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岩国基地にF-35を16機追加配備 嘉手納上回る極東最大基地に変貌 蠢く全土の沖縄化

 垂直離着陸可能な米軍のステルス戦闘機F35B16機を、米軍岩国基地に追加配備する計画が動き出している。岩国基地は厚木基地からの空母艦載機移転や「沖合移設」を掲げた滑走路増設で、すでに120機の軍用機と滑走路2本体制を備えた極東最大の軍事拠点に変貌している。そのうえに空母艦載機であるF35Bの一個飛行隊を追加配備し、岩国基地を対アジアをにらんだ空母艦隊出撃拠点に増強しようとしている。在日米軍基地問題といえば、「米軍普天間基地返還」を掲げた名護市辺野古への新基地建設が大々的に報じられてきた。だが人々の関心を辺野古に釘付けにしながら、岩国基地を中心にした日本全土を攻撃基地に変える計画が急ピッチで動いている。

 

岩国基地のF35B

 

 防衛省が26日、岩国基地にF35B戦闘機を追加配備する計画を岩国市に伝えた。それは海兵隊のFA18ホーネット戦闘攻撃機12機を今年10月から段階的にF35B16機に更新する計画だった。これにともない岩国基地常駐の米軍機は4機増えることになる。

 

 岩国基地の空母艦載機部隊は現在、FA18ホーネットの二個飛行隊(一個飛行隊=12機)とF35Bの一個飛行隊(16機)を交代で運用している。ホーネットの二個飛行隊は一隊が常駐部隊で、もう一隊がローテーション部隊だ。今回はこの三個飛行隊のうちホーネットの一個飛行隊(常駐部隊)をF35B16機に更新するため、岩国に所属している40機だった三個飛行隊が、44機に増えるという。

 

 ただ機種更新となるホーネット部隊は「米本土へ移駐する」というだけでいつ移駐するのかは不明だ。しかも米本土移駐のホーネット部隊が岩国所属部隊から外れるのか、ローテーション部隊に変わるのかも不透明だ。いずれにせよ「退役」ではなく「移駐」であり、岩国基地を熟知した艦載機12機はどこかに温存されたままになる。米軍側は「12機を米本土に移駐し、16機配備するので4機増加する」と主張するが、実際は現在の40機体制を温存したままF35B16機を追加配備し、56機体制の運用を続ける可能性が高い計画といえる。

 

 このような計画について、岩国市での説明会に同席した有馬裕・外務省大臣官房参事官は「日米安全保障体制において岩国市は米海兵隊、海上自衛隊が駐留するきわめて肝要な地域だ。米軍との関係において日本国内でもモデルといえるような関係を構築しており、他の地域の負担軽減にとりくんでいることに感謝する」と強調している。

 

軍用機120機 滑走路2本 空母接岸可能な軍港

 

 米軍岩国基地は在日米軍再編計画の実行でもっとも攻撃力が増した基地である。2010年に「沖合移設」した滑走路(2440㍍)の運用が始まり、滑走路2本体制へ移行した。基地要員の数は5300人規模(2013年)だった。

 

 それが米軍再編計画が進むにつれて大幅に増加した。2014年には、普天間基地からの空中給油機15機移転にともない、基地要員が870人増加した。2018年に厚木基地から空母艦載機59機が移駐したときは、基地要員が約3800人(軍人1700人、軍属600人、家族約1500人)増えた。さらに先行実施しているF35Bの16機配備でも約130人増えている。

 

 こうして岩国基地は現在、米軍関係者約1万200人、軍用機約120機と2500㍍級滑走路2本を備えた巨大基地となった。基地には空母が接岸可能な軍港機能も備えている。軍用機の配備数は「極東最大の空軍基地」と呼ばれた嘉手納基地(約100機)も上回っている。

 

 岩国基地配備の戦闘機はスーパーホーネット(ホーネットの発展版)、F35B戦闘機等、空母艦載の戦闘機が中心だ。そのほかスーパーキングエア汎用機(人員輸送)、グレイハウンド輸送機(空母へ補給物資を輸送)、KC130空中給油機(空母艦載機に空中で給油)、ホークアイ早期警戒機(空母周辺を監視)、グラウラー電子戦機(戦闘機に帯同して敵地へ侵攻し電波妨害をおこなう)等も常駐し、空母艦載機が勢揃いしている。さまざまな空母艦載機の整備体制が整っているのも特徴だ。こうしたなかで垂直離着陸可能なF35B(空中戦よりも爆撃が主な任務)を増やすのは、航続距離の長い戦闘機や空中戦を主にした戦闘機を展開するのではなく、空母や小型空母を用いた空爆体制の強化を意味する。それは今後、岩国基地を基点にして原子力空母、大型強襲揚陸艦、ヘリ空母などを本格展開するための軍事配置である。

 

 岩国ではこうした米軍戦闘要員を家族ごと受け入れるため、愛宕山に1戸100坪もある米軍住宅を270戸整備した。さらに4000人規模の米兵や家族が快適に暮らせるように豪華な野球場、陸上競技場、カルチャーセンター(バレーボールコート三面分や和室、会議室等)等も整備している。こうして岩国市全体が数千人規模の米軍部隊や艦載機部隊をいつでも受け入れ、即座に最前線に送り出すことが可能な、日本で唯一の空母艦隊出撃拠点として機能強化に進んでいる。

 

愛宕山の米軍住宅

米軍住宅にはゲートが設置され一般車両は通行できない

 

馬毛島に着艦訓練基地 岩国から400㌔

 

 こうした空母艦載機部隊に欠かせないのが陸上空母離着陸訓練(FCLP)基地だ。米国が何十年も前から早急な整備を要求してきたが、頓挫してきた経緯がある。このFCLP基地を巡って防衛省は8月、地元住民の同意もないまま馬毛島(鹿児島県西之表市)にFCLP基地を整備する計画を発表している。昨年11月に国の土地評価額の4倍近い160億円で、安倍政府が島ごと買いとることを決め、今年1月に現地調査を開始した。防衛省は滑走路2本(2450㍍と1830㍍)、火薬庫、駐機場、燃料施設、訓練場を整備し、自衛隊員を150~200人常勤させる計画を示している。

 

 FCLPは空母艦載機が、陸上滑走路を空母甲板に見立てて離着陸をくり返す訓練だ。米軍パイロットが出撃前に必ずおこなう訓練で、爆音や事故の危険がともなう。そのため現在のFCLPは東京から約1200㌔㍍離れた硫黄島で暫定的に実施していた。それが馬毛島に変わると岩国から約400㌔㍍になり、移動距離が短くなる。無人島で激しい訓練もしやすいと見なしている。

 

 この馬毛島で実施する訓練はFCLPだけにとどまらない。今回「実施する可能性のある主な自衛隊の訓練」にあげたのは、

①連続離着陸訓練

②模擬艦艇発着艦訓練

③不整地着陸訓練

④機動展開訓練

⑤エアクッション艇操縦訓練

⑥離着水訓練及び救難訓練

⑦水陸両用訓練

⑧救命生存訓練

⑨ヘリコプター等からの展開訓練(オスプレイ等)

⑩空挺降投下訓練

⑪災害対処訓練

⑫PAC―3機動展開訓練

の12種類に及んでいる。馬毛島近辺では、海自鹿屋基地での米軍空中給油機を動員した訓練、臥蛇島(がじゃじま・鹿児島県)への離島奪還訓練施設建設計画など訓練施設整備が目立っている。

 

 

築城・新田原基地強化 「普天間基地並み」

 

 さらに太平洋側に近い九州の自衛隊基地では米軍の物資・補給機能の強化が進んでいる。その具体計画の一つが空自築城基地(福岡県築上町)と空自新田原基地(宮崎県新富町)を「普天間基地並み」に増強する計画である。築城と新田原は米軍再編計画のなかで「普天間基地が攻撃されたときや緊急時に使う」と位置づけられ、滑走路延長や米軍宿舎の建設が動いてきた。築城基地は現滑走路(2400㍍)の海側を約25㌶埋め立て、普天間基地の滑走路と同じ2700㍍(約300㍍延伸)にし、駐機場、燃料タンク、火薬庫、庁舎、宿舎、倉庫も新設する計画が動いている。これとは別に農地を14㌶取得して基地を拡張し、駐機場と災害復旧訓練場をつくる計画も浮上している。新田原基地は2700㍍の滑走路があるため、駐機場、燃料タンク、弾薬庫、庁舎、倉庫を新設し、誘導路を改修する計画が進んでいる。

 

 日米政府は「米軍普天間飛行場の基本機能は名護市辺野古に移設し、普天間基地が持っているもう一つの緊急時使用機能を築城基地と新田原基地に移す。そのための施設を整備する」と主張している。そして築城、新田原の自衛隊基地に「米軍戦闘機12機程度、米兵200人の受け入れ」を想定した施設整備を進めている。それは岩国から米本土移駐となるホーネット部隊と同規模の一個飛行隊をいつでも受け入れるための施設整備である。築城と新田原をあわせれば常に米軍戦闘機24機(兵員400人)程度の受け入れができる状態になる。「普天間返還」と称して辺野古、築城、新田原の3カ所に同規模の基地機能を整備し、現行機能を3倍化する動きである。

 

佐世保には強襲揚陸艦 陸自に水陸機動団も

 

 こうした訓練・物資補給拠点の整備に加えて、地上戦を中心にした兵員投入の拠点作りも動いている。岩国と密接に連携する佐世保市では、米海軍佐世保基地に大型強襲揚陸艦「アメリカ」(満載排水量=4万5000㌧)が配備され、岩国のF35Bを搭載した運用や訓練が活発化しているが、これは空母艦載機の動きと連動して海兵隊員など地上戦要員を迅速に展開するための準備である。

 

 しかも米国はここ数年、米軍の戦闘要員を日本に肩代わりさせるため「金だけでなく血を流せ」と自衛隊員の戦地投入を執拗に要求してきた。そして米軍が何度も市街戦訓練をおこない、2018年には陸自相浦駐屯地(佐世保市)に水陸機動団(日本版海兵隊)を発足させた。同部隊は「離島奪還」など地上戦を専門にしている。発足当初は2000人規模だが、いずれ3000人規模に増員する方向である。佐世保市崎辺地区では水陸両用車を運用する戦闘上陸大隊(約170人)の分屯地や訓練施設建設計画も動いている。

 

 さらに熊本県の陸自健軍基地には80人規模で電子戦専門部隊を新設する準備が進んでいる。電子戦専門部隊は水陸機動団とともに前線へ緊急展開し、レーダーや情報・通信を妨害する部隊である。こうした水陸機動団や電子戦専門部隊を迅速に戦地へ送り込む輸送機として、佐賀空港へのオスプレイ配備を目指している。中国側に面している長崎、佐賀、熊本地域では兵員投入の拠点作りが動いている。

 

南西諸島では攻撃体制 ミサイル部隊を配備

 

 そして中国との国境に近い南西諸島ではミサイル攻撃部隊の配備が進んでいる。台湾や尖閣諸島のすぐそばにある与那国島(沖縄県)では2016年から陸自沿岸監視隊約160人と空自移動警戒隊を配置し、戦闘機も艦船も捕捉できるレーダーを新設した。巨大弾薬庫を設置する動きも出ている。

 

 さらに地対空、地対艦ミサイルを運用する陸自ミサイル部隊を宮古島(沖縄県)には約800人、石垣島(沖縄県)には550人、奄美大島(鹿児島県)にも550人配置した。宮古島には指揮所や弾薬庫を建設し、石垣島と奄美大島には弾薬庫や射撃場を整備する方向だ。国境周辺地域では、ミサイルの正確な位置特定に不可欠な準天頂衛星管制局を配備し「日本版GPS」で取得した情報を自衛隊が本格運用する方向を進めている。南西諸島近辺ではミサイル部隊の拠点化が進行している。

 

建設中の陸自ミサイル部隊駐屯地(宮古島市千代田地区)

 

 こうした計画はすべて日米政府が2006年5月に決定した「米軍再編計画」に基づいている。この計画を策定したとき日米政府は「普天間基地返還」「米軍基地の整理縮小」「沖縄の負担軽減」を強調した。だが一四年へて浮き彫りになったのは、米軍基地機能や米軍訓練の本土移転を進め、日本全土を「沖縄化」することが狙いだったという現実である。

 

 米軍再編計画の策定直後、日米政府が真っ先に着手したのは自衛隊司令部と米軍司令部の統合計画だった。キャンプ座間(神奈川県)に、もともとワシントンにあった米陸軍指令部を移転させ、陸自司令部と米陸軍司令部を一体化した。在日米軍司令部と第五空軍司令部のある横田基地には、空自の航空総隊司令部を移した。相模総合補給廠(神奈川県相模原市)には米陸軍のミサイル司令部要員も移した。そして空自府中基地には今年5月、米宇宙軍と連携した宇宙作戦隊を発足させた。

 

 こうして首都圏の軍事作戦司令部には陸、海、空の戦域に加え、ミサイル部隊や宇宙軍まで米国の直接指揮下に入っている。そして行き着いた日本の姿は、首都圏の「軍事作戦司令部」から命令を飛ばし、岩国周辺の「空母艦隊の出撃拠点」を基点にして、九州一円の「訓練・物資補給拠点」「兵員投入拠点」「ミサイル部隊拠点」を総動員して他国に戦争を仕掛ける体制だった。

 

 こうして米軍再編計画の個別パーツを一つずつ埋めていくと、日本列島全体が、先制攻撃を想定した巨大な戦闘艦のような様相を呈している現実が浮き彫りになっている。「沖縄の負担軽減」「基地の整理縮小」を掲げた「米軍再編計画」とは一体何だったのか、何を目指しているのか、この現実を直視することが、今後の日本の将来を考えるうえで避けて通れない問題になっている。

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