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留学先のマレーシアで梅光学院大学の学生80人が隔離生活 不安高まるなか強行した結末

 東南アジアでもっとも新型コロナウイルスの感染が広がっているマレーシアは16日、緊急のテレビ演説をおこない、18~31日までの期間、国民の出国と外国人の入国を全面的に禁止する「事実上の国境封鎖」を宣言するとともに、全土に移動制限を実施することを発表した。そのさなか、下関市の梅光学院大学は、学生およそ80人のマレーシア留学を保護者の不安の声を押し切って強行し、学生たちが厳戒態勢のなかで隔離生活を送る事態になっている。到着後に発熱がわかった学生もいるが、16日の現地到着から数日間にわたって保護者に対する連絡もないままで、「大学の対応はどうなっているのか!」との声が広がっていた。心配した保護者たちが学校に問い合わせたところ、ようやく20日に一通のメールが送られてきたものの、危機意識の乏しさだけを印象付ける形となっている。

 

 マレーシア留学に行ったのは文学部人文学科のうち英語コミュニケーション専攻、国際ビジネスコミュニケーション専攻の学生たち約80人と引率の教員2人。「INTIインターナショナル大学」に9カ月間留学する長期プログラムで、大学生とはいえ、その多くは未成年だという。

 

 コロナ騒動が拡大するなか、出発の2、3週間前から、先に入国制限がかかったその他の国への留学が中止になったり、マレーシア到着後には2週間の隔離生活があること、留学初期はパソコンを使ってオンラインで授業をおこなうことなど、たて続けに変更点や準備する物などの連絡が入り、少なくない保護者が不安を抱いた。しかし、保護者に対して一度も文書など正式な連絡がないまま進行し、「今、海外に行かせて大丈夫なのか」と問い合わせる保護者に対して、大学側は「大丈夫」の一点張りだったという。

 

 一行は16日午前8時30分、福岡空港よりクアラルンプール行きの飛行機で日本をたった。不安を抱えたまま空港で見送った保護者のもとに「到着した」という連絡が入ったのが午後5時ごろ。マレーシア政府が国境封鎖を発表する直前だ。到着直後、空港でカメラで頭部の検温をしたさいに一人の学生が引っかかったという。そこからINTIインターナショナル大学までバスで移動。翌17、18日の2日間、半数ずつ地元のメディカルセンターで身体測定や検尿、採血、色覚検査、視力検査、X線検査、血圧測定などの健康診断を受けたが、その帰りに体温が高かった学生が大学入口の体温検査で引っかかってバスから降ろされたという。PCR検査をおこなっているようだが、結果について一緒に行っている学生の保護者に連絡はないという。その後、ほかの学生たちは大学内にある一人部屋の寮で自由に時間を過ごしているものの、寮の建物から出ることはもちろんできず、トイレと風呂、食事以外は基本的に部屋からも出ることはできない。それぞれの寮の入口にスタッフがおり、出入りするたびに検温と本人確認をされる監禁生活を送っている。学生たちは時間を持て余し、友だちと話したり一緒に食事をとったりしているようだ。

 

 現地の気温は28~30度と、日本の真夏日といっても過言ではない。しかし一人部屋にはエアコンも冷蔵庫もなく、天井にプロペラの換気扇が一つついているだけだ。大変なのが食事で、初日の夜は「弁当がもらえた」「ケータリングで弁当を注文した」という連絡があったが、翌17日以後は現地の人々にも移動制限が出た関係からか、ケータリングも注文できなくなり、廊下に置かれたダンボールに入れてあるカップラーメンかクッキーで三食をしのいでいるという。

 

部屋にはエアコンも冷蔵庫もなく、天井にはプロペラ式の換気扇があるだけ(保護者提供)

 

カップ麺とクッキーで3食をしのいでいる

 

 

 隔離生活の期間、大学側からトイレットペーパー1人2巻、飲み物1人21㍑などが支給されているが、そのほかは自分で購入しなければならない。ケータリングも注文できない状態のなかで、「今日は病院に行ったさいに近くのコンビニでお菓子が買えた」といった連絡も保護者に入っているようだ。

 

 この状況でも大学からは19日まで一度も連絡がなく、問い合わせると「海外旅行保険に入っているから大丈夫」といった説明がなされるなどしており、大学の姿勢に不信が広がっている。

 

 しかも学生たちには「マレーシアでは新型コロナウイルス感染症と関連した、未確認の偽ニュースをオンラインで拡散すると、刑法505条に則って処罰(2年以下の懲役刑や罰金刑)される可能性がある」として「日本にいる友だちなどに向けて根拠のない話を興味本位でSNSなどにアップしないように」と、現状の発信に制限をかけているという。

 

大学は誠意ある対応を 情報求める保護者たち

 

 梅光学院大学は18日、ホームページに「本学学生のマレーシア留学について」と題するコメントを公開したが、その内容は「2020年3月16日から本学学生がマレーシアの『INTIインターナショナル大学』へ留学をしております。本プログラムは今年度当初より計画されていたものであり、予め同大学と緊密な連絡をとり、安全を確認の上、実施しております。また、渡航時及び現地での学生の安全確保及び日常生活の維持につきましては、本学教員が帯同すると共に、同大学と緊密に連携を取り、万全の体制を整え、予定通りプログラムを開始しております」というもので、新型コロナウイルスにもマレーシアの入国制限、移動制限などについて一言もふれていない。

 

 保護者の一人は、このホームページを見て「まったくありきたりの保護者らの心配を無視した誠意のないコメントだ。コロナにもふれていない。行ったのはうちの子も含めほとんどが未成年だ。彼らは学校のカリキュラムとして義務的に行っているわけで、通常の留学のように自由意志で行っているわけではない。未成年という意味では小学生を連れて行っているのと同じだ。このような意識の欠如が恐ろしい」と話している。

 

 別の保護者は「これだけ世界がコロナ、コロナといっている時期に留学させるのかと思っていたが、出発前から保護者に一切連絡がなく、問い合わせると“学生に連絡している”という対応だった。到着した後にマレーシアが入国制限を出したことも、別の保護者から連絡をもらって知ったくらいだ。とにかく情報がなく、説明が少なすぎる」と不安を語る。

 

 入国制限のため現地に迎えに行くこともできない状況のなか、「せめて食事を改善してほしい」「大学から情報の発信や説明をしてほしい」と切実な思いを語っている。

 

 梅光学院大学は本紙の取材(19日)に対し、「ホームページに掲載している以上のコメントをするつもりはない」と回答。保護者への連絡体制はどうなっているのか尋ねると、「なぜ答えなければいけないのか」という対応だった。

 

 その後、20日になって保護者には「学生たちの健康は保たれている」等等、安心するよう呼び掛ける副学長名でのメールが届いているものの、ラインなどで我が子と連絡を取り合っている保護者のなかでは「大学としての危機対応があまりにも不誠実」「預けて本当に大丈夫だったのだろうか…」と複雑な思いが語られている。

 

マレーシア政府が国軍動員を決定

 

  なお、マレーシア政府は20日、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、住民の外出を原則禁止した「活動制限令」を徹底させるため、22日から国軍を動員することを決めた。同国では18日から2週間の活動制限令が施行され、日用品の買い出しなどを除き、外出が禁止され、マレーシア警察が道路の一部を封鎖し、住民に自宅にとどまるよう呼び掛けたが、守らない住民が後を絶たないことから、国軍の動員が決まった。


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