(2025年6月9日付掲載)

「今こそ日本の食と農を守ろう」緊急集会(5日、東京・参議院議員会館)
深刻なコメ不足が続くなかで、日米関税交渉においてコメをはじめアメリカからの農産物の輸入拡大が焦点になっている。令和の百姓一揆実行委員会、日本の種子(たね)を守る会、JA有志連合(JAはだの、JA水郷つくば、JAぎふ、JA水戸、JA松本ハイランド、JA菊池、JA日立市多賀、JA北つくば、JA常陸)は5日、「米不足を解消しよう、減反を見直せ」「輸入米は安全なのか、食べものは国産で
」「農家に欧米並みの所得補償を
」をスローガンに掲げ、参議院議員会館で「今こそ日本の食と農を守ろう緊急集会」を開催した。コメ不足・高騰を奇貨として、大規模化やスマート農業、輸入米の拡大、さらに農協を攻撃する世論も煽られている。なぜ令和のコメ騒動が発生したのか、農業現場から原因を明らかにすると同時に、食料安全保障の要であるコメを農家が安心してつくり、消費者が安心して買うことができる方向へ、食料自給率を高める農業政策へ転換させるために、生産者と消費者が手を結び、行動していくことが活発に議論された。
コメを関税交渉の生け贄にするな
集会にはインドネシア農民協同組合(インドラマユ県)から、「日本の農民運動が国際社会に向けて『食は権利であり、農は共有の営みである』と力強く発信していることに大きな希望と勇気をいただいている。ここに、『令和の百姓一揆』の精神とともに闘う皆様へ、アジアの農民として連帯の意を込めて、明確な支持を表明する。農民に未来を! 輸入依存より地域の再生を! アグロエコロジーが食の公共性を拓く! NO RICE,NO LIFE!」とするメッセージが寄せられた。
初めに趣旨説明に立った高橋宏通氏(令和の百姓一揆実行委員会事務局長)は、「現在のコメ不足は決して農家やJAの責任ではない」とのべ、備蓄米の放出によって日本の農家を追い込むのか、二度とくり返さないためにコメ生産のあり方を考え直すきっかけにするのかの岐路にあることを強調した。
異常気象による災害、農業の担い手不足、農業経営の赤字などで農家人口が減少し、食料自給率も低迷するなかで、追い打ちをかけるようにアメリカからのコメ輸入拡大が浮上している。高橋氏は、店頭で割安で販売されているMA(ミニマム・アクセス)米について、農水省がアメリカをはじめ海外から高く購入して安く消費者に売り渡しており、その差損が直近の2020年で約600億円にのぼることを明らかにし、「ある意味、アメリカの農家に対して日本の税金を使って所得補償しているようなものだ。そうしたお金があるなら、日本の農家に使った方が国民のためになる」とのべた。
また「小規模農家は効率が悪い。大規模農家を援助すべき」といった論調が表面上で拡大していることにふれ、条件が不利な中山間地域の小規模農家が効率が悪くても地道に水の管理をし、土作りをしてきた結果、日本のコメが着実においしくなってきたことも語り、現在、備蓄米がおいしいか、おいしくないか、高いか安いかといった話題に報道が集中している状況のなかで、「今回のコメ騒動をきっかけに、本当に日本の農業を守り、食を守り、子どもたちの未来まで安心して食べてもらえる環境をつくるよう大勢の人に集まっていただいた」と議論を呼びかけた。
輸入増やせば農家減少 海外に税金流出
集会では生産者からの声としてJA常陸組合長で日本の種子(たね)を守る会会長の秋山豊氏が、なぜ今回のコメ不足が起こったのかについて現場から明らかにするとともに、適正な生産者米価について詳しく説明したほか、静岡県のコメ農家の藤松泰通氏が、アメリカ産米と国産米を炊いて2週間保管した実験結果も携えて、コメ作りの現場から報告をおこなった【詳細別掲】。
新潟県のコメ農家の石塚美津夫氏は、1971年に農協に就職した当時、給料が2万3500円だったのに対し、米価が8500円と約3分の1の価値があったとのべた。所得率は60%と、経費のかからない農業であり、当時は1㌶で生計を立てることができたため、全国650万㌶の農地に対して650万人の農家がいたという。現在、農家も農地も減少し、「地域の道路整備や水路掃除が成り立たなくなっている」と実情を語ったうえで、「かつてコメは需給調整も価格調整も国が責任を持っており、米価は政府米を基準にして成り立っていた。ところが余ってくると、国の施策は減反一本槍になってきている。そして、自主流通米制度が昭和44年にできて、競争原理を煽ったことがこのような状況を生んでいる」と指摘し、この問題は生産者だけの問題ではなく、生活者全体の問題だとのべた。
また、スマート農業の補助金は農機具メーカーに、区画整理事業の補助金は土木事業者に流れ、農家の支援にならない問題を指摘。そうした補助金や減反補助金も含めれば、農家への所得補償は可能なはずだと語った。
現在、地元の小学校で各学年ごとに食べたい野菜を聞きとって、子どもたちと一緒に畑で野菜の有機栽培をし、それを学校給食に使う運動を始めていることを紹介し、「防衛予算も確かに大切だろうが、それより大切なのは明日の未来の子どもたちではないか」と投げかけた。
パルシステム産直事業本部の黒井洋子氏は、関税交渉の場に大豆やトウモロコシが持ち込まれた問題について発言。「大豆は自給率が6~7%であり、アメリカからの輸入シェアはすでに65%を占めている。これ以上シェアを上げる必要があるとは思えない。今のコメ不足のように供給の安定性を考えるうえで、国内生産を増やす方向性も見出せないまま、関税措置により、中国が引きとらない大豆を日本が購入することは、本当の供給の安定性につながるとは思えない」とのべた。アメリカからの輸入量を拡大するうえで、ブラジルなど他の諸外国からの輸入量を減らさない限り、国内生産者への補助金廃止や生産の削減といった政策がとられる可能性を指摘し、「食料自給率を高めていくという考え方はどこに行ったのだろうか?」と投げかけた。
輸入大豆の多くは植物油の原料となっており、食品表示法の緩和で原料生産国や遺伝子組み換えの有無が表示されない問題も抱えている。「国内の生産者が農業を継続できない環境になったとき、本当に未来を背負って立つ子どもたちが安心して食べ物を得ることができるだろうか?」と疑問を語り、安心して食べられる国産の大豆、穀物を増やす施策を求めた。
世界の流れは小農支援 大規模化は限界
消費者の立場から発言した纐纈美千世氏(日本消費者連盟事務局長)は、「農業や食の安全が非常に危機的な状況にあるにもかかわらず、テレビや新聞報道を見ていると、備蓄米がいくらで出るとかいったことばかりが耳に入る。消費者にとってコメがない、高くなるということは大きな問題だが、農家の姿がまったく見えてこない。農家が置き去りにされ、価格ばかりが報道されているような事態に非常に怒りを覚えている」と発言した。同連盟はトランプ政権の追加関税要求に対して、第二回の協議がおこなわれた5月2日直後に「日米貿易交渉で農業、食の売り渡しに断固反対する」との緊急声明を発表したという。
これまで食べ物の安全性などにとりくんできたが、令和の百姓一揆を機に農家のインタビューをおこない、日本の農家の現状を知らなかったことを反省したといい、「これをきっかけに、消費者と農家が手を結び、日本の農業、食べ物をどうしていくかを考えなければならない時期に来ていると思う」とのべた。
愛知学院大学教授の関根佳恵氏(農業経済学)は、「小規模・家族農業の再評価と支援拡充を」と題して発言した。2010年代から、世界的に家族農業や小規模農業(漁業、林業も含む)の役割を積極的に評価し、支援を強化する流れが強まっていることを報告した。「非効率」といわれている小規模農家が、実は資源多投入型の大規模農業よりも土地生産性が高く、狭い土地で多くの食料供給を担っていることも明らかになってきており、アメリカやEUも含めて国際社会では「経営規模の拡大」「スマート農業」などに補助金を集中する方向から小規模農業への支援に舵を切りつつあること、自由貿易においても連帯にもとづく新たな国際食料協定への移行が模索されていることを報告した【詳細別掲】。
「有史以来の大危機」 解決は現世代の責務
会場からも各地域のコメ不足の実態や農家の実情など活発に意見が交わされた。
「直販所で販売するコメを1日150㌔㌘に制限しているが、毎日朝8時から行列ができている。食料安全保障としての自給率向上が第一級の課題だ。日本は40%が条件不利地域であり、そこが豪雨などで水路が壊れたことをきっかけに耕作できなくなる状況が広がっている」(JA関係者)といった状況や、若い世代で農業に関心がある人は多いものの、新規就農した人が2000万円の借金を抱えているなど、解決課題が山積しているという女子大学生からの発言もあった。
山田正彦・元農林水産大臣は、「今なぜコメが不足しているのかという問題を話し合いたいと思い、この集会を提案した。生産者はコメをつくるのに赤字だ。所得補償をしなければコメは増産できず、このままでいくと、減反を1%減らしたくらいでは、来年も再来年もコメ不足は続く。農家がコメを生産できるだけの所得補償を今しなければならない」とのべ、「国会や政府に対して、署名なりなんらかの行動を起こさなければならない」と呼びかけた。
令和の百姓一揆実行委員会代表の菅野芳秀氏(山形・コメ農家)は「百姓の一員として本当に危機感を持っている。昭和22年に475万人いた自作農が今、70万人を切ろうとしている。400万人がやめていき、村が維持できなくなっている。コメでいえば平均年齢が70歳をこえており、水田を耕し続けることができるのは長くて7年。縄文時代からコメを作り続けてきたが、そのたすきを受けとってくれる人がいない。有史以来の大危機だ」と危機感をあらわにした。そして、国民の命の危機が迫っているなかで、この事態の解決は、先の大戦で戦死した世代からたすきを受けとった世代の責務だとのべ、命がけでとりくむことを呼びかけた。
同実行委員会では、今夏の参議院選に向けて、コメ政策について各候補者にアンケートを実施し、公開することを計画している。