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日露戦争の風刺画にみる現代につながる教訓 ウクライナ問題考える材料に

 ロシアのウクライナ侵攻が長期化するなかで、この戦争が事実上、ロシアvs.アメリカ・NATO諸国との戦争であり、西側がウクライナに火中の栗を拾わせようと背後からたきつけている構図がすっかり暴露されることになった。専門家は、中国とアメリカの狭間に位置する日本がウクライナのような大国の代理戦争の戦場とならないよう平和外交に徹するべきだと警告している。そのうえで、かつての日露戦争から教訓をくみとるべきだとの指摘もある。

 

 日露戦争は1904(明治37)年、中国を戦場に日本とロシアとの間で起こった戦争だ。当時、帝政ロシアが不凍港を求めて南下政策を進めた。東アジアでは満州に軍隊を送り、日本は満州に隣接する韓国を併合しようとしていた。その植民地的な権益をめぐる衝突であった。

 

 圧倒的な軍事力で勝る大国ロシアに小国日本が立ち向かうことは無謀だと見られていたが、沙河、旅順、奉天などの会戦で日本軍が勝利し、翌年の日本海海戦ではロシアのバルチック艦隊を破った。この時点で、軍事力が枯渇した日本側が和平交渉の調停をアメリカに求めた。これに対して、ロシア側は「一時的な敗北に過ぎない」としてこれを拒絶したが、ロシアが自国の革命への対応に迫られているのを見たアメリカのルーズベルトが斡旋する形でポーツマス講和条約が結ばれた。

 

 日露戦争を描いた当時の風刺画には、日本がなぜロシアとの戦争に踏み切り講和するまでにいたったのかについて、欧米諸国との関係から描いたものが少なくない。

 

ジョルジュ・ビゴーが描いた日露戦争の風刺画

 日本に長期に滞在したフランスのジョルジュ・ビゴー(画家・漫画家)が描いた風刺画は、腕を後に組んで葉巻を吸って構えるロシア将校に、へっぴり腰で刀を突き付けている日本の軍人を対置し、両者の力関係を表現している。そして、日本の軍人をイギリスが背後からけしかけ、その後でアンクル・サム(アメリカ)がパイプを咥えて見守っている。ちなみに、ビゴーには同じテーマで、背後からイギリスが「おれ様が後ろについてる。……すぐ後ろにいるから……さあ、前にすすむんだよ。怖いかね? 相手は動作ものろまだし、うすのろだから心配いらん……」とそそのかしている風刺画もある。

 

 

 ビゴーはさらに、「君が角を引っ張れば、私が尻尾を捕まえるよ」と題する風刺画で、ロシアの巨大牛と、これに到底勝てそうもない日本軍人が朝鮮半島の領内で立ち向かうのを、ジョン・ブル(イギリス)が遠く離れた安全地帯からそそのかしている様子を描いていた。

 

 イギリスはロシアの南下が自国の権益(アジア植民地)と衝突することから、1902年(明治35年)に長年保ってきた孤立政策を捨て、日本との同盟を結んでいた。この日英同盟は、太平洋海域において日本がロシアより排水量比で大きな海軍力を持つことや、日本が2国以上と戦うときはイギリスの参戦を義務づけており、ロシアは「反ロシア条約」と非難していた。また、日本海海戦で指揮をとった東郷平八郎の戦術は、東郷がイギリス留学で学んだ英海軍のやり方であった。そして、日英同盟の条約をとり持ったのがアメリカであった。

 

ルーズベルトの「平和仲介」を風刺したフランスの絵葉書

 当時フランスの絵葉書に描かれたルーズベルトの「平和仲介」を風刺した絵は、ロシア皇帝ニコライ二世と明治天皇を操るルーズベルトの手口を表現している。同じシリーズの絵葉書には、ルーズベルトが多くの戦死者の遺骨が積み重ねられた前で「今はそれくらいにしなさい」といって、流れた血が覆う地面の上で疲れ切った姿の天皇と負傷したニコライ二世を調停する姿を描いたものもある。

 

 ルーズベルトは日露戦争で日本が勝機を得るたびに、幾度か積極的に仲裁を買って出た。それは日本が予想外に一方的に勝利することを警戒してのことだった。アメリカも後の日本との開戦を想定し広大な中国市場の利権を虎視眈々と狙っていたのである。それは、ポーツマス講和条約が「戦争賠償金には一切応じない」というロシアの最低条件を受け入れて締結させたことに示された。

 

 日本政府は満州や韓国での利権を獲得したものの、もっとも要求した日露戦争に投じた国家予算の4年分に当たる軍事費(20億円)を埋め合わせる賠償金を獲得することができなかった。日露戦争では日清戦争の10倍にあたる8万4000人の戦死者を出した。日露戦争は国内においては、戦時中の増税で耐乏生活を強いられてきた国民の憤激と反戦感情をいっきに高め、講和直後に日比谷焼き討ち事件など各地の暴動の形をとってあらわれたのであった。

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