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介護保険3億円過大請求でも行政処分なしの謎 下関市令和2年度決算で発覚 政治家の介入なかったか?

 下関市議会の9月定例会で令和2(2020)年度の決算審査がおこなわれている。このうち介護保険特別会計の決算のなかに、「返納金」の収入未済額として2億円を上回る額が突然計上され、話題となっている。「返納金」は介護事業者が不正請求やミスで、受けとるべきではない介護報酬を受けとったことが発覚し、市が返還を求めるケースが大半を占める。この未返済額が2億円以上残っているということだが、昨年度に不正請求にかんする行政処分などはおこなわれていない。なぜ突然、2億円もの返納金が発生したのか、本当に返還されるのかという疑問の声が寄せられ、本紙では介護保険課にこの明細について聞いてみた。

 

決算書に2億円超もの未収金が出現

 

下関市役所

 問題になっているのは、令和2年度下関市決算書の250~252ページにある、介護保険特別会計の歳入(収入)の欄だ。「諸収入」のうちの「雑入」に分類されている「返納金」が、同年度の調定額2億2700万9971円に対して、実際に返納されたのは339万6998円であり、未収金(収入未済額)が2億2361万2973円にのぼっている。令和元(2019)年度決算書では、返納金の調定額が約355万円、収入未済額は約207万円であり、決算書を見る限りでは昨年度に巨額の案件が発生したとしか読みとれない。

 

 この2億円をこえる返納金の収入未済額とはいったいなんなのだろうか?
 介護保険課によると、「返納金」が発生するおもな理由は以下の2点だという。

 

 ①事業者による「算定誤り」が見つかり、支払った介護報酬の返還を求めるもの。このなかには、意図的な不正請求の場合と、意図的ではなくミスによるものが含まれる。

 

 ②利用者である高齢者が過去にさかのぼって所得申告をしなおした場合に、サービス利用料の負担割合が変化し、利用者に返納を求めるもの(たとえば、1割負担が3割負担になり、2割分を返納してもらうなど)。非常にレアなケースだ。

 

 「返納金」の大半が、①の事業者に返還を求めるもの、ということだ。「算定誤り」は、定期的におこなわれる実地指導(おおむね6年に1回)や、そのさいに悪質な違反が疑われたり、利用者などから通報を受けた場合におこなわれる監査(適宜)で明らかになるものだという。

 

 悪質な不正請求として行政処分がなされた場合には、過大請求分の返還を求めるため、決算書に記載されることになる。一方で、意図的ではないミスによるものと判断した場合、「過誤調整」という仕組みが適用されるのだという。これは、毎月の介護報酬を支払うさいに、返納すべき金額を少しずつ差し引いて相殺していく仕組みで、決算書には記載されない。「過誤調整」で相殺している途上で事業者が廃業した場合には、この仕組みが適用できなくなるので、その時点で残額を請求することになり、決算書に記載されることになるという。

 

返納金調定額の内訳

 

 さて、令和2年度の返納金の調定額2億2700万9971円は、4件分だという。うち1件は②の利用者が所得申告をし直したケースで、残り3件が事業者に返納を求めるものだ。この3件の内訳を簡単にまとめると、

 

 ・2013(平成25)年度に行政処分を受けたA社(当初の返還額は1029万8960円)が、毎年少しずつ返還しているものの残額。
 ・過誤調整をおこなっていたB社が廃業することになったため、残額を請求したもの(年度内に支払い済み)。
 ・2013(平成25)年度に監査によって算定誤りが見つかり、過誤調整をおこなっていたC社について、過誤調整が適用できる期間内に返済が終わらないため、現金での返納に切り替えたもの。
 ということのようだ。

 

 そして、「収入未済額」として計上されている2億2361万2973円は、A社とC社の2件分とのことである。昨年度の決算書に記載されているA社の残額はおおむね200万円規模であるため、2億円の大半はC社のものということになる。

 

 C社の算定誤りは、2013(平成25)年度に監査によって発覚したもので、当初の金額は市に返還する9割分、利用者に返還する1割分を合わせて3億円にのぼるものだったという。市が監査に入ったということは、利用者からの通報なり、悪質な疑いがあると判断したからである。しかし最終的に市はこの案件について「意図的ではないミス」であると判断し、行政処分をおこなわず、2015(平成27)年度に過誤調整を開始した。

 

 過誤調整はパソコンで自動的に処理をおこなうもので、データが残るのが該当するサービスを利用した月から数えて10年ほどだという。C社の場合、監査で5年分をさかのぼっているため、起点となるのが何年何月かは、今のところはっきりしない。介護保険課によると、これまでに過誤調整で数千万円が返還されており、あと3~4年は過誤調整の仕組みが利用できるが、期間内に返済が終わらないことから対処方法を検討し、納付書での返納に切り替えたとのことだった。令和2年度決算書に突然2億円が出現したのは、この返納方法の切り替えによるものだった。

 

 逆にいえば、この7年間、「過誤調整」という仕組みを適用したことによって、C社による3億円の過大請求事件は表沙汰にならずに来たということになる。残額の約2億円は、市に返還されるべき金額であり、利用者に返還されるべき1割分の金額も同時に残っているという。

 

 介護保険課は、金額が大きくなった理由について、「最低限の基準を満たしていなかった場合、介護報酬を30%減額して請求するルールがあり、その場合は加算もなくなる。基準を満たしていなかった一定期間分、利用者の人数分をかけて元から計算しなおすため」と説明している。

 

議会では質問も説明もなし

 

 介護事業者や介護関係者に聞いてみると、「ミスで3億円は考え難い」とだれもが指摘する。介護業界は人の出入りが激しいため、離職者の後任を補充できていないにもかかわらず、職員がいる条件で介護報酬を請求してしまうなどのミスは起こりうるという。だが、それでもなかなか億単位にはならないと、驚く関係者は多かった。

 

 確かに、2013~2020年度に、悪質として行政処分を受けた7件の返還額を見ても、大きいもので約2350万円や、約1000万円(前述のA社)などで、残りは400万~500万円、なかには10万円台のケースもある。3億円規模のケースが「意図的ではない」と判断された背景には「相当に政治的な力がかかわっているとしか考えられない」という指摘もなされている。

 

 約2億円をこれまでと同じペースで返還する場合、完了まで約30年かかるということである。これほど巨額かつ長期にわたる収入未済が明らかになったにもかかわらず、市議会の決算審査特別委員会でも2億円に関する質問はなく、説明もなされていない。また、下関市監査委員の審査意見書においても、「介護保険事業を安定的に運営するため、(略)負担の公平性及び財源の適正確保の観点から引き続き保険料収入率の向上に努められたい」と、保険料徴収に対するコメントしか記載されていない。だれも突如として計上された2億円の収入未済額にふれないまま、令和2年度下関決算書が承認されようとしている。

 

 介護保険事業は、40歳以上の市民から徴収した保険料や国庫支出金、県支出金などの公金でまかなわれている。介護報酬は公平公正な基準で支給されなければならないものであり、3億円もの大金が不適正に支給された事案を「意図的でないミス」と判断したさいに優遇措置がなされていないか、その判断基準について明らかにすることが求められる。また、長期にわたる返済が確実におこなわれるかどうかのチェック体制が必須である。

 

 なお本紙は、この約2億円の収入未済額が発生する元となったケースの経緯について、市に情報公開請求をしている。詳しい経緯がわかったさいに改めて報告する。

 

■ 同問題をめぐる市民の声 ■


 ▼下関で介護事業に携わっているのですが、正直いって驚きました。「ありえない!」というのが率直な感想です。100万~200万円でも不正請求が摘発されれば事業者は重い行政処分を受けるのが常識で、それは介護保険制度の信頼ともかかわった行政の監督権の行使なのだと思います。驚かされるのはその金額で、3億円も一事業者が不正請求していたのに行政が気付かないはずがないという思いと同時に、なぜそれほどの金額の案件が行政処分すらなされずに秘密裏に処理されているのか? と不思議でなりません。下関市役所の担当部局は何かを隠しているのでしょうか。同じ介護事業者としてとてもアンフェアな印象を抱いてしまいます。


 さっそく、「どこの病院だろうか?」と詮索が始まり、他の事業者との情報交換のなかでは具体的病院名なども飛び交っています。これは相当に政治的な力が働いていることは疑いないですし、誰がどのような力を行使してこのようなことになったのか、引き続き調査報道していただけるようお願いします。


 真面目に介護事業にとりくんでいる他の事業者からすると、決して曖昧にさせてはならない問題だと誰もが思っていますし、介護事業全体への信頼にもかかわってくる問題だろうと思います。そしてなにより、下関市の行政としての信頼にかかわってくる問題ではないでしょうか。


 3億円もの不正請求など山口県下はおろか全国でも前例があるのでしょうか? 聞いたことがない規模だけに本当に驚きます。(男性)

 

 ▼下関市の介護保険の決算のことで、施設側か市の側かで何か起こっているのではないかと長周新聞の報道で感じました。詳しいことは市民にはすぐにはわからないので、これからの報道を待っておこうと思います。


 別のことですが、私は介護保険と聞くとすぐに思うことがあるのです。5年ほど前、腰や背中に強い痛みが起こり、動くこともなかなかできなくなりました。タクシーで大きな病院に行くことも考えましたが、タクシーに乗るのもつらいので、家から数百㍍のところにあるお医者さんにゆっくり歩いて通うことにしました。骨粗鬆症からの痛みで、コルセットをしながらの生活になりました。簡単な家事もつらく、風呂掃除などが激痛でできませんので誰かに助けてもらいたかったです。知人が「こういうときに介護保険で助けてもらえる。手続きをした方がいいよ」と助言してくれ、藁にもすがる思いで、痛くてたまらない体で市役所に歩いて行きました。


 介護の担当課に行って事情を話すと、だめでした。それは私が同居している孫がいるからということでした。孫といっても現役で働き、夜勤もたびたびある仕事です。昼間はほとんどいません。それでも同居家族がいるということでダメなのでした。


 がっかりして歩いて帰ったことを思い出しました。近所の一人暮らしの高齢者が、「私はヘルパーさんに来てもらい、助けられている」と話しておられ、高い保険料を納めているのにこんなに苦しいときにも利用できないのかと矛盾を感じました。5年ほどたった今はどうにか暮らしていますが、もしもまたなにかあっても利用はだめなのだとあきらめています。でもいったいなんのために保険料を支払っているのだろうかと矛盾を感じます。


 歳をとり、困ったときに安心して暮らせるように支える仕組みがあると思っていたのは間違いだったのだと思うしかありません。もしかしたら、そんな私たちの支払ったお金が不正なことに使われてはいないかと感じます。


 今、総裁選が騒がれていたり、衆議院選挙も近づいたせいか下関に安倍前首相が何度もお伴を連れて帰って来ているそうです。年寄りの困っていること一つも支えることもできない政治でありながら、誰のために騒いでいるのかと感じるこの頃です。(女性)

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