いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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南スーダンから撤退せよ 米中覇権争奪の捨て駒になるな

 国会では連日のように南スーダンPKOに派遣されている自衛隊の日報問題が議論され、「事実行為としての殺傷行為はあったが、憲法九条上の問題になる言葉は使うべきでないことから、武力衝突という言葉を使っている」「国または国に準ずる組織ではない」など、まるで言葉遊びのような国会答弁がくり返されている。しかし現実には大統領・副大統領両派の戦闘は、ディンカ人・ヌエル人それぞれの民族全体を巻き込んで激しさを増し、難民が続続とコンゴやウガンダなど隣国に流れ込んでおり、国連機関が次次に声明を発表する事態となっている。このなかに昨年12月から「駆けつけ警護」「宿営地の共同防護」の新任務が付与され、武力行使が可能となった自衛隊員らが送り込まれている。

 


 
 戦火拡大で潤う武器商人たち

 南スーダンでは昨年7月、首都ジュバで大統領派と副大統領派が衝突し、1週間ほどで数百人もの死者を出す大規模な戦闘が起き、それを機に和平合意後1年ほど落ち着いていた内戦状態が再発した。自衛隊の宿営地の直近で銃弾が飛びかう戦闘が発生し、国連施設も攻撃を受けるなかで、安倍政府は「戦闘ではなく衝突だ」「首都ジュバは落ち着いている」といい、停戦合意が成立していると強弁して、陸自部隊に「駆けつけ警護」「宿営地の共同防衛」の新たな任務を付与して南スーダンの地に送り込んだ。


 当時、首都ジュバにいたのは政府軍のみであり、専門家や現地を知る人人は政府軍と交戦する可能性が高いにもかかわらず、憲法上はそれを禁じられた状態であることなど、現実からかけ離れた想定で送り込まれる自衛隊員の危険性に警鐘を鳴らしていた。さらに安倍首相が駆けつけ警護の対象として説明していたNGO関係者ら自身も、武力行使することによって中立性を失い、逆に邦人を危険にさらすという危惧を表明していた。


 しかし、安倍政府の嘘は早くも暴露されることとなっている。昨年九月にジャーナリストらが情報公開請求したさいには「目的を終えたので廃棄した。すでに存在しない」としていた昨年7月の自衛隊派遣部隊の日報と、上部団体がそれをもとに作成した「モーニングレポート」には、安倍首相や稲田防衛大臣らの「PKO五原則は守られている」といった主張が覆される事実が刻銘に記録されている。


 2つの文書には、「戦車砲を射撃」「戦車が南下」「対戦車ヘリが大統領府上空を旋回」「えい光弾50発の射撃」などの記載や「宿営地5、6時方向で激しい銃撃戦」「宿営地南方向距離200(㍍)、トルコビル付近に砲弾落下」「直射火気の着弾を確認」「戦車や迫撃砲を使用した激しい戦闘がUN(国連)ハウス・UNトンピン周辺で確認される等、緊張は継続」など、緊迫した状況が記されている。さらに政府軍と反政府軍の衝突激化による「流れ弾への巻き込まれ、市内での突発的な戦闘への巻き込まれに注意が必要」との指摘や、事態が悪化したときの想定シナリオとして、「ジュバでの衝突激化に伴うUN活動の停止」「活動の制限」なども書き込まれていた。


 「戦闘行為はないが、武器を使って殺傷あるいは物を破壊する行為はあった。衝突、いわば勢力と勢力がぶつかった」「永田町より危険」(安倍首相)などとした政府見解がいかにいい加減なものであったかを物語っている。


 黒塗りの状態でようやく開示したこの文書から明らかになった事実に対して、「戦闘ではない」といい張っていた稲田防衛大臣は「日報は見ていない」と答弁したり、最終的には「憲法九条上の問題になるから武力衝突という言葉を使っている」と開き直って答弁するなど、「邦人保護」といいながら、その実、民間邦人どころか自衛隊員の生命・安全にすらなんの関心もないことを自己暴露している。

 全土で続く戦闘を非難 国連安保理が声明

 南スーダンは12月に乾季に入ることから戦闘が激化する可能性が以前から指摘されてきたが、今月に入り、国連事務総長特別顧問が「大虐殺が起きる恐れが常に存在する」と警告する声明を発表したのに続き、国連安保理も報道機関向けの声明を発表するなど、事態が深刻化する様相となっている。国連安保理の声明は、南スーダン全土、とくにエクアトリア・上ナイル両州で続く戦闘を非難し、すべての当事者に敵対行為を中止するよう求めた。民間人の殺害、性的暴力、住宅の破壊、民族間の暴力、家畜や財産の略奪が報告されており、今年に入り8万4000人以上が国外に逃れ、多数が国内で避難民となっているとしている。


 また国連難民高等弁務官事務所の発表では、南スーダンから逃れた人は150万人をこえ、難民の急激な増加と資金難から支援が追いつかない状況になっていること、難民の六割以上が子どもで、多くが重度の栄養失調などに陥っていることを明らかにしている。


 昨年7月に大規模な戦闘が発生して以後、昨年1年間に新たに76万人以上が難民となっており、9月以降の4カ月間だけでも約50万人が国外に脱出。国内難民も210万人にのぼり、総人口の約3割が家を追われて、難民生活を送る事態になっている。


 こうしたなか、政府軍の副参謀長が「政府軍は最大民族のディンカ人による支配を確立するための民兵集団に成り下がった」として辞表を提出する動きにもなっている。副参謀長は、ディンカ人の長老会議や大統領が「政府軍を民族部隊に変えた」と告発し、反政府勢力掃討の名目で、住民の殺害や女性のレイプ、村の焼き討ちなど、多民族に対する暴力をくり返していることを非難し、各地の治安の悪化は、実際は政府軍がひき起こしていることを指摘している。


 弾の届かない日本で、安倍政府と国会が「衝突か戦闘か」といっているあいだに、サルバ・キール大統領とリエック・マチャル副大統領の権力闘争に始まった南スーダンの内戦状態は民族対立の様相となって深化している。


 現地を知る人人に聞くと、ウガンダやコンゴなど南スーダンに隣接する国国の国境地帯には続続と難民が流れ込んでいるが、政府軍に止められて南スーダン領内にとどまらざるを得ない人人や、政府軍に捕まり行方不明になる人人もいるなど、状況は悪化の一途をたどっているという。


 南部のエクアトリア地方・カジョケジ郡では1月20日すぎに急激に治安が悪化し、同27日の戦闘をきっかけに、人人は難民となって国外へ脱出し、学校や市場などは閉鎖され、郡内では通常の生活が営めない状況に陥っている。近隣の町でも同様の事態に陥っているようだ。ただ、そのなかで人人は逃げ惑うだけでなく、必死に生きる道を模索しているという。


 こうしたなかで安倍政府はなおも「現地の治安情勢が落ち着いていることを確認した」(1月に現地入りした若宮防衛副大臣)、「(首都ジュバについては)治安情勢は比較的落ち着いている」(13日、菅官房長官)などとして、自衛隊を派遣する根拠を失っていることを隠そうとし、国連の武器禁輸決議を棄権するなどして、あくまで自衛隊派遣の継続にこだわっている。

 自衛隊は何を守るのか 米国の下請軍隊

 世界的に南スーダンが内戦状態にあると認識され、現地の状況を知る専門家らが共通して、「自衛隊を撤退させるべき状況にある」と警鐘を鳴らすなかで、なぜ安倍政府がこれほど南スーダンPKOへの自衛隊派遣にこだわっているのか、自衛隊が南スーダンでなにを守っているのかは、この混乱をひき起こしている原因に目を向けなければ理解できない。


 イギリス・エジプトの植民地をへて独立したスーダンは、独立当初から植民地統治下の分断政策ともかかわって、アラブ系の北部とアフリカ系の南部との内戦が続いた。そこにアメリカをはじめとする「国際社会」が強力にかかわり、内戦を終結させるとともに、それまで「国」「国家」という概念のなかった南スーダンを分離・独立させ、ばく大な援助と開発によって新国家をつくり上げようとした。しかし、独立と同時に南スーダン内部での権力闘争が激化し、一つの国が形成されぬまま今に至っている。


 背後にあるのが、冷戦終結後、猛烈にアフリカ大陸に進出し覇権を求めている中国と、出遅れたアメリカの権益争奪戦である。80年代に発見された南スーダンの油田の多くは、今も中国の国営石油会社が握り、中国人労働者が多数働いている。鉄道・道路などのインフラ整備にも巨額の支援金と労働者を送り込んでいる。中国は南スーダンだけでなくアフリカ各国に進出している。


 アメリカも90年代末からアフリカ対策に本腰を入れ始めた。93年には中国が支援する北部のスーダン政府をテロ支援国家に指定し、SPLA(南スーダン人民解放軍)の支援を本格的に始めた。自国の石油確保を外交・軍事の重要な柱としたアメリカは、2001年の同時多発テロを契機に「不朽の自由作戦」と銘打った作戦を開始。「テロとの戦い」を掲げてアフガニスタンへの空爆を開始するとともに、サハラ砂漠と南西アフリカ、アフリカの角など世界6カ所への同時作戦を展開した。この作戦に自衛隊の動員を何度も要求してきたのがアメリカでアフリカの角では「ソマリアの海賊退治」を口実に自衛隊が出動した。


 歴史的に植民地宗主国なり、北部スーダンの為政者なりがつくり上げてきた民族対立、一部の利権に群がる権力者と国民の矛盾を利用して中国とアメリカが権益争奪戦をくり広げており、それらの思惑が絡んだ長期にわたるばく大な支援が、現地リーダーたちの利権と依存体質をつくり出し、むしろ内戦を長期化させてきたこと、現在の南スーダンの状況がその延長線上にあることを、専門家らは指摘している。


 さらに、表向きには「内戦の終結」や「武器禁輸」が叫ばれるにもかかわらず、南スーダンには多くの武器が流入している。反政府軍にはスーダンを経由して中国製の武器が流れ込んでいたり、政府軍にはウクライナなど東欧諸国から攻撃用ヘリも含む武器が流れ込んでいるといわれている。イスラエルからウガンダを通じて武器が輸出されていることも明らかになっている。「資本主義最後のフロンティア」とも呼ばれるアフリカ大陸において、内戦が続くことによって武器輸出でもうける国があり、また「紛争状態の脆弱な国家であるほど土地収奪とその後のビジネスが展開しやすい」と公言する投資家など、背後で内戦状態を引き起こしている者がいるからこそ、内戦が終わらないのである。


 これまで日本は武力行使をせず、武器輸出もしない国であることが認知されてきたからこそ、NGOやJICAなどの活動は好意的に受け止められてきたといわれる。安倍政府はそうした世界的な信頼を捨て、アメリカの要求に従って米軍の下請軍隊として日本の若者を世界各地の権益争奪戦に動員しようとしている。南スーダンでの駆けつけ警護や宿営地の共同防衛は、今後自衛隊をアメリカ軍の世界戦略に動員する出発点になっているからこそ、「戦闘」を「衝突」といい替えてでも派遣を継続しようとしているのにほかならない。

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