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下関・梅光学院中高校 学校崩壊招いた「改革」是正を

月謝値上げし教員は無免許

 

 下関市にある梅光学院中高校で、教員のうち3人が有効な教員免許を持たないまま授業をしていたことが明らかになり、生徒たちは夏休みを返上して補習を受ける事態になっている。数カ月前に月謝を5万円に値上げすると発表し、親をはじめ世間を驚かせた同学院だが、今度はそれで「習っていたのが先生ではなかった」というのだから、生徒や親の衝撃は大きい。同学院では、2年前から「改革」を掲げて中高・大学ともに経験豊富な教職員を辞めさせ、教育機関として体をなさない状況が深刻化してきた。今回の問題はその結末であり、ここに至った根本的な問題を解決しない限り、再び同様の事件が起こりかねないと関係者の多くが心配している。

 このたび有効な免許を持たないまま授業をしていたことが発覚した英語と社会の教員3人は、いずれも臨時免許の教員だった。うち外国人の英語教員1人は3年目の有効期限を迎えるにあたって、更新手続きをしていなかったことが4月に発覚していた。残り2人は今年5月に採用が決まった教員で、採用直後に県の監査で免許がないことを指摘された。同学院は具体的な経緯や原因について明らかにしておらず、「手続きの不備」としているが、臨時免許の申請がまだであることを知ったうえで授業を担当させていたのかどうか、その経緯にも注目が集まっている。学院としては臨時免許の申請手続きを終え、問題は解決したとしているが、父兄らは「こんなことが続けば、安心して子どもを預けることができない」と不信感を募らせている。夏休みを返上しなければならなくなった子どもたちの心中たるやいかばかりかと市民のなかでも話題になっている。

 今回の問題は、梅光学院が正規雇用を非正規に置き換えたばかりか、普通免許の教員ではなく、臨時免許の教員をかき集めている実態を明らかにした。

 中高校では、昨年10月から休職していた前校長が2月末で退職届けを出し、校長不在の異常事態が続いてきた。さらに副校長(教頭)も他校に就職するために3月末で退職し、社会科の教員も雇い止めなどで2人が退職していた。1昨年度末にベテラン教員14人がブレインアカデミーの研修で退職に追い込まれたり、自主退職して学院を去ったが、昨年度末も同様に14人が退職した。2年間で合計すると約30人もの教員がいなくなっており、「学校運営が成り立つのか」と疑問視されてきた。何とか体裁を整えているものの、いつ崩壊してもおかしくない状態であることを今回の問題ははからずも暴露した。

 今年度の教職員名簿を見ると、正規の教員は校長・副校長を含めて10人程度なのに対して、非常勤講師や常勤講師、助手など非正規雇用者が約50人と大半を占めている。週に1、2回しか来ない非常勤講師も多く、職員室の机も兼用となっているため、生徒や保護者もいったいどんな先生がいるのかよくわからない状態だ。教員が足りなかったのか、ハローワークで助手を募集したりもしている。

 今回問題になった臨時免許状はあくまで「普通免許状を持つ者を採用することができない場合に限り」付与されるもので雇用する側に普通免許状を持つ者を採用する努力をするよう求めている。「みだりに申請・更新をおこなわないこと」などの但し書きをつけている自治体もある。梅光がその努力をしているかというと、むしろ正規雇用の教員を辞めさせて、臨時免許の教員をかき集めているのだから、本来の制度とは違った意味合いで利用しているともいえる。

 赤字解消の為というが

 生徒や学生、教職員、保護者、同窓生らが2万筆にのぼる署名運動を展開したのをはじめ、学院運営の正常化を求めて粘り強い運動が続いている。だが、学院経営陣はこうした意見に耳を傾けることなく、反論する者を切り捨てて、「赤字解消のために改革を断行しなければならない」といって、教員削減をはじめとする改革を進めてきた。「人件費比率の削減」と「学生数の確保」がおもな内容で、中高はとくに「毎年1億円以上の赤字を出している」「このままだとつぶれる」というのが経営陣の主張だった。しかし、大半を非正規雇用に置き換えて2年目を迎えるが、赤字解消にはほど遠い状況だ。

 平成28年度の決算をみると、中高校で生徒の納付金が約1億6000万円、寄付金や手数料収入、補助金等を含めて収入合計は3億2000万円ほどにのぼる。それに対して人件費支出は2億3000万円。もともと梅光の教員はそれほど高額な給料ではなかったが、さらに正規教員を大幅に減らし低賃金の非正規雇用者と入れ替えた今も赤字解消に至っていない。そして関係者が疑問視しているのが「教育研究経費」で、これは中高校合わせて1年で1億1500万円にのぼっている。大学の場合、教育研究費がある程度必要だが、中高の場合これが何に使われているのか、関係者のなかでさまざまな憶測を呼んでいる。いずれにしても、昨年度末の決算で中高校で1億円の赤字を出している。3億円以上も収入がある学院がなぜ赤字なのか、人件費を削減した分のお金はいったいどこに流れているのか、という疑問も広がっている。

 子どもたちにとって、信頼している先生たちは次次にいなくなり、安心して学べる環境にないうえ、月謝は値上げとなった。現在3万円台の月謝が5万円台になるというから、保護者も他の私学や公立学校関係者も驚いていた。その内容は、ベネッセやリクルート社など教育産業のサービス利用料が大半を占める。市内の私学関係者や学校関係者らは「予備校のサービスや教育産業のサービスを使って勉強させるのであれば、梅光に通う必要などないではないか」「教育はそんなものではない」と指摘している。

 その際に突然出てきた「ウェイクアップ留学」についても、留学しない生徒には返金されるのかという疑問が上がっていたが、その後この留学は全生徒が必ず行くこと、行かない生徒は入学しなくてよいという位置づけであることも明らかになっている。高校1年生はフィリピン、中学校1年生はカナダに留学するという話で、とくにフィリピンは現在戦闘が激化しており、心配する保護者もいる。

 来年から新制服も導入

 さらに物議を醸しているのが、6月に発表された制服の変更だ。「改革担当理事 只木徹」の名前で配布された文書では、島田新校長を中心に「新しい中学校・高等学校作りに全力で取り組んで」おり、梅光学院の礎を築いた「スタウト宣教師ご夫妻のキリスト教信仰の伝道への篤い志を受け継ぎながら、一方で現代の下関、日本、そして世界が抱える諸課題に対応すべく、改革すべきことは大胆に改革し、時代の要請にこたえる教育機関を目指している」としている。新校長の教育方針は、関わる者すべて(生徒、教職員、保護者、地域や関連する人人すべて)に積極的な行動を求めるものであり、新しい「学校像」にふさわしい制服へと一新するのだとしている。

 新制服は来年度入学者から適用し、在校生は卒業まで現行の制服でよいとしているが、親たちは「だんだん新しい制服に買い換える友だちが増えてきたら、自分も…となるのではないか」「金をとることしか考えていないようにも聞こえた」など、とまどいの声も少なくない。7月に入り、来年度の学校案内のための撮影会が学内でおこなわれたが、学内で募集した9人の生徒に加え、女子生徒は高校生モデルを招いたという話で、学校はガタガタなのに、学外向けのPRにばかり力が注がれていることへの疑問は強まっている。

 制服を巡っては、生徒がSNSなどで事態を訴え、同窓会が面談を申し入れたほか、同窓生にそれぞれの意見を学院に届けるよう呼びかける動きになっている。以前から「夏服が暑い」という声があり、制服の変更が検討されたことはあったものの、その時代の卒業生らも「今の制服変更は、生徒のためという以前の話とはまったく別のところから出ている」と怒りを強めている。

 100年の伝統に背くもの

 100年の歴史を刻んできた梅光学院は、下関市民のなかでも独特の存在感を持つ学校として知られてきた。それが2011年に元名城大学の非常勤講師だった只木徹氏(現統轄本部長)がやってきて、いつの間にか人事権や予算権限を掌握し、反対する教職員や理事を解雇、解任しながら人件費比率の削減を中心とする「改革」を進めてきた。これらの「改革」の産物として、教職員の不安定な体制であったり、免許のない教員が存在するような事態が生じている以上、「改革」の中身を根本から見直さなければ泥沼状態には拍車がかかると見られている。

 梅光学院を巡る問題で最も罪作りなのは、生徒や学生がいつも二の次になってしまい、今回の件でも夏休みに8時間も補講を受けなければならないような事態を招いていることである。「改革」は経営者のためで、教育を道具にして銭儲けをはかることだというなら本末転倒で、教育や学校の主人公は子どもたちであることを忘れてはならない。孤児を幾人も引き取って育て上げた故佐藤泰正氏をはじめとした人人の努力によって、梅光学院の教育には地元市民の信頼が寄せられてきた。それは旧いものではなく、「改革」を叫べば正義というような定義で比較するべきものでもない。守旧派改革派という問題の立て方はきわめて恣意的で、短絡的ともいえる。

 仮に「旧い」というのであれば、非正規雇用だらけの職員体制で教員自身が悲鳴を上げているような現状や、免許のない教員に教えてもらったおかげで子どもたちが八時間も補講を受けなければならないような現状よりもはるかにマシで、「改革」こそ否定されるべき関係にほかならない。というより第三者から見て、梅光学院で起こっている出来事は「改革」ではなく学校崩壊であり、もっと正直にいうと同学院が保有する30億円ともいわれる現金資産に外来者がまぶりついているような光景にしか見えないのである。

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