(2026年1月7日付掲載)

「TM報告書」の内容について報じる韓国『KBS』放送(昨年12月)
複数の韓国メディアが昨年末、日本の旧統一教会会長が韓国の教会本部の韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁宛におこなっていた「TM(True Mother、真の母)特別報告」の内容を次々に報道し始めている。この内部文書は、旧統一教会による尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領夫妻をはじめとする韓国政界との贈収賄事件や請託禁止法違反、政党法違反などの捜査のなかで押収されたものだ。この文書では、「われわれが応援した国会議員の総数は、自民党だけで290人に達する」と報告されるなど、旧統一教会が組織的に政治家の選挙を支援し、その見返りに日本の政界にカルト宗教の思想を浸透させ、政治家の活動に対して影響力を強めていった「選挙応援モデル」の実態や、それを手本に韓国側でもロビー活動をおこなっていた実態が克明に記されている。
日本での教団の政治工作について詳細に報告
韓国紙『ハンギョレ新聞』は昨年12月末、2029年7月2日に当時の日本統一教会会長・徳野英治氏が韓鶴子総裁に宛てた「TM特別報告」の内容を掲載した。そこには、統一教会が自民党を中心とした日本政界との繋がりを生み出す「選挙応援モデル」のもとで、韓国以上に綿密で組織的な政教癒着構造の実態が詳細に記されている。
『ハンギョレ』は昨年12月28日、2018年から2022年の間に作成された「TM報告書」を確認。徳野元会長は222回に及ぶ報告書のなかで、日本でおこなわれた衆・参院選や自民党総裁選の動向分析とともに「統一教会が推す」候補に数万票を集めるという選挙応援の状況を詳細に報告していた。
なかでも2021年12月におこなわれた衆院選後の報告書では「われわれが応援した国会議員の総数は、自民党だけで290人に達する」とも報告されている。この内容についてはNHKも報じており、「NHKは、『ハンギョレ新聞』が伝えたものと同様の内容を取材で確認しました」としている。
このTM報告書については、すでに『ハンギョレ新聞』以外にも複数のマスコミが確保しており、それぞれが独自にその内容を詳細に報じている。韓国『京郷新聞』では、2016年から2023年にわたる内容の報告書を入手しており、「統一教会の政治的ロビー活動の状況がここに記されている。国会議員、大統領、実業家、主要な外国の人物の名前や彼らにまつわる物語が文書から飛び出す」と報じている。
TM報告書では2019年7月、参議院選挙の3週間前に安倍元首相と日本統一教会の幹部らが面談をおこなっていたことも記されており、徳野元会長は、安倍元首相との面談について「今回で計6回目」と報告している。

2019年10月の統一教会系団体UPFサミットで韓鶴子総裁(中央)ら教団幹部との記念写真に収まる自民党国会議員ら。左から3番目が北村経夫、4番目が江島潔(元下関市長)の山口県選出参院議員(教団が配信したピースTVより)
当時のTM報告書によると、徳野元会長は「安倍首相が推薦する北村経夫議員(山口県)をわれわれ団体がどこまで応援するか、決意を聞きたかったのは明らかだった」とし、安倍首相との面談の目的は「選挙応援」であったと報告している。さらに「(われわれは)これまでは10万票だったが、今回は30万票とし、最低でも20万票は死守すると宣言した」と報告。そして「(安倍首相が)それ(選挙支援)について非常に喜んで安心しているようだった」と伝えている。
また、徳野元会長は、安倍元首相と同席した自民党の萩生田光一幹事長代行(当時)にエルメスのネクタイも贈呈しており「安倍首相は大変喜んだ」「たった一本のネクタイだったが効果的だった。真のお母様(韓総裁)への感謝の気持ちを贈り物を通じて感じたと思う」と報告している。
旧統一教会の組織票を基盤に当選した北村議員は後日、東京都渋谷区の旧統一教会の拠点である「松濤本部」を訪問。7月24日のTM報告書によると、徳野元会長は「得票数は約18万票で目標の20万票には届かなかったが、前回の選挙より約4万票増え、自民党本部でも非常に高く評価されたという」と報告している。さらに「(北村議員が)われわれの統一運動のおかげで当選したことを明らかにしたため、今後もわれわれと運命を共にするという決意を示した」と伝えた。
この他にも、文書では2018年におこなわれた沖縄県名護市長選についても報告されており、「名護市長選挙で統一教会が応援した自民党系候補(渡具知武豊)が3000票で勝った」とし、「自民党から感謝の連絡があり、安倍首相への大きなアピールになったと思う」という報告が盛り込まれている。
選挙応援モデルの実態 高市首相の名前も
徳野元会長は2018年5月の報告で、「“選挙応援”を通じて議員や自民党のトップクラスの重鎮幹部とより深い信頼関係を築くことがもっとも現実的で効果的なアプローチ」だとし、旧統一教会が当時開催した韓日トンネル関連行事には、日本の現職議員が19人参加したと報告していた。
また、2018年10月11日の報告では、日本の中堅政治家を通じて韓国政界に影響力を及ぼそうと画策したこともうかがえる。徳野元会長は、旧統一教会と近しい関係にあった「重鎮の衆院議員」が韓日国会議員連盟の総会出席のために訪韓するにあたり、「(文在寅大統領に会ったら)韓日海底トンネルを本格的に進めようという話を必ずしてほしいと伝えた」と報告していた。
ちなみに、TM報告書には、自民党総裁選前に韓鶴子について「誰ですか?それ」といっていた高市首相の名前も32回登場する(『ハンギョレ』)。徳野元会長は、高市氏が2021年9月に初めて自民党総裁選に出馬したさい、同じく出馬した小泉進次郎議員(神奈川県選出)を意識し、「高市氏は安倍元首相が強く推薦している」「神奈川県の現場において高市氏の後援会とわれわれは親密な関係にある」「岸田(文雄)前政策調整会長や高市前総務大臣が総裁に選ばれることが天の望みだと思われる」と報告している。
日本統一教会による体系的で綿密な「選挙応援モデル」は、韓国側が模倣するほどのものだったことがうかがえる。2018年2月、徳野元会長は韓国統一教会の嶺南圏(慶尚道圏)の幹部らと会った席で、日本統一教会と政界が交わす「ギブアンドテイク」の関係を詳細に説明したという。日本での選挙応援モデルとは、教区の現場の長年の信者らが中心となって政治家らと「コンタクト」をとって後援会を結成し、後援会を通じて政治家らを「教育(統一教会の思想の伝播)」し、彼らが統一教会の行事に参加して祝辞をのべるようにするという方式だ。
徳野元会長はTM報告書のなかでこの会合の様子を伝えており、「そのような“ギブアンドテイク”の関係性は韓国ではまだ模索中であり、確立されていないため、非常に刺激的だったという」と報告。日本統一教会による政治ロビー活動の影響力は、韓国におけるそれと比べてもはるかに大きかったことがうかがえる。
実際に、韓国内の統一教会組織のなかでも日本モデルを踏襲して政治家等へのロビー活動をおこなっていた。徳野元会長との面談に参加していた区長は、与野党を問わずその地域の政治関係者に広く接触し、「韓日海底トンネル」関連事業の協力を求めていたという。
ちなみに、長年日本統一教会の会長として政治家へのロビー活動をおこなってきた徳野英治氏は、今年3月におこなわれる石川県の金沢市長選挙に無所属で立候補を表明している。徳野氏は統一教会の組織的な支援は受けないとしつつも、「私を応援したいという会員もたくさんいる」としたうえで、個人からの寄付を運動資金にして選挙戦をたたかうとしている。
韓国では教会幹部起訴 教会本部を家宅捜索

検察に出頭する韓鶴子総裁(昨年9月)
韓国内で旧統一教会をめぐる政治癒着問題への捜査が強まったのは昨年からだ。2023年末に「非常戒厳」を発令したことから弾劾・訴追された尹錫悦前大統領夫妻に、旧統一教会側が金品を送っていた疑惑が浮上。特別検察官(特検)チームの捜査では、統一教会本部や総裁が居住する「天正宮」まで家宅捜索がおこなわれ、統一教会の「世界本部長」(実質のナンバー2)であったユン・ヨンホ氏が、便宜を受ける目的で公職者や配偶者に金品を提供することを禁じる「請託禁止法」違反の罪で起訴された。
ユン元世界本部長は大統領選を前にした2021年12月初めから、『世界日報』のユン・ジョンノ元副会長とともに尹錫悦候補の支持を企てていた。旧統一教会の主要幹部であるこの2人は、「国民の力」の予備選挙の結果が出た直後から尹錫悦候補に接近し、尹氏側近のクォン・ソンドン議員(当時は国民の力事務総長)らと接触。このなかで「旧統一教会が米国と日本の基盤を固めてくれたら領事や大使への起用も可能だ」「支援に比例して全国区や公認(推薦)の要求も可能だ」などと議論していたという。その後、ユン元本部長は2度にわたってクォン議員と会い、2度目には「少ないが候補のために大切に使ってほしい」といって現金1億㌆を渡したと見られている。
統一教会側から金品を受けとるなどした他、株価操作や収賄など複数の容疑で逮捕されたキム元大統領夫人に関しては、旧統一教会側が大統領選挙直後の2022年4月から8月にかけて、時価6200万㌆のダイヤモンドネックレスとシャネルのバッグを渡していたことが発覚。大統領選挙の過程で多くの物を受けとった大統領夫人は、旧統一教会に感謝の意を表しつつ、政府レベルの支援を約束。旧統一教会による政治的関与は大統領選挙で終わらず、元大統領夫人も金品の見返りにさまざまな「便宜」をはかりながら旧統一教会を政界に引き入れ続けてきた実態がこれまでの捜査で明らかになっている。
また、韓総裁自身も捜査対象となり、昨年10月には実際に前大統領夫人などに不正な金品を供与した疑いから政治資金法違反や請託禁止法違反などの罪で起訴されている。
11月には旧統一教会信者を尹錫悦政権時代の与党だった「国民の力」に集団入党させた疑い(政党法違反)で、韓総裁とキム元大統領夫人、さらに大統領夫人と旧統一教会の繋ぎ役といわれている「コンジン法師」ことチョン・ソンベ氏、さらにチョン・ウォンジュ前総裁秘書室長、ユン・ヨンホ前世界本部長が、政党法違反の疑いで追加起訴された。
この事件の捜査では、キム元大統領夫人が旧統一教会信者を集団入党させる見返りとして、旧統一教会の政策を支援することや、旧統一教会に対して国会議員の比例代表枠を提供することを約束していたことも判明している。特検チームは、チョン氏とキム元大統領夫人がこのことを旧統一教会側に提案し、韓総裁とチョン前室長、ユン前本部長がそれを承諾することで集団入党が実現したとして、彼ら全員を政党法違反の疑いで追加起訴した。
2022年11月上旬ごろにキム元大統領夫人がチョン氏を通じてユン前本部長に信者の集団入党を要請したと見られており、特検チームは昨年9月に「国民の力」の党員名簿データベースの管理業者を家宅捜索し、旧統一教会の信者と推定される約11万3000人の名簿を確保。このうち集団入党があったと見られる2022年11月から2023年3月の党大会の間に加入した信者が約3100人、昨年の総選挙の時点で加入した信者が約400人いたことを特定したという。
キム・ゴンヒ元大統領夫人に対しては昨年12月3日、ソウル中央地裁で開かれた結審公判で、懲役15年と罰金20億㌆(約2億1100万円)が求刑された。半年間かけて捜査をおこなってきた特検チームは「大韓民国の司法システムを無力化し、宗教団体と結託して憲法上の政教分離の原則を損ね、選挙の公正性と代議制民主主義という国家統治システムを崩壊させた」と厳しく指摘。さらに「大韓民国の歴史に永遠に恥として記録される法治破壊行為は、一般人が通常の範囲内で犯すと考えた既存の量刑基準を大きく上回る。現在の量刑基準範囲内でそれぞれ最高刑が選ばれても、むしろ足りないほどだ」と強調した。
また特検チームは「最高権力機関である大統領の配偶者の地位を乱用し、憲法の価値を侵害し反省の色も見えず、罪質が不良な点などを総合的に考慮した」と補足した。キム元大統領夫人は、同日おこなわれた被告人尋問で供述を拒否。さらに弁護人らは容疑を否定し、無罪を主張している。
与野党共に癒着の疑惑 「共に民主党」も
さらに捜査のなかでは、新たな疑惑も浮上している。それは、旧統一教会が文在寅(ムン・ジェイン)政権時代の与党であった「共に民主党」に対しても金品を用いたロビー活動をおこなっていたというものだ。ユン元世界本部長は特検の捜査に対し「共に民主党の2人の重鎮議員に数千万㌆の金品を渡した」と供述。具体的には、共に民主党所属のチョン・ジェス現海洋水産部長官が2018~19年ごろに旧統一教会本部の天正宮を訪ね、韓総裁に挨拶し現金3000万㌆とブランド時計2点を受けとったという。チョン長官と旧統一教会の関係については、2018年9月10日の報告書のなかでも、チョン長官が旧統一教会の集まりで祝辞をのべ、協力を表明したという内容が記されている。チョン長官は「事実無根」だとして疑惑を全面否定している。
また、ユン元世界本部長は昨年12月5日におこなわれた公判でも「民主党の複数の議員を支援した」「2017年から2021年までは、“国民の力”よりも“共に民主党”と近かった」と明かしている。
また、TM報告書のなかでは、旧統一教会が検察人事にまで介入する金品ロビー活動をおこなってきたことがうかがえる内容が記されている。2017年8月頃に作成されたとみられる報告書には「私たちが望んでいた検事1人が東部地検に配置された。8カ月間準備してきた過程だった」という内容が含まれている。
さらに昨年12月19日の韓総裁の裁判に証人として出席した旧統一教会世界本部の元職員も「2017年に検察ロビー資金として現金が拠出された」と証言している。当時、韓総裁は旧統一教会所有の土地を任意に処分した疑いで、自身の三男ムン・ヒョンジン氏をソウル東部地検に告発した状態であり、検察はムン氏を出国禁止にした後、出頭させて取り調べをおこなっている。事件の捜査を有利に進めるために、旧統一教会側がロビー活動を通じて検察の人事にまで影響力を行使したとの疑念が持たれている。
韓国では特別検察まで立ち上げて半年間にわたり本格的な捜査が実施され、旧統一教会と元大統領夫人をはじめ政党や議員との汚れた癒着の実態が明るみに出ている。こうした関係性は安倍晋三を元締めとする清和会を中心とした自民党政治家と統一教会との蜜月ぶりと酷似している。文科省からの解散命令請求に対して不服を申し立てている旧統一教会の裁判は、昨年11月にすべての審理を終え、今年度内にも東京高裁が判決を下す可能性があるといわれている。だが、たとえ解散が命じられたとしても、膿を出し切らなければ政界汚染は形を変えて継続することになりかねない。
韓国政府が特検を立ち上げ、わずか半年間で徹底的に家宅捜索等の捜査を実施した結果、次から次へと政界汚職や犯罪の実態が暴露されてきた。旧統一教会の政治への影響力が「韓国以上」といわれる日本では、政治家の庇護を受けて同教団の反社会的行為が継続され、霊感商法や高額献金による家庭崩壊が社会問題化し、それらを通じて集められた多額の資金を元手にして日韓における教団と政治家の癒着が維持されてきたことも指摘されている。元信者による安倍首相射殺は、その問題の深刻さを改めて露呈した。国境をまたいでおこなれてきた宗教右派の政治コントロール構造の深い根にメスを入れなければ、問題の解決はない。

総工費数百億円といわれる統一教会の博物館施設「天地鮮鶴苑」(韓国・清平)





















