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「ホームレス大国アメリカ」の現実 世界覇権どころではない国内の疲弊

生活支援の窓口に列をつくるホームレスたち(2017年4月、サンディエゴ)

日本の将来を映し出す貧困先進国の実態

 

 年明けから株価が過去最高値を更新するなど高水準を維持する金融市場と対照的に、アメリカ国内では深刻な貧困化が進行している。フェイスブックやツイッター、ユーチューブなどのネット上で米国内の路上でテント生活をする多くのホームレスの映像が数多く投稿され、「ショッキングな光景だ」「先進国と思えるものはなにもない」などのコメントが飛び交っている。

 

 リーマン・ショック後、米連邦準備理事会(FRB)は、大銀行などの金融資本を救済するため量的緩和(QE)で膨大な紙幣を市場に供給してきたが、それはさらに極端な富の集中と偏在を進め、多くの国民はバブル経済の外側に追い出され、住居すら持てない貧困状態が蔓延している。米国の政策を後追いする日本の将来を考えさせる実態がそこにある。

 

ロサンゼルス・スキッドロウの路上にはホームレスのテントが並ぶ(2017年12月25日)

 

 昨年12月25日のクリスマス。ロサンゼルスのダウンタウン・スキッドロウの街並みを車載カメラで流し撮りした映像には、シャッター通りで閑散とした街中にゴミが散乱し、路上生活者たちが寝泊まりしているビニールシートやテント、段ボール小屋が歩道を埋め尽くすように連なっている。生活物資と思われる大きなゴミ袋を抱えて移動する人、生気なく横たわっている人、行き交う人や車に物乞いをする人の群れ、食料配給などの生活支援の窓口にできる長蛇の列。この地域だけで約一万人ものホームレスが暮らしているといわれ、ホームレスの営みがそのまま街の日常となっている様子がうかがえる。そこには映画やテレビで伝えられる本場アメリカの煌びやかなクリスマスのイメージとはほど遠いアメリカ社会の現実がある。「子ども食堂」のレベルでは解決できないほど深刻さを増した「貧困先進地」の実態だ。


 米政府が公式に発表している全米のホームレス数は55万4000人(米住宅都市開発省調べ、2017年1月時点)で、そのうち路上の生活者は19万3000人と2年前から9%増加した。だが、ホームレス支援のNGO団体は、「同省が把握している数値には、住宅がなくモーテルなどで共同生活を送っている数百万人規模の米国人を除外している」と指摘しており、実態はその数倍にのぼると見られている。


 昨年11月、シカゴ大学が発表した報告書では、ホームレス状態にある学生が全米で少なくとも420万人にのぼり、そのうち13~17歳は70万人、18~25歳が350万人という衝撃的な数値が物議を醸した。


 また、約46万人の学生を擁するカリフォルニア州立大学(全米最大)が委託した調査によると、同大学では10人に1人にあたる約5万人の学生が特定の住所を持たないホームレス状態にあり、さらに5~4人に1人にあたる10万人が食べ物の確保ができていない。路上や施設で暮らしたり、定住先を持たないため友人や知人などの家を渡り歩いたり、「カウチ・サーフィン(インターネット上で提供される無料民泊)」で日日をしのいでいるという。学歴社会のアメリカでは高校を卒業していない人の年収は大卒の半分以下で、失業率は3倍近くにのぼる格差があり、将来のために高利子の学生ローンを組んで進学するものの、アルバイトをしても巨額の返済金と生活費をまかなえず、多くが借金を抱えたまま路頭に放り出されている。


 その貧困状態が薬物や暴力といった社会問題を作り出しており、アメリカでは子どもが成人を迎える前に死亡する確率が他のOECD諸国(先進19カ国)と比べて57%も高い。銃による死亡率は82%も高く、とくに黒人未成年者の主要死因となっている。


 さらに、妊娠25週以下で産まれる“超未熟児”の増加や病気による新生児(1歳未満)の死亡率も他の先進国と比較して76%(約3倍)も高く、毎年約2万人もの子どもや未成年者が死亡していることを、ジョンズ・ホプキンズ病院の研究チームが健康情報誌「health affairs」(今年1月)に掲載している。医師らは、「慢性的に高い貧困率、反映されない教育の成果、相対的に乏しい社会福祉は、米国を先進国の中で子どもが誕生するのに最も危険な国とさせている」と結論付けている。


 全米で貧困に喘ぐ子どもは、全体の約21%にも及ぶとされ、先進国の中でも突出している(日本は13・9%)。ニューヨークでは、住む場所を持たない公立小学校の児童数が2015~16年度で約10万人(1年で20%増加)にのぼり、この傾向が続けば全児童の7人に1人に達することが指摘されている(非営利機関「ICPH」調査)。「子どもの貧困」は、それを養うことのできない「親の貧困」を意味しており、生活基盤まで失ったホームレスの増加は、「アメリカン・ドリーム」とはほど遠い、生きていくことさえ困難になった米国社会の現実を映し出している。

 

食糧配給に列を作るホームレスたち(ロサンゼルス)

 とくに近年は西海岸(カリフォルニア、オレゴン、ワシントン)の3州でホームレスが急増していることが報告されており、少なくとも州内10自治体が「非常事態」を宣言する事態となっている。ホームレスの多い都市を調査したAP通信の報道(2017年11月)によると、西海岸3州のホームレスは16万8000人となり、わずか2年間で2万人も増加した。そのうちバス停や駅、廃屋や車両で野宿する人の割合は18%増加し、10万5000人にのぼっている。


 西海岸を代表する都市ロサンゼルスは、家がなく公共のシェルター(避難所)にも入り切れない人の数が全米で最も多く、2017年にホームレス状態にある人の数は3万4189人で、前年比で20%増加した(支援機関「LAHSA」調査)。18歳から24歳までの若年層ホームレスは64%も上昇しており、「ロサンゼルス短大地区の学生の5人に1人はホームレス」という調査結果(ウィスコンシン大学)もある。2015年には市長が「非常事態宣言」を出して住宅建設などの対策を講じているものの、そこに周辺各地からホームレスが押し寄せて「焼け石に水」のジレンマに陥っているという。


 またニューヨークでも、ホームレスはシェルター生活者を含めて約7万7000人(昨年2月)となり、3年間で1万人近く増えている。年明けに全土を襲った大寒波ではホームレス凍死者も続出しており、行政がホテルなどを借り切り緊急の避難所としている。

 

賃金は減り 住宅価格は暴騰

 

㊤路上で寝るホームレス(ニューヨーク)、㊦行政が設置したシェルターベッド。入居待ちが続いている(2017年、ロサンゼルス)

 ホームレス増加の主な理由は、工業の機械化による解雇や病気による失業の増加、実質賃金は増えず家計収入は減っているのに進む物価上昇、とくにリーマン・ショック以来続く住宅価格と賃貸料の異常な高騰である。


 全米のホームレスは08年のリーマン・ショック直後に爆発的に増えた。政府は大銀行を7000億㌦(約70兆円)もの公的資金で救済する一方、FRBによる量的緩和でドルを刷って米国債と住宅ローン担保証券(MBS)を大量に買い入れた。それによって住宅金利は下がり、住宅への投資を促進したが、余剰マネーがふたたび不動産市場に投機する流れをつくり、不動産価格はリーマン・ショック以前をしのぐ天井知らずの高騰を見せている。


 一方、労働市場は「完全雇用に近づいた」というものの、失業状態が1年をこえると失業人口の統計から外される。それら職探しを諦めた失業者や、正社員の長期雇用を失った後、食べていくために短期アルバイトに切り替えて働いている人を加えた失業率は20%にのぼり、とくに16歳~29歳までの若者では45%といわれる。賃金上昇率もリーマン・ショック前の3~4%に比べ、2・5%程度に落ち込んでおり、物価上昇に家計が追いつけない。


 その矛盾が集中したのがIT産業で急成長を遂げたシリコンバレーを抱える西海岸で、全米で進む不動産市場のバブル化に、企業進出や労働人口増加による需要増大という条件が加わり、住宅価格は高いところで年平均20%も上昇。高級住宅に暮らす人人がいる一方で、低価格帯でもワンルームの家賃が3000㌦(約33万円)にもはね上がったため、多くの人人が住居での生活を諦め、路上生活をしながら働いている。


 「更新手続きでいきなり家賃が500㌦(5万5000円)も上がった」「年収700万円稼いでも家族を養うのが難しい」というほど異常な高騰が家計を襲い、空き地や川縁にはテント村ができ、道路に連なる宿泊用の車両が急増した。時給15㌦(1650円)程度の所得ではフルタイムで働いても、とても2000~3000㌦もの家賃は支払うことはできない。いまや「ホームレス=失業者」という概念は過去のものとなり、工員やショップ店員、技師、教員までが路上や車上生活をしながら職場に働きに出て、シャワーを浴びるためだけにスポーツジムの会員になっている(AP通信)。


 グーグルやアップルなどハイテク企業の本社が集中し、国内でもっとも平均収入の高いシリコンバレーの大都市が、米国最大のホームレス地帯となっている。

 

シアトルにつくられたテント村(2016年)

 アマゾンやマイクロソフトが本拠地を置くワシントン州シアトル(人口70万人)では、ホームレスが1万人をこえて過去最大を更新し、ホームレス人口が全米ワースト2位になった2015年には緊急事態宣言を発令した。人口が増えた反面、住宅価格が年平均10%上昇し、賃貸価格も六年間で57%も上昇しており、多くの一般家庭が家を失った。「好景気」によって富が集まり、経済活動が盛んになったのは数%の上流層だけであり、多くの人人は低賃金労働のもとで住む家すら失って社会の枠組みからはじき出されている。


 2016年の公的調査では、全米のホームレスの人種比率は、白人が26万5660人(48%)と最も多く、次いでアフリカ系の21万5177人(39%)、ヒスパニック系は12万1299人(22%)、多人種は3万9525人(約7%)、原住民インディアンは1万5299人(3%)、太平洋諸島系は8734人(2%)、アジア系は5603人(1%)となっている。移民層よりも地位が保障されている白人層のホームレスが多く、「白人層の地位向上」を約束したトランプ政権のもとでもこの傾向に変化はない。単純に人種間の格差だけでは片付けられないほど貧困化が加速している。


 メディアの多くは、トランプ政府の下で米株価が上昇し、アメリカがリーマン危機を乗り越えた「好景気」の渦中にあると報じているが、その金融市場の活況と反比例して実体経済は完全に行き詰まっている。さらにトランプ政府は、リーマン危機後に公的資金を注入するかわりに定められたドット・フランク法(金融規制改革法)の廃止、法人税の大幅引き下げ、個人所得税控除の引き下げを進めているが、それはホームレス社会をさらに蔓延させ、実体経済から乖離した金融バブルを膨らませるだけでしかない。


 ニューヨークで起きた「ウォール街を占拠せよ」をスローガンにしたオキュパイ(占拠)運動は、欧州に飛び火して新自由主義に抗する大衆行動を広げる発信源となり、大統領選を下から揺さぶった。トランプの「米国第一主義」や好戦的な言動は、戦争によって新たな投機対象を作り出すとともに、これらの国内矛盾を外に向けるためのパフォーマンスに他ならない。その凶暴性は市場原理社会の行き詰まりと弱体化のあらわれであることを示している。


 ホームレス大国アメリカの現実は、その後を追いかけている日本社会の将来を暗示するものといえる。

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