(2026年6月19日付掲載)

参議院内閣委員会で質問する伊勢崎議員㊧(16日)
今国会では「経済安全保障の対象拡大」と「防衛力・インフラの防衛強化」を大きな柱に、国家情報会議設置法、経済安全保障推進改正法、小型無人機等飛行禁止改正法(ドローン規制法)などの法案が、目立った与野党対決もなく次々と可決されている。連日、安全保障に関する法案の質疑に立ち、その問題点を追及してきたれいわ新選組参議院議員の伊勢崎賢治氏(元国連上級民政官)の内閣委員会での質疑のうち、ドローン規制法(16日)、自衛隊の南西シフトにおける住民避難計画と防衛体制(11日)、「経済安全保障推進法」と「国際協力銀行(JBIC)法」を一体とした一括改正法案(9日)をめぐる質疑の要旨を紹介する。このうちJBIC法改正案は、これまでは「日本企業の国際競争力の維持・向上」や「海外資源の確保」「地球環境の保全」といった経済・通商のサポートに限定していた政府系金融機関JBICの法的位置づけに「経済安全保障の推進」を加え、融資の審査基準を大幅に緩め、赤字リスクが高い海外事業(通信・デジタルインフラ、ドローンや半導体製造、レアアースや鉱物調達など)でも民間にかわって国が損失を被る「劣後出資」を可能にするなど、安全保障を名目に私企業の利益のため国費を湯水のように投入する仕組みづくりとなっている。
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・米軍無人機には指一本触れぬ国家主権の放棄(ドローン規制法)

質問する伊勢崎賢治議員(16日、参院内閣委)
伊勢崎 本日は、小型無人機等飛行禁止法、いわゆる「ドローン規制法」の改正案に関連し、わが国の主権と空の安全、とりわけ首都圏上空に広がる「横田空域」における法秩序のあり方について質問する。まず一般論として確認する。横田空域において、航空法や今回改正される小型無人機等飛行禁止法といった、わが国の法令は適用されるか?
赤間国家公安委員長 横田空域とは、横田飛行場において米軍が進入管制業務をおこなっている空域を指すものと承知している。当該空域内に所在する横田飛行場や入間基地、厚木海軍飛行場などが、防衛大臣により小型無人機等飛行禁止法第2条第1項第3号に規定する「対象防衛関係施設」として指定されている通り、当該空域においても同法は適用されるものと承知している。
国土交通省航空局・秋田次長 横田空域において、航空法の適用はあるものと承知している。
伊勢崎 適用されるとの答弁だ。では、横田空域は、日本政府が日米安保条約第六条に基づき、米軍に提供した「施設及び区域」に該当するか?
外務省・門脇参事官 当該空域は、米軍の排他的使用が認められるものとして米軍に提供された空域ではない。
伊勢崎 提供施設ではない。つまり、米軍の基地でも何でもない。それにもかかわらず、なぜ米軍が、本来は国家主権の行使である航空管制業務をおこなっているのか。その法的根拠をうかがいたい。
外務省・門脇参事官 昭和50(1975)年の航空交通管制に関する日米合同委員会の合意により、横田空域を含め日米地位協定第2条「施設及び区域」として米軍による使用を許可した飛行場、及びそれらに近接し、また近傍の空域において米国政府が航空交通業務をおこなうことが認められているということだ。

伊勢崎 ここまでの問いは、政府はすべてこのようにしか答えられない。つまり、日米合同委員会合意――国会の承認を経ない日米官僚間の約束事――が根拠だということだ。しかし、わが国の航空交通の安全は、国会が制定した法律によって厳格に定められるべきだ。米軍が横田空域で進入管制をおこなう根拠は、航空法あるいは航空法特例法のどこに規定されているのか?
国交省航空局・秋田次長 米軍が実施されている航空管制業務について、航空法及び日米地位協定の実施に伴う航空法特例法に、その根拠となる規定はない。
伊勢崎 根拠はないのだ。日本の法令が全面的に適用されるはずの横田空域に。そもそもこの空域は、日米安保条約や日米地位協定に基づいて米軍に提供された「施設・区域」ですらない。つまり法律上の根拠は皆無。
しかし、米軍による「法的根拠なき事実支配」として、わが国の頭上で航空管制がおこなわれ、日本の民間機が排除され続けている。その実態は、国会の承認もないまま日米の役人同士が密室で決めた「国会の関与を経ない超法規的な運用」である。この歪んだ構造が、今回審議している「ドローン規制法」において最悪の形で露呈することになる。
2026年5月、米空軍の大型無人偵察機「グローバルホーク」が横田基地に配備されることが発表された。全長14㍍、翼幅39㍍におよぶ巨大な軍事ドローンだ。
赤間大臣、防衛省に問う。この米軍のドローンが横田空域、あるいは横田基地の滑走路周辺の上空を飛行するさい、本法案を含むわが国のいかなる法令に基づいても、日本の警察や自衛隊は、米軍に対して退去命令あるいは強制的な排除措置をとる権限はないということでよいか?
赤間国家公安委員長 ご指摘の飛行停止や退去を命じるケースというのが、どのような場面を想定しているのか判然としないため、一概にお答えすることは困難である。

横田基地に着陸した米軍大型無人機「グローバルホーク」(2020年5月)
伊勢崎 何がいいたいのかはわかるはずだ。さらに深刻な問題として、無人機特有の「法の空白」がある。有人機であれば事故発生時にパイロットが現場にいる。しかし、無人機の場合、操縦者は横田基地の中にいるかもしれないし、太平洋の向こう側、米本土から遠隔操作しているかもしれない。つまり、日本の警察が基地の外の事故現場に行っても被疑者はいない。では、基地の中に入って操縦者を特定できるかといえば、地位協定の壁があってこれもできない。これは日本の司法主権が完全に無効化される構造だ。
同じ同盟国であるイタリアは、米軍が武装ドローンを飛び立たせたり着陸させるさい、イタリア側の指揮官による「正式な承認」を義務付けている。つまり、連携してやっている云々……という話ではなく、イタリア政府の責任になる。ドイツにおいては、米軍のドローン運用に対しても、その無人性を考慮した国内の厳しい法的・倫理的基準を適用し、主権国家として矜持を示している。
翻って、日本政府は飛行計画の事前提出すら求めていない。イタリアのように日本側指揮官の承認を条件にすることもしていない。
今回の法改正で規制対象となる「小型無人機等」は、100㌘未満の小さなホビードローンにすら適用される。しかし、横田基地に常駐配備されるグローバルホーク、重量15㌧を超えるこの巨大な軍事ドローンは、本法の規制対象にすら入っていない。
自国民に対しては、てのひらに乗る玩具ドローンにすら規制の網をかけて、直罰(指導や命令を経ず即座に罰則を科す)で縛る。その一方で、米軍の巨大軍事ドローンには指一本触れられない。これを「安全保障の強化」と呼ぶのであれば、それは主権国家の言葉ではない。
(6月16日)
・ジュネーヴ諸条約から逸脱する南西諸島の「軍民融合」(離島避難と防衛計画)
伊勢崎 政府は「南西シフト」(南西諸島の防衛力強化)を急速に進めているが、「最前線」の自衛隊の基地防御と住民の退避計画は、実務として噛み合っているのかを問う。本日は「仮定の話には答えない」という答弁はお控えいただきたい。なぜなら、内閣委員会が所管する「経済安全保障推進法」において、政府はさまざまなリスクをまさに「シナリオベース」で想定し、法制化を正当化してきたからだ。
経済安保の「シナリオに基づく備え」が正当化されるなら、国民の命そのものである離島避難において、「仮定の話」だからといって逃げられるわけがない。本日は「シナリオベース」で議論をお願いする。
質問に移る。他国の軍事組織には、脅威の指標を段階的に設定する「行動計画」がある。資料【下表参照】の通り、米軍の防護基準「FPCON」は5段階で公開されており、変更時には日本の防衛局経由で日本の自治体に通知され、ウェブ公開されている。これにより周辺住民が事態の緊迫度を把握し、必要な警戒や備えをおこなうための客観的指標を共有している。


これに対し、わが自衛隊は完全にブラックボックスだ。防衛省は、質問するたびに「相手に手の内を明かすから非公開」というが、世界最強の米軍が共有している基準をなぜ隠すのか? そもそも抑止力の基本とは、「これ以上踏み込んだら、こちらは本気で警戒レベルを上げ、反撃する」という意思と能力をあえて相手に明示し、相手の誤認や誤算を防ぐことだ。内向きの「エイエイオー!」をやっていても仕方がなく、相手にわからせないといけない。だからこそ、米軍すらFPCONを公開している。
政府はこの事実をどう受け止めているか。自衛隊も、自治体や住民が段階的に備えを進められるよう、米軍並みの防護基準を明示すべきではないか。
若林防衛政務官 ご指摘のFPCONは、統合参謀本部議長が承認した基準であり、米国の要員及び施設に対するテロ脅威を識別し、それに対して推奨される対応を定めたものとされ、5段階の態勢が定められていると認識している。そのうえで防衛省においては、在日米軍のFPCONについては関係自治体に情報提供をおこなった例もある。これは引き続き米軍とよく意思疎通をおこない、適切に対応していく。
自衛隊としては、各地の駐屯地において万が一なんらかの事案が発生した場合においても、駐屯地の機能を確保できるように、所在する部隊の特性やその時点の情勢などに応じて必要な警備態勢をとることとしている。警備態勢の詳細については、やはりわが方の手の内を明らかにするようなものについては、対外的に明らかにすることは困難であるということをご理解いただきたい。
伊勢崎 理解できない。それを相手に示すことが抑止力論の基本だからだ。軍事組織として根本的に考えを改めてもらわなければ、そういうものにわが国の国防を託すわけにはいかない。
防護基準だけではない。実際の住民避難と自衛隊の作戦計画との間にも致命的な問題がある。それが見えるのが先島諸島(沖縄県の離島)だ。基地の司令とも話をしたが、島民一二万人の避難計画と自衛隊の基地防御計画がまったく連動していない。
私は与那国や石垣を視察したさい、最前線に隊員が家族を帯同している実態に驚愕した。これは、かつて私がアフガニスタンや国連PKOでともに働いた軍事関係者なら「最前線に家族同伴? どうやって戦うんだ」と一蹴する、お花畑の世界だ。自衛隊はお花畑だ。
このままでは有事のさい、限られた港湾や空港で「自衛隊の展開」「隊員家族の退避」「12万人の住民避難」が同時に発生する可能性がある。この物理的な三重の「避難リソースの奪い合い」が起きる。
この「奪い合い」、つまりインフラ競合による計画の破綻シナリオをどう回避するのか。港湾や空港の使用における時間的・空間的な調整計画及び自治体や民間の交通事業者との共有状況について、どういう検討がおこなわれているか、簡単にご説明いただきたい。
若林防衛政務官 それでも「手の内を明かせない」という考えは変わらない。そのうえで武力攻撃排除には、防衛省・自衛隊として主たる任務を実施したうえで、必要な情報提供も含めて住民の生命安全確保に万全を期すという考えだ。
さらに防衛省・自衛隊は、武力攻撃の早期排除が国民の生命財産を守ることにつながるとの考えの下、状況に応じて、必要な部隊を迅速に機動展開させて攻撃を排除し、国民への被害を局限化する任務を遂行することとなる。こうした部隊展開を政府全体の統制の下で、国民保護法に基づく住民避難の状況も踏まえ、円滑に実施できるよう努める考えである。とくに沖縄の離島住民の避難については、島外避難となるため輸送手段の制約という特有の困難があることから、国が積極的に支援をおこなうことにしていることに鑑み、平素より関係省庁や地方自治体等との連携を深めているところだ。自衛隊員の家族については、国民保護法に基づく住民避難の対象となることから、武力攻撃に十分に先立ち、他の地域住民と同じタイミングで迅速な避難を実施することになる。
伊勢崎 「隊員の家族も住民も同じタイミングだ」と住民に説明してあるのか? これは非常に苦しい。自分が自衛隊員だったらどうか。自分の家族を他の住民と同等に扱えといえるのか。そういう非常にややこしいことがあるからこそ、普通の国は戦闘の蓋然性が高いところでは兵士に家族を帯同させない。防衛はお花畑ではないのだ。肝に銘じてほしい。
住民と近接した軍施設
伊勢崎 最後に、最も重い問題を指摘する。宮古島の保良(ぼら)に建設された弾薬庫は、民家との距離がわずか数百㍍。石垣島のミサイル部隊も民間集落から数百㍍。与那国島では、隊員宿舎が集落の中に建設されている。有事になったら24時間、いつでも合法的な攻撃目標となりかねない「戦闘員」(自衛隊員)の居住施設を民間人の生活圏と一体化させている。本土のことではなく、「最前線」の先島諸島のことだ。
日本が2004年に批准したジュネーヴ諸条約の第1追加議定書第58条は、「軍事目標の近傍から民間人を移転させること(1項)」「軍事目標を人口密集地の付近に配置することを避けること(2項)」を義務づけている。批准国の日本には拘束義務がある。
有事のさい、相手国は「日本がジュネーヴ諸条約を無視し、民間人を盾にしたため(その民間人に被害が出ても)攻撃は合法だった」と主張しかねない。日本は被害を被っても、国際法違反の当事国として孤立する。これほどのレピュテーション・リスク(評価リスク)はない。この構造は、ウクライナ戦争でくり返し起きていることだ。
政府には、この最前線における「家族同伴」と「集落のすぐそばに軍事施設を置くこと」が、ジュネーヴ諸条約の予防措置義務に対する重大な不履行にあたるとの認識はあるか。国内法の保安距離を盾にしたいい逃れは通用しない。なぜならそれは「平時の事故防止」の法律だ。有事のさいに敵は日本の国内法など気にしない。有事を支配するのは国際法だけだ。日本は国際人道法上の義務を履行しているのか、お答えいただきたい。
若林防衛政務官 当然ながらジュネーヴ諸条約については理解しているし、軍事目標を設けることを避けるよう定めていることも承知している。他方、当該規定においては、平時において締約国に対して義務を果たすものではなく、武力紛争時においても、あくまで紛争当事者に対して実行可能な最大限度まで、攻撃の影響に対する予防措置をとることを義務づけたものであると承知している。それを踏まえた場合、お尋ねの防衛施設等に関して、当該規定との関係で問題となるものではないと理解している。
伊勢崎 それでは困る。ジュネーヴ諸条約の第1追加議定書、第2追加議定書を日本は批准している。ジュネーヴ諸条約は、批准国に国内法の制定を義務づけている。私がずっと指摘してきたことだ。これがICCローマ規定と違うところだ。努力義務ではなく、やらなければならないことだ。なぜならそれが戦争のルールだからだ。ここを本当に理解してほしい。
仮に火薬類取締法に基づく安全基準を守っているといっても、くり返すが、それは「平時の事故防止」の法律だ。今、議論しているのは「有事の敵からの攻撃」だ。平時の事故防止基準で、有事のミサイル攻撃から住民の命が守れるわけがない。だからジュネーヴ諸条約があるのだ。
現代戦では、ミサイルや精密誘導爆弾兵器の性能が進歩しているため、国際法上、住民と軍事施設をどれだけ離せばよいのかということは非常に難しい問題だが、少なくとも数㌔だろう。それで初めて「相手が戦争犯罪を犯した」とわれわれは非難できる。それが数百㍍しかないのなら、国際法上は「同一の攻撃目標エリア(軍事目標の近傍)」とみなされる。「人間を盾にした」としかみえなければ、相手はそこを突いてくる。そして、われわれはレピュテーション・リスクに晒される。これは引き続き議論していく。私は自衛隊のためにいっている。
防護基準の共有、住民や家族の退避計画の連動、そして国際人道法の遵守は、防衛の基本だ。それを放置したまま「軍拡」に突き進むことを強く憂慮する。

造成中の宮古島市・保良弾薬庫。住宅地から200㍍の至近距離にある(2020年)
・歴史的失敗を顧みず国費をむさぼる「軍産複合体」の制度化(経済安保・JBIC法案)
伊勢崎 私は、かつてJBIC(国際協力銀行)のコンサルタントとして密接に仕事をしていたことがあり、本日はその実務経験を踏まえ、経済安全保障を目的としたJBICの海外事業支援と、それにともなう地政学的リスクについて質問する。
第一に「特定案件勘定」いわゆる「新勘定」の設計について。政府はこれまで「経済安全保障のため、民間がとれない高いリスクに挑戦する『リスクテイク機能の強化』が必要だ」と説明してきた。
本法案(国際協力銀行法改正案)におけるJBICの支援は、政府間のODA(政府開発援助)ではなく、日本の民間企業による海外事業を公的資金でバックアップする仕組みだと心得ているが、これはカテゴリーとしては有償支援に入る。「民間企業の果敢な挑戦や努力を国が後押しする」という聞こえの良いイメージを抱きがちだが、その実態は、成功すれば民間企業が利益を得て、失敗すれば国民の税金、すなわち国庫がその損失を穴埋めするという構造にほかならない。
それによって民間側に「最後は国が守ってくれる」という甘えが生じるのではないか。民間企業だけではない。貸し手であるJBIC自体にも審査規律を緩めてしまう「甘え」が生じることは、かつての財政投融資改革の時代から長年にわたって指摘されてきた問題だ。私には、この「二重の甘えの構造」に対する強い懸念がある。
さらに問題は単なる財政上のリスクにとどまらない。「安全保障」を理由に融資の審査規律を緩和することが、結果として現地の不安定化を招くという歴史的教訓が多々ある。その一つを話す。
私は学者時代、2001年の同時多発テロ直後、JBICの任務でアフガニスタンに派遣された。その目的は、米国の報復攻撃によって焦土と化した現地に立ち、ズバリ「いつ金を貸せるか」を見極めることだった。
分厚い報告書を出したが、調査の結果は明快だった。地政学的リスクやガバナンス(統治)の脆弱さ、軍閥の内紛などから「償還確実性」は極めて低いというものだ。その結果、わが国は有償支援を断念し、無償支援に徹することになった。
日本が審査規律を守って融資を断念したのとは裏腹に、米国は当時の安全保障の1丁目1番地「グローバルテロリズムの封じ込め」を大義名分に、自国(米国)の民間企業へアフガニスタン復興事業を大量に発注し、現地のガバナンスを無視した巨額の資金投入を強行した。
その結果、どうなったか。米国の公的独立監視機関「SIGAR(サイガー)」の報告書が明確に指摘している通り、過剰に発注された復興事業は、現場のガバナンスが機能しないなかで、後に私が政府代表として再び赴任して武装解除することになるアフガニスタンの軍閥たち(それにより彼らは後に政治家に転身)、汚職官僚の巨大な利権となり、世界最悪水準の腐敗を招いた。米国の元請け企業や下請け業者の腐敗も、米国では大問題になった。
アフガニスタン政府への信頼を失ったアフガン国民の支持はふたたびタリバンへと向かい、20年を経て、つい3年前に米軍は敗北した。現在のアフガニスタンは再びタリバンの支配下にある。返済義務のない無償支援の世界でも、これほどの地政学的敗北を招くのだ。回収を前提とする有償の融資や出資となれば事態はさらに深刻だ。
令和5年4月の衆院・財務金融委員会での財務省理財局長による政府答弁では、(政府が出資や融資をおこなった)事後に巨額の焦げ付きが発生したさい、政府による追加出資などの財政措置、すなわち国庫からの穴埋めをおこなうことが制度上あらかじめ組み込まれている。つまり、二重の財政負担を国民に強いることになる。
先述した通り、かつてのアフガニスタンにおいて日本の金融規律は正しく機能した。しかし、本法案は、新勘定において「償還確実性」の原則を事実上適用除外とし、国が真っ先に損失を被る「劣後出資」(損失が出た場合、返済の優先順位が後回しになる仕組み)を可能にすることで、その規律をみずから緩めるものにほかならない。
政府に問う。このような歴史的教訓を踏まえてもなお今回の緩和が必要であると判断した具体的な検証プロセスと決定経緯を説明いただきたい。
高橋財務政務官 JBICにおいては、審査に持ち込まれるさまざまな案件について、収支相償、償還確実性、日本企業への裨(ひ)益などをしっかり精査したうえで融資を決定していると承知している。その過程で見込まれる収入が費用に見合わない等の理由で融資判断に至らぬ案件も当然あったが、具体例は民間業者による取引にかかる情報に該当することからお答えを差し控える。また、JBICにおいては、民間金融機関、企業、外国政府や国際機関等からさまざまな情報を収集、分析していると承知しており、こうして得られた情報も融資判断に活用しているものと理解している。
小野田経済安保相 海外事業はリスクが高く、近年の国際環境の変化や産業競争の激化により、そのリスクが一層高まっているため、経済安全保障上重要な事業であっても民間の判断のみでは投資が進まないというケースが生じている。こうしたなかでJBICでは、収支相償、償還確実性の原則の下で融資等をおこなっており、従来の支援制度では、たとえ経済安全保障上重要であっても採算不確実性のある海外事業は十分な支援を受けることができないことが課題となっていた。
このような状況も踏まえ昨年来、政府有識者会議において対応の方向性について議論いただき、グローバルサウス諸国等と協働する必要性が高まっており現行の他の制度では支援できない事業が実施可能となるよう「劣後出資」等の一層強力なリスクテイクを可能とする支援をおこなうべき、とのご提言を頂戴した。そこで本法案にて、特定海外事業促進制度を創設することにした。
委員は、対象国のガバナンスの崩壊等いろいろと前例をおっしゃられたが、本制度では対象事業の認定にあたり、相手国にとって持続可能な事業となるべきことも念頭に置きつつ、法令・基本指針等に基づき、しっかり審査等をおこなう予定であり、ご懸念は払拭できるものと考えている。
イラク復興支援の「前科」

戦争で荒廃したアフガニスタンでの米国が出資した道路建設事業(2020年2月、カブール)
伊勢崎 米国でもすべての援助が建前上は「相手国のため」としておこなわれる。それでこういう失敗が続いているという問題の深刻さ、熱量をわかっていただきたい。
続ける。この時代のアフガニスタンと同時並行で動いていた、もう一つの事例がある。イラクだ。
2003年の米国のイラク侵略、サダム・フセイン政権の崩壊後、日本は総額50億㌦(そのうち7割が円借款)にのぼる巨額の支援を決定した。その背景には、二つの大きな政治的・地政学的判断があった。
第一に、同盟国アメリカへの配慮だ。当初から国際的な支持を得ていたアフガニスタン戦争とは異なり、イラク戦争において米国は協力国(有志連合)の確保に極めて窮していた。だからこそ日本として米国への強力なコミットメントを示す必要性があったわけだ。第二に、中東の原油サプライチェーン、すなわち油田利権を確保するという、まさに当時の「エネルギー安全保障」上の思惑があった。
つまり、政治的思惑が、金融機関としての償還確実性(審査規律)を完全に凌駕した典型例がこの対イラク円借款だった。
実際、わが国はサダム・フセイン政権時代にすでに焦げ付いていた過去のイラクの債務約6700億円を帳消しにする一方で、並行して最大35億㌦、日本円にして3800億円規模にのぼる新規の円借款を決定し、実行していったのだ。
私は、G7各国の開発金融機関におけるリスク管理基準や議会監視の仕組みについて国際比較をおこなったが、これほどの「前科」を抱えながら、その教訓を顧みず、再び「経済安保」という政治的スローガンの下で審査規律を緩めて支援を拡大する――このような公的金融機関のあり方は、先進国の中でも極めて異例であり、構造的に異常だといわざるを得ない。
端的に申し上げれば、G7各国が過去の失敗から「厳格なリスク管理と、議会への事前通告などの強い監視仕組み」を構築してきたのに対し、わが国の本法案は、国会による事前チェックの仕組みすらなく、意思決定をブラックボックスに置いたまま規律だけを緩めるものであり、世界の潮流への完全な逆行である。
その後のイラクがたどった道もまた極めて厳しいものだった。深刻な宗派対立、テロの頻発、そして過激派組織ISの台頭による治安悪化と汚職の蔓延により、イラクもまた世界で最も腐敗が深刻な国の一つとなった。日本が融資したインフラ事業は、常に中断や遅延、不透明な資金流出の極めて高いリスクに晒され続けた。
イラクの円借款は、政府間のODAだった。しかし、今回の法案が対象とするのは、日本の民間企業を通じた海外事業への融資や出資だ。政府間のODAですら政治的思惑が優先されれば、これほどのリスクを抱え込むのだ。にもかかわらず、今度は民間企業を通じた事業において「経済安全保障」という政治的スローガンを免罪符にして、再び審査規律を緩め、民間企業のリスクを国庫(税金)で肩代わりしようとしている。
実際、米国はイラクにおいても、米国のJBICに相当するOPIC(海外民間投資公社)を通じて、自国の民間企業による現地事業に巨額の融資や保証をおこなったが、治安悪化と汚職の中で、それらの民間事業もまた深刻な焦げ付きや事業中断に追い込まれた。
政府に伺う。政治的・地政学的要請を優先して審査規律を歪め、「イラクにおける政府間ODAの焦げ付き」や「米国の民間融資の失敗」のような悪循環を、今度は日本の民間企業を通じてくり返す――この懸念にどう答えるのか、ご見解を。
高橋財務政務官 JBICに関しては、先述の通り、収支相償や償還確実性、日本企業への裨益等について十分に精査したうえで融資を決定してきたと承知している。財務省としても、JBICがこれら法令上の要請に沿って適切な融資判断をおこなうことが重要であると考える。なお、融資後に現地情勢悪化等のやむを得ない事由により、回収が困難となった事案については、個別案件ごとにJBICにおいて要因の分析・検証がおこなわれているものと承知しており、財務省としては、その結果をその後の業務運営に適切に生かしていくことが重要と考える。
小野田経済安保相 政治的思惑等を優先して審査規律を乗りこえて…という懸念に関しては、本制度に基づく出資等の適切性、透明性を確保するため、条文上で対象事業の認定基準を明記するとともに、今後策定する基本指針において認定に関する基本的な事項をさらに具体化して定め、公表することにしている。先ほど「相手国にとっても持続可能なもの」と申し上げたが、あくまでもわが国の経済安全保障に資する事業が「OESA(海外経済安保事業展開支援)」だと思っており、ご懸念には当たらないと説明していきたい。
伊勢崎 だからこそ、国会への事前通告をやるべきだ。アメリカがやっているし、他国もやっていることだ。今期の本委員会では国家情報局設置と武器輸出に関して、私はこう警告した――「出したら戻らない」と。安全保障を大義名分にしたカネも「出したら戻らない」のだ。心得ていただきたい。
(6月9日)
・経済安保法改定案についての反対討論
伊勢崎 れいわ新選組を代表し、本法案に強く反対の意を表明する。本法案は、安全保障を大義名分に、わが国が守るべき一線を次々と踏み越えるものである。
第一に、JBICの元実務経験者として申し上げる。対米協力の下に日本が深く関わったアフガニスタンやイラクでの教訓を無視し、金融規律を歪める「新勘定」の創設はたいへんな問題である。安全保障や政治的思惑を優先して、審査規律を緩めた融資は、現地の腐敗を助長し、壊滅的な焦げ付きを招く――これが歴史の教訓だ。
この抜け道を制度化することは、無謀な融資を公認し、最終的には国民に巨額のツケを回す結果にしかならない。
第二に、元学者として申し上げる。セキュリティ・クリアランス(機密情報取扱の適性評価)の網を最先端研究にまで広げることは、学問の自由を脅かす現代版の「科学動員」である。ベトナム戦争の痛烈な反省から、米国は「マンスフィールド修正条項」により、軍事資金と基礎研究を明確に切り離した。国家権力がカネで大学の知性を支配してはならないという、この教訓を本法案は正面から無視している。
第三に、自衛隊の元教官として申し上げる。防衛産業を「成長産業」と位置づけ、官民協議会を創設することは、脅威を煽ることで増殖する日本版「軍産複合体」の制度化である。川崎重工の過大請求事案(6年間で17億円の架空取引)が露わにした、防衛省との閉鎖的な癒着構造を今度は政府のお墨付きで公認することにほかならない。
かつてアイゼンハワーが警告したように、みずからの利益のために脅威を創出し、国家の意思決定を歪める――この軍産複合体の悪夢をわが国で現実のものにしてはならない。以上の理由で、本法案に断固反対する。
(6月9日)





















