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種苗法改定、国民投票法改定… 重要法案のスピード採決が動く 学術会議問題でフェイクするな

 菅政府となって初めての臨時国会が10月26日に召集された。会期は12月5日までとなっている。第二波、三波の新型コロナウイルスの感染拡大のなかで、国民生活はこれまで経験したことのない苦境に直面しており、国会で審議すべき喫緊の問題は山積している。そうした国民生活のひっ迫を横目に菅内閣は今臨時国会で、種苗法改定や憲法改正をにらんだ国民投票法改定、日英EPA承認の成立などを重要課題に位置づけている。他方で国会審議やメディアの国会報道は日本学術会議会員の任命拒否問題に大半の時間を割いて国民の目を釘付けにし、肝心の法案の内容については国民には十分な説明もないまま強行可決する方向で進行している。森友・加計学園問題や桜を見る会問題で国会を空転させ審議時間のほとんどを費やし、共謀罪法や種子法廃止、日米FTA承認などの重要課題については審議時間はほぼなしに強行採決してきた手口と類似している。今臨時国会の焦点となっている問題について見てみた。

 

 新型コロナ新規感染者は7日、全国で1332人が確認され3日連続で1日当りの新規感染者が1000人をこえた。新規感染者が1300人をこえるのは8月14日以来であり、感染者は計10万8163人、死者は1829人になり、全国的に第二波から第三波の襲来に危機感を深めている。

 

 そうしたなかで、新型コロナウイルス対策が緊急課題となっている。地方議会から国会にはPCR検査、検査機関や医療機関従事者への支援の拡充を求める意見書や、新型コロナ禍での地方財政の急激な悪化に対し地方税財源の確保を求める意見書などが多数上がっている。また、失業者増大への対応や中小企業への支援拡大など生活や事業継続の支援策が急がれている。

 

 また、福島第一原発の汚染水の海洋放出に反対する意見書や、核兵器禁止条約の批准を求める意見書も提出されている。

 

 そのほかにも、「イージス・アショア」代替案や、安倍前首相の「敵基地攻撃能力」導入発言問題も国民への説明が必要な問題だ。

 

 国会で論議すべき課題が山積するなかで菅内閣は今臨時国会に以下のような法律案を提出している。①種苗法改定、②地方公務員法の改定(国家公務員の定年引き上げにともなう改定)、③東京五輪の一年延長にともなう法改定、④新型コロナワクチン接種にともなう検疫法の改定、⑤被災者生活再建支援法の改定、⑥郵便法の改定(一般の宅配業者との対等な競争条件を確保するための規制緩和・土曜日配達廃止など)、⑦特定水産動物等の国内流通の適正化等に関する法律案、⑧日英EPA承認案等である。

 

 そして自民党がもっとも重視して今臨時国会での成立を狙っているのが憲法改正をにらんだ国民投票法の改定だ。国民投票法改定案は議員提案の法案で、この間継続審議になっている。

 

 10月29日、自民党の二階幹事長はじめ岸田文雄(岸田派領袖)、細田博之(細田派領袖)、竹下亘(竹下派領袖)、森山裕(石原派)、山本有二(石破派)、中谷元(谷垣グループ)、森英介(麻生派)、衛藤征士郎(自民党憲法改正推進本部長)の各氏が集まり、自民党各派閥総結集の極秘会合が開催された。

 

 会合では年内に「憲法改正案」をまとめることと、「国民投票法改正案」を今臨時国会に提出し成立させることを確認したと報じられている。この極秘会合の報道に続いて五日には、公明党の北側憲法調査会長が国民投票法の改定案を「今国会できちんと成立させたい」と表明した。

 

 「国民投票法」は憲法改正手続きを定めた法律で、2007年4月に野党の反対を押し切って政府与党だけで単独強行採決し5月18日に公布、2014年6月20日に同法を一部改正する法律が公布・施行された。国民投票法改正案は、2016年に改定された公職選挙法の内容を国民投票にも適用するものだ。

 

 国民投票法改正案だけでなく、国民投票法そのものについても強行採決というやり方も含めて批判世論が高い。まず、国民投票法では、国会が憲法改正を発議した日から起算して60日以降180日以内の国会が発議した期日に投票がおこなわれるとしているが、このような短期間では国民が十分な議論をおこなうには不十分であり、国民の意志が十分に反映されないと批判意見が出ている。

 

 また、賛成と反対の投票数を合わせたものを投票総数とし、「投票総数の2分の1をこえた場合」を可決の要件としており、最低得票数の定めがない。ちなみに住民投票は投票率が50%以上でなければ成立しないケースもある。そのため投票率が低く、白票等の無効票が多い場合には極端に少数の国民の意見で憲法改正が承認される可能性がある点などにも警鐘が鳴らされてきた。引き続き国民投票法改正案の論議でも問題になっている。

 

 国民投票改正案は2018年6月、自民、公明両与党と、日本維新の会、希望の党の四党が共同提出した。同年7月に憲法審で提案理由説明があったが、その後法案審議は一度もおこなわれず、継続審議となっている。

 

 「改正案」で野党側が問題にしている一つは、投票日前の「国民投票運動」に関する規定で、投票日14日前からはテレビやラジオの広告放送は制限されているが、それより前の期間では規制がないことだ。与党の改正案ではテレビやラジオのCM規制のほかインターネット広告の規制もない。これに対し「政党の資金力によってCM量に違いが出る」「金があれば広告手段をフル活用し、高い視聴率が見込める枠で宣伝され、国民投票の結果が左右される恐れがある」として野党は改正案に反対している。

 

 先の国会では、新型コロナ禍のなかで国民投票改正案が「それほど成立を急ぐべきものなのか」「不要不急の法案ではないのか」などの世論が圧倒し継続審議となった。

 

 安倍前政府は登場以来「憲法改正」を目玉政策として掲げてきたが、ついにその発議もできずに退陣した。それは320万人もの国民が犠牲になった第二次世界大戦の経験にもとづいた、「二度と戦争を許してはならない」という固い決意が国民世論の根底に流れているからであり、国民の根本的な要求として戦後一貫して貫かれてきた。

 

 国民投票法改正は、そうした国民世論に真っ向から対抗し、憲法改正の動きに拍車をかけるものだ。そのために菅内閣は、できるだけその実態を覆い隠し、審議らしい審議もせず、国民にはなにも知らせないままに国民投票法改正案を成立させたいと企んでいる。

 

 国民投票法改正案は、憲法改正の手続き上の法案とはいえ憲法にかかわる問題であり、とくに国民の合意形成が不可欠なものだ。国会審議を十分におこない、国民に詳細にわたって説明する必要がある。だが、国会開会から2週間がたち、残り4週間となっているが、国会論議は日本学術会議問題が大半を占めており、強行採決が危惧されている。

 

食料安保を全国が注視

 

 菅内閣は同じく先の国会で審議できず継続審議となってきた種苗法改正案の成立を狙っている。種苗法改正は、種子法廃止、農業競争力強化支援法と一体のものであり、農業者をはじめ消費者を含んで広く国民のなかで問題になっている。

 

 2018年の種子法廃止に対しては、各道県で種子法にかわる独自の条例を制定して穀物の種子を守る動きが広がり、今年10月段階ですでに22道県が条例制定をおこなっている。

 

 また、種苗法改正に対しても地方議会から改正反対や慎重審議を求める国への意見書の採択があいついでいる。採択に至らなくても議会への請願提出は数十件をこえており、国民のなかで反発や疑問を持つ、あるいは十分な説明を求める世論は高い。

 

 コメどころの新潟県議会が国に提出した意見書の要旨は以下の通り。

 

 日本国内で開発された品種の海外流出防止等を目的とした種苗法の一部改正案が国会に提出されている。今回の改正案は、違法に海外に持ち出そうとする行為を防止するためとして、登録品種について農家が収穫物の一部を次期作の種苗として使う「自家増殖」を、これまでの「原則自由」から「原則禁止」に変え、育成者権者の許諾なしに使えないようにすることが盛り込まれている。
 農林水産省は、現在利用されているほとんどの品種は一般品種であり、法改正案で自家増殖に許諾が必要となるのは登録品種に限られることから、一般品種はこれまでどおり「自家増殖」でき、また登録品種の大半は公的機関が開発者で、安価な許諾料さえ払えば「自家増殖」の継続は可能と説明している。しかし、法改正で許諾制が盛り込まれれば、許諾に関する事務手続きや費用負担の増加などが見込まれる。また、海外の大手種苗メーカーが生産した種子を日本国内で品種登録して高額な許諾料を設定する可能性もある。
 高い種子を毎年購入しなければならなくなれば、農家にとっては新たに大きな負担が発生し、農業経営に影響を与えることが懸念され、ひいては地域の農業の衰退を招きかねない。加えて地域の中小の種苗会社が資金的に品種登録をする余裕がない場合、高額な登録料を支払うことのできる特定の民間企業による種子の独占や市場の寡占化が進み、多様な種子が失われ農家や消費者の選択肢をより一層制限することになる。
 そもそも農家の「自家増殖」を制限しても、種苗法は国内法のため域外流出を止めるための有効な対策とはなり得ない。海外で育成者権者の知的財産権を行使するためには、外国のその国の法令に則って育成者の権利を担保するしかない。
 よって、国会ならびに政府におかれては、農家や消費者の権利を守り、安定した農作物を確保するため、種苗法一部改正案について撤回することを強く要望する。
(引用終わり)

 

 このほかにも北海道や東京、埼玉、滋賀、三重、京都、徳島など全国各地の議会に対して農業者や子どもたちの食の安全を考える団体などが国への請願を提出し採択されている。

 

 種子法廃止や種苗法改定は、日本の農業の根幹にかかわる問題であり、当然食料安全保障にかかわり、国民全体にかかわる重要問題だ。外国の多国籍企業が日本の種子を独占することで日本農業をなぎ倒し、危険な遺伝子組み換え作物やゲノム編集作物を市場に流通させることにつながりかねない。この問題に関しても多くの批判意見が国会に上がっており、十分な時間をかけて国民が納得のいく説明が必要だ。

 

 また、菅政府にとって日英EPAの承認を今国会でおこなうことが至上命令となっている。これはイギリスのEU離脱にともなうもので、来年の1月1日までに日英EPAを発効しなければ、日欧EPAでの関税特権が消滅し、イギリスで生産している日本の自動車会社などが損失を被るためだ。そのためには今国会での承認が不可欠だ。

 

 日本はイギリスに拠点をおいてトヨタや日産の自動車を組立てEU各国に輸出してきた。だがイギリスがEUを離脱し、日欧EPAで締結した低い関税率が適用されるのは12月末までで、それをすぎるとWTOの税率に戻される。日英EPA交渉では日本側は自動車・関連部品の関税低減を最優先課題とし、そのためには英国産のブルーチーズなど酪農品の扱いで大幅に譲歩もして10月23日に署名に持ち込んだ。日英EPAの内容については外務省のホームページに載せているだけで、国民に周知徹底はされていない。今国会で承認しなければ来年1月1日の発効ができなくなるという事情から、形式的な審議だけで通過させる危険性が高い。

 

 41日間という短い会期のなかでこうした重要法案を審議するにもかかわらず、もっぱら日本学術会議問題だけに時間をかけていることを看過できない。大手メディアの報道もこの問題を大きくとりあげ国民の目を釘付けにし、注意をそらす役割をしている。

 

スピード可決が常態化

 

 振り返って見ると、こうしたことは2017年2月から2018年末にかけて国会で紛糾した森友・加計問題や2019年の桜を見る会での国会空転でも経験したことだ。

 

 2017年4月、森友問題で大騒ぎしている隙に当時の安倍政府は種子法廃止を強行した。2017年3月に衆議院の農林水産委員会に付託され、約5時間の審議のみで衆議院を通過、参議院でも5時間しか審議せずに成立した。2017年2月に閣議決定し、4月には可決というスピード審議であった。さらに種子法廃止とともに「農業競争力強化支援法」を同年5月に成立している。多くの国民がまったく知らない間に、森友問題に注意を引き寄せて成立させた。それに引き続く今国会での種苗法改正だ。

 

 また、同じ2017年6月15日の早朝、共謀罪(テロ等準備罪)法が参院で強行採決された。委員会での審議時間は衆院の30時間25分に対し、参院は17時間50分にとどまった。

 

 2018年には水道事業の民営化を促す水道法改正案が通常国会の衆議院厚生労働委員会でわずか8時間の審議で通過し、同年12月の臨時国会の参議院で成立した。 同年11月には外国人労働者の受け入れ拡大にともなう入管法改正案が衆院を通過したが、審議時間は計17時間15分。改正案は重要法案として与野党が合意した「重要広範議案」だったが、短くとも20時間とされる審議時間さえ満たさなかった。

 

 また同年衆院外務委員会が11月28日、日欧EPAの承認案を可決したが、与党側は委員長職権で1日の審議で採決に踏み切り、審議時間はわずか4時間半にとどまった。

 

 原子力損害賠償法改定案も同年11月22日に衆院本会議で可決されたが、審議時間は6時間15分という短さだった。

 

 さらに同年11月の漁業法改正は、戦後の漁業制度を根本から転換するものであったにもかかわらず、衆院では農林水産委員会でわずか4日、参考人質疑も含め実質10時間半という、きわめて短時間の審議で採決が強行された。

 

 また、2019年には「桜を見る会」問題一色の国会審議や大手メディアの報道となり、この目くらましの陰で安倍内閣はトランプが強く要求してきた日米FTAの年内承認、2020年1月1日発効を成功させた。

 

 「桜を見る会」が問題となったのは2019年11月8日の参院予算委員会で「共産党」議員がとりあげたことがきっかけとなった。その後、「桜」一色の国会で、日米FTA承認に関する審議時間は衆議院ではわずか11時間あまりで、野党が退席した「空回し」時間を除けば10時間にも満たない。参議院ではさらに少ない約9時間だった。

 

 ちなみにTPPでは衆議院で70時間、参議院で60時間の合計130時間を費やしている。またTPP11は両院で50時間近くを割いているのと比べても格段に短い。

 

 この間の重要法案強行の手口を見ると、森友・加計問題、桜を見る会問題などをあえて引っ張り出して国会審議の時間をいたずらに費やし、国民にとっての重要課題については、審議はほとんどなしに国会を通過させるというのが共通している。これに野党も大手メディアも根こそぎ動員されて国民は目隠し状態となっていることに特徴がある。

 

 日本学術会議問題については、それ自体は決しておろそかにはできないものの、憲法改正をにらんだ国民投票法改正案、種苗法改正案、日英EPA承認など国民生活にとって重要な課題についてまともな審議はせず、国民にはなにも知らせず目先をすり替えていく材料にして強行成立をはかろうとしている。

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