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どうなる?下関の地域医療体制 2病院統合の新市立病院基本計画をめぐる意見 病床削減で何が起きるか【記者座談会】

(2026年6月15日付掲載)

下関市の新病院建設予定地(幡生操車場跡地)

 下関市は、市立市民病院(向洋町)と下関医療センター(上新地町、旧厚生病院)を統合し、幡生操車場跡地の市有地(約4万2300平方㍍)に整備する新病院の基本計画を策定した。6月市議会には建設・整備にかかる費用419億6000万円の債務負担行為の設定(5年間)が提案されており、議案が可決されれば2031年度中の完成をめざしてハードの整備事業が進み始める。まだ積み残している課題も多くあり、十分な協議のうえで市民が安心して生活できる医療体制を整えることが必須となっている。下関の地域医療の今後とかかわって、今どこまで進んでいるのか、どんな意見が出ているのかを記者座談会で議論した。

 

  下関市の旧市部にある四つの急性期病院の再編は2015年ごろから議論されてきた。2017(平成29)年に出された「中間報告」では、500床規模・医師200名体制の基幹病院を二つほど、もしくは1000床規模の基幹病院を一つ建設するといった大きな構想が打ち出されたので、記憶している市民は多いと思うが、その議論はストップして進まなかった。経営母体も医師を派遣する医局も異なる病院を統合するのは簡単なことではないし、済生会と関門医療センターは移転したさいに建物を新築している。その償還もまだ残っている状態で「新しい病院を建てましょう」とならないのは無理もない。議論が止まったままコロナ禍を迎えた。

 

  市民からするとコロナのときは「病院が1カ所に統合していなくてよかった」というのが実感だ。大規模病院に一極集中していたら、そこでクラスターが発生しようものならすべての医療が止まってしまう。国の医療費抑制策、病床削減でいかに医療体制が脆弱になっていたかを浮き彫りにしたのがコロナ禍でもあったと思う。

 

 だが、もともと下関は人口減少が急速に進んでいるうえ、コロナが明けても減少した患者数が戻らず、病院の経営環境が厳しさを増し、再編を急がなければ持たなくなるということで、2023(令和5)年2月、「4病院意見まとめ」が出されて議論が再開された。4病院を一度に再編するのではなく、まずは建て替え時期を迎えた市民病院と下関医療センターの2病院を統合し、3病院体制で急性期医療体制を構築するために機能再編を検討すること、新病院は2病院(済生会下関病院、関門医療センター)を上回らない程度の規模とすること――といった内容だ。

 

 そこから基本構想の検討委員会や、医療関係者などでつくる「調整会議」、四病院での協議などがおこなわれて、2024年6月に基本構想が策定されたのだが、その後も病床規模や診療科をどうするかの議論が続いてきた。人口・患者数が減少している状況を踏まえて決めなければ3病院が共倒れになる可能性があるという危機感があるのは当然のことで、なかなか決着がつかない部分でもある。今回、基本計画が発表されたものの、まだ4病院の最終的な合意には達していないことには留意する必要がある。しかし、どこかで決断をしないといけないのも事実だ。

 

  他の医療機関が危機感を強めている大きな要素に、2024年度の診療報酬の改定で赤字の医療機関が続出したことがある。人手不足を背景に人件費も上昇しているし、医療資材など含めてすでに異常な物価高騰が続いていた段階にもかかわらず、政府は社会保障費を「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」といい、この年の診療報酬は+0・88%とほぼ増額なしとした。その影響は甚大で、昨年11月に厚労省が発表した調査報告でも、2024年度はベッド数が20床以上ある一般病院の72%が赤字。日本医師会と6病院団体が昨年4月に発表した調査結果では医業利益が赤字の病院は約7割に及んだ。市内の急性期4病院ももちろん赤字だった。

 

 今年度の診療報酬の改定で2・22%引き上げられたが、状況を改善するほどの引き上げ幅ではなく、医療機関の苦境は続いている。近場でいえば久留米市の久留米大学医療センターが経営状況の悪化を理由に2027年12月までに閉鎖する方針を出しているほか、北九州市の産業医科大学若松病院も同年5月をめどに閉院することを発表している。

 

 そんな状況のなかで新病院が建設されれば、患者の奪い合いになってますます厳しくなるという危惧が関係者のなかにあるのだが、市民の命を守るためには地域内でしのぎを削るのではなく、政府に対してまともな医療費の支出を求めていくほかに解決の道はないようにも思う。

 

基本計画の病床数 今の市民病院と同規模

 

下関市立市民病院

  前置きが長くなったが、そうした背景のなかで一つの大きな論点になってきたのが病床数、つまり病院規模だった。基本計画では、現在の市民病院(382床)とほぼ同規模の364床とした。診療科は市民病院(35科)と下関医療センター(26科)の急性期機能を統合することを基本とし、計33科を見込んでいる。診療科をすべてこの場で列挙できないので、関心のある人は市ホームページから基本計画を確認してほしいが、小児科、産科はもうけない方針で、今まで市民病院にあった放射線治療科も「下関医療圏において充足している」ということで、もうけない方針が示されている。

 

 病床で見ると、HCU(高度治療室)は現行2病院で14床だったのを12床に、急性期病床は同516床を346床にする。地域包括ケア病床は同101床を廃止する。緩和ケア病床も市民病院に20床あったが廃止。感染症病床は市民病院が持っている6床を維持する。結核病床は下関医療センターに30床あったが廃止し、北九州側の医療機関を頼ることになるという【表参照】。

 

  基本計画(素案)のパブリックコメントには、この診療科と病床について、医療関係者と思われる意見も多く寄せられた。なかでも多いのが「放射線治療科」の廃止に関する意見だ。放射線治療をするのがリニアックという医療機器だそうだ。市民病院、済生会下関病院、関門医療センターの3病院がリニアックを持っているので、市民病院がやめても対応できるという判断だったようだが、現場の意見を見ると、「放射線治療は他の病院でできる」ということにはならないのが現実のようだ。記者の言葉より、記載された意見を読んでもらった方がわかりやすいので、いくつか紹介する。

 

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 ▼病院の方針として、がん診療において集学的治療をおこなうことを掲げながら、放射線治療科を廃止する意義がわからない。肺がんを専門とする当科としては、放射線単独での治療よりも化学療法との併用が圧倒的に多いので、放射線治療ができないのであれば、切除不能症例または術前治療の入る症例はすべて他院に紹介することになる。脳転移、脊椎転移など緊急を要することも多いので、その都度他院への対応は難しい。

 

 ▼がん治療体制について大きな懸念がある。放射線治療は下関医療圏で充足しているとあるが、放射線治療はCTやMRIのように検査ではなく治療だ。専門性の高い放射線治療は、疾患の専門医と放射線治療医が合同で治療をおこなう必要がある。とくに、肺がんにおいては薬物治療と放射線治療を同日におこなう必要がある。二つの施設で同時におこなう事は不可能であり、集学的治療の実施は困難ではないか。

 

 市立市民病院は下関医療圏で唯一の肺癌学会認定の肺癌教育認定施設だ。新病院で放射線ができなければ、現在当院がおこなっているレベルの肺がん治療を下関医療圏でおこなうことは困難と考えられる。つまり放射線治療を含む集学的治療を行うには他の医療圏へ紹介する必要がある。

 

 整形外科領域においては、転移性脊椎腫瘍による脊髄麻痺症状で受診される患者さんがいる。このような症状を認めた場合は緊急に放射線治療をおこなう必要がある。また、脳腫瘍(転移性を含む)においても緊急に放射線治療が必要となることがある。他の施設は治療連携をおこなっている間に症状が進行し、この対応の遅れが致命的となる。また、がん治療ができたとしても重大な機能低下(神経障害は一度発症すると改善は見込めない)を免れない状態になってしまう。機能再編の名目で、現在ある重要な治療を諦めて病院機能を下げる医療体制では、基本理念にある“市民が安心して利用できる病院”になることは難しいと考える。

 

 新病院で放射線治療をおこなわない基本計画を知って多くの職員が落胆し、新病院への希望を低下させている現実を理解してほしい。また、がん治療をおこなう専門医の確保も難しくなることが予想される(一部割愛)
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 このような内容だった。「放射線治療科」以外には、「感染症内科」を加えてほしいという意見も出ていた。市民病院は日本感染症学会教育認定施設で、日本環境感染学会教育認定施設も兼ねているという。2人目の感染症専門医を招聘(へい)しようとしているところで、継続的に感染症専門医を招聘する、または専攻医を育成するために「感染症内科」を標榜してほしいという要望だった。

 

 下関の4病院はおもに山口大学と九州大学から医師の派遣を受けていて、医師不足を背景に「機能を集約する」という方向で議論が進んでいるのだが、やはり現場の意見にしっかり耳を傾けて、集約していい機能と、集約できない機能とを十分検討する必要があるのではないか。「放射線治療科」については市の方も医師たちの意見を受けて「再検討すべき事項」として、設計段階までに協議していく方向を示しているので、改めて検討はなされそうだ。

 

地域包括ケア病床等 後方支援病床の充実を

 

  「小児科」「産科」の廃止に関しても意見が出ていたが、この二つに関しては現在の市民病院も、医師の派遣がなくなって「小児科」を2023(令和5)年4月に廃止しているのと、「産科」も分娩のとり扱いは2018(平成30)年度を最後におこなっていない。この辺りは全国的に小児科医や産科医のなり手がいない問題も背景にあるので、なかなか難しい現実もあるようだ。

 

 A 病床にかんする意見で大事だなと思ったのが、「緩和ケア病床や地域包括ケア病床など、後方支援病床の充実が必要だ」という意見だ。搬送されてきた独居高齢者が急性期治療を終えた後の退院調整が難航している状況があるという。これは高齢者のなかでよく聞く問題だ。独居高齢者は自力で生活できない状態で自宅に帰されても、生きていくことができない。自宅復帰をめざすための病床が地域包括ケア病床だが、市民病院に今ある地域包括ケア病床(54床)は看護師不足で休床している状態で、これまでは下関医療センター(47床)と連携して対応していたそうだ。これがゼロになったとき、受け入れ先があるのかという心配はたしかにある。

 

 また、自宅療養が困難な終末期の患者も多く、緩和ケア病床がなければ、一般病床への入院となり、そうするとDPC係数(2003年に導入された急性期病院の診療報酬制度で使われる医療機関別の係数)が低下するなど経営的にも不利になるという指摘もあった。「市内全体の各医療機関で役割分担して仕組みづくりをしていく」というのが市の方向性だが、その辺りも現場の実態をよく把握する必要があると思う。

 

 山口県の医師の高齢化は著しいし、医師不足や看護師不足、また診療報酬体系も含めた経営面など、医療をとりまく厳しい状況は長年の医療政策の帰結であって、一自治体なり一医療圏ですぐに解決できるものではないのは確かだ。しかし、「新病院はできたけど医療体制は後退した」という結果になるのでは本末転倒なので、建設する以上、本当に市民が安心できるいい病院にするために議論を尽くす必要があると思う。

 

交通手段への懸念 市民が通いやすいよう

 

 A これから建物の建設などハード事業が始まる。2026~27年度で入札公告準備・設計施工者選定、27~29年度で基本設計・実施設計をして、29年度から建設工事に入り、31年度中の完成をめざすスケジュールだ。病院の延べ床面積は約3万4200平方㍍を予定し、全体の総事業費は437億9000万円を見込んでいる。内訳は、設計監理費…8億7000万円、建設工事費…355億7000万円、医療機器等整備費(厨房機器や什器なども含む)…55億1000万円、用地費など…18億4000万円だ。

 

 C 建物と同時に、道路や公共交通の調整なども必須だと思う。今、市とJRとのあいだでJR幡生駅のバリアフリー化や、武久側からも駅に入れるようにする検討がおこなわれている。また、新病院はできるだけJR幡生駅に近づけた配置にし、駅とつながる敷地内通路のバリアフリー化や、雨に濡れずに通行できる通路を設置する構想などもあがっている。

 

 それに加えてもっとも市民から意見が上がるのが交通面だと思う。とくに高齢者が増えている彦島地区なんかは、今でももっとも近い下関医療センターまで数千円かけてタクシーで通わざるを得ない人も多い。病院を統合するということは、市民にとっては前進ではなく後退であることはまぎれもない事実。バスも運転手不足などで減便や廃線続きのなかで、いかに市民が通いやすい交通手段を整備していくかは大きな課題だ。

 

  病院の方に話は戻るが、今議会には整備費のうち、用地費などの費用を除く419億6000万円の債務負担行為の設定が提案されている。その財源だが、市が病院事業債で417億8630万円借り入れ(基本設計などにかかる経費は一般会計から1億7370万円を補助金として支出)、返済を新病院を運営する地方独立行政法人がおこなっていくことになる。で、市の負担分を病院に渡していくイメージだ。

 

 見込み通りの費用で収まった場合、病院側の負担額が約172億円、市の負担額が247億円になり、国からの交付税措置約138億円を除くと、実質的な市の負担額は109億円程度になる予定だ。建物は5年据え置きの30年払い、医療機器は1年据え置きの5年払いとなっていて、市の支払いで見ると、開院1年目から利子分約3億8000万円の支払いが発生するほか、2年目からは元金分の約6億9000万円の支払いが始まる。400億円でも下関にとってはかなりの大型事業だが、昨今の物価上昇の状況から、400億円で収まらない可能性も指摘されている。

 

財源の詳細は未定 必要な国・県の財政支援

 

  病院は市民にとって必要なものではあるが、一方で前田市長の下で大型投資が連発している状況に不安を感じている行政関係者は少なくない。今のところ病院整備についても市の負担分109億円の財源の詳細は決まっていない状態だ。国の交付税措置の平米単価が85万円にとどまっていて、新病院の平米単価103万円(25年3月)を下回っていたり、県の補助金の見込みが立っていない状況があるので、病院統合や地域医療構想の音頭をとってきた国・県にしっかりとした財政支出を求めていくのは必要だ。そして、市役所内では前田市長の「つくりたい」にストップをかける力も必要になるかと思う。

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