれ、漁師の手元に入るのは残りの70%、840円である。これは最高値の場合で、キロ500円というような安値で買い叩かれると、油代にもならない。
 福山のS社まで運ぶ運搬費(油代など)も年間にすると相当な額となる。祝島から運搬船で室津まで運び、そこから県漁協がトラックに移し替えて運んでいるが、福山までは200㌔近くの距離がある。それよりも近い広島市場の市況価格を見てみると5月7日現在、高値で取引されたタイはキロ3240円である。市場関係者は「吾智網などのタイも含めて平均は700~800円。高値になると1500円くらいではないか」と語る。高値で1200円、漁師の手元には840円しか入らないものが、莫大な油代や運搬経費を費やして遠方の福山まで運ばれ、しかも言い値で引きとられていく。収益と同じくらい費用がかかるのはそのためで、「なぜ、そのような非効率がやられているのか?」の疑問となっている。
 祝島漁協には平成3年当時、山戸貞夫元組合長あてに福山市長および福山地方卸売市場から贈られた「感謝状」が飾られている。「多年にわたり…福山地方における食料品の安定供給と市場の伸展に貢献された」と縷縷感謝の言葉がつづられたものだ。感謝されるほど良い魚を提供しているのなら、むしろ祝島漁協側としては運搬経費の一部負担を求めるなり、「もっと高値で扱ってもらえないのなら、よその市場に切り換えますよ」といった商売上の駆け引きをしなければ話にならないが、そのような形跡はない。祝島ブランドの魚で、しかも個個バラバラではなく浜としてまとまった量を確保できるという強みがあるのに、あえて祝島側がバカをみる不可解な販売方法が続けられている。
 また、漁業に欠かせない油の価格も年年高騰している。祝島(4月1日以降)の油の価格はA重油で1㍑122円、軽油は免税価格が1㍑122円にもなる。ガソリンになると、「離島ガソリン流通コスト支援事業補助金」が適用されて1㍑21円安くなるとはいえ、1㍑188円である。山口県内のガソリン市況価格は、5月7日現在の平均が157円であることから見ても、いかに高値であるかがわかる。
 漁師の一人は「軽油の値段は確実に上がっている。これでは1回漁に出るのに20㍑は使うので、2400円以上かかる。これで釣れなければ“出るだけ無駄”ということになる」と語る。魚価は安値で買いたたかれ、油代だけは天井知らずという現状に「このままでは漁業は続けられない」と多くの漁師が頭を抱えている。

 打開策待ったなし 祝島ブランドを前面に

 こうした利益の上がらない構造が放置された結果、組合員数の減少に歯止めがかからない。漁師のなかで現在建網漁をしているのは八人で、その他は一本釣りを中心とした漁業を営んでいる。一本釣りの漁師でも実際に動けるのは十数人といわれ、高齢化も著しい。
 漁師の一人は「3年ぐらい前からタイがかかりにくくなった。タイは冬場は瀬のあるところで釣れるが、この時期になると産卵のために浅瀬に散る。“入り込みのタイ”といわれるが、そのタイがなかなか釣れなくなった」と語る。安いうえにとれないので、余計にでも漁業経営が苦しくなる。「漁協が合併してから“値が良くなる”という話もあったがそんなことはなかった。合併前と何も変わっていない。20年くらい前に、明石のタイはキロ7000~8000円していたと思う。その時期でも祝島のタイは2000円以下だった。アジでも豊後水道は目と鼻の先にあり、関アジと変わらないブランドになるはずだ。よそと比べても価格差が大きすぎる」と語っていた。
 別の漁師は「赤字が1000万円近くなり、一人当たり20万円近くの負担をしなければならない。県漁協の祝島に対する圧力としか思えない。“20万円も払えない”と組合員をやめさせていくつもりだ」と憤りを込めて指摘していた。
 漁業経営の苦しさが「補償金をもらってやめる」という組合員の増大に作用し、兵糧攻めで漁業権剥奪が迫られている。漁業権放棄は組合員の3分の2同意が不可欠だが、その分母がますます減っていき、漁業ができない条件ばかりが強まっている。赤字がそれほど出るなら、抜本的な経営体質の見直しをしなければならないのになんら手が加えられず、年を追う毎に金銭的な負担だけが増大していく。そして、県漁協本店が「漁業補償を受けとれば、一人当たり1000万~2000万円になりますよ」とささやいていく構図になっている。
 わざわざ遠方の福山までトラックを走らせ、安値で商売するような経営者がいるのが不思議である。というより、それに見合う以上の利益が出ていることの証明ともとれる。「祝島」ブランドとして評価は上上で、卸が相対契約を結んで独占したくなるほどの魚なのに、どうして祝島の漁師は泣くハメになっているのか、活魚が料亭などに持ち込まれるさいにはどれほどの値で売れているのか、いったい誰が激しいピンハネをしているのか、徹底的に真相が解明されなければ容認できないところへきている。放置すれば祝島漁業は壊滅し、漁業権を持っている漁師がいなくなるという事態が真顔で進行しているからである。
 祝島で漁業ができなくなって島の暮らしが崩壊するのを喜ぶのは中電や国、県である。原発をつくろうとしている海域に邪魔な漁師がいなくなり、漁業権問題で膠着するような事態も劇的に解決する。島の産業が衰退して高齢化の末に人口が減るなら、避難対策などの煩わしさからも解放されるのが推進勢力から見た都合である。
 県水産行政は「もうかる漁業」をキャッチフレーズにして、県内の漁協団体を指導してきた。経営指導班という会計監査のプロ集団が漁協経営に目を光らせ、その利益構造など知り抜いている。祝島でも山戸貞夫組合長に退場勧告したのは県当局で、会計不明瞭が直接のきっかけだったことはみんなが知っている。祝島についてはなぜ「もうからない漁業」を指導しているのか疑問で、わずか八年で水揚げ高が六割減、組合員は半減という異常事態を放置するというなら、意図的な兵糧攻めと認定しなければならない。
 祝島では魚だけではなく、特産品として有名なワカメやひじきなども漁業婦人たちが集団で水揚げ・加工し、県内外から多くの注文をとり付けるなど好評を博している。祝島ブランドなり瀬戸内海ブランドを駆使しながら、独自の流通網や顧客を開拓していくなら、安値で特定の鮮魚卸に叩き売りしている現状よりも、はるかに付加価値のついた販売事業として発展させることは十分に可能性がある。少なくとも、遠方の福山まで運んで経費が収益と同等というようなバカげた「販売事業」を改めるだけでも、効果てきめんであることは疑いない。
 広島市の本通商店街では、産地の漁協や農協が日替わりで出店する店舗が人気を博し、莫大な売上を誇っている。近隣の田布施町でも漁協が定期的に開催している青空市場では、30分で完売するほど住民が激しく魚を買い求めていく。こうしたとりくみは個個バラバラでは不可能であるが、集団化して祝島全体の英知を結集するなら難しいことではない。スーパーや集客施設に客寄せ効果があることを売り込んで青空市場を開催させてもらうなど、漁業消滅の方向を抜本的に改める方策、挑戦すれば可能性が広がるやり方は無限にある。岩手県のスーパー漁協と崇められている僻地の重茂漁協では、市場と距離があることを逆手にとって焼きウニという名産を作り出したり、ワカメの養殖から塩蔵・販売までをすべて漁協がおこない、漁協が主導権を握りながら価格勝負しているため、一漁家あたり1000万~3000万円という水揚げを保障している。加工して日持ちする商品にし、付加価値を高める工夫をするだけでも、叩き売りよりは利益が出る。
 原発のために漁業が消滅するような敗北の道ではなく、貪欲に打開策を講じ、展望を見出すことが待ったなしのところへきている。離島のハンデ以上に「祝島」というブランドの力は絶大で幸いにも原発騒動のおかげで全国区になっている。宝の持ち腐れ状態を改めるだけでも、940万円の赤字が解消できることは疑いない。

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