令和のコメ騒動に恐ろしさを感じた知人たちが、自身のつてを頼りに幾人もの農家と直接契約が結べるようお願いに行き、「かかりつけ農家」のような方法で確実にコメにアクセスできる仕組み作りに奔走していた。昨年からコメを買おうにも店頭にないという前代未聞の事態に見舞われ、高値で推移し続けるスーパーのコメをやむなく購入してきたが、従来の流通網に依存し、スーパー頼みのままでは胃袋が守れないという危機感が原動力だったようだ。
農協からの概算金の額も農家に知らされ、もうじき稲の刈り取りが始まろうとするなか、知り合いの農家の方々も快く応じてくれて必要量の確保には目処がたったという。自分やその家族が食べるコメのみならず、せめて周囲の仲間内くらいはコメに確実にアクセスできる状況を担保し、みんなで支え合って「かかりつけ農家」を実践しようという取り組みである。知人が「○○さんのコメは美味しい」と太鼓判を押し、コメ騒動よりも以前から直接取引をしていた農家の方も契約量を増やしてくれ、精米代が10㎏につき100円かかってもなお、市販のコメよりははるかに安く手に入れることができる。しかも美味いのだから言うことなしである。概算金が跳ね上がっていることで新米は高値が続くとみられ、スーパーの店頭価格は来年もまた高値が続くのだろう。そうしたなかで、消費者として農家と直接対面して信頼関係を切り結んでいくというのは先駆的である。
ただ一方で、農家が稲刈りを終えて脱穀し、籾摺りをへて玄米の状態にした後、誰がどうやって管理するかが難点だった。収穫は年に一度きり。農家によっては大量に生産しているところもあり、玄米は保冷庫で管理されることになる。農協や法人の大規模な保冷庫に入れてもらえる場合もあれば、直接取引分や縁故米は農家がそれぞれ自身の保冷庫に管理していたり、保管料を払って法人の保冷庫を使わせてもらったり、様々である。「うちは他の直接取引の方の玄米で保冷庫はパンパンだから管理はできないけど、刈り取り後に一度に引き取れるなら30㎏×6袋くらいなら融通できるよ」という農家だっていた。その場合、消費者側すなわち知人たちは玄米を購入できたはいいものの、180㎏という大量のコメを冷蔵庫で管理することになる。
斯くして思い切ってコメの保冷庫を購入しようと製造企業に連絡を入れたものの、今年は玄米保冷庫の需要が凄まじいそうで製造が追いついておらず、納品が3カ月後になるとか、1年待ちとかばかり。街のホームセンターを走り回ってかつがつ旧型保冷庫の新古品を見つけたものの、それだって運搬を担っている専門業者も引っ張りだこで大忙しなため、設置まで1カ月待ちなのだという。みんな考えることは同じなのか、保冷庫の奪い合いが起こっているというのである。個人で玄米用保冷庫を買うような人はまずいないだろうが、例えば飲食店が農家との直接契約に切り替えて完備したりすることもあるのだろう。誰もが今からの日本のコメ生産、流通はどうなっていくのか不安を抱えているなかで、既に知人たちみたく動き出していたようである。
こうした「かかりつけ農家」の取り組みは誰もが真似できるものではないが、消費者として漠然と口を開けて待っていただけではコメが手に入らないという状況が現実味を帯びるなかで、みずから動いて農家と対面の関係を築き、安心安全なコメをありがたく頂くというのは素晴らしい取り組みのように思う。「当たり前」だった日常が崩れ去ったときに慌てるのでは遅いのだ。農家も利益を得られるように消費者として支え、大切に育てられたコメをいただいたことに感謝しつつ胃袋を支えてもらう。案外、「かかりつけ農家」の需要はあるように思う。
吉田充春

















