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「億万長者の独裁はいらない」 ノーキングスデーで過去最大700万人がトランプ政権に抗議  揺れるアメリカ国内世論


(2025年10月24日付掲載)

米ミネソタ州・ミネアポリスでおこなわれた抗議集会で声を上げる参加者たち(10月18日)

 米国全50州の2700カ所以上で10月18日、トランプ政府に反対する「ノー・キングス(王様などいらない)」と題する大規模なデモや抗議集会が開かれ、700万人以上の人々が参加した。この行動は、6月にもおこなわれ全米500万人が参加したが、今回はそれを200万人以上も上回った。米国ではトランプ政府発足から9カ月間で、社会保障や食料支援、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)、教育などの予算大幅削減、連邦政府の一部閉鎖や職員の大量解雇にともなう公共部門の縮小により、国民切り捨て政策が強行されている。また、移民の取り締まり強化に対する抗議行動が広がるなか、トランプ政府は州兵を投入する「都市の軍事化」によって弾圧を試みている。こうした一部の者たちによる独裁政治に対する危機感と怒りが全米に拡大するなか、人々は政党や人種の分断にとらわれるのではなく、全米の国民が結束して「民主主義をとり戻そう」との訴えのもと結集しており、第2次トランプ政府発足以後最大規模の抗議行動へと発展している。

 

 今回の「ノー・キングス」抗議活動には、200以上の団体が参加している。全米各地に支部を持つ進歩主義運動団体「インディビジブル」が中心となり、「アメリカ自由人権協会」(ACLU)や権利支援団体「パブリック・シチズン」も共催した。他にも、全米教職員組合や国際サービス従業員労働組合をはじめとする労働組合も参加。また、今年初めに全米50州で1日限りの抗議活動を呼びかける形で始まった、新たな抗議運動「50501」も参加し、その他にも、ヒューマン・ライツ・キャンペーンなど多くの社会団体も連合に加わっている。

 

 主催団体である「ノー・キングス」は、今回の抗議行動の主旨について、ウェブサイトで要旨以下のように訴えている。

 

 トランプ政権は移民家族を標的にし、令状なしでプロファイリング(個人情報を分析し、犯人像を特定する)、逮捕、拘留をおこなっている。また、選挙を乗っとると脅し、国民がもっとも必要としているときに医療、環境保護、教育を骨抜きにし、有権者を黙らせるために区割りを不正に操作し、学校や地域社会での銃乱射事件を無視し、国民が苦しむなか、億万長者の仲間に巨額の援助を与えながら生活費をつり上げている。

 

 トランプ大統領は現在、あらゆる手段を尽くして行政権を濫用し、牽制と均衡を損なっている。私たちは、このような事態を黙って見過ごすつもりはない。

 

 大統領とその仲間たちが反対意見を封じ込めようとしたり、武力を誇示している。だが、われわれは脅迫されていると信じ込むのではなく、街頭に出て国中のアメリカ国民はトランプ大統領の独裁的な政権掌握に怯(ひる)むことはないということ、そして、われわれは強権政治と腐敗を拒否し、われわれが当然得るべき代表権を得られるまでたたかうということを示す。

 

 私たちは共に、平和的に、そして再びこの腐敗と権力の濫用を拒絶するために、大勢で結集する。それは私たちの国のDNAが刻み込まれているのだ。これは政治的意見の相違をこえた問題だ。この政権は裁判所を無視し、アメリカ国民を国外追放し、公共サービスを削減してきた。しかも、その一方で、億万長者の同盟者たちに巨額の恩恵を与えている。もうたくさんだ。やりすぎだと思っている人、この運動はあなたのためのものだ。

 

 私たちは権力の濫用、残虐行為、そして腐敗に共に立ち向かう。私たちはトランプ大統領とその支持者たちに、アメリカには王はいないということを改めて認識させるために集まる。

 

 公民権への攻撃、高騰する物価、拉致や失踪、生活必需サービスの破壊、言論の自由への攻撃に憤慨しているなら、今こそあなたのための瞬間だ。長年たたかってきた人も、ただうんざりして行動を起こす準備ができている人も、今こそあなたのための瞬間だ。

 

 この危機に対し、大規模で、目に見える形で、非暴力的な全国的抵抗運動を築かなければならない。10月18日には、全米各地の主要都市から各州の小さな町まで、あらゆる場所でイベントが開催される。私たちの目標は、大多数の人々が腐敗と権力掌握を阻止するために行動を起こしていることを示すことだ。力はあなたにある。

 

 こうした呼びかけに応え、全米2700カ所で700万人もの人々が街頭に出て抗議行動に参加した。

 

 なかでも、ワシントンDC、サンフランシスコ、サンディエゴ、アトランタ、ニューヨーク、ヒューストン、ホノルル、ボストン、カンザスシティ、ボーズマン、シカゴ、ニューオーリンズといった都市については、主催者が重要拠点として指定しており、それぞれの都市で大規模な抗議行動とデモがとりくまれた。

 

ワシントンDC 連邦職員らも大挙参加

 

ワシントンの抗議者たちはペンシルベニア通りを行進した(10月18日)

 米国の首都・ワシントンDCでおこなわれた集会には約1万人が参加し、周辺に及んだ大規模なデモも含めると、主催者発表で約20万人が参加した。デモ参加者は米国議会議事堂近くのペンシルベニア通りを埋め尽くし、多くが「王も暴君もいらない」と書かれたプラカードを掲げた。

 

 トランプ政府は、10月1日から連邦政府機関の一部閉鎖による職員の大量解雇を強行している。首都でのデモには、こうした政策に抗議する現職および元連邦職員も多く参加して抗議した。元公務員の女性は「トランプ大統領は、私たちの政府、私たちの民主主義を少しずつ、ゆっくりと、しかし確実に解体しようとしている。もし私たちが何もせずに傍観していたら、どうなるだろうか。恐ろしい時代だ。トランプは、アメリカ国民のための大統領であるべきだ」とのべた。

 

 また、共和党に対してだけでなく、イスラエル政府によるパレスチナ人虐殺に加担した民主党に対しても嫌悪感を表明する人が大勢おり、群衆のなかには巨大なパレスチナ国旗が掲げられた。

 

 バーニー・サンダース上院議員(無所属)も演説をおこなった。サンダース議員は、トランプ政府の下でおこなわれてきたさまざまな強権的政策を批判するとともに、それらは彼一人によるものではなく、1%の資本家や大企業たちによって形作られていることを指摘した。そして、これらの支配者とたたかい、「自由、正義、民主主義に捧げられた国を作ろう」と呼びかけた。

 

シカゴ 移民の強制送還に抗議

 

20万人以上の抗議者が通りを埋めたシカゴでのデモ(10月18日)

 トランプ大統領は、2期目にあたり「アメリカ史上最大の国内強制送還作戦」を実行すると公約しており、永住権を持たない国内の移民推定1200万人全員を、滞在期間や家族の法的地位、犯罪歴の有無に関わらず強制送還することを目指している。トランプ政府は九月初旬に「ミッドウェイ・ブリッツ作戦」を開始し、米国移民関税執行局(ICE)、税関・国境警備局(CBP)、その他の連邦職員数百人をシカゴ地域の路上に動員し、片っ端から「不法移民」を拘束している。国土安全保障省は、同作戦により、これまでに1500人が逮捕されたと発表している。

 

 政府のこうした動きに対し、シカゴ、ポートランド、ロサンゼルスなどの都市では、ICEのとり締まりがより広範かつ攻撃的になっている。そのため市民の緊張も高まっており、抗議活動が巻き起こっている。これに対しトランプ政権は連邦法執行機関による更なるとり締まり強化と軍の派遣で対抗しようとしている。トランプ大統領は9月、米軍高官らを前に、「アメリカの都市は、軍隊の訓練場として利用されるべきだ」とのべ、米国市民に対する軍の派遣権限を拡大するため、反乱法を発動する考えをくり返し表明している。実際にトランプ大統領は、シカゴとポートランドの両都市におけるICEの活動を支援するため、州兵の派遣を命じている。

 

 全国統一行動がおこなわれた10月18日、移民弾圧が強まるイリノイ州・シカゴのグラントパークには、主催者発表で推定20万~25万人の群衆が詰めかけた。主催者の予想をはるかに上回る参加があったため、群衆は公園周辺の通りに溢れ出し、その後、抗議者たちはトランプタワー、そしてICE事務所まで行進した。

 

 地元の運動団体や支援団体によって構成される「ハンズ・オフ・シカゴ連合」が主催した集会では、プリツカー知事も演説をおこなった。知事は、民主主義への攻撃に抗議するとともに、シカゴ移民コミュニティへの支持を表明し、「現在のシカゴでは、黒人や褐色人種の人々は肌の色を理由に一斉に逮捕されている。子どもたちは縛られ、親から引き離されている。教会へ来た礼拝者たちは尋問され、拘束されている。レストランの従業員たちは嫌がらせを受け、拘束されている」「彼らは税金を払い、事業を営み、子どもたちに教育を施し、社会の基盤に貢献している人々だ。これは私たち全員の問題なのだ」とのべた。

 

 また、「歴史を通じて、われわれは暴政が劇的な宣言とともにやってくるのではないことを学んできた。ほとんどの場合、暴政は静かにやってくる。法と秩序の言葉に包まれ、自分たちとは似ても似つかない誰かを指差して、安全を約束しながら隣人を犠牲にするよう要求してくるのだ」とのべた。そしてシカゴは決して降伏せず、平和的な抵抗を選択し続けると宣言し、「ドナルド・トランプ、シカゴに来るな!」と訴えた。

 

ニューヨーク 市長選前に高まる世論

 

ニューヨークのタイムズスクエアを埋めた抗議者たち

 ニューヨークのタイムズ・スクエアとその周辺の通りでは多くのデモ参加者であふれかえった。参加者のなかには子ども連れも目立ち、人々はプラカードや旗を掲げて抗議の声をあげた。「アメリカは移民によって築かれた」や「われわれは億万長者に頭を下げない」「君主制ではなく民主主義を」「憲法順守は自分の都合で選ぶものではない」などのスローガンが書かれたプラカードが掲げられ、人々は「民主主義とはこういうものだ」と連呼した。ニューヨーク市警は、市内5つの行政区全体で計10万人以上が集まり、逮捕者はいなかったと発表している。

 

 抗議デモには、教育費を心配する学生、公共事業から連邦政府の資金が枯渇するのを目の当たりにしている医療従事者、長らく「移民の避難所」として機能してきたニューヨーク市において移民の排除に注力する政府に対して怒る多くの市民が参加した。参加した市民の一人は、インタビューで「この街にはたくさんの価値があるが、誰もが歓迎されているのがその理由だ。しかし、私たちが大切にしてきた価値観のほぼすべてがこの政府によって侵食されている」とのべた。

 

 ニューヨークでは、11月4日に市長選の投開票を控えている。現時点では、急進左派の民主党候補、マムダニ下院議員(34歳)が最有力候補となっており、6月の民主党予備選でも本命と目されたクオモ前ニューヨーク州知事を破っている。マムダニ氏は「億万長者とのたたかい」を公約に掲げ、大企業や富裕層の課税強化などを打ち出している。当選した場合、イスラム系初の市長誕生ということもあり、大きな注目を浴びているが、一方で世界金融の中枢・ウォール街からの反発もある。それでも最新の世論調査ではマムダニ氏優勢の情勢となっている。

 

 一方、トランプ大統領はマムダニ氏を「狂った共産主義者」と非難し、同氏が当選した場合はニューヨーク市への連邦補助金の停止を示唆するなど圧力を強めている。市長選をめぐる注目が拡大するなか、今回のニューヨークでのノー・キングス集会やデモでは、マムダニ氏への支持を訴える参加者も少なくなかった。

 

ロサンゼルス 富裕層対労働者の闘い

 

カリフォルニア州サンフランシスコで抗議デモをおこなう看護師たち

 カリフォルニア州ロサンゼルスでも、10以上の地域で10万人以上の人々が集まって抗議行動がとりくまれた。

 

 ロサンゼルスも、トランプ政府の下で移民が厳しくとり締まられている地域だ。ダウンタウンでは、数万人の労働者、若者、学生が集結し、トランプ政府による違法な移民捜査、市民の自由への侵害、ガザでのジェノサイド、環境破壊、そしてアメリカ合衆国における独裁政権の台頭を非難した。

 

 抗議者たちはメディアのインタビューに対して、次のように語っている。
 「アメリカが本当に象徴するものを表現したかった。それは白人がすべてを支配するということではなく、私たち全員が移民であり、他国からやって来て、皆を代表するより良い国を作るために団結することだ」

 

 「これは単なる共和党対民主党の争いではなく、富裕層対労働者階級の争いなのだ。彼らは私たちを分裂させ、恐怖に陥れ、移民を責めさせようとしている。しかし、私たちは労働者の国であり、移民の国でもある。私たちはすべてを動かし、それを止める力を持っている」

 

ボストン 大衆運動で議員に圧力

 

 アメリカ独立戦争発祥の地であるマサチューセッツ州ボストンの抗議集会とデモ行進には、主催者発表で12万~15万人が参加した。同州ではその他にも100以上の地域で大小の集会やデモがとりくまれた。

 

 アメリカ最古の都市公園「ボストン・コモン」でおこなわれた抗議集会で演説した「50501」運動のレベッカ・ウィンター事務局長は、このとりくみの目標は1日1回の抗議活動をおこなうことではないといい、「このイベントの最大の願いは、人々がただ来て空に向かって叫んで帰るだけではない。私たちは、人々が毎日活動に参加し続けるための手段を持って帰ってほしい。いかにしてICE職員に対して非暴力で立ち向かうか、いかにして選出公職者に圧力をかけていくかを、みなで学ばなければならない」とのべた。マサチューセッツ州でも、トランプ政府によるICEのとり締まりが強化されており、9月だけで1400人以上が逮捕されている。

 

 また、集会ではボストン市長をはじめ上院・下院議員など複数の政治家たちが演説をおこなった。彼らの演説に対し、集会参加者たちが「演説した政治家に責任をとらせる」ために、ブーイングを浴びせる姿も見られた。参加者の一人は、「私たちがここにいるのは、政治家たちが面と向かって嘘をつくからだ。“王などいらない”というテーマの集会だが、(演説した)ミシェル・ウー市長を含め、王などいらないのだ」と訴えた。

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