(2026年3月13日付)

山口地方裁判所岩国支部(岩国市)

熊本一規氏
2026年3月5日、山口地裁岩国支部(小川暁裁判長、岩谷彩裁判官、佐野東吾裁判官)は、上関原発をめぐる裁判(令和四年(ワ)第七〇号 妨害予防請求事件)の判決(以下、「同判決」という)を下した。
同判決は、被告(祝島島民の会)に対し、海上ボーリング調査を含む原告(中国電力)の公有水面に対する使用を妨害する一切の行為をしてはならないという内容であった。
海が一般公衆の共同使用に供される「公共用水面」であることは、それが海水浴や釣りやヨット等の使用に供されている事実からわかるように誰しも否定できないことであるが、本件の最大の争点は、埋立免許により生じる埋立権に妨害排除請求権があるか否か、分かりやすく言えば、埋立免許に因って埋立工事を施行する水域(以下「埋立施行区域」)が埋立工事以外の使用ができない「排他的水面」になるか、それとも「公共用水面」であり続けるかであった。同判決は、「排他的水面」になるとの判示をしたのである。
実は、埋立免許がなされても公共用水面は公共用水面であり続けるとした有力な大審院判決が存在する。昭和15年2月7日判決がそれであり、次のように判示している。
公共用水面埋立ノ免許ハ一ノ行政処分ニシテ之ヲ受ケタル者ニ其ノ埋立ヲ条件トシテ埋立地ノ所有権ヲ取得セシムルコトヲ終局ノ目的トスルモノナレトモ免許自体ニ因リ直ニ該水面ノ公共用ヲ廃止スル効力ヲ生スルモノニ非ス
(口語訳:埋立免許は一つの行政処分で、これを受けた者にその埋立を条件として埋立地の所有権を取得せしめることを終局の目的とするものであるが、免許自体に因って直ちにその水面が公共用水面でなくなる効力を生ずるものではない)
にもかかわらず、埋立免許により排他的水面になると判示した同判決は、当然のことながら、数々の誤りを含んでいる。
以下、主要な四つの誤りを指摘する。
1、公有水面埋立法の枠組みを理解していない
公有水面埋立法は埋立の手続きを、以下のa~gのとおり定めている。
a 埋立免許出願(埋立事業者が知事に埋立免許を出願)
b 水面権者の埋立同意(漁業権者等の水面権者の埋立同意を取得)
c 埋立免許(知事が埋立事業者に埋立免許を出す)
d 水面権者への補償(埋立事業者が水面権者に補償する)
e 埋立工事に着工
f 竣功認可(埋立が完成したことの認可を知事から取得)
g 埋立地所有権の取得(埋立事業者は竣功認可の告示の日に埋立地の所有権を取得)
同判決は、埋立権が妨害排除請求権を持ち、埋立施行区域内の水面は、埋立以外の使用が存在しない排他的水面になるとするが、もしもそうであれば、埋立免許後には、埋立施行区域内には埋立権以外の権利が存在し得ないことになるから、dの手続きが不要になるはずである。
dの手続きを定めているのは公有水面埋立法六条及び八条である。六条では埋立工事により損害を受ける水面権者に補償すべきことを、八条では水面権者に補償した後でなければ埋立工事に着工できないことをそれぞれ規定している。公有水面埋立法六条・八条は、埋立権が妨害排除請求権を持たず、埋立免許後にも水面権が存在し続けることを意味しているのである。
同判決は、公有水面埋立法の枠組みを理解しておらず、埋立権が妨害排除請求権を持つという見解が公有水面埋立法六条・八条に違反することに全く気付いていない。公有水面埋立法に関する初歩的誤りというほかはない。
2、埋立権が所有権類似の性質を持つと解している
同判決は、埋立権が妨害排除請求権を持つ根拠として、次のように述べている(19頁)。
「この公有水面埋立権は、国が公有水面を所有することに由来することからすると所有権から派生したものであり、所有権類似の性質を持つと解される。」
つまり、埋立権は、国が公有水面を所有することに由来するので所有権から派生した権利であり、所有権類似の性質を持つから妨害排除請求権を持つとするのである。妨害排除請求権を持つのは物権ないし物権的権利であるため、埋立権が妨害排除請求権を持つ根拠を私法上の「所有権」に求めたのである。
しかし、「公有水面」の「公有」が、私法上の所有権にあたるという見解は、これまで公有水面埋立法の解説書(山口眞弘・住田正二『公有水面埋立法』)にも判例にも全く存在しなかった見解である。同法一条は「公有水面とは、公共用水面にして国の所有に属するものをいう」旨規定しているが、同法は「公所有権説」(公共用物には私法の適用が排除されるため、私法上の所有権は存在しないとする説)に基づいて立法された法律であるため、一条にいう「国の所有」も「公法上の所有」と解説されてきたのである(拙著『埋立と漁業の法律問題』第三章を参照)。
一条にいう「国の所有」が「私法上の所有」であるとする同判決の見解は、埋立権に妨害排除請求権を認めるために無理やり創り出された独自の見解に過ぎず、誤りである。そのことは、同判決の次の一節(27頁)からも明らかである。
「しかしながら、前記(一)アのとおり、公有水面埋立権は、国が公有水面を所有することに由来し、所有権から派生した所有権類似の性質を持つものであるところ、このような性質に照らせば、妨害予防請求権を行使するに当たり、当然に補償を要するものとは解されない。」
このように、同判決は、埋立権が所有権類似の性質を持つことに照らせば、妨害予防請求権を行使するに当たり(他の水面使用を排除するに当たり)、補償を払わなくてもよい、と述べているのである。とすれば、従来の埋立で必ず支払われてきた補償が必ずしも必要でなかったことになり、到底頷ける見解ではない。
新憲法下では、財産権の侵害には必ず補償しなければならない(二九条)。埋立により、従来、埋立施行区域に存在していた財産権が消滅させられるならば、憲法に基づき補償が必要である。そのため、従来の埋立ではすべて補償契約を交わし、補償金を払う代わりに埋立に同意してもらって初めて埋立が可能になったのである。
ちなみに、同判決は、自由漁業の権利が公有水面埋立法の水面権に含まれていないことを根拠として自由漁業に補償が不要である旨述べているが、自由漁業の利益が成熟すれば、財産権になり、補償が必要であることは「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」二条に示されており、実務上も自由漁業に対して必ず補償が支払われている。
公有水面埋立法が補償対象を水面権に限定したのは、同法が大正10年に旧憲法下で制定されたからであり、新憲法下では財産権にまで成熟した自由漁業には必ず補償が必要である。また、水面権でなくても埋立に因り実害がある場合には補償が必要なことは、第71回国会の政府答弁でも認められている。これらのことは、埋立の研究者にとっても実務担当者にとっても常識に属することであるにもかかわらず、同判決が知らなかったのは、同判決が漁業法や公有水面埋立法についての初心者によって書かれたことを物語るものである。
埋立権が妨害排除請求権を持つから補償は必ずしも必要ないとする同判決の見解は、これまでの埋立実務を全否定するとともに憲法二九条に違反する暴論である。そして、同判決がこのような暴論を吐く根本原因は、前掲引用文(同判決27頁)に示されているように埋立権が所有権類似の性質を持つと解しているからである。

腕を組んで中電のボーリング調査を阻止する祝島住民たち(2011年、上関町田ノ浦)
3、陳述書及び熊本証言を看過・曲解している
「埋立免許によって埋立施行区域が排他的水面になる」との見解は、何も同判決に特有のものではなく、過去にも存在していた。しかし、過去の見解と同判決との大きな違いは、そのような見解が誤りであることが明らかに分かる指摘がなされていたことである。
その指摘は、被告準備書面によってもなされていたが、端的には、筆者の陳述書及び証言によってなされていた。
主な指摘は次の2点である。
第一に、埋立免許によって埋立施行区域が排他的水面になるとすれば、埋立事業者は、埋立免許よりも後の手続き(前記d~f)を進めることができず、その結果、「g埋立地所有権の取得」が不可能になることである。なぜならば、公有水面埋立法は、前掲一条から明らかなように、公共用水面にのみ適用し得る法律だからである。したがって、埋立免許によって埋立施行区域が排他的水面になるはずはなく、公共用水面のまま存続するはずである。
この点は、陳述書でも熊本証言でも強調したことであるが、同判決において反論は何もなされていない。埋立免許に因って排他的水面になるか公共用水面であり続けるかという本件の最大の争点に関わる指摘であるのに何の反論もなかったのは、反論できなかったからと思われてもやむを得まい。
第二に、公有水面埋立法は公物管理法でないため、公共用水面上における効力を持たず、公共用水面上で埋立工事(工作物の新築)や「水面の占用」等をするには、公物管理法上の許可に基づいて行なわなければならないことである。
実際、河川区域における埋立に関しては、公有水面埋立法上の手続きだけでは十分ではなく、さらに河川法上の許可が必要である旨の昭和40年3月29日建設事務次官通達「河川法の施行について」が存在する。河川法以外の公物管理法(港湾法、漁港漁場整備法等)には、埋立免許に基づく事業には、「公物管理法上の許可の適用を除外する」旨の規定があるため、実際には許可を得る必要はないとはいえ、公共用水面上での埋立工事や「水面の占用」等は、河川区域における埋立と同様、公物管理法上の許可が得られたものとして、許可に基づいて(護岸建設は「工作物新築」の許可に基づいて、護岸で周囲を囲った後の護岸内部の占用は「水域の占用」及び「土地の占用」の許可に基づいて)行なわれることに変わりはない。さもなければ、河川区域における埋立で使用許可・占用許可が必要であるはずはないからである。要するに、埋立工事は、埋立免許に基づいて行なわれるのではなく、公物管理法上の使用許可(「工作物新築」の許可)に基づいて行なわれるのであり、したがって、許可使用である。
公共用物の自由使用とは、一般公衆の共同使用にあたるもので道路の通行、海での海水浴等がそれにあたる。許可使用とは、他の自由使用の妨げになるので一般的には禁止されているが、特定の場合に申請に基づいて、許可(一般的禁止の解除)がなされて認められるもので、道路での道路工事やデモ等がそれにあたる。許可使用は、許可を得てはじめて自由使用と同じ立場に立つため、自由使用を排除できない。したがって、埋立工事は自由漁業を排除できないのである。
しかしながら、公有水面埋立法と公物管理法の関係について同判決は全く理解しなかったと思われる。そのことは、同判決が「公有水面の埋立ては本件条例三条一項一号の一般海域の占用に含まれると解されるところ」(25頁)と述べていることから分かる。「埋立」は、公共用水面を私有地に変えて潰す行為であるから、「公共用物の維持存続」を目的とした公物管理法上の許可の対象となるはずはない。「埋立」は対象にならないので、埋立を「護岸の建設」→「水域の占用」という工程に分解し、「護岸の建設」を公物管理法上の「工作物新築」の許可に因って、「水域の占用」を公物管理法上の「水域の占用」の許可に因って、それぞれ実施するのである。したがって、公物管理法上の許可の対象となるのは、「埋立」ではなく、「工作物新築」及び「水域の占用」である。その結果、第二の点に関する同判決の記述は、支離滅裂あるいは的外れになっており、筆者の見解を曲解している。
また、同判決は「本件海上ボーリング調査の実施等については一般海域占用許可を受けることが必要になる場合も考えられる」(26頁)とするが、ボーリング調査には占用許可が必ず必要であり、「必要になる場合も考えられる」は明らかに誤った記述である。また、その後に続く「しかし、一般海域占用許可を受けていることが有効な公有水面埋立免許を受けることの要件となるとは解されないし、公有水面埋立権に基づく妨害予防請求の前提条件となるとも解されない。」(26頁)との意味不明な記述に示されるように、一般海域占用許可と埋立免許が、対象事業が土地が造成される事業か否かで区別されることも全く理解されていない。さらには、工作物を設置することは「使用」に当たり、設置した工作物をそのまま存置することは「占用」にあたることを電柱を例にとって筆者の証言で分かりやすく説明したにもかかわらず、「使用」と「占用」との区別もついておらず、混乱に拍車をかけている。

中電のボーリング調査を阻止する祝島の漁業者ら(2005年)
4、妨害排除請求権は埋立地を所期の用途に供することを妨げる行為に対しても認められるとの見解
同判決は、過去の誤った見解を踏襲しているばかりか、過去の見解には存在しなかった次のような見解まで述べている(20頁)。
「したがって、公有水面埋立権に基づく妨害排除請求又は妨害予防請求は、埋立区域における埋立工事そのものへの妨害のみならず、埋立てに関する工事の施行区域において、所有権を取得する埋立地を所期の用途に供することを妨げる行為に対しても認められると解すべきである。」
本件に即して分かりやすく言えば、埋立工事を妨害する行為に対してのみならず、埋立地上の原発建設を妨害する行為に対しても、埋立権が妨害排除請求権を持つというのである。従来存在しなかった初めての見解である。
この見解の根拠は公有水面埋立法四条に定められた埋立免許基準(「国土利用上適正かつ合理的であること」や「埋立地の用途が法律に基づく土地利用計画等に違背しないこと」等)にあるとされているが、前述のように妨害排除請求権を持つのは物権ないし物権的権利であり、免許基準に掲げられているだけでそのような物権ないし物権的権利が生じるはずはない。
また、埋立地の用途を実現するための妨害排除は、竣功認可後、埋立地の所有権に基づいて容易に行なえるはずであり、埋立の手続きを定めているに過ぎない公有水面埋立法にそのような妨害排除規定が含まれているはずはない。
この見解に見られるように、同判決は、過度に埋立事業者に忖度・迎合するような判示をしている。
同判決を出した裁判官の方々には、原発建設に半世紀余りも反対してきた祝島住民の生活を脅かすことになる判決を公有水面埋立法や漁業法を熟知しないまま出した責任を痛感していただきたい。
しかし、同判決は、埋立事業者に過度に忖度・迎合しているだけに1~4で指摘したような初歩的誤りや明らかな誤りを数多く含んでおり、高裁で覆すことが十分に期待できる判決である。





















