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西側メディアの戦争報道に見る心理操作 真実はこうして葬られる イスラエルの爆撃受けたイラン国営放送が注意喚起

イスラエル軍の攻撃を受けて燃えるイラン国営放送本部のテレビ局(6月16日、テヘラン)

 アメリカやイスラエルなどの西側陣営が関与する軍事行動において、普段から客観性や中立性を標榜する主要メディアの報道は一斉に画一化し、これらの国が国際法違反や人道的大惨事を起こしても、それを「軍事的成功」として伝える現象が一般化している。イスラエルによる20カ月にわたるパレスチナ・ガザ侵攻、アメリカによるイラン核施設への先制攻撃などの報道でも「人質奪還」「イランの核開発」という文言が必ず添付され、正当性があるかのような印象操作がおこなわれている。6月16日にテレビ局がイスラエルの先制攻撃の標的となったイラン国営放送(IRIB)は、このような西側メディアによる心理操作についてSNSで注意を喚起している。

 

◇      ◇

 

 イスラエルがイラン核施設などを先制攻撃した後の6月16日、イラン国営放送本部があるテヘランのテレビ局もミサイル攻撃の標的となり、生放送中のスタジオは爆発音と粉じんに包まれた。複数の従業員が負傷し、放送は中断を強いられた。イスラエルのネタニヤフ首相は同放送局を「国民から現実を隠蔽する全体主義政権の道具だ」などとのべて攻撃を正当化した。イスラエルはガザでも「口封じ」のためにジャーナリストを狙い撃ちし、戦場の状況を伝えるために世界中からガザに入ったジャーナリストを含めて現在までに170人以上の記者を殺害している。

 

 米『CNN』は、テレビ局攻撃について「この建物は民間活動を装ってイラン軍に利用され、センターのインフラや資産を軍事利用していた。今回の攻撃でイラン軍の軍事能力に直接打撃を与えた」とするイスラエル軍(IDF)の主張のみを伝え、「IDFは、攻撃に先立ち、住民に電話連絡などで効果的な事前警告をおこない、民間人への被害を極力抑えるため精密に攻撃を実施したとしている」とも付け加えてイスラエル軍の違法な攻撃を補完した。NHKをはじめとする日本メディアの報道も概ねこれにならっている。

 

 攻撃を受けたイラン国営放送が管理する「イランラジオ」のX公式アカウント(日本語版)は、これらイスラエルやアメリカの軍事行動をめぐる報道における「心理操作」について次のように注意を呼びかけている。

 

心理操作の5つの手法 イランラジオの発信から

 

 人道的な大惨事がどうして軍事的な成功に見えてしまうのか。それは、西側メディアによってそう見せられるのだ。

 

 イランとイスラエルの12日間にわたる戦争の報道で、「精密攻撃」や「完全破壊」といった言葉を欧米やイスラエルの政治家たちが何度も口にするのを耳にされたことだろう。だが、なぜ彼らは知らないはずのことをあれほど自信たっぷりにしかも詳細に語ることができるのだろうか? 答えは簡単だ。彼らは事実を伝えることよりも視聴者の思考を操作することを優先しているからだ。

 

 そのためにいくつかの手法を用いている。

 

 一つ目は、言語のフレーミング(同じ情報でも、伝え方や表現方法を変えることによって、受け手の判断や意思決定に影響を与えること)だ。西側メディアは「テロリスト」「付随的被害(コラテラル・ダメージ)」「ピンポイント攻撃」などの言葉を使って民間人の殺害を正当化し、あたかも当然のことのように報道する。たとえばイスラエルの攻撃によって無防備な女性や子どもたちが命を落としても「イランの核開発の阻止」や「テロの脅威を未然に防ぐ」という大義名分が語られる。

 

イスラエル首相府の公式Xが「子どもの遺体」として流した写真(イランラジオのXより)

 二つ目は、選択的な怒り。たとえばイスラエル人が避難中に転んだだけで、西側メディアは大騒ぎをするが、パレスチナの医師やジャーナリスト、子どもが何百人も殺されていることについてはどうだろうか? 報道は沈黙する。


 ちなみに、パレスチナ報道をめぐり、西側メディアで「テロによって殺されたイスラエル人の子ども」として黒焦げの遺体の画像が流れたが、それが犬の死骸だったことが後になって明らかになった。だが、その偽りの画像は報復(ガザ攻撃)を正当化するための象徴として使われ続けた。

 

 三つめは、文脈の消去。たとえば「イスラエルがロケット弾に反撃」といった見出しはよく見かけるが、その1週間前にイスラエルが無差別攻撃で200人の民間人を殺害していたことについては報道されない。

 

 四つめは、人間性の非対称な描写。ハマスの人質となったイスラエル人の家族が泣いている姿は感情的にクローズアップされて報道されるが、パレスチナ人の苦しみは冷たい数値や遠くからの映像でしか伝えられない。

 

 五つめは、検閲と文化的圧力だ。ロジャー・ウォーターズ(英国のロック歌手)、ジジ・ハディッド(米国のファッションモデル)、エマ・ワトソン(ハリウッド女優)などの著名人、「ボブ・ヴィラン」や「ニーキャップ」などのミュージシャンたちは、イスラエルのジェノサイドを公然と非難し、反シオニスト的なメッセージを発信しているため、「グラストンベリー」(英国)などの音楽フェスでの出演において検閲され、排除されることがある。

 

 これは単なるプロパガンダではなく、構造的なナラティブ(語り口)の支配だ。嘘をつかなくても、真実はこうして静かに葬られていく。そうした現実に気づくことこそが意識の始まりだ。だからこそ、皆さんが次に「テロリズム」「精密攻撃」といった言葉を耳にされたときには、ぜひ少し立ち止まって冷静に考えてほしい。

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