(2025年11月26日付掲載)

講演会「阿蘇の農業が日本を救う」(11月19日、熊本県・南阿蘇村)
熊本県南阿蘇村で11月19日、「阿蘇の農業が日本を救う」と題して、東京大学大学院教授の鈴木宣弘氏、有機農業にとりくむ(株)菌ちゃんふぁーむ代表取締役の吉田俊道氏による講演会が開かれた。主催は南阿蘇村が設立した「南阿蘇村農業みらい公社」。南阿蘇中学校体育館には、同校の全校生徒や教員ら250人をはじめ村内外から500人余りが詰めかけ、「令和の米騒動」にまで至った日本の農業の現状と課題、食料安全保障を担う地方から安全でおいしい農産物を生産して供給していく展望について認識を共有した。
地方の農業が日本の明日を救う
講演会に先立ち、南阿蘇村農業みらい公社の田尻徹氏が太田吉浩村長のメッセージを代読。「南阿蘇村は農業が作り出す田園風景が魅力でたくさんの観光客に来ていただいているが、他の自治体と同じく農家の高齢化が進み、10年後には誰がコメを作るのだろうかという声も聞こえてくる。その強い危機感から4年前に村が全額出資して農業みらい公社を設立した。収支面ではまだ軌道に乗っているとはいえないが、地域おこし協力隊制度などを活用した後継者育成にもとりくみ、卒業生が管内で新規就農するなど実績も出ている。お二人からは、日本の食料の安心安全に向けた提案や地域の資源を活用した野菜の栽培技術などを学ばせていただきたい。農業関係者のみならず将来の村を担う子どもたちにとっても、農業を考えるうえで重要な機会であるとおおいに期待している。今日得た学びや気づきが、村の農業が大きく飛躍する契機となることを願っている」とのべた。

鈴木宣弘氏
鈴木宣弘氏は、日本の食料自給率は種や肥料の自給率も考慮すると38%どころか実質は10%程度であること、「海外からの物流が停止したら世界で最も餓死者が出るのは日本」と試算されている危機的な現状を伝え、国内農業を疲弊させて日本をアメリカの余剰生産物のはけ口としてきた戦後政策を見直し、国内農業を守り増産に舵を切る必要性を説いた。
「『令和の米騒動』も根本原因はコメ農家の疲弊にあるにもかかわらず、それを放置して流通悪玉論や農協悪玉論が展開され、米国産米への市場開放や農協組織を外資へ差し出すためのストーリー作りがなされている。さらなるコスト削減とスマート農業と輸出だけ叫んでも、農村コミュニティも国民へのコメ供給も維持できない」と警鐘を鳴らし、政治が迷走するなかでも、地域の種を守り、生産から消費までを「運命共同体」として循環させる「ローカル自給圏」を構築し、地方の産地から食料安全保障を守る大運動を起こすことを訴えた。
吉田俊道氏は、今全国で広がる有機農業の具体的手法として自身が推奨する「菌ちゃん農法」を紹介した。これまで難しいとされてきた有機農業を誰でも簡単にできるように改良した実践例を伝え、そこでは「悪者」とされてきた菌や虫などの生き物の生態を知り、むしろ菌と繋がる発想の転換が重要である点を強調。共生社会の原点として有機農業を捉え直すことで、地方が活性化し、食料危機に耐えうる強い社会づくり、人間づくりが可能になると説いた。
両氏のユーモアを交えた講演は2時間以上にわたり、中学生を含め参加者たちは終始真剣に聞き入り、農業を担う地域の誇りと活力に満ち溢れた会となった。本号では、本講演会から吉田氏の講演要旨を紹介する(見出しは編集部。写真は吉田氏の提供)。

有機農業をおこなっている「菌ちゃんふぁーむ」の野菜畑(長崎県佐世保市)
野菜づくりは人間づくり――微生物から学ぶ生命の循環
㈱菌ちゃんふぁーむ代表 吉田俊道

吉田俊道氏
日本の食料危機が現実味を帯びてきた。ジブリアニメ『火垂るの墓』でも描かれたように日本でも数十年前は餓死者がたくさんいた。そして今、日本の現状や将来が「実はやばいんじゃないか?」と心配する人が増えてきた。それが最後の望みだ。
私は長崎県佐世保市に「菌ちゃんふぁーむ」という会社をつくり、約3㌶の畑で野菜を作っている。そこでは20、30代の若い人たちが正社員として10人ほど働いている。
長崎県職員として農業改良普及員をしていた私は、自分で農業をやりたいと思うようになり、1996年に退職して有機農業を始めた。どうせ農業をするのなら、農薬も化学肥料も使いたくない。日本では化学肥料は全部輸入だからいつ止まるかわからない。そう思って始めた有機農業だが、農薬を使わなければ虫が食べる。毎日捕っても追いつかないくらい虫が増える。農薬が使えないから虫食いだらけだ。それで退職金も全部なくなり、最初はとても苦労した。
だが、虫が来ないうえにおいしい野菜が、農薬も肥料も使わずにできる方法が見つかった。その方法で作った野菜はとっても美味しいので買いたい人が増えて、今では「菌ちゃんふぁーむ」の売上は農業だけで年間1億4000万円。本当においしい野菜を作れるようになれば、農業だけで十分生活はできる。そう断言できるだけの実績を積んできた。
これは単なる経営の話ではない。一人一人が食べ物を作る技術を持っておかなければ、いざというときに飢えてしまう。豊かな環境に恵まれた阿蘇は大丈夫かもしれないが、阿蘇が都市の人を支えなければいけない。だから家庭菜園からでも農業する人が増えてほしいと願っている。そこで今、日本中に広がっているのが「菌ちゃん農法」だ。
「菌ちゃん農法」が広がっているのには理由がある。有機農業をやりたいと思う人は多いのになかなか広がらなかった。これまでの農業の常識からすれば、有機農業で経営が成り立つことなど絶対に無理だと考えられていたからだ。「農薬を使わずにどうやって虫の発生を防ぐのか?」「手で虫を捕るなんて間に合うわけがない」と。
ところが、うちの畑でとれる野菜は丸々太り、虫がほとんど食べていない。無農薬だから当然アオムシはいるが広がらない。少ししか食べない。そして、その野菜がとてもおいしい。

普通は無農薬でキャベツを作れば虫食いだらけになるのに、なぜうちのキャベツは虫が来ないのか? 福岡教育大学で実験すると、大学の農場で作ったキャベツと比較して、吉田農場のキャベツはアスコルビン酸(ビタミンC)の含有量に有意差があった【グラフ①参照】。
実は栄養価が高い野菜を虫は食べない。虫は分解者であり、死んだものを食べる生き物だ。アオムシは本来死んだキャベツを食べる虫だが、少し手が早くて死ぬ前から食べ始めるから「害虫」と呼ばれる。だが元気な野菜は食べない。
これも大学で実験をした。大学で育てたキャベツと私が作ったキャベツをそれぞれ別の容器に入れてアオムシに食べさせてみると、最初の3日間くらいは同じぐらいの量を食べるが、その後は大学のキャベツは食べるのに私のキャベツは食べなくなった【グラフ②参照】。

ところが、食べる量には大きな差があるのに同じ量の糞をする。つまり、私のキャベツは少ししか食べなくても糞がたくさん出る。私のキャベツを1㌘食べたら0・025㌘の糞をした。大学のキャベツを同量食べても0・015㌘しか糞をしない。
この糞を放置していたら、大学のキャベツを食べたアオムシの糞にはカビが生え始めたが、私のキャベツを食べたアオムシの糞はなんともない。糞のビタミンC含量を調べたら、私のキャベツを食べた虫の糞に含まれるビタミンCは、大学のそれに比べて2・5~5倍も高かった。ビタミンCの抗酸化力がカビの発生を抑えていたのだ。
人間が木を消化・分解できないように、アオムシはビタミンCを消化できない。分解者には死んだものや弱ったもの、つまり栄養価の低いものしか消化できない。健康な野菜を食べても消化できないものが多いから食べなくなる。そして、人間にとってはおいしい野菜ができる。
ビタミンC、ポリフェノール、カロチン、リコピンなどよく聞く抗酸化成分(ファイトケミカル)は、カビを防ぎ、病気を防ぎ、癌を防ぐ作用がある。これは野菜自身が、紫外線をたくさん浴びても枯れないように、自分の身を守るために作り出す成分だ。夏の猛暑日に人間が裸で直射日光を浴び続けたら、紫外線で内臓まで酸化して死んでしまう。でも野菜は逃げられない。それでもずっと日光の下で生きられるのは抗酸化成分を作っているからだ。
キャベツにとってアオムシは敵ではない。アオムシはいずれ蝶になり、自分たちの受粉を助けてくれる大切な存在だ。だからキャベツは蝶を殺す成分ではなく、蝶が食べられない成分を作った。それがビタミンCだ。つまり、栄養価の高い健康な野菜ほど分解できないから虫は食べないということだ。だから、次第に虫が来なくなる。
栄養価の高い野菜を作るためには、菌(微生物)を増やし、菌の出すエキスをたくさん吸わせることが重要だと気がついた。ところが、微生物を元気にするために草や堆肥などの有機物を畑に入れても、普通に入れるだけでは腐ってしまって発酵しない。すると「腐海の蟲(むし)」たちがやってくる。
多くの生き物は、腐敗型と発酵型のいずれかの世界で生きている。皆さんは味噌もうんこも好きだろうか? 好きなのは味噌だけだと思う。ところがウジ虫は腐ったものは大好きだが味噌は食べられない。そしてほとんどの害虫も腐った場所が好きで、そこに育つ弱い野菜を食べる。だから虫にやられたくない野菜を作るためには土を腐らせてはいけない。これが大事なところだ。
草や堆肥を入れ、ワラを混ぜるだけでは田は腐る。腐るとミミズも来るし、それを追ってモグラも来る。いろいろな害虫、今年でいえばカメムシがやって来る。
アニメ『風の谷のナウシカ』で主人公のナウシカが「汚れているのは土なんです。誰が世界をこんなふうにしてしまったのでしょう」「みんなに伝えて! 腐海の生まれた訳を…蟲が世界を守ってるって」という。これは現実世界の話でもある。虫はわざわざ腐った世界に棲み、それを浄化する。だから田や畑が腐ると虫たちがやってくる。
だが、野菜もコメも本来は発酵型であり、腐った世界ではどうしても弱る。逆に田や畑の土が発酵すると虫が来なくなる。実際にできた作物は発酵の力によって育っているからおいしい。少々お金を払ってでも買ってくれる。だから、「菌ちゃんふぁーむ」の野菜は作っても作っても売り切れる。お客さんが「まだか、まだか」と待ってくれている状態だ。だから、私は日本中にこの農法を広げたい。ぜひ皆さんもこのような元気な野菜を作ってみてほしい。家庭菜園でやってもいいし、そこから農業経営に広げてもいい。
虫や菌はなぜいるのか?

同じ無農薬でもアオムシに食べられるキャベツ(手前)とアオムシが食べない強いキャベツ(奥)がある
虫と菌は、なぜこの世界にいるのだろうか? 彼らはいらないものだろうか? 実は、虫と菌はこの世界の心臓部だ。皆さんの体も心臓があるから血液が循環する。心臓の右心房で静脈を吸い取り、左心室から動脈として押し出している。だから血液が体を巡っている。今日の皆さんの体は、何日か前は食べ物だったし、その何日か前は何かの生き物だった。そのように循環している。それを誰が回しているかを考えてみてほしい。
虫や菌は死んだものや弱ったものを食べて元気な命を作る。反対に人は元気なものを食べて、死んだものを出している。だから、皆さんは生きていると同時に毎日死んでいる。それを新陳代謝という。新鮮な細胞と陳腐な細胞が入れ替わる。皆さんの体を流れる赤血球は4カ月で全部死んでしまう。それでも生きているのは新しいものに変わっているからだ。体内では1秒間に500万もの細胞が死んでいる。
食べ物から元気な命をもらっている皆さんが地球に排泄しているのは、糞尿と垢と脱毛だ。地球には糞尿、垢や脱毛が大好きという者たちがいる。それが菌や虫たちだ。彼らによってこの排泄物がもう一度プランクトンになり、虫になり、生き物になり、野菜になり、私たちになる。ということは、彼らによって命がもう一度作り出されている。そのことを『風の谷のナウシカ』はいっている。本来虫は殺すものではない。そして「腐海の蟲」は殺せば殺すほど強くなる。
菌には悪玉菌だけでなく有用菌もある。乳酸菌やクロレラ、パントエア菌などの腸内細菌は、私たちの体内にいて命を与えてくれている菌だ。だから虫や菌には命を吸う力もあるし、命を与える力もある。ジブリアニメ『もののけ姫』のシシ神様がそれだ。あれは虫や微生物たちのことだ。
虫や菌を殺す暇があったら、虫にやられないくらい元気な野菜を作ればいい。そうすれば彼らは寄ってこなくなる。そのことを私は実証した。
人間も同じだ。いずれまた新しい病原菌やウイルスが出てくる。すると「除菌しろ」「マスクをしろ」「薬を飲め」と防護策だらけの社会になる。野菜作りでも「アオムシが来た!」「カメムシが来た!」といって農薬でなんとか守ろうとする。それは仕方のないことだが、あくまで最後の手段だ。いくら農薬を振ってもキャベツは元気にはならない。弱ったキャベツを守っただけなのだ。
病原菌が来たときにマスクをして逃げるのもいいが、自分が元気になれば病気をしなくなる。インフルエンザに何回もかかる人もいれば、どうもない人もいる。つまり自分を元気にしない限り、いくら逃げても病原菌はやって来るのだ。
人間もキャベツも、菌と繋がって元気になれば、菌は命をとらない。命を奪われるか、与えられるかは菌の問題ではなく、野菜の問題、皆さん自身の問題だ。弱っていたら命を吸われる。本当に微生物と繋がってしまった野菜にはむしろ悪い微生物はやってこない。
命を与える虫もいる。たとえばウジ虫はどっちの役割もする。糖尿病で足が腐った人や戦争で傷病者となった人の傷口に薬の代わりにウジ虫を入れる(マゴット療法)。すると、壊死して可能性がない組織はウジ虫が全部食べる。だが、死んでいない細胞には命を与えて復活させる。つまり、ウジ虫はシシ神様なのだ。
地球上では命を吸う生き物と命を与える生き物に分かれるが、虫や微生物たちはこの地球の心臓部だ。心臓部を元気にすると、人間も含めて地球全体が元気になる。ところが今、虫や菌をどんどん殺している。殺虫、殺菌、消毒……その結果、野菜も弱り、人間も弱り、すべての生き物がどんどん減ってきている。それをもう一回復活させよう。皆さんがナウシカになって伝えてほしい。「虫は殺すものではない。彼らが世界を守っているんだよ」と。
いくら焼き払っても虫たちは強くなっていく。抗生物質が効かない「耐性菌」、農薬に耐える「スーパー害虫」と呼ばれるものたちだ。それだけでなく、私たち自身が弱くなっている。だから毎年インフルエンザが流行る。弱ったキャベツにアオムシが寄ってくる原理と同じだ。そしていつか私たちは菌に呑み込まれ、病気で死んでいく人が増えるかもしれない。その前に気づいてほしい。病原菌は殺すものではない。むしろ菌と繋がって元気になれば菌は命を奪わない。一番手っ取り早いのは、菌と繋がった野菜を食べることだ。
相手を殺すのではなく乗りこえる。つまり自分が元気になる。その方法でなければ生きていけない世界がもうすぐやってくるのではないかと私は思っている。
菌ちゃん農法とは何か

無農薬で育てた「菌ちゃん野菜」と吉田氏
では、「菌ちゃん農法」とは、具体的にどうすればいいのか。木と草だけで野菜ができるというと信じないかも知れない。だが実際にやってみればわかる。
畝(うね)を少し高くして、上の方に菌ちゃんの食べものをたっぷり入れる。竹や木のチップや落ち葉、モミガラでもいい。ちょっと混ぜてマルチをかけて重石をして3カ月置く。すると土の中で、落ち葉からキノコの仲間の糸状菌(しじょうきん)が出てくる。籾殻からも出てくる。3カ月後、土中に白い糸が出てきたら野菜を植える。すると野菜の根と糸状菌が結びつく【写真参照】。

有機物の発酵によって糸状菌が土中に発生し、作物の根とつながる
自然界には、空気の8割を占める窒素をアンモニアやアミノ酸などに変える「窒素固定細菌」の仲間がたくさんいる。土中の糸状菌も窒素固定細菌と共生しており、土中で不足する窒素をそこから補って成長する。
たとえばパンダは笹しか食べないのに筋肉隆々だ。それはパンダの腸内細菌の中には空中の窒素をタンパク質の元に変える菌がいるからだ。人間でも同じ現象が見られる。パプアニューギニア人は、イモしか食べてないのに筋肉が発達している。研究の結果、彼らの排泄物から窒素を固定する遺伝子をつかさどる腸内細菌が見つかっている。だからイモだけで筋肉が発達する。
同じように糸状菌と野菜の根が繋がれば、空中の窒素を取り込むことができるため肥料がいらなくなる。また野菜の生育には、鉄、亜鉛、銅、マンガン、リチウムなど80種類くらいの微量栄養素が必要だ。だが今、80種類も畑に入れる人はいない。ほとんどの野菜は微量栄養素欠乏だ。人間も微量栄養素欠乏だから病気や不調を起こしやすくなっている。
竹や木など自然に育った植物には、ほとんどの微量栄養素が入っている。菌ちゃん農法はこれを活用する。

落ち葉などの有機物をのせて畝作りをする園児たち
さらに私たちが乳酸菌やクロレラを食べてすごく健康になるように、糸状菌は生命を元気にする成分も野菜に与える。この生命活性化物質を、現在の科学では作ることはできない。わかることは、微生物は「死を食べて生をつくる」ということだ。その力と結びつけば人も健康になるし、すばらしい作物ができる。
その野菜をつくるために必要なのは、落ち葉、木のチップなど、阿蘇にいくらでもあるものだ。自然の竹や木、茅も使って土を発酵させ、虫が来にくい良い野菜をどんどん作ってほしい。土が腐っていなければ野菜はおいしくなる。
今、山の中の手入れがされなくなり、間伐した木がそのまま放置されていたり、間引きもされず細い木が乱立している。大雨が降ったときに土石流になるのは、育った木を採らなくなったからだ。山林の倒木には菌が付いている場合が多い。これをそのまま畑に入れて畝を作り、その上に餌(草や落ち葉)を入れると、丸々と太った野菜ができる。
2年くらい前までは信用してもらえなかったが、竹や木だと今以上に元気な野菜ができて、農薬も肥料も使わないから海も山もきれいになる。地下水もきれいになる。亜酸化窒素が出ないから地球温暖化も抑制できる。しかも、その野菜は栄養価がすごく高い。良いことだらけなのだ。すでに各地で実践され証明されている。
ところが、都会の人たちがやろうとしても竹とか木が足りなくて困っている。だから田舎にある竹や木をうまく都会に回し、都会でプランターでも野菜を作ろうかという動きもあるが、やはり田舎で野菜を作るのが一番良い。北海道の小学校では、白樺の木を学校の畑に入れて畝を高くし、その上から木のチップを入れてマルチをかけて3カ月置くと、元気な野菜がどんどんできた。ぜひ学校単位でもとりくんでみてほしい。
おもしろいのは、まったくの素人が家庭菜園で少し作るとものすごく元気で大きい作物ができやすいということだ。その理由はよくわからないが、微生物はロボットではないから、もしかしたら人間の意識が影響を与えているのではないかと思っている。
畝を高くして発酵促進

「菌ちゃん農法」のコツは、溝の土を乗せて畝を少し高めにつくることだという
「菌ちゃん農法」が爆発的に広がったのは、都会の人たちが食料危機を心配し始めたことが一つの大きな理由だ。子どもが生まれ、子どもたちがこの世界でちゃんと幸せに生きていけるのか。日本に食べ物がずっと入ってくるかどうかもわからない。だから「自分でも作りたい」と思う人が増えてきた。
有機農法には防虫ネットや微生物農薬などいろいろなやり方があるが、それでもやっぱり虫が来る。農薬も肥料も使わずに野菜を作るためには5~6年くらいかけないと良い土ができなかった。そこで諦める人が多かった。ところが菌ちゃん農法なら3カ月で良い野菜ができる。そこに秘密がある。
その理由はなにか? 実は土の中には腐敗層がある。表層からだいたい10~20㌢くらい下が腐っている。田もトラクターで何でもすき込むから微妙に土壌が腐っている。土の中に腐敗層が残っていたら虫を呼び込む。野菜やコメの根が弱るのだ。
だが、菌ちゃん農法は畝を45㌢くらい高くすることによって、腐敗層がウネの上に上がる。どんなに排水が悪くても45㌢の高さがあれば上の方には空気が入ってくる。すると腐敗層だった土は、2カ月もあれば空気中の酸素に触れて完熟肥料を含んだ土に変わる。腐ったものは最後は完熟して良い世界に戻るのだ。
それを実験したデータもある。福岡教育大学でやった実験だが、ずっと農業をしてきた畑で普通に種をまいたら色の薄い小松菜しかできないが、少し畝を高くしただけで同じ土でも立派な小松菜に変わった。これまで有機農業の障害だった土中の腐敗層を逆手にとって、この腐敗層を空気に触れさせることで最高の肥料に変える。これが菌ちゃん農法の秘密だ。逆に腐敗層のない良い土の場合も、糸状菌や窒素固定細菌などの働きで無肥料で元気な野菜ができる。
しかも、木や落ち葉や竹でつくった菌ちゃん農法の畝は、作物を収穫した後に耕す必要がない。すでに糸状菌が育っているので、落ち葉や木枝など発酵を助ける餌を与えておけば、収穫した後に新たな野菜の作付けがすぐにできる。
「発酵型」の強い体づくりを
今は野菜にしてもコメにしても必ず虫がやってくるから、どうしても農薬を使ってしまう。それは仕方のないことだ。気象条件や土壌の状態などいろんな形でやっぱり作物は弱るからだ。ところが土が発酵したら、まったく次元の違うすばらしいコメや野菜ができるということが理解していただけたかと思う。
もう一つ実験データを上げる。九州大学で菌ちゃん農法のナスと慣行農法のナスを切って、摂氏20度の部屋に30日置きっぱなしにして比較した。慣行農法のナスは当然腐る。だが、菌ちゃんナスはまだ腐らない。なぜこんなに違うのか。この世界はなんでも腐敗するから30日も置けば腐るのが当たり前だ。私たちの体だって死ねば基本は腐敗して細菌によって浄化されて次の命になっていく。
ただ、上には上があるということだ。なかなか腐らない野菜が誰でも作れるというのが菌ちゃん農法だ。人間も野菜と一緒だ。私はもともと病気ばかりしていたが、菌ちゃん野菜を食べ始めてからは、70歳になろうとしているのに風邪一つ引かない。
菌ちゃん人間=発酵型の人間になれば、まず血液が変わる。ドロドロの赤血球が1カ月たつだけで正常なものに変わるので、脳の隅々にまで血液がめぐる。筋肉の末端にまで血液が行く。だから疲れにくくなり、集中力が上がる。赤血球は4カ月ですべて入れ替わるので、1カ月の食改善で悪い赤血球から4分の1が変わり、完璧に近くなる。白血球も変わるから病欠が激減し、基礎体温も上がる。
子どもの学力との関係を見ると、低体温の子どもは学力も落ちることがわかっている。だが、子どもの低体温は簡単になおる。ある小学校で調査してみると、学校給食の食材を意識して変えただけで体温が上がり、給食のない3月と8月だけガタッと体温が下がった。この学校は私の話を聞いて給食の食材を変えたことで欠席者数が激減した。
日本は今悪い方向へ進んでいるが、悪くなるからこそ良くなる日が来る。暗い日があるから明るい未来が見えてくる。そこで生まれてきた皆さんは、自分が楽しく能力を発揮して、この日本が幸せな国になるように働いてもらわなければいけない。誰かの役に立つことは無茶苦茶おもしろいことだ。そのためには心と体が元気でなければどうしようもない。
元気になるための初級編は、まずお腹を発酵させる、微量栄養素を摂るの2つだ。80種類もの栄養素は普通の食材からはなかなか手に入らない。だから自分で菌ちゃん野菜を作るのが一番早い。それが無理なら、煮干しや小魚を頭ごと毎日10匹は食べる。野菜は皮をむかずに食べる。大根、ニンジン、ごぼうなど旬の野菜は皮、芯ごと食べる。ごぼうの皮を食べると雑菌は死ぬが有用菌は死なない。それが私たちの腸内細菌を増やしてくれる。植物が外部の刺激から身を守るために作る抗酸化成分は皮側にこそたくさんある。大根、ニンジン、ゴボウの皮には抗酸化成分が多いのでお腹が発酵する。お腹が発酵すると煮干しの中の何十種類もの微量ミネラルがうまく吸収できる。
ところが、便の臭い人がいくら煮干しを食べても効果がない。良い便は切れが良い。排便後にトイレットペーパーでお尻を拭いて何も付かない日が何日かに1回あるなら上等だ。そうでない人は気をつけないと、いざというときに心が弱って、鬱になったり、死にたくなったりする。お腹が発酵している人は、今日死にたいと思っても翌日にはやっぱりやめたとなる。お腹の状態は人間の意識に大きな影響を与える。
だから、野菜を皮ごと食べる。ごはんを食べたときに、ごはんが口の中にあるときに味噌汁を口に入れない。パンを食べているときに牛乳で流し込まない。唾液を使って30回は噛む。すると良い便が出るようになる。そのようなときに煮干しを食べると良い具合に作用して集中力が付き、体温も免疫力も上がり、話もしっかり聞けるようになる。私たちの体は野菜と一緒だ。皆さんはもっと心と体を活性化することができる。
土が元気になれば、野菜も元気になり、私たちも元気になる。その循環を促してくれる微生物のことを私たちは尊敬と親しみの気持ちを込めて「菌ちゃん」と呼んでいる。有機農業には共生社会の原点がある。地球と一つに繋がる農業はとてもおもしろいものだ。ぜひチャレンジして体感してもらいたい。

よしだ・としみち NPO法人大地といのちの会理事長。(株)菌ちゃんふぁーむ代表取締役。1959年、長崎市生まれ。九州大学農学部大学院修士課程修了後、長崎県庁の農業改良普及員に。1996年、県庁を退職し、有機農家として新規参入。99年、佐世保市を拠点に「大地といのちの会」を結成。近著に『図解でよくわかる菌ちゃん農法』(家の光協会)






















吉田先生の話をここまで詳しく載せていただきありがとうございます。
鈴木先生と、吉田先生の話はセットで聞くと今の日本にとって今必要な情報がストンと腹に落ちるように伝わってきます。
農業関係でいえば、あとOKシードの印鑰智哉先生の取材も期待しています。