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ミツバチ大量死の原因・ネオニコ系農薬を制限へ 欧米では既に使用禁止

 ミツバチ大量死の一因として問題になり、国際的には使用規制が強まっているネオニコチノイド(ネオニコ)系農薬について日本では逆に規制が緩和されてきていた。国内でも規制強化を求める運動の高まりのなかで環境省は新規に登録される農薬の安全審査の対象となる影響評価生物に、野生のミツバチを追加する方針を固めた。農水省も今年4月施行の改正農薬取締法で、影響評価対象に飼育用ミツバチを加えた。また、農薬の容器に被害を与えない使用方法を表示することなどを義務づけた。ネオニコ系農薬の製造や使用方法が制限されることになる。

 

 ネオニコチノイド(ネオニコ)系農薬は1980年代に開発され、1990年代から使用が急増してきた。日本ではイネなどの害虫となるカメムシを防除するために水田などで広く散布されてきた。そのほか世界各国でも一般家庭のガーデニング用から農業用、シロアリ駆除、ペットのシラミ・ノミとり、ゴキブリ駆除、スプレー殺虫剤、住宅の化学建材、木材防腐剤など広範囲に使用され、世界の100カ国以上で販売されている。

 

 使用急増と並行して1990年代初めから世界各国でミツバチの大量死・大量失踪が問題になってきた。2007年春までに北半球から四分の一のミツバチが消えたとする報告もある。2010年時点ではカナダやアメリカ、中国、台湾、インド、ウルグアイ、ブラジル、オーストラリア、日本などでミツバチの大量死が広がっている。

 

 日本では北海道を中心とする北日本でのミツバチ大量死のほか、宍道湖(島根県)でのニホンウナギやワカサギの激減、水田でのトンボ(アキアカネなど)の減少などが報告されている。その原因として、ネオニコ系殺虫剤や農薬の使用が指摘されている。

 

 ネオニコ系農薬は、タバコに含まれるニコチンに似た成分(ネオニコチノイド)をベースとする。一般に「ネオニコチノイド」と呼ばれる化合物は、アセタミプリド、イミドクロプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、チアメトキサム、ニテンピラムの7種類。これに作用がよく似たフィプロニルを加え、ネオニコチノイド系農薬と呼ぶことが多い。

 

 ネオニコ系農薬はそれまでの有機リン系農薬にかわって使用されてきたが、有機リン系農薬とは異なる危険性が大きく3点ある。第一は「神経毒性」で、昆虫の中枢神経にある主要な神経伝達物質の働きを阻害し、死に至らしめる。第二は「浸透性」で、農作物の内部に浸透して植物のあらゆる組織で殺虫効果を発揮するので、洗っても残留農薬を減らせない。第三は「残効性」で、散布回数を減らすことができるとして「減農薬栽培」に用いられているが、そのことは毒性が長時間持続していることを示しており、長期にわたって危険性を持つ。

 

 ミツバチの大量死や突然巣箱にいた大半のハチの群れが消滅する現象は、ネオニコ系農薬の持つ「神経毒性」によって神経を撹乱されたミツバチが巣に帰ることができなくなったり、死んだりするためだ。巣には女王蜂や幼虫が残されているが、エサを運ぶ働きバチが戻ってこないため、最終的には群れ全体が死んでしまったり、女王蜂の発生数が減少して新しい群れがつくれなくなる。この現象を「ミツバチ崩壊症候群」と呼んでいる。

 

 日本でも2000年代からミツバチ大量死にともなうミツバチ不足が問題になり始めた。養蜂家だけではなく、ミツバチに受粉を頼っている果樹農家などの被害が拡大している。北日本でのミツバチ大量死の多発については、水田でのカメムシ対策に使うネオニコ系農薬が原因との結論を畜産草地研究所が出している。

 

 また、宍道湖でウナギやワカサギの漁獲量が激減したのは、1993年から使用したネオニコ系農薬が原因であることが高いと、産業技術総合研究所(茨城県つくば市)や東京大学の研究で明らかになっている。宍道湖のウナギは80年代には年間50~60㌧の漁獲量があったが、93年を境に激減し、ほとんどとれなくなった。エサとなる水性昆虫が死滅したためとしている。

 

 影響は昆虫や動物にとどまらず、人体にも出ている。記憶や学習にかかわる脳と神経の発達に悪影響を及ぼすという研究結果もある。新生児の尿からもネオニコチノイドが検出され、母親の摂取した食べ物から胎盤を通過して胎児に移行した可能性が指摘されている。

 

住友化学が規制の緩和要求

 

 このため欧米では規制が強化されてきた。欧州連合(EU)圏内では2013年にネオニコ系農薬のうち3種に対する使用制限が導入され、2018年には主要5種のうち3種を原則使用禁止にした。とくにフランスは5種すべてを使用禁止にした。

 

 フランスでは2002年にミツバチ全滅事件が発生した。農業省の委託でその原因を調べた毒性調査委員会は翌03年に、種子処理に使うイミダクロプリドの危険性を警告し、2016年にはネオニコ系農薬の使用禁止を盛り込んだ生物多様性法が成立した。

 

 韓国は2014年にEUに準拠して3種類を使用禁止にした。アメリカは2015年に4種に使用制限をかけ、トルコは2018年に3種を使用禁止にしている。

 

 ところが日本では、ネオニコ系農薬のうち、イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム、ジノテフラン、ニテンピラム、アセタミプリド、チアクロプリドの7種すべてが使用可能で、規制が一斉ない。それどころか2015年には残留基準を大幅に引き下げた。

 

 クロチアニジン系農薬「ダントツ」などを製造している住友化学が中心となって農水省に申請したもので、春菊は50倍、ミツバは1000倍、ホウレンソウは13倍もの規制緩和を求め、農水省や厚労省は同社の要求にこたえて規制を緩和した。日本の残留農薬基準値はアメリカの数倍、EUの数十倍から数百倍といわれている。

 

 そもそもネオニコ系農薬は1980年代に日本特殊農薬株式会社(現バイエルクロップサイエンス株式会社)がイミダクロプリドを開発し、1988年に日本で公的試験を開始、1992年にネオニコチノイド系として世界で初めて農薬登録されている。2019年現在でネオニコチノイドに分類される7剤中6剤が日本企業が発明したものだ。住友化学が中心的な製造メーカーで、世界各国に輸出している。住友化学はEUに対しても「規制措置は行き過ぎ」と反論する文書を発表し、世界各国の規制強化に反対している。

 

 世界的な流れに逆行しているのは、モンサント社のラウンドアップの規制緩和とも共通している。日本の政府が国民の生命や健康を守るのではなく、一私企業の利益追求に便宜をはかることを優先する根本姿勢の転換が迫られている。

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この記事へのコメント

  1. 秋本けいこ says:

    深刻な健康被害・環境破壊を知らずにネオニコ系除草剤・農薬を使い続ける日本の消費者に是非とも読んで頂きたい記事です。

  2. 除草剤・農薬、また食品添加物についても同様、日本の政治は経団連の損得で動いています。
    豊かな日本の自然や虫たちをこれ以上壊さないで欲しい。
    結果として全て、私達に降りかかってくる。

    東京生まれ、東京在住のものですが、貴新聞の情報の厚みに驚いています。
    日本の3大新聞社のような既得損益にかられた情報ではなく、真の情報の配信をこれからも期待しております。

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