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響灘に集中する低炭素ビジネス 洋上風力やCO2封じ込め

 10月中旬になって、 下関市安岡の沖合にゼネコン準大手の前田建設工業 (東京都) が国内最大の洋上風力発電20基 (総出力6万㌔㍗) を設置する計画を発表し、 地元安岡地区の住民をはじめ響灘で操業している漁業者たちを驚かせた。 それとは別に同市豊浦町川棚の沖合でも最大10基の洋上風力発電を設置する計画が動くなど、 にわかに下関が自然エネルギーのメッカのような地域になろうとしている。 この善し悪しもさることながら、 いったいなにが起きているのか、 だれが進めているのかを疑問視する声が高まっている。 東日本大震災と福島原発の爆発事故後、 再生可能エネルギー・ビジネスが新たな産業バブルとして脚光を浴び、 補助金に群がる形で企業が色めき立ち、 金融の世界では投資熱が煽られてきた。 山口県内では東の上関原発計画が頓挫したもとで、 今度は西の下関において経済産業省主導の新産業施策が集中的にあらわれている。
 
 経済産業省の肝いりで推進

 安岡沖の洋上風力発電は、 約2年前から水面下で準備が進められてきた。 調査をおこなってきたのは島根や鳥取でも風力発電の設置をとりくんでいる㈱アイ・エス・シー山口 (ISC)。 関係する漁協に顔を出していたのはフジ建設工業で、 風況調査を始めてまもなく、 安岡沖合の環境条件が洋上風力発電の設置に適していたということで、 フジ建設工業の常務取締役の男性が代表者となってコンサルタント会社であるISCを立ち上げ、 調査を継続。 参入に意欲を見せていた前田建設工業との窓口になったといわれている。
 関係者によると、 藍島 (北九州市) 周辺なども設置の候補地としてあげられていたが、六連島の自衛隊が近く電波障害があるということで却下。 送電に都合のいい条件の陸から離れすぎない場所で、 しかも遠浅であることから安岡の沖合に決定したといわれている。
 風況調査は洋上でおこなうことも計画されていたが、 漁民が反対したため、 昨年から今年2月にかけての約1年間、 漁港の端の観音原といわれる岬にアンテナをたてて実施された。 沖合でのボーリング調査もおこなわれ、 これからは環境アセスメント調査を最低1年間かけておこなう手順になっている。

 漁業者に何も知らせず 上から勝手に進める

 今回、 突然 国内最大の洋上風力発電を設置 の報道がされ、 地元漁師たちはその規模など知らなかったことから、 みなが驚いている。 調査段階では20基という数字は知らされず、 せいぜい2~3基と思っていた人人も少なくなかった。 調査については同意したものの、 設置については協議さえしていない状態で、 だれが勝手に決めたんだ? という憤りが広がっている。 いまだになんの説明もなく、 テレビや新聞で一方的に知らされたにすぎないからだ。 廣田 (県漁協副組合長、 彦島支店運営委員長) が勝手に進めている という意見も多く、 漁協合併してからは意志決定が民主主義的でなくなったことも同時に問題にされている。
 設置が予定されている海域は山口県漁協の下関外海統括支店の蓋井島を除く七つの支店 (南風泊・彦島・伊崎・安岡・吉見・吉母・六連島) の共同漁業権が設定され、 複数の浜の漁師たちが操業する場所として管理されている。 漁業補償交渉もまったく白紙の状態で、 実際に何基つくる計画なのかも含めて、 正式には漁協関係者たちのもとにも話が届いていない。 今後どうなっていくのかはわからない状態 といわれている。 まだまだ計画段階に過ぎないが、 国内最大 発表後、 前田建設工業の株価だけは上がった。
 豊浦町川棚沖の洋上風力発電計画は、 沖合2㌔地点に浮かぶ厚島周辺への建設を視野にこれから調査が進められていく予定になっている。 関係者によると、 1、 2年前から洋上風力発電設置の話はされていたが、 いったんは立ち消えになっていた。 それが3・11以後の流れのなかで復活し、 設置に向けた動きが急ピッチに進みはじめた。
 すでに風況調査、 ボーリング調査も許可した段階で、 今後は洋上風力発電の設置を前提にして、 厚島の陸上に小型の陸上風力発電を設置して風況調査をおこなう予定になっている。 地権者も僅かの無人島だ。 調査に乗り出しているのは㈱NTシステムズ (東京) で、 設置にかかわる企業もすでに決まっているのだと話されている。
 さらに環境ビジネス関連では、 10月末になって、 垢田の沖合人工島の周辺海域と沿岸 (垢田町、 新垢田東町、 新垢田西町、 新垢田北町) で、 二酸化炭素を地中に貯留して封じ込める、 CCS といわれる技術の実証実験にむけた事前調査がおこなわれた。 4年前から経済産業省の委託を受けて調査にあたってきたのが、 日本CCS調査株式会社 (東京都千代田区丸の内) という企業で、 株主には東京電力をはじめとした電力会社11社や出光興産、 コスモ石油などの石油元売り、 三菱商事、 住友商事、 丸紅、 伊藤忠商事といった総合商社、 アラビア石油や三井石油開発といった石油開発会社、 東京ガス、 大阪ガス、 三菱化学ガスなどのガス会社、 エンジニアリング大手や、 鉄鋼大手など大企業三六社が名を連ねている。
  低炭素社会 温暖化防止 を掲げ、 陸上で排出される二酸化炭素を回収して、 地中1000㍍以深の帯水層 (砂岩) と呼ばれる地層に超臨界の状態にして圧力をかけて注入し、 半永久的に封じ込めるための実証実験の場として、 響灘に目をつけている。 経済産業省の肝いりで進めている 二酸化炭素撲滅運動 の最先端の実験場というもの。
 響灘を一つの舞台にして、 洋上風力、 二酸化炭素封じ込めなど各種の低炭素社会ビジネスが動きはじめている。 響灘では八ッ場ダム以上に無用の長物である沖合人工島ができて以後、 周囲の漁場が壊滅し、 歴史的に見てもマリンピア黒井・信漁連問題によって漁協経営が破綻に瀕し、 苦しい状況がある。 そこに陸側からの開発圧力が加わり、 漁場を取り上げていく流れにもなっている。
 山口県内における自然エネルギーの状況を見てみると、 陸上の風力発電が設置されているのは八カ所で、 瀬戸内海側は平生町の2カ所のみ。 あとは長門市の油谷町や日置町に計3カ所、 下関の3カ所と響灘や日本海側に集中している。 とくに出力規模も大きく本格的に設置されてきたのが下関市内の豊北町や豊浦町の山山で、 いつの間にか風力発電が林立する状態になった。 これは震災以前から進んでいた。
 豊北町では白滝山に きんでん が設置した出力2500㌔㍗の風力発電が20基 (総出力5万㌔㍗) そびえ立っている。 さらに滝部の境下と寺地の山の尾根にかけて設置されているのが2500㌔㍗7基と1500㌔㍗5基 (総出力2万5000㌔㍗)。 豊浦町の山の尾根には豊浦風力発電株式会社が2000㌔㍗10基 (総出力2万㌔㍗) を設置している。 これだけですでに約5万世帯分ほどの年間電力消費量はまかなえている計算になる。
 さらに きんでん山 と化した白滝山にはきんでんがメガソーラー (1200㌔㍗) の検証施設もつくり、 11月から中電に売電することになっている。
 こうした風力発電やメガソーラーといった自然エネルギーの設備認定など許認可を持っているのが経産省の出先にあたる中国経済産業局で、 県、 市といった自治体には直接の許認可権限はないのが実情だ。
 日本国内では東日本大震災と福島原発の爆発事故後、 とりわけ原発や放射能汚染への嫌悪感が高まるなかで自然エネルギーが脚光を浴び、 再生可能エネルギー・バブルが過熱してきた。 旗を振っているのが原発推進の総本山でもある経済産業省で、 原発を再稼働させて原子力産業利権も温存しつつ、 一方で自然エネルギーという産業分野への補助金を手厚くして脱原発ビジネスも煽ってきた。 米国のオバマ政府が打ち出したグリーン・ニューディールといわれる景気対策の真似事である。
 米国は2000年のITバブルがはじけた後に住宅バブルをひねり出し、 サブプライムローンが破綻してそれもダメになったところで、 今度は 地球温暖化防止 低炭素社会 を掲げて原子力や自然エネルギー導入による産業創出、 投資へと舵を切ってきた。 CO2排出権というただの気体を金融商品化したり、 温暖化防止に絡んだ投資をひねり出すというものだ。 大不況に陥った1930年代にルーズベルトがやった公共投資の拡大、 すなわちニューディール政策を現在の大不況に当てはめて、 当時のようなダムや巨大な道路ではなく、 エネルギー・環境分野への公共投資を増やす、 税金投入による景気刺激策である。
 オバマ政府になってから1000億㌦ (約8兆円) 規模のクリーン・エネルギー融資を打ち出し スマート・グリッド (電力網のIT情報技術との融合) の導入で約5000㌔㍍の送電網の新設・更新も発表。 そのために4000万戸にスマート・メーター (電力網を監視する装置と情報をやりとりする装置) を設置するとか、 次次と施策が打ち出され、 国家財政を注ぎ込みながら脱温暖化ビジネス路線を進み始めた。
 そこにヘッジファンドなどなんでも証券化する貪欲な金融勢力が飛びついて、 新たな投機の具にしている。 太陽光発電や風力発電など 再生可能エネルギー といわれるものの拡大、 植物によるバイオ燃料の開発、 家庭の電気コンセントから充電することのできるプラグイン・ハイブリッド車の普及といったものが次次と出てきて、 世界最大の原発製造メーカーであるGE社 (ゼネラル・エレクトリック社。 福島第一原発の製造メーカーで、 震災後は宮城県に進出) などが目の色を変えて参画している。 低炭素社会インフラにより空前の規模の投資がおこなわれる算段になっている。
 そうしたアメリカの成長戦略の変化を反映して、 日本国内でも急激に環境関連ビジネスの市場が拡大しようとしている。 証券会社なども新たな投資分野だといって興奮し、 いずれ100兆円規模の市場になるのだ といっている。
 震災後、 菅政府のもとで 再生可能エネルギー特別措置法 が出され、 今年7月からは太陽光や風力などで作った電気を電力会社に買わせて、 その負担を利用者全体に転嫁する 固定価格買い取り制度 が導入された。 補助金がエネルギー産業に投じられることによって自然エネルギー・バブルに火がついた。
 ただ、 民主党政府が模範にしている北欧、 ドイツ、 スペイン、 チェコでは補助金支援によってその手の産業投資が拡大したものの、 今度は政府の支出が膨大なものになって国家財政が蝕まれ、 電気料金への転嫁によって国民負担だけが増大するという悪循環を生み出している。 太陽光発電で有名なスペインは国家破綻に瀕している。 日本国内でも環境税が導入され 政府の補助金に頼るビジネスがにぎやかになっているにすぎない。
 震災後、 54基の原発が停止したもとでも国内の電力はまかなえた。 というより、 日本の電力需要は火力発電と水力発電で生み出される電力の総量を上回ったことなどない。 国民生活にとって電力が足りないから原発がつくられてきたわけではなく、 アメリカに押しつけられて地震列島に54基も建設するというバカげたことをやり、 爆発事故まで引き起こした。 にわかに熱を帯びている自然エネルギーも脱原発をするから台頭しているわけではなく、 実際には原発も再稼働である。
 人人の不安をかき立てながら 低炭素社会 温暖化防止 といってはしゃいでいるのはだれかを見てみると大企業ばかり。 大不況だからこそ補助金すなわち国の財政に群がるビジネスが花盛りになっていることを物語っている。 下関であらわれている現象もその一環にほかならない。

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