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オスプレイ配備が地域や暮らしに何をもたらすか――沖縄から佐賀へ伝える基地被害の実相 普天間爆音訴訟弁護団・林千賀子氏の講演より

佐賀県弁護士会が開催した「オスプレイって大丈夫?私たちの暮らしはどのように変わるのか」講演会(6月17日、佐賀市)

佐賀県弁護士会が主催

 

 佐賀空港へのオスプレイ配備計画で揺れる佐賀市で17日、普天間基地爆音差止損害賠償請求弁護団の林千賀子弁護士(沖縄弁護士会)を招き、「オスプレイって大丈夫? 私たちの暮らしはどのように変わるのか」と題する講演会(主催/佐賀県弁護士会)が開催された。市民ら120人が参加し、佐賀の将来への危惧を重ねて聞き入った。林氏は「沖縄で起きている問題の数分の一もお伝えできないと思うが、軍事基地が隣にある生活はどういうものかということに思いを馳せながら聞いていただきたい」として、普天間基地や嘉手納基地の爆音訴訟等のなかで得た知見をもとに、沖縄の現実と佐賀配備によって生じる懸念について問題提起した。以下、林氏の講演要旨を紹介する。

 

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林千賀子氏

 「オスプレイ」とは英語で鳥のミサゴを意味する通称であり、正式名称はMV22(CV22)だ。米海兵隊の航空機として開発され、ヘリコプターのような垂直離着陸機能と、固定翼機のような速さや長い航続距離機能の両方を持つとされる。

 

 だが、プロペラが地面と垂直になる固定翼モードから、水平になる垂直離着陸モードの中間にある「転換モード」が最も危険といわれており、構造上不安定であることが指摘されている。

 

 まずオスプレイの被害としてよくいわれるのが、墜落の危険だ。
 「クラスA事故率(10万飛行時間当りの事故数)」は、被害総額200万㌦以上あるいは死者を出した最重大事故の発生率としてアメリカが分類しているものだが、CV22では4・05(2017年)、5・84(18年)、6・22(19年)、6・58(20年)。MV22では、1・65(12年)、3・26(17年)、2・50(19年)2・30(22年)と報じられている。数年前に比べ「クラスA事故」が画期的に下がったという状況にはない。

 

 いずれにしても、訓練の増加と事故発生率は比例する。オスプレイに限らず、航空機の事故発生率をゼロにすることはできない。軍用機が日々飛び交うなかで、事故発生の危険は常にある。沖縄では2016年2月13日、名護市安部のキャンプ・シュワブ沿岸の浅瀬に米軍オスプレイが墜落し大破している。少しずれて民間人がいる場所に墜落していれば大惨事になる事故だった。

 

宮森小学校米軍ジェット機墜落事件(1959年6月30日、沖縄県旧石川市)

 沖縄での米軍機墜落事故で、忘れてはならないのは1959年6月30日、旧石川市(現うるま市)の宮森小学校への米軍ジェット機墜落事件だ。ミルク給食の時間に突然、小学校にジェット機が墜落し、210名が負傷、児童を含む17名が死亡する大惨事となった。私は沖縄に移住する前、1977年9月27日の横浜での米軍機墜落事故(母親と幼子2人が死亡)については知っていたが、宮森小学校の事故について知らなかったことを恥じた。

 

 その後も死亡者が出るような米軍機の墜落事故が頻繁に起きている【表】。とくに衝撃的だった事故は、2004年8月に起きた沖縄国際大学米軍ヘリ墜落事故だ。ちょうど夏休み中だった大学の校舎をかすって大学敷地内に米軍大型ヘリが墜落し炎上した。

 

 事故から15年目にあたる2019年8月、学長が出された声明では、「2004年8月13日、この場所この時間に、米軍ヘリコプターが墜落炎上し、学生、教職員、市民、県民を恐怖に陥れてから、今日で15年目を迎えます。あの日の墜落現場の惨事と米軍の理不尽な事故処理に対する市民、県民の憤懣やるかたない強い憤りが、時間の経過と共に薄れていくことも残念ながら現実であります。米軍ヘリコプター墜落事件の惨事の記憶を風化させてはなりません。我々は今日、ヘリコプター墜落事件に対する憤りの記憶を改めて鮮明に呼び覚まし、受け継ぐとともに、事件以来求め続けてきた普天間飛行場の閉鎖を繰り返し要求し、ここに強い決意を込めて『普天間基地の閉鎖を求め、平和の尊さを語りつぐ集い』を開催し、声明を発表します」とのべている(沖国大ホームページに全文掲載)。

 

 ここには沖縄の現状のエッセンスがつまっている。日米地位協定が影響して米軍基地関係の事故が起きても、日本は何の手出しもできない。沖国大の事故では警察も消防署も手出しできず、現場にさえ入れてもらえなかった。付近の土壌をすべて米軍が持ち帰ったので事故原因の究明もできない。日本政府も助けてくれなかった。

 

 宮森小学校墜落事故から45年後、また学校に落ちたことになるが、45年に1度だから「少ない」という話ではない。そもそもあってはならないことだ。あってはならないことが起きるのが事故かもしれないが、そのときに国民には情報開示もされず、日本人として原因究明も許されないというのが米軍基地関係の事故であり、軍事関係の事件・事故だ。
 いずれにしても「安全保障政策」という名の下に、われわれがどこまで情報を開示してもらえるのかということには非常に悲観的にならざるを得ない。

 

沖縄国際大学の米軍ヘリ墜落現場。米軍により消防や警察の現場立ち入りも制限された(2004年8月)

騒音被害や部品落下も 全首長の要望も無視

 

 もう一つの被害として考えられるのが騒音被害だ。オスプレイを含めて普天間でよく飛んでいるヘリは低周波音を出している。低周波音は騒音だが、人間の耳では聞こえない周波数の音によるものだ。一般的な被害としては、わずらわしさ、不快感、迷惑感などのアノイアンス(音にかかわる不快感の総称)、頭痛・吐き気などの生理的影響、睡眠妨害、疲労などがあげられる。つまり、可聴音を前提とする測定結果のみで、騒音被害の有無を判断することは実態に即していない。その証明が難しいところもあって弁護団でとりくんでいるところだが、低周波音被害について「研究途上である」=「被害がない」ことにはならない。

 

 事実、普天間ではオスプレイの騒音被害は多く実感されている。オスプレイがたくさん飛んでくれば、耳では聞こえなくても同様の騒音被害が出ることがわかっている。

 


 そして、米軍機からの部品落下事故も頻繁に起きている。墜落よりも確率は高く、2017年12月には普天間基地に隣接する普天間第二小学校に軍用ヘリの窓枠が落下した。人に直撃していれば命を奪われるような大惨事となる事件だが、同じく米軍ヘリの部品が宜野湾市内の緑ヶ丘保育園にも落下している(これを米軍は否定)。

 

 オスプレイは沖縄には2012年10月1日に初めて飛来しており、県民による反対運動が巻き起こり、抗議集会がたくさん開かれた。2013年には沖縄県内全41市町村の首長が上京し、政府に異議を申し立てた。だが、こうした運動は無視され、沖縄での訓練が本格化して現在に至る。

 

 今年3月には米軍那覇港湾施設(那覇軍港)に米海兵隊のオスプレイ1機が陸揚げされており、沖縄県は「本来の使用目的である『港湾施設』等から逸脱する」と防衛局に抗議したが、政府は「使用目的に沿ったもの」であるとして、抗議要請を受け付けていない。

 

“静かな空”取り戻す闘い 普天間爆音訴訟

 

 普天間基地爆音差止損害賠償請求訴訟とは、簡単にいうと普天間基地周辺住民を原告として、この基地の軍用機の夜間早朝の飛行差し止めと騒音被害への慰謝料を請求するものだ。

 

 第一次訴訟は2002年に原告404名で始まり、12年に第二次訴訟(原告3417名)、20年には第三次訴訟(原告5875名・2013年5月25日現在)が提起されている。第三次訴訟では、夜10時から翌朝六時までの飛行差し止め、朝6時から夜10時までの65デシベルをこえる騒音到達の禁止、爆音被害による精神的苦痛に対する慰謝料を求めている。

 

 裁判は非常に負担がかかることなのに、なぜ第三次訴訟まで提起しているのか。それは飛行差し止めを裁判所が絶対に認めないからだ。「飛行差し止めは認められない」と裁判所は言い続けるが、日米両政府は爆音被害への慰謝料請求は毎回認める。つまり住民に被害があることを裁判所は認定しているが、日米両政府はその被害の改善を省みない。だから三次訴訟にまでなっている。

 

 なぜ差し止めが認められないのか――その理由は“第三者行為論”といわれるものだ。簡単にいえば、米軍基地を飛び交う米軍機の運用については日本国が決められないものであり、騒音をまき散らしているかもしれないが、その運行等について日本国はどうしようもないのだから、国を被告として差し止め請求されても意味がない、と裁判所はいう。

 


 それならばと米国を訴えたところで、米軍について日本には司法審査権がないということで判断してくれない。違法だということが何十年にわたって断罪されているが、米軍基地は動かず、今すぐ嘉手納も普天間もなくならない。だからせめて早朝夜間の飛行差し止めをしてほしいと請求しているのに、門前払いの形で裁判所が判断することを放棄してしまっている。私たちからすれば司法権の行使を放棄しているといわざるを得ない。

 

 オスプレイは、第二次訴訟係属中に普天間基地に配備された。すると、裁判所は第一次訴訟で認めていた低周波音被害を、第二次訴訟では第一審・控訴審ともに否定した。だから第三次訴訟で原告は、あらためてオスプレイ等による低周波音被害を主張している。

 

 第二次訴訟の判決が出た後から、沖縄県が普天間基地周辺の低周波音の曝露量を継続的に計測している。これが低周波の曝露を立証する貴重なデータとなっているが、そこから被害の有無を立証することは簡単ではない。それを弁護団でとりくんでいるところだ。

 

 これまで裁判所が「違法」と認めているのは、W値(うるささ指数)が80W以上の騒音だ。普天間基地周辺では、滑走路両端の延長線上にある地域がこれに達しており、この地域に約5万人が暮らしている。

 

 沖縄で「静かな日々」「静かな空」をとり戻すことが爆音訴訟の目的だが、佐賀ではこれからそれが失われないようにどうするかということが問題になっていると思う。

 

 ちなみに普天間基地に常駐する機種(2021年11月現在)は、固定翼機4機、ヘリコプター30機、オスプレイ24機(計58機)となっている。それに対して佐賀空港に配備予定の機種は、オスプレイ17機、ヘリコプター50機(計67機)とされており、かなりの規模といえる。

 

 ただ基地は常駐機だけが飛ぶのではない。5月2日のNHKのニュースは「普天間基地の外来機の離発着は3100回余、過去2番目の多さ」と報じている。なにかちょっと周辺できな臭い動きがあれば、常駐機に加えて外来機も周辺住民の生活エリアを日々飛び交う状況になる。それにともなって被害も増える。

 

 ちなみに、米軍側は基地の「場周経路」(離発着時の標準飛行ルート)を示しているが、実際に普天間基地を離発着している経路は【図】の通りだ。飛行する場所は場周経路に収まるものでは、まったくないことも参考にしてもらいたい。

 

深刻な低周波音の被害 特に酷いオスプレイ

 

 普天間基地周辺の低周波音曝露の実態をみると、オスプレイではほとんどあるいはすべての測定結果で、物的影響の基準(物的苦情参照値)と心理的影響基準(圧迫感・振動感曲線)の双方を上回る低周波音が測定されている。AH1&UH1、CH53(軍用ヘリ)でも、その大部分で、物的影響の基準と心理的影響の基準を上回る低周波音が測定された。各データは沖縄県のホームページに掲載されている。

 

 第三次訴訟の原告アンケート陳述書では、オスプレイの騒音と他の航空機・ヘリの騒音との違いについて、全回答約2140世帯のうち76%が「体に圧力がかかる」「体に響く」「重苦しい」「重みのある音」「(重)低音」「圧迫感」「心臓に響く」「家が揺れる感じ」などと回答している。

 

 また、早朝夜間の時間帯でうるさいと感じる日が週に何日あるかという問いには、「ほとんど毎日(週5~7日)」が28%、「週に3~4日」が37%を占めた。このように人間が眠ったり、静かに暮らす時間帯に騒音にさらされているということが原告の陳述書で明らかになっている。

 

 健康状態への変化については、複数回答で「イライラが増した」(1285世帯)、「よく眠れなくなった」(675世帯)、「頭が重く感じる」(565世帯)、「耳の奥に圧迫感」(550世帯)などの回答が多い。

 

 物理的被害では、「家の振動がひどくなった」「テレビ画面が以前より乱れる」「建具や窓のがたつきがひどい」などに加え、「防犯ブザーやインターフォンの誤作動」と答えている人もいる。オスプレイの配備後になって物心への影響がより増大したと答えている人が多いことがわかる。

 

“戦後防衛政策の大転換”とは 佐賀配備の背景

 

 佐賀空港へのオスプレイ配備の背景として、昨今「戦後防衛政策の大転換」という言葉がさかんに使われるようになっている。

 

 日本の安全保障政策の基本指針とされる「防衛計画の大綱」が1976年に策定され、その後数回の改定をへて、2010年の防衛大綱では「島しょ部における対応能力の強化」「自衛隊配備の空白地帯となっている島しょ部」への自衛隊配置を決定している。これを受けて2014~18年、「中期防衛力整備計画」として南西諸島の防衛体制の強化が本格化する。いわゆる“南西シフトの形成”というものだ。

 

 2013年12月、安倍政権(当時)によって「国家安全保障戦略」が“閣議決定”で策定される。同年の防衛大綱では、北朝鮮や中国の脅威を強調し、「島しょへの侵攻があった場合に速やかに上陸・奪回・確保するための本格的な水陸両用作戦能力を新たに整備する」とした。

 

 どうしても疑問が拭えないのは、防衛政策に関するあらゆる資料や論文を読んでも、北朝鮮と中国が日本を狙っているという確たるものが出てこないことだ。私も北朝鮮にはミサイルを飛ばさないでほしいと思うが、そのミサイルの性質や飛距離を考えると、少なくとも日本を狙ったものではないことは客観的事実として明らかといえる。

 

 中国の脅威についても、最近「台湾有事」が騒がれているが、それは日本有事ではない。なぜ北朝鮮や中国の政策動向が“日本に対する脅威”といわれるのか意味がわからないし、そこにすり替えがあるのかどうかについて、ぜひ皆さんと一緒に考えたい。

 

 いずれにせよ、それを根拠にして「島しょへの進行があった場合に速やかに上陸・奪回・確保するための本格的な水陸両用作戦能力」を整備するという方針のなかで、佐賀空港へのオスプレイ配備計画が始まっている。この中核にある「水陸機動団」は2018年4月に設立された。

 

相手の領域攻撃も想定 安保3文書の改定

 

 2022年12月6日、岸田政権による「国家安全保障戦略」など安全保障関連3文書の改定が、これまた閣議決定によっておこなわれた。これが「戦後防衛政策の大転換」といわれている。

 

 安保関連3文書とは、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の三つだ。

 

 まず「国家安全保障戦略」では、日本を取り巻く安全保障環境が「世界の歴史的な転換期」にあり「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面」していると強調している。

 

 そして北朝鮮=「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」、中国=「対外的な姿勢や軍事動向等は、我が国と国際社会の深刻な懸念事項…これまでにない最大の戦略的な挑戦」としているが、なにが「最大の戦略的挑戦」なのかはわからない。そしてロシアを「安全保障上の強い懸念」としている。

 

 そうした背景があることを前提に、「既存のミサイル防衛だけで完全に対応することは難しい」とし、飛んでくるミサイルを防ぎながら、さらなる攻撃を防ぐための「反撃能力」(敵基地攻撃能力から名称変更)が必要であるとしている。

 

 反撃能力の中身は「我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力行使の3要件に基づき、必要最小限の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能にするスタンドオフ防衛能力等を活用」となっている。「相手の領域」にまで攻撃を可能にするという意味では確かに大転換だ。

 

 「国家防衛戦略」では、①スタンドオフ防衛能力、②統合防空ミサイル防衛能力、③無人アセット防衛能力、④領域横断作戦能力、⑤指揮統制・情報関連機能、⑥機動展開能力・国民保護、⑦特殊性・強靱性となっている。一国民としてとくに気になったのは、「⑥機動展開能力・国民保護」で、防衛省ホームページでは「自衛隊の輸送力を強化しつつ、民間の輸送力を活用、平素から空港・港湾施設等の利用拡大」となっている。平時から民間施設の軍事的利用を推進していくというものだ。「防衛力整備計画」とは、防衛に必要な装備についての計画だが、スタンドオフ防衛能力については、長射程ミサイルの量産取得や米国製「トマホーク」の導入、統合防空ミサイル防衛能力におけるイージス・システム搭載艦の整備、無人アセット防衛能力における無人機の整備などとなっている。

 

 スタンドオフ防衛能力というのは、射程1000~3000㌔㍍の長射程ミサイルなど、「さまざまな地点から重層的に艦艇等を阻止・排除できる必要十分な能力」としている。安保3文書では、同ミサイル3種類を5年間かけて開発・配備するとしており、その間は米国の巡航ミサイル「トマホーク」400発を2113億円で購入して導入するとしている。

 

 23~27年度におけるこれらの計画の実施に必要な防衛能力整備にかかる経費の額は、43兆円程度という。国家財政が赤字といわれるなかで、これだけの規模を軍事に注ぐということをどう考えるか。国民生活に直接かかわる問題だ。

 

対中国戦略に日本動員 武力行使の要件緩和

 

 「反撃能力」とは何かを考えるうえでは、2014年7月1日に安倍政権がこれも閣議決定した「武力行使の3要件」がある。これら三つの要件を満たす場合には、自衛の措置として、武力の行使が憲法上許容されるべきであるとされている。

 

 1、わが国に対する武力攻撃が発生したこと、又はわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
 2、これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
 3、必要最小限度の実力を行使すること

 

 だが、2015年6月1日の衆院安保法制特別委員会で安倍首相(当時)は、安保法制に基づき集団的自衛権の行使として敵基地攻撃をすることも「法理上はあり得る」とする一方、「われわれは(敵基地を)攻撃する能力はそもそも持っていないわけで、個別的自衛権においても…ましてや集団的自衛権(の行使)においては、実際には(敵基地攻撃を)想定はしていない」。そのため、他国領域で集団的自衛権を行使する例としては「ホルムズ海峡における機雷掃海しか念頭にはない」とのべていた。

 

 当時、国会が非常に揺れていて、ニュースでもさかんに流されていたが、今の「防衛戦略の大転換」に比べると穏やかに見えてしまう錯覚に陥って怖いものがある。

 

 この大転換の背景として、アメリカでは2021年1月に成立した国防授権法で「太平洋抑止イニシアティブ(PDI)」という新たな基金が基本予算に盛り込まれることになった。国防授権法は、国防予算を計上するための根拠を示す法律だが、この基金の目的を、インド太平洋地域における米軍の能力向上、同盟国やパートナー国への「安心供与」であるとしている。

 

 実質は中国に対抗するためのもので、同盟国(日本)を動員して、沖縄など南西諸島を含む「第一列島線」に「精密打撃網」を構築する計画だといわれている。具体的には、艦船搭載の巡航ミサイル「トマホーク」、戦闘機搭載のスタンドオフミサイルなどの配備強化であり、すべて日本の防衛大綱に出てきた話だ。

 

日本版海兵隊を佐賀へ 佐世保と一体的運用

 

 そして2018年に正式に設立され、佐賀空港にも配備が計画されている「水陸機動団」とは、全国唯一の陸上戦の専門部隊であり、長崎・佐世保に拠点が置かれている。「日本版海兵隊」と呼ばれるが、米海兵隊の別名は「殴り込み部隊」。敵陣に乗り込んでいく部隊だからだ。

 

 自衛隊が長年、旧ソ連を念頭に北海道に多くの戦車を置くなど「北の守り」を重視してきたことからみても大きな転換点の象徴とみなされ、海から上陸して島を奪還することを想定し、米海兵隊を参考に3000人規模の大部隊によって対応するとしている。

 

 そして米海兵隊の新戦略構想「EABO」では、ハワイに「海岸沿岸連隊」を立ち上げ、自衛隊との新たな連携を進めているとされる。ここでオスプレイは、水陸両用作戦で「航空機による着上陸」を担うという。

 

 これは「南西シフト」と呼ばれる南西諸島への自衛隊配備とも連携したものだ。与那国島、石垣島、宮古島、沖縄本島のうるま市、奄美大島に陸自ミサイル(誘導弾)部隊が配備される。うるま市以外は新基地を建設しての配備となる。

 

 すでに配備が完了した与那国島では、昨年の日米共同演習「キーンソード23」で自衛隊の戦闘車両が県内で初めて集落内公道を走行し、与那国空港も使用されるなど軍民官の一体化が進んでいる。

 

 奄美大島でも、ミサイル配備計画を島民が知ったのは、造成工事着工の1年前に開催された住民説明会(一回のみ)だった。ここでも日米合同軍事訓練やミサイル防護訓練などが立て続けにおこなわれている。昨年には発射機能をもつ高軌道ロケットシステム「ハイマース」が持ち込まれた。

 

 今年2月16日の日米統合演習「アイアン・フィスト」は、初めて日本(九州・沖縄)でおこなわれ、ここに水陸機動団も参加している。

 

変化する地域や暮らし 何の為の佐賀配備か

 

佐賀空港に隣接するオスプレイ配備予定地

 佐賀空港については、まだ配備されていないので仮定の話でしかないが、これまでのべてきた墜落事故、部品等落下事故、騒音被害の懸念については、沖縄では現実に起きていることだ。

 

 国側は「民間空港としての利用に影響はない」と説明しているが、実際に軍用機の離発着がおこなわれれば何らかのトラブルや事故による影響があることは否めない。

 

 仮に米軍機が飛来した場合には、日米地位協定によって日本側はまったく関与できないケースが生まれることも想定される。つまり施設・区域の提供、米軍の管理権、日本国の租税等の適用除外、刑事裁判権、民事裁判権、日米両国の経費負担、日米合同委員会の設置が定められ、時代に合わないにもかかわらず一度の改定もない。

 

 沖縄県は「米側に裁量を委ねる形となる運用改善だけでは不十分であり、地位協定の抜本的見直しが必要」として毎年度要請をおこなっている。日米地位協定は沖縄で顕在化しているだけで、日本全国に適用されている協定だということを知ってもらいたい。

 

 経済効果については、地方経済や自治体財政の厳しさを考えると悩ましい問題であると思うが、沖縄では基地がない方が経済的に発展することが実証されている。さまざまな試算もあるし、基地が返還された場所には商業地域ができて経済活動が活発化している。

 

 ただし辺野古のように過疎化が進み、第一次産業も衰退しているような地域では、ピンポイントの補助金による振興は魅力的に映るかもしれない。しかし、それがはたして持続可能性がある振興になるのか、将来的に経済発展に繋がるのかという点については皆さんで考える必要がある。

 

 さらに環境への影響では、佐賀空港では条例でアセス(環境影響評価)の実施義務を35㌶以上としている関係で、今回の配備予定地33㌶の開発においては環境アセスが実施されないと聞いている。沖縄ではアセスはおこなわれても不十分なのに、実施もせずに環境への影響を事前調査もしないということを心配されるのは当然だと思う。

 

 沖縄での米軍基地周辺では、基地から垂れ流されている有害なPFOS/PFOA(有機フッ素化合物)による水汚染が問題になっている。これは住民の体の中に入るからだ。そうでなくても基地からの排水は必ずあるので、水の流れがかわることなどによって塩分濃度が低下し、ノリ生育へ影響することもありうることだと考えられる。

 

 またオスプレイが発する猛烈な下降気流が、ノリ養殖や農作物に与える影響についても懸念される。騒音によるコノシロ漁や畜産への影響も「ない」とは言い切れない。
 また有明海沿岸の生態系への影響も懸念される。「東よか干潟」は希少種を含む野鳥の保護区であり、これら野鳥へのストレス要因となることも考えられる。

 

 さらに配備予定地域は、国内有数のバルーン・フライト・エリアであり、大会などがあるときには「飛ばしません」といわれても、「(防衛省側が)配慮をしてあげている」という関係性が生まれることになる。

 

 どうしても伝えたいのは、2021年6月に成立した「重要土地利用規制法」の問題だ。これは弁護士でさえ知らないうちに法制化されたものだ。

 

 これにより自衛隊基地や原子力発電所などの安全保障上重要とされる施設の約1㌔㍍の範囲や国境付近の離島などを「注視区域」に指定し、国が土地などの所有者の氏名や国籍などを調査できる。とくに重要性が高い区域は「特別注視区域」に指定して、一定以上の面積の土地等を売買するには、氏名や国籍などを事前に届け出ることを義務づけている。

 

 自衛隊の周辺に土地をもっていたりすると個人情報を国が勝手に調べられるし、こうした区域から電波等の妨害行為等が確認された場合には、国が土地や建物の利用中止を命令できる。違反した場合には、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはその両方が課されるというものだ。

 

 私たち国民の財産権に直結する法律であり、今後自衛隊関係施設の周りの方々には、この法律の適用があるにもかかわらず、非常に知られていない法律だ。

 

 最後にのべたいのは憲法の問題だ。日本にはたくさんの法律があるが、これらが私たちの権利や自由を不当に制限しないためにあるのが日本国憲法だ。法律ではないが、法律の親元のようなものだ。そして現行憲法には、平和原則が謳われている。「戦後安全保障政策の大転換」といわれるものは、この憲法を無視するものになっていないかどうか。しかも国会で議論をして賛否を決めたのではなく、「閣議決定」という手段で進んできてしまっている。

 

 法治国家における民主主義に基づいた変遷といえるのかどうか――ということを、佐賀空港へのオスプレイ配備問題を捉えるうえでも少なくとも考えるべきではないかと思っている。

 

 佐賀空港にオスプレイ等の軍用機が配備されることが、私たち自身の生活や人生、次世代以降の生活やその人生に実際にどのような影響をおよぼすのかということを具体的に考える必要がある。

 

 国家安全保障といえばブラックボックスのようになり、「国がいうのだから大事なのだろう」という気持ちになりがちだが、今選択を迫られている問題が、それぞれ具体的に誰のためにどういうメリットをもたらすのか、そして誰にどのようなデメリットがあるのかということについて最低限わかったうえで、国民、県民、市民が主体的な考えをもって選択していくべきことだと思う。

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