(2026年7月15日付掲載)

JCFU全国沿岸漁民連絡協議会は3日、沿岸漁民に厳しい漁獲規制を強いる「クロマグロTAC制度」の問題を考えるため現場の漁業者や研究者が集い、シンポジウムを開催した。水産庁はWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の国際合意に基づき2015年から漁獲規制を開始しているが、わずか40隻の大中型まき網漁業に漁獲枠を優先して割り当てる一方で、日本の漁業経営体の9割を占める沿岸漁民には厳しい漁獲規制を続けてきた。その結果、クロマグロ資源は急激に回復しているにもかかわらず、過剰な規制は今も続いており漁業者を苦しめ続けている。シンポジウムでは、東京海洋大学名誉教授の櫻本和美氏が「WCPFCにおけるクロマグロ管理の問題点」と題する講演をおこなった。また、全国各地から参加した沿岸漁民がクロマグロをめぐる現場の実情を報告したほか、WCPFC北小委員会(8日開幕)を前に、水産庁に対してクロマグロ漁獲枠の大幅拡大を要求する要望書【別掲】も提出した。以下、シンポジウムでの講演と漁民による報告の内容を紹介する。
・WCPFCにおけるクロマグロ管理の問題点
東京海洋大学名誉教授・元水産庁政策審議会会長
櫻本 和美

櫻本和美氏
太平洋クロマグロの親魚量は、1984年に歴史的にもっとも低い水準に落ち込んだ。その後回復したが再び低水準に陥り、2010年に歴史上2番目に低い水準となった。また、ゼロ歳魚の資源尾数も2000年頃から低下していた。そのため2015年からTAC(漁獲可能量:Total Allowable Catch)を設定することによって漁獲量を規制し、資源の回復を図ることとなった。その結果、現在は資源が目標水準以上に回復しており、WCPFCと水産庁は「管理が大成功だ」と自賛している。しかしその一方で現場はとんでもない状況になっている。だが水産庁はこれに対して真摯に対応しようとせず、太平洋クロマグロの資源管理を巡って6月16日に開かれた漁業関係者向けの説明会では、小型魚の漁獲量をさらに削減する可能性もあることが明らかになった。これ以上小型魚の漁獲枠を削減するなどというのはとんでもないことだ。
問題は、なぜこんなことになってしまったのかということだが、以下の4つの原因がある。
〈原因1〉中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)や水産庁の資源変動に対する考え方が基本的に誤っており、実施した漁獲規制が誤っていた
まず2015年から始まった3つの漁獲規制をおさらいする【図1】。

(1)北緯20度以北の太平洋クロマグロ漁業の総漁獲努力量を2002~2004年の平均以下に維持する。
(2)大型魚に対する漁獲規制――2002~2004年の平均漁獲量以下に維持する。
(3)小型魚に対する漁獲規制――2002~2004年の平均漁獲量の50%をTACする。また、TACを超過した場合は、翌年のTACから差し引く。
小型魚とは30㌔㌘未満のものを指し、ゼロ歳から2歳と3歳の一部に相当する。大型魚とは30㌔以上のクロマグロと定義されている。また、漁獲努力量というのは、漁獲をするために投下された漁具数や漁船の隻数、操業日数等によって決まる「漁獲強度を表す指標となる数値」だ。
規制①は、02~04年の漁獲努力量が低かったことを前提に、それ以下に抑えるというものだ。だが、そもそも02~04年の漁獲努力量が低かったというのが間違っている。
年齢別の漁獲尾数を見てみると2003年が低くなっている。これを水産庁は「2003年に漁獲尾数が低かったのは漁獲努力量が低かったからだ」と考えて、2003年を挟んだ02~04年の3年間を基準年に設定した。その考えは、図①の(1)にある「総漁獲努力量を2002~2004年の平均以下に維持する」という規制を見ればわかる。

ところが、この考え方は間違っている。そのことがわかるのが【図2】だ。02~04年と、1994~2012年の平均漁獲係数(漁獲努力量)の比較を見てみる。漁獲係数は漁獲努力量によって決まるため、これに比例する。そのため漁獲係数と漁獲努力量の変動パターンは一致する。この図では、02~04年と1994~2012年の漁獲努力量はまったく変わっていないことがわかる。つまり、02~04年の漁獲努力量が低かったとする前提自体が完全な誤りであるということだ。
では、漁獲量は何によって変動するのか? 年齢別の漁獲尾数とゼロ歳魚の資源尾数の変動を比べてみるとほとんど一致する。つまり、ゼロ歳魚の漁獲量の変化は資源尾数の変化によるものであり、漁獲努力量が高いか低いかは関係ないということだ。
以上のことから、漁獲量の変動は漁獲努力量の変動によって起こっているのではなく、資源量の変動によって起こっていることがわかる。だがWCPFCや水産庁は、漁獲量の変動は漁獲努力量の変動によって起こると考えている。基本的な考え方が間違っており、その考え方にもとづいて漁獲規制が設定されているともいえる。
そのため02~04年の平均漁獲量以下に規制したとしても、現状維持をしているだけでまったく漁獲努力量を削減することにはなっておらず、意味のない規制をしていたということになる。同時に、02~04年を基準年とする正当な根拠がなく、2015年以降実施された漁獲規制は、科学的に妥当なものとはいえない。
〈原因2〉そもそもこんなに厳しい漁獲規制は必要なかった
「漁獲率」を使って漁獲規制が必要ではなかったのではないかという疑問を検証する。
漁獲率というのは、資源の何%を漁獲しているかを示す値であり、漁獲量を未成魚量や親魚量で割って数値を出す。小型魚と大型魚の漁獲率については、それぞれの漁獲量と未成魚量、親魚量を使って計算した。
大型魚の漁獲率について、日本と全世界の値をそれぞれ計算し、4つの期間に分けて見てみる【図③】。

▼第Ⅰ期間…02~04年。基準年とされた期間。
▼第Ⅱ期間…05~09年。歴史上2番目の低水準となった年の前年までの期間。
▼第Ⅲ期間…10~14年。歴史上2番目の低水準となった年から漁獲規制が始まる前年までの期間。
▼第Ⅳ期間…15~22年。漁獲規制が始まった年以降の期間。
この期間の漁獲率を見てみると、第Ⅲ期間の漁獲率は29%となっており、規制により11%に引き下げられた第Ⅳ期間の3倍もの漁獲率だったことがわかる。だがこれだけとっていたにもかかわらず、第Ⅲ期間だけで親魚量は2・3倍に増えている。資源量の約3割を漁獲していたのに、年率でいうと16・7%の増加率だ。
一方、2015年に規制が始まってからの5年間の増加は3・7倍。規制によって第Ⅲ期間よりも増え方が大きくなっているとはいえ、漁獲率を3分の1まで抑えて厳しく規制したにもかかわらず規制以前の5年間と比べて増え方に大きな差がないのはなぜか? それは、漁獲規制によりとれたマグロを「放流」しているといいながらも実際は相当な数が死んでおり、それを「投棄」しているためだ。
2015年以降も漁獲規制をせずに第Ⅲ期間の年率16・7%の増加率を維持したと仮定すると、10年後の2025年には親魚量は目標水準に達成していたと考えられる。
以上のことから、漁獲規制前の漁獲率を維持する程度の資源管理で十分であり、漁獲規制など必要なかったといえる。第4の期間の全大型魚の漁獲率は10・7%であり、いかに無駄に、法外な削減をおこなっていたかがわかる。
〈原因3〉WCPFCの漁獲規制は不公平――なぜ水産庁は黙認しているのか?
未成魚の漁獲率について世界全体と日本を比較してみると、全体では第1期間の漁獲率は40%だったが規制開始後には18%と約半分まで削減された。一方、日本では第Ⅰ期間の漁獲率は24%だったが第Ⅳの期間では7%まで落ち込んでおり、世界全体に比べて日本の削減幅が大きい。つまり、日本が減った分世界のどこかの国が多くとっているということだ。
小型魚の漁獲規制の対象となっているのは日本と韓国だけだ。一方、アメリカとメキシコはサイズ別の漁獲規制は実施されていない。
水産庁が公表している「太平洋クロマグロの国別の漁獲状況」という資料では、2013年以降、アメリカとメキシコについてはサイズ別の漁獲量の記載がなく、合計値しか記載されていない。そこで、2012年以前のアメリカとメキシコのサイズ別漁獲量をもとに、2013年以降をサイズ別に区分してみた。するとアメリカではTAC規制が始まった2015年前後から、急激に小型魚の漁獲量が増えており、平均2000㌧くらい漁獲していた。
仮に【図①】に示したTACの内容がアメリカに適用されていた場合と比較すると、実際はその10倍くらいとっていることになる。メキシコもアメリカと同様に計算すると、2015年以降平均約2400㌧とっており、【図①】と同様のTACを適用した場合の漁獲量の1・5倍くらいになり、無視できる量ではない。
水産庁は6月16日に開催されたまぐろ説明会で、来年度の小型魚の漁獲枠をさらに削減する可能性があることを示唆し私も驚いた。漁獲規制の基準年である02~04年の小型魚の漁獲率は24%だが、2015年以降の漁獲率は7%に減少している。もう漁業者は限界を超えて削減をしている状況だが、それをさらに厳しくしようとしており、何を考えているのかと思う。
資源量が増大した今、私自身は日本の小型魚の漁獲枠を基準年の漁獲率近くまで戻して良いと思う。そうすると漁獲可能量は2~3倍まで増えるがそれでも資源的には全然問題ない。
いずれにしても日本の小型魚の漁獲枠をさらに削減する前に、サイズ別の漁獲規制がおこなわれていないアメリカやメキシコの規制強化を図るべきだ。
〈原因4〉水産庁の大型まき網漁業に対する優遇と、沿岸小規模漁業に対する冷遇策
2015年当初、小型魚のTAC4007㌧の約半分に当る2000㌧が大型まき網漁業に配分された。しかしどのようなプロセスを経て「2000㌧」が決まったのかはまったく不明だ。ジャーナリストの樫原弘志氏は、2000㌧の配分が決められた水産庁内部の決裁文書の情報公開請求をおこなっているが、これに対する水産庁の情報公開・個人情報審査会への説明は「全国配付資料の作成・配付に関する庁内決裁書は存在しない」「開示決定済みの文書以外に、本件開示請求対象となる文書は存在しない」というものだった。つまり、大型まき網漁業への2000㌧の配分が、正規のルートを経たものではないということを水産庁自身が事実上認めたことになる。
樫原氏は、大型まき網漁業が2000㌧という大きな枠を確保した結果、小型魚を養殖業者向けに活魚で探捕して1㌔当り数千円という高値で販売するというビジネスが拡大していると指摘している。実際に2012年時点では大中型まき網によるクロマグロ養殖場への天然種苗の出荷量は3万尾だったが、2022年には28万尾になっており、10年間で9倍も増えている。
一方で、養殖業向け種苗の伝統的な供給者だったひき縄漁業者からの供給量は同じ時期に16万尾から11万尾へと減少している。
漁獲規制の結果、沿岸漁業者のマーケットがまき網漁業に奪われていったことは明らかであり、沿岸漁業者への配分枠が極めて少なかったため経営が成り立たなくなり、沿岸漁業者の引退や廃業も続いている。
以上の事実は、水産庁が資源回復を大義名分に小型魚の枠を大幅に削減したうえで、小さくなったパイのうちの多くをまき網に配分することによって、まき網漁業を大もうけさせ、一方で零細漁業者潰しを画策したのではないかという疑念を抱くには十分すぎる状況証拠である。
このような規制は水産庁単独では絶対にできなかったはずだ。そのため水産庁はWCPFCをうまく利用してこのような規制を実行したのではないかと思っている。現在起こっている大混乱は、誤った漁獲規制によって引き起こされた「人災」である。
※講演の内容は、櫻本和美氏のnoteの記事「太平洋クロマグロの資源管理は大失敗だったことが明らかに!」に詳しく掲載されている。
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