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大阪・府市一元化条例案を議会提出へ コロナ禍に「都構想」の焼き直し急ぐ維新に疑念渦巻く コロナ対策に全力注げ

 大阪府と大阪市は昨年11月の住民投票で再否決された大阪市廃止・特別区設置(大阪都構想)の焼き直しとして、大阪市が持つ都市計画や成長戦略など7分野の権限を大阪府に移管する条例案を2月市議会に提出する。目下、大阪府は新型コロナの感染拡大によって全国最多の死者を出し、緊急事態宣言の真っただ中にある。逼迫する医療体制の拡充、飲食店を含む事業者支援など、市民や府民が二重にも三重にも支援を必要としている最中に、「不要不急」の自粛を求めてきた行政の側が、市民をあえて分断する「府市一元化」に全力を注ぐことに強い疑念が渦巻いている。

 

都市計画など市の権限7分野を府に移管

 

 府市一元化の条例制定は、「都構想」が否決された住民投票から5日後の昨年11月5日に松井一郎市長と吉村洋文知事が表明したもので、当初は「特別区設置協定書」(都構想)に盛り込んだ大阪市の430事務と財源2000億円を対象に、市から府へ権限を移譲するとしていた。

 

松井大阪市長(左)と吉村府知事

 今回、副首都推進局がとりまとめて発表した「大阪府及び大阪市における一体的な行政運営の推進に関する条例(案)骨子」では、「大阪府と大阪市は、一体的な行政運営を推進することを通じて、大阪府及び大阪市の二重行政を解消するとともに、大阪の成長及び発展を図る」とし、大阪市廃止を推進してきた副首都推進本部会議(大阪府・大阪市の指定都市都道府県調整会議)を条例上の恒久的な組織として固定する。大阪市と大阪府が存在することが「二重行政」とするならば、住民投票で投票者(137万人)の過半数がそれを残すことを選んだが、それを「解消する」として住民投票の結果を否定。

 

 そのうえで、大阪市が権限をもつ都市計画区域の整備・開発および保全、臨港地区や都市再生特別地区などの土地利用、一般国道や高速道路を含む交通基盤整備など7分野を府への移管対象とした。また、広域行政の基本方針である「成長戦略」についても、副首都推進本部会議で府市が合意した内容にもとづいて府が策定するとした。

 

 都市計画法では、政令市は都市計画審議会を設置することが定められ、街路や都市高速鉄道などの都市基盤施設、市街地開発事業や土地区画整理事業など、都市計画決定の大部分は大阪市に属している。この権限移譲にともなって都市計画税540億円などの財源の執行権も府に移り、大阪市のまちづくりの舵を大阪府が握ることになる。

 

医療逼迫し全国最多の死者数 火事場泥棒との批判も

 

 府市一元化ゴリ押しの先に何を目指しているのか――。府市が昨年12月に発表した「再生・成長に向けた新戦略(コロナからポストコロナへ)」では、「万博やIRなどの国内外の投資を呼び込む世界的なビッグプロジェクトの進展」「国際金融都市の実現」「スーパーシティの区域指定獲得」などが主な内容で、2025年に予定する万博やその後のカジノ構想などコロナ以前に花盛りだったインバウンド需要を追い続ける志向に固執している。

 

 すでに大阪万博(総額3676億円・大阪市負担894億円)をはじめ、JR大阪駅北側の再開発「うめきた2期」、リニア新幹線延伸、阪神高速延伸、府立大・市立大統合整備事業など、総じて3060億円規模の大型事業を抱えている。一方、コロナ禍での大幅な減収と支出の増大によって、大阪府は来年度予算が約1000億円の赤字になると表明。住民投票前、コロナの影響を勘案しても「地方交付税や臨時の交付金等による相応の財源措置が想定される」として、「収支不足にはならない」としていた財政シミュレーションは根本から崩れ、市民の生命や生活を優先するのなら「不要不急」の事業の見直しは避けられない事態になっている。

 

 また、大阪市営地下鉄から民営化した大阪メトロ(全株式を大阪市が保有)は昨年12月、2020年度の年間業績は純損失が38億円にのぼると発表。民営化2年にして赤字に転落し、市への配当はゼロとなった。それどころか今年1月には、メトロが外国人観光客の増加を見越して20億円で購入していた大阪市浪速区の民泊用マンション(地上13階建、72室)を一度も使用することなく売却していたことも判明した。売却額や売却先が非公表であることも含め、民営化にともなって公的規制が機能せず、バクチ的投資の失敗が本業を圧迫している。

 

 都市計画や成長戦略の一元化(権限移譲)は、このような大規模開発や都市改造を市民の頭越しに府がゴリ押しすることを可能にするものといえる。大阪市は、4月1日の条例施行を目指して、今月10日から始まる市議会に提出する。これとは別に、松井市長は現在24ある行政区を8にする「総合区」の導入も条例化を目指しており、議会提出を急いでいる。府議会では過半数を握る「大阪維新」だが、市議会では過半数には達していない。条例化をめぐっては、有権者を裏切る形で「都構想」に賛成し、下から強い反発を受けた公明党(18議席)がどのような動きをするかが注目されている。

 

 「府市一体による成長」「豊かな住民生活の実現」を連呼する大阪維新だが、その足下では新型コロナの感染者(1日現在)が累計で4万3900人に達し、死者は東京都(894人)を抜いて全国最多の930人にのぼっている。病床使用率は70%前後の逼迫状態が続いており、自宅療養や入院調整中の患者は2800人をこえた。感染対策の放置とあいつぐ「営業自粛」の要請によって、昨年4~11月だけで市内3533店の飲食店が廃業したことも衝撃を呼んだ。

 

 PCR検査の強化費用も、神戸市の10・4億円に対して、大阪市は6000万円にとどまっており、昨年の「都構想」関連予算(10・8億円)と比べてもその優先度の低さが際立っている。業務が逼迫する保健所では職員が過労死ラインの労働を強いられ、クラスターが発生しても対応ができないほどのマンパワー不足が顕在化しており、府職員らが増員を求めて6万人分の署名を提出する事態にもなっている。関西圏だけでなく、全国的にも突出した感染者、死者数は、府と市が一元的に「都構想」実現に執着する過程で増加の一途をたどっており、行政が誰を見て政治をしているのかをシビアに物語っている。

 

 市民が助けを求めている最中に市の権限を放棄(縮小)する――火事場泥棒というほかない府市一元化の条例提出は、このような市民を顧みない政治を恒久化する一里塚として強い警戒と反発を集めている。

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この記事へのコメント

  1. 前田隆司 says:

    府知事と大阪市長を罷免する方法はないのでしょうか。

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