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存立危機事態呼び込む高市早苗

 高市早苗がコアな右側の支持層に向けてマッチョっぷりを披露したかったのか、国会答弁で歴代首相の誰もが「あいまい戦略」を貫いてきたものを「台湾有事は存立危機事態になり得る」などと踏み込んで口走ったことで、日中関係が瞬く間にシビアなものになっている。相手国に武力参戦の可能性を公然とちらつかせたのだから当然である。今後ますます関係がこじれてエスカレートするのなら、日本側にとっては経済的にも安全保障的にも大きな代償が跳ね返ってくることは疑いなく、うやむやに放置できない事態である。見方によってはまさに日中関係を悪化させることで、日本社会にとっての存立危機事態を高市早苗が一人で勝手に作り出しているわけで、首相不適格者として重大な責任が問われておかしくない問題である。

 

 今回の場合、とくに前段に日中双方でもめる要因があったわけでもなく、それこそ1週間前には習近平と会談して戦略的互恵関係を築いていくと握手を交わしていたのに、首相が官僚の用意した原稿にもない持論を国会でみずから展開したばっかりに、そしてその後も実は慌てているくせに撤回もせず意固地になっているために、日本、中国、台湾を巻き込んで緊張が激化する事態を招いているのである。高市一人の思いや言動に引きずられて両国の外交関係が危ういものとなり、国益を損なう事態に発展するというのなら、これほどバカげたことはない。

 

 第二次大戦後の経緯のなかでもたらされた台湾問題は中国の国内問題であり、国交を切り結んでいる世界各国は中国政府が唯一の合法政府であると承認してきた。中国を刺激してきたアメリカとてそれは同じで、覇権争奪の矛盾をはらみながらも表向きは「あいまい戦略」を貫いてきた。日本政府と中国政府との関係でいえば、1972年に田中角栄が日中国交回復を成し遂げた際の「中華人民共和国政府と日本国政府の共同声明」でも、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」と明記し、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項(台湾、澎湖諸島などを中華民国に返還する内容を履行する)に基づく立場を堅持する」と定め、以後今日に至るまでの日中関係を築いてきた。中国政府は日本によるかつての侵略行為への戦後賠償を放棄しての国交回復でもあった。

 

 その後は体制は異なる社会主義国でありながらも14億人も国民を抱える巨大な市場としての魅力を備えており、なおかつ世界の工場として機能してきたことから安い労働力を求めて日本の製造企業が進出したり、はたまた中国人実習生を日本国内に連れてきて安価な労働力として働かせたり、日中国交回復後の半世紀以上にもわたる関係はその時々で変化こそあれ深いものがあり、経済的にも切っても切れない関係といえる。日本社会は東アジアの近隣諸国との密接な連携のなかで歴史的に存在しており、経済的なつながりにおいても日米関係よりはるかに深い依存関係で結ばれているである。それはコロナ禍を見てもわかるように、中国からコンテナがストップすればマスク一枚手に入らないのが日本社会であり、いまやあらゆる分野で依存関係は深く、これに背を向けることなど非現実的ですらある。近年では日本円の価値が下がったこともあって中国からインバウンドで観光客が押し寄せ、経済大国として発展する中国に対して落ち目の日本という、資本主義の不均衡発展を思わせる立場逆転も起こっているほどである。

 

 こうした状況下にあって日中関係を悪化させるなら、食料、食品関係、物販、日用品、製造業にいたるまでサプライチェーンはまず崩壊するだろうし、貿易が止まっただけで日本経済はガタガタになることが目に見えている。資本主義各国がすがりつきたい「一帯一路」のフロンティア創出からもはじき出されるのがオチである。経団連とて、そのような対立関係が長引けば経済的損失は計り知れず、たまったものではないのが本音だろう。それは損得勘定の下品な秤にかけても国益を損なう行為にほかならない。日中友好を深めて共に両国の国民が豊かに歩んでいける未来があるにもかかわらず、ミサイルを向け合うというのは自殺行為以外のなにものでもない。

 

 台湾有事をそそのかし、煽っている張本人はアメリカである。自身は引きながら日本を引きずり出し、「あいまい戦略」などと言いながら南西諸島に自衛隊のミサイル基地を配備させたり、対中国を想定して米軍と自衛隊合同の島しょ奪還演習までやり、「いざとなったらコイツ(日本)らが一戦構えるぞ!」と首根っこを握って、鉄砲玉として中国に突き出している関係である。そうやって軍事的緊張を煽り、ロシアに対するウクライナのような役割をさせられるというのである。そして、アメリカの威を借る高市早苗が、安倍晋三とか麻生太郎とか、台湾は元々大日本帝国の植民地であって自分たちのものと見なしているような旧為政者の子孫たちの意識を引き継ぐようにして「台湾有事は存立危機事態になり得る」などと口走り、歴史を80年巻き戻して中国を激怒させているのが現状である。こうしたなかで日本人としては偏狭なナショナリズムや目先のあれこれに惑わされたり煽られることなく、歴史的、社会的に両国のたどってきた関係を捉え、日本社会の針路とかかわって正しく問題を解決することが求められている。

 

 日中関係を正常なものに戻すためには、まずは首相をして早急に発言を撤回するべきである。事態は曖昧なまま済まされるレベルの話ではなく、今後の推移によっては首相の責任問題に発展しておかしくないものでもある。こじれにこじれた場合、経済的損失を心配した側が早晩「高市おろし」に動かざるを得なくなるのだろうが、むしろ傷口が深くならないうちにさっさと首相を引きずり下ろして石破茂に戻すくらいした方が、まだその辺りの外交的機微や常識について歴代内閣の路線への理解は深いだろうし、オラついて秒でシバかれる中学生男子みたいなバカげた振る舞いはしないはずである。

 

 まともに考えてみて、原発を54基も日本列島に抱えながら有事すなわち戦争を構えるとは、気狂い沙汰である。

 

武蔵坊五郎                

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この記事へのコメント

  1. 完全に同意します。
    あわれなマスコミや学者、御用政治コメンテーターなどは、本論をよんで首を洗って出直してもらいたい。
    しかし、この本論のような真っ当な進言さえ完無視されるのが劣等国家たる日本のリアル。
    そもそもがアメリカからの足抜けを1ミリも考えようとしない支配層や国民が圧倒的多数のこの国には絶望しか感じられません。

  2. よたろう says:

    このような軽い発言をする方が総理になったこと及び、総理につけた自民党、維新の国会議員達に非常な危惧を覚えています。また、ほとんどのメディアも日中国交正常化からの歴史を踏まえた事の重大さを指摘しておらず、世論調査で高市発言に50%の支持があったと流す始末です。
    若い人たちの支持が強いそうですが、本当なのでしょうか?調子に乗った方を支持をして本当に戦争になった時、兵士として駆り出されるのはあなた方なのですよ。(年寄りの心配です。)
    トランプも喜んでいましたよね。今度の犬は、けしかけなくても自分から勝手に吠えている。それならウクライナの時のようにアメリカがサポートに金を出すことも必要ないだろうと。

  3. 仲村洋祐 says:

    これほど優れた見解を示せるのは長周新聞だけです。
    こういう見解が無視されてしまうとこにラジオ、TV、新聞(長周新聞は除きます)の情けなさを感じます。
    対米従属によって事実上植民地にされ、騙され搾取されてる事に気付いてほしいものです。
    そして高市早苗は即辞任すべきです。

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