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いつまでもあると思うな、親とコメ――コメをめぐる私見 食センター・ビジョン21代表 安田節子

(2026年1月1日付掲載)

 

 高市首相の「台湾有事は日本の存立危機」発言はこれまでの内閣が積み重ねてきた日中合意を踏みにじるもので中国の強い反発を招きました。問題を解決し、国益を守るには速やかに発言を撤回することです。

 

食料危機こそ存立危機

 

 日本の農業(慣行農業)に必須の肥料はほとんどが輸入でしかも中国頼みだということをご存じでしょうか。化学肥料の原料である、チッソ(尿素)、リン酸、カリの生産国は偏在しています。リンは中国が7割で世界シェア1位です。尿素はマレーシアに次いで中国は2位です。中国は国内増産のためか、10月半ば、尿素など一部肥料の輸出を停止しました。それで日本では肥料が高騰し、日本の食料品価格の上昇圧力になっています。万一、中国が日本への肥料の全面輸出停止を行うことになれば、日本の農業は成り立たなくなります。それこそ存立危機です。

 

 肥料のほとんどを輸入に依存して成り立つ農業では食料安全保障を危うくします。地域内の物質循環による自給的有機農業に向かうべきと思う次第です。

 

 現在、日本の食料自給率は38%しかありません。しかし、一昨年改正された食料農業農村基本法から食料自給率45%の目標が消えました。もう自給率の向上は目指さないということなのでしょうか。

 

 第一次世界大戦前、日本と同じ島国のイギリスは食料を海外の植民地から調達し、当時自給率は42%くらいでした。ふたつの世界大戦中、ドイツと戦ったイギリスの海峡ではドイツの潜水艦Uボートによって食料を積んだ輸送船が撃沈され、イギリス国民は飢えに見舞われたのです。その体験からイギリスは食料自給を目指し、現在自給率は75%前後あります。

 

 一方、日本は、現在、食料も肥料もエネルギーも輸入に依存し、実に危うい綱渡り状況にあります。ひとたび戦乱が勃発したり、食料輸出国が干ばつ、高温などで不作になれば、たちまち輸出は止まり、国民は飢えに直面します。

 

 食料指数で重要なのが穀物自給率です。日本の穀物自給率は2022年時点で29%であり、186の国・地域中116番目、OECD加盟38カ国中30番目となっています。非常に低い水準にあります。コメはほぼ100%自給なのになぜ29%かと言うと、コメ以外の小麦、大麦、トウモロコシなどがゼロに近いからです。日本で自給できている唯一の穀物がコメなのです。いま、そのコメが足元から大きく揺らいでいます。

 

5年で農家4分の1減

 

 2025年農林業センサスによれば、この5年間で農家の数は4分の1も減りました。農業生産に携わる人も経営体も激減しています。このペースで減少していけば、15年先にはほぼゼロとなると指摘されています。コメ農家も同様にこの5年で4分の1の減少です。このペースでいけばの話ですが、12年先にはほぼゼロだそうです。それくらい危機的状況にあるのです。

 

 現在、コメの小売価格は5㌔㌘4000円あたりと高値に張り付いていますが、大手米卸業者などから今年価格暴落が起きるとの予測がされています。

 

 政府が輸入するミニマムアクセス米は、主食用枠の10万㌧全部が落札され、民間輸入は過去最多を更新し、輸入量が高い水準で推移しています。備蓄米の放出に加え、2025年産のコメは前年比1割以上の増産です。価格高騰で消費者のコメ離れもおきています。民間在庫は過去最大になっています。コメ余りは価格下落を招きます。【図参照】

 

 生産費よりも低い米価に耐えてきたコメ農家はいまようやく30年前の価格にもどり【図表】、一息をいれ、コンバインなどの機械を更新する農家も出ています。しかし、米価が再生産価格を大きく下回るほど暴落すれば、高齢農家から営農を見切って廃業するでしょう。コメ農家は激減し、その結果、決定的なコメ不足が起きます。

 

 「小さな農家が離農したら、大規模な担い手が農地を集積すればいい。そうすれば生産が維持できる」というのが国の発想です。小規模農家がいる中山間地域が農地の4割を占めますが、この人たちがリタイアしても大規模生産者は田んぼを引き受けないでしょう。

 

 政府備蓄米は100万㌧で需要量700万㌧の1・5カ月分です。今回の備蓄米放出で、現在在庫は30万㌧しかありません。これは需要量の半月分でしかなく備蓄米の役目は到底果たせません。しかし政府の買戻しの動きが見えないのです。2024年11月29日、財務省・財政制度等審議会は備蓄米を減らせと建議しています。

 

所得補償は喫緊の課題

 

 喫緊の課題は急速に進む農業の衰退です。まずは農家に対し市場価格が生産費を下回ったら、その差額を政府が直接支払いすれば農家は所得が確保でき、再生産していけます。そうなれば後継者もできます。

 

 日本における直接支払いである農業者戸別所得補償制度は2010年に民主党鳩山政権によって試験導入され2011年本格実施されました。しかし、2013年自公政権により見直しされてしまいました。生産者からは戸別所得補償には救われたとの声が多く聞かれます。かつて食糧管理制度というのがありました。この制度では再生産が図れる政府米価を決定し、家計の安定を図る消費者米価を決定し、その差額を国が補填していました。この考えを取り戻すのが政策としてベストと思います。

 

 財務省は小規模零細農家の営農は高コストだとして財政出動を拒んでいます。3㌶未満の経営農家が84%を占め、彼らが30%の農地を耕作しています。小規模零細農家を含め彼らが地域農業を守っているのです。小規模零細農家を切り捨てる考えは間違っています。

 

 コメ余りは米価の下落を招くとして政府は減反を進めてきました。その結果、コメは毎年10万㌧ずつ減り続けてきました。コメ不足と米価高騰に石破政権はコメの増産に転じました。しかし、高市政権になって鈴木憲和農相は、「需要に応じた生産」と、減反に回帰しました。元の木阿弥です。日本農業と稲作の危機打開は図られず終いです。

 

水田潰し図る農薬企業

 

 減反に加え、現在、水田を減らそうとする動きがあります。2023年、米国農務長官が来日し、「持続可能な農業に関する日米対話」が設置されました。アメリカによる日本農政への介入ですね。2024年の会合のテーマは水田のメタン排出削減とゲノム編集技術の開発状況の情報交換でした。

 

 今、日本では、水田微生物が生み出すメタンを理由に水田を削減していく動きがあります。乾田に直に種籾を撒く「節水型乾田直播」の推進です。BASFらバイテク農薬企業らがバックアップしています。またニュージーランドは牛のゲップのメタンに課税し、牛の頭数を規制しています。肉食を減らすことがSDGsの取組のひとつとなり、人造培養肉や昆虫食などが提唱されています。ナンセンスの極みと思います。カーボンニュートラルは原発推進に利用され、胡散臭いものです。

 

 昨年1月に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)で「水田稲作は温室効果ガスのメタンの発生源」と水田を問題視する発言をしたのがバイエルのCEOでした。水田を畑地化すれば広大な畑地が生まれ、そこに彼らのバイテク種子、大型機械やAI化など先端技術を駆使したスマート農業で彼らが儲けることができるからでしょう。日本の自給を支えるコメの生産を減じてアメリカの食料に依存させ完全隷属させるという戦略を持つアメリカ。それとバイエル/モンサントやBASFらバイテク農薬種子企業らの戦略が重なります。

 

 メタンの温室効果はCO2の25倍あると問題にしますが、N2O(亜酸化窒素)は298倍です。化学肥料の窒素が土壌中の微生物によってN2Oを発生させます。膨大な使用量の化学肥料から発生するN2Oは無視され、化学肥料削減にはまったく触れないご都合主義がまかり通っています。

 

 節水型乾田はメタンガス発生を抑えるとされる一方で肥料の多投が必要でN2Oの発生が増加するトレードオフの関係にあります。温室効果ガス抑制効果の実証はほとんど行われていません。水田とは異なり、連作障害の可能性もあります。また雑草管理の困難性があり、水田では使用できなかった除草剤(ラウンドアップなど)が多用されます。その先には除草剤耐性などの遺伝子組み換え種子やゲノム編集の種子が使用されるのではないでしょうか。

 

 このように水田は今、削減の圧力にさらされています。

 

 コメが連作できる水田は、瑞穂の国と言わしめた我が国の風土の恵みであり、日本文化の礎でもあります。これを失ってはならないと思うのです。それには水田を減らさず、目いっぱい生産することです。コメ余りの心配はいりません。まず食料安全保障の要である十分な備蓄を行うことです。本来政府が責任を持つべき子ども食堂やフードバンクですが、価格高騰でコメの調達に苦慮しています。政府がコメを買い上げ提供すべきです。海外の食料不足に苦しむ国々に無償で届けるなどこれらを実行すればコメ余りで困ることはありません。

 

 価格高騰には先物市場の動きも関係しています。堂島の米先物市場は2024年8月に突然再上場されました。コメの価格急上昇も2024年8月からです。コメ価格の変動リスクをヘッジする農家の参加は限定的で大手業者や機関投資家が中心です。コメは誰もが手に入れられるよう生産量や価格が守られるべき国民の命にかかわる特別なもので、単なる商品ではありません。コメは投機の対象にしてはいけないのです。

 

 財務省によって農水省は弱体化されてきました。人員削減や農水予算の削減が行われてきました。鈴木宣弘氏によると、「1970年の段階で、農水予算は1兆円近くあった。防衛予算の2倍近くあった農水予算は、50年以上が経った今、2兆円ほどしかない。国家予算全体に占める農水予算の比率は、12%近くから2%弱まで減らされてしまった。今や年額10兆円規模にまで膨れ上がった防衛予算との格差は大きい」といいます。

 

 水田をつぶせば田んぼを維持する予算が節約できる、足りなければ輸入すればよいというのが財務省の考えです。しかし、米国農務省の長期見通しでは、10年後、世界のコメは輸入量に対し輸出量が約2000万㌧も不足するとしています。10年先、日本がコメを輸入したくてもできなくなる可能性が高いのです。コメ輸入を拡大し、輸入米に依存していくことはとても危険です。

 

 アメリカからの穀物大量輸入を国是とする限り、食料自給率を上げることはできません。アメリカからの要請に対応した多大な支出を埋め合わせる予算カットの標的にされてきたのが農業です。

 

 自動車を輸出するかわりに食料輸入を求めてきた財界や財務省の意向の結果が農業衰退なのです。

 

対米隷属からの転換を

 

 日本の食料問題は日米関係の中で推移してきたのです。アメリカは、日本を食料自給ができない国にすれば、完全隷属させられると食料を武器にする外交戦略を展開してきました。

 

 自由貿易のくびきによってアグリビジネスの餌食にされ、農業の衰退を招き、食料やタネの自給を奪われ、国民の健康と命を差し出しているのが日本です。

 

 農業衰退の果てに日本人が飢えに直面する可能性があります。対米隷属でアメリカの植民地のような日米関係を変えていかねばなりません。農薬や化学肥料を必要としない有機農業への転換は食料自給国への道です。対米隷属を脱し、有機自給国を目指すべきと思います。

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