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自然エネルギーの草刈り場と化す関門地域 ビジネスのために脅かされる暮らし

 経済産業省がお墨付きを与え、準ゼネコン・前田建設工業(東京)が下関市安岡沖に持ち込んだ4000㌔㍗×15基(6万㌔㍗)の洋上風力発電建設計画に対し、地元住民の粘り強い反対運動が5年にわたってたたかわれている。その対岸、北九州市若松沖では九電と西部ガスが出資するひびきウインドエナジーが5000㌔㍗×44基(22万㌔㍗)の洋上風力発電をつくる計画を動かし、再生可能エネルギー基地にしようと北九州市や地元財界が前のめりになっている。この響灘をめぐって最近、下関市豊浦町沖に、前田建設工業の計画よりも大きい10~20万㌔㍗規模の洋上風力発電を建てる計画を第一建設機工(兵庫県)が進めていることが明らかになった。さらに下関市彦島には、国内最大級のバイオマス発電を九電のグループ会社が計画し、来年6月にも着工しようとしている。安倍晋三や麻生太郎の選挙区である関門地域が、再生可能エネルギー・ビジネスの草刈り場のような様相を呈しているのである。実際に何が動いているのかをまとめてみた。


 安岡沖洋上風力をめぐる最近の動きのなかで特徴的なのは、山口地裁下関支部が住民や漁業者の訴えを退ける判決を連続して出していることだ。


 4月には、前田建設工業が反対する会の4人の住民に対し「2014年九月の環境調査を妨害し測定機器を壊した」といって1000万円以上の損害賠償を請求した裁判で、下関支部の泉薫裁判長は、誰がどうやって壊したかの立証はないまま、4人に524万円の支払いを命じる判決を下した。


 住民側は控訴したが、前田建設工業は控訴審で、1000万円に加えて再調査(2015年8月)の費用700万円を新たに請求してきた。この調査をめぐっては、同時進行の刑事裁判のなかで、前田建設工業が測定機器を入れたロッカーの中にコンクリートブロックを入れて壊れるような仕かけになっていたことも発覚しており、「住民を罠にはめるようなやり方」だとその企業風土を住民が問題にしている。


 今月3日には、山口県漁協ひびき支店の3人の漁業者が洋上風力の工事差し止めを求めた裁判で、下関支部は漁業者の訴えを棄却した。判決は、漁業者らのアマ漁の権利は認めたものの、この海域では漁業権管理委員会は結成されていないと主張、風車建設の影響は大きいとはいえず、「再生可能エネルギーの創出をめざすという公的目的を持つ事業であり、受忍限度の範囲内」とした。


 判決に対して、住民は「国策を忖度した不当判決」と大話題にしている。どちらの裁判も控訴するとともに、裁判だけで事が決まるわけではないとして、反対する会は10万人署名をさらに広げること、12月9日には4度目の1000人デモ行進をおこなうことを決めた。裁判倒れが心配されるなかで、この経費を何が何でも捻出しようとする努力も始まっている。最近では、まちづくり協議会が主催する安岡マルシェ(21日開催、安岡駅前)に出店して楽しく稼ごうという輪が広がり、地元企業の支援も大きなものになっている。

 

洋上風力発電建設に反対する3回目の1000人デモ(2017年5月、下関市)

北九州は再エネ基地に

 

 一方、対岸の北九州市響灘地区は、2015年に環境省が「国の洋上風力発電推進のモデル地域」に指定し、麻生太郎実弟の九州経済連合会会長・麻生泰や北九州市長・北橋健治が発起人となって「響灘エネルギー産業拠点化推進期成会」を発足させて以来、動きが活発になっている。当初「洋上風力140基」という計画があったが、現在進行しているのは、九電や西部ガスが出資するひびきウインドエナジーによる、5000㌔㍗×四四基の洋上風力発電をつくる計画である。


 すでに響灘地区には、新日鉄や三井物産が出資するエヌエスウインドパワーひびきの陸上風力発電10基をはじめ17基の風力発電が稼働しており、これにウインドエナジーの計画や、丸紅による洋上風力計画(3000㌔㍗×1基)などを加えると、合計63基の風力発電ができることになる。


 それだけでなく同地区には、西部ガス出資のエネ・シードひびきや高田屋をはじめ20事業者による太陽光発電が合計11万九127㌔㍗あり、空き地は太陽光パネルだらけになっている。加えてオリックスが1基、Fパワーが1基、バイオマス火力発電所(合計22万4000㌔㍗)をつくっている。オリックスはもう1基、5万㌔㍗のバイオマス発電所をつくる計画をうち出している。


 そうしたなかで最近、下関市豊浦町沖で、安岡沖よりもさらに大規模な洋上風力建設計画が動いていることが明らかになった。


 事業者は兵庫県に本社がある第一建設機工で、6年前から風況調査などを始めていた。同社の担当者によれば、洋上風力の規模は10万~20万㌔㍗で、7000㌔㍗の風車を20基建てる計画を考えているという。担当者は「今段階では中国電力が受け入れる容量がないといっているので、設備を増強するための接続検討依頼を出しているところだ。年内に結論が出るだろうから、そうなれば年明けにも環境アセスを始めたい。大手の出資者も募っており、中電との関係がうまくいけば話がまとまる」とのべている。


 さらに下関市彦島迫町には、九電のグループ会社3社が設立した下関バイオマスエナジー合同会社(福岡市)がバイオマス発電所をつくる計画を進めている。出力は7万4980㌔㍗で、九電グループが建設から運転までを一貫して管理する、国内最大級の木質バイオマス発電所になるという。中電に売電し、年間120億円の収入を見込んでいる。


 下関バイオマスエナジーは今年2月、下関市と市所有地の借地契約を結び、来年6月着工、2022年1月の操業開始をめざしている。燃料である木質ペレットは1年間に30万㌧使うが、それはタイやカナダから輸入するとしており、地元雇用は2人と発表している。

 

九電が太陽光の出力制御

 

 これら再生可能エネルギーに参入してくる企業の多くは、地域住民に電気を安定的に供給するという公的な目的からやっているのではない。安倍政府は2030年度の電源構成に占める再生エネの比率を22~24%とし、風力や太陽光、バイオマスに参入する企業を増やすためにFIT(固定価格買取制度)で20年間、その電気を高い価格で電力会社に買いとらせることを保証している。その国策の下で各企業が再生エネ・ビジネスにわれ先にと乗り込んできているのが実態だ。


 それを象徴する事件が、最近九州で起こった。
 今月の13、14の両日、九電は離島を除き国内ではじめて、太陽光発電の事業者とつながる送電線を切り離す「出力制御」をおこなった。2012年のFIT開始以来、土地が安く日照条件のいい九州では太陽光発電に事業者が殺到し、導入量の合計が807万㌔㍗になったうえ、その両日は九州の広い地域で晴天となり、太陽光の発電量が急速に増えたからだ。たとえば13日は発電量が最大になる午前11時~11時半の時間帯に、供給力は1242万㌔㍗になるが、需要は758万㌔㍗にとどまる見込みとなった。そのまま放置すれば需給バランスが崩れ、大規模停電(ブラックアウト)になる危険性が出たため、「出力制御」に踏み切った。


 電力は同時同量(発電量=使用量)でなければ、周波数が乱れて、ブラックアウトにつながる。だから電力会社は年間計画、時間計画にもとづいて数分単位で調整している。


 そして、太陽光は晴天で発電量が増えるが、夜間や雨の日はゼロに近くなり、供給を調整することは困難だ。一方原子力は常に臨界を維持しなければならず、出力調整は困難、というよりやれば大事故につながる。そこで電力会社は火力発電の出力を増やしたり絞ったりして発電量を調整してきた。しかし今回、火力による調整ができないほど太陽光の発電量が増えた。それは川内と玄海の原発が再稼働し、火力の出力調整の幅が狭くなったからでもある。


 これが風力発電になると、太陽光に輪をかけてひどい事態が生まれるということを専門家は指摘している。風力発電は風速12~14㍍という、傘がさしにくく歩きづらいほどの風が吹くとき、はじめて効率よく発電する(定格出力)。風速3㍍以下のそよ風程度では風車が回っていても発電はできないし、砂埃が立つ風速6~7㍍でも定格出力の8分の1程度。一方、風速25㍍以上の暴風になると自動停止し、羽は破損しないよう風に平行に向きを変える。それ以上の強い風では、台風20号で淡路島の風車が倒壊したが、そのようなことも起こりうる。風がなくても、吹きすぎてもダメというきわめて不安定な電源であり、需要にあわせて発電量を調節することができない。


 北海道の地震で道内がブラックアウトになったときも、風力は役に立たなかった。北海道では大型風力や太陽光、バイオマスが増え、合計で約138万㌔㍗になり、それは地震で損傷し自動停止した苫東厚真火力発電所(165万㌔㍗)に匹敵するといわれる。しかし、地震で主力の火力発電所がダウンしたさいに、同時に真っ先に解列(送電線から外されること)されるのが風力や太陽光だった。


 こうした緊急時に限らず、風力が多い北海道電力や東北電力は、風の強い日は火力の出力を下げるのではなく、風力からの送電を停止して対応している。風力は頻繁に変動するので、それにあわせて火力の出力を上げ下げするとよけいに燃料を食うからだ。

 

大停電辞さぬ反社会性

 

 ようするに再生エネは、今のままでは電気の安定供給に役立たない。むしろ不安定供給をつくり出している。役に立たないが、その電気を売ればFITの仕組みによって電力会社に高く買ってもらえる構造のなかで参入企業が後を絶たない。それはもうけのためにはブラックアウトになってもかまわないという反社会性をあらわしている。FITでは、太陽光について1㌔㍗アワーあたり40円から20円に引き下げる動き(来年4月1日に稼働していない事業者対象)がある一方、洋上風力は同36円、バイオマスは一般木材バイオマスが同21~24円、間伐材由来の木質バイオマスが同32~40円と高い設定にしている。


 そしてこの高い買取価格を維持するために、すべての国民から「再生可能エネルギー促進賦課金」を毎月の電気料金の中に含めて徴収している。それはFITができてから上がり続け、現在一家族で毎月約1000~2000円である。洋上風力の乱立する欧州の例を見ると、今後桁違いに高くなることは容易に想像できる。


 結局、FITで参入企業には20年間の利益が保証される一方、国民はその負担を押しつけられたうえ、風力発電の出す低周波音によって、めまいや頭痛、吐き気、不眠などで20年間も苦しまなければならず、漁場も破壊されて生活の糧を奪われる事態に見舞われようとしている。しかも欧州では、環境規制が強化されて風力はすでに頭打ちになり、風力の資材があまりにあまって、その在庫処理を日本が押しつけられている関係にほかならない。


 バイオマス発電を全国展開しているのがオリックスだが、それもFITでバイオマスの電気を高く売ることができるからだ。今年5月、政府は森林経営管理法を改定し、自治体が森林所有者を「管理能力なし」とみなしたら、その森林を企業に委託することができ、樹齢五五年以上のものはすべて伐採できるようにした。バイオマス事業者はこれに拍手喝采を送ったが、そのかわり100年単位で維持しなければならない森林の生態系は崩され、自然災害の頻発する日本で森林の水源涵養・洪水防止機能が犠牲にされることになる。


 関門地域で暮らす地元住民の意志などお構いなしに、県外から次次と大企業が押し寄せ、一私企業の目先のもうけのために再生エネ・ビジネスの計画をごり押ししようとしていることが大矛盾となっている。こうした大企業による略奪的な郷土破壊に対して、風力発電の低周波音による健康被害を心配し、子や孫のために安心して暮らせる郷土を残そうとする住民の運動が、地域全体の結束力を固めながら広がりを見せている。


 現役首相や大臣が「やめろ」と指示すれば忖度するはずの経産省が、むしろその地盤において心おきなく旗を振り、推進している光景は、その指示が「やれ」なのだと万人に実感させている。なお、安岡沖洋上風力については、前田市長が「迷惑だ」と反対を表明し、地元同意などないに等しいのが現実である。地方自治体や地元の了解もないのに進められるというあり得ない事態が進行している。

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