いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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横暴な自然エネルギー・ビジネス 大企業の草刈り場となる地方

 東日本大震災と福島原発事故が起こった翌年の2012年、政府は再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)を開始した。国民の電気料金を原資に、国が高い買取価格を20年間保証するなか、少子高齢化、人口減少が進む地方をターゲットにして大企業が太陽光や風力発電事業に群がって参入してきた。それは今も続いているが、そのなかで「原発の代替となるクリーンなエネルギー」のウソが暴かれ、低周波音による健康被害や、森林伐採・漁場破壊による第一次産業と自然の破壊に反対して、全国各地で住民の反対運動が活発におこなわれるようになった。そして今、FITの終了、売電価格の引き下げとともに、事業者の撤退も始まっている。再生可能エネルギーをめぐる現状を見てみた。

 

土砂災害誘発するメガソーラー

 

 まず、太陽光発電について見てみると、稼働中で最大といわれるのが青森県六ヶ所村のユーラス六ヶ所ソーラーパークで、253㌶(東京ドーム50個分)の土地に約51万枚の太陽光パネルを敷き詰めている。次に大きいのが北海道勇払郡安平町のソフトバンク苫東安平ソーラーパークといわれ、こちらは166㌶の土地に約44万枚のパネルがある。

 

 計画・建設中ではさらに大規模なものもあり、外資系の参入もある。長崎県五島列島の宇久島メガソーラーは、島の面積の4分の1に172万枚のパネルを敷き詰めるものだが、ドイツのフォトボルト・デベロップメント・パートナーズを中心に国内の四つの大企業が参加。ソネディックス・ジャパン(JPモルガンが投資するソネディックスの日本法人)も岩手県や山形県に巨大メガソーラーを計画している。

 

 そうしたなか各地で住民が立ち上がり、大規模な自然破壊にストップをかける動きが活発化してきた。最近、事業者のLooop(ループ社、東京)を撤退に追い込んだ長野県諏訪市四賀メガソーラー事業に反対する茅野市・諏訪市の住民運動(計画面積196㌶、太陽光パネル31万枚)、千葉県鴨川市池田地区のメガソーラー計画(250㌶、47万枚)に反対する住民や農漁業者の運動、京都府南山城村・三重県伊賀市のメガソーラー計画(81㌶、36万枚)に反対する住民運動、茨城県横根高原メガソーラー計画(59㌶、16万枚)に反対する日光市民の運動、岡山県岡山市大井地区のメガソーラー計画(186㌶、28万枚)に反対する連合町内会挙げての住民運動などが、ここ数年間粘り強くたたかわれている。

 

各地で住民が運動 漁協や連合町内会動く

 

 たとえば千葉県鴨川市では、メガソーラー計画を住民が知ったのは2017年のこと。美しい海岸線、大山千枚田に代表される里山風景、緑豊かな山林、多様な自然環境の残る鴨川は住民の誇りだったが、そこに突然、AS鴨川ソーラーパワー合同会社(東京)が、事業面積250㌶、森林伐採・造成面積146㌶、太陽光パネル47万枚という計画をうち出した。

 

 住民たちによると、この計画は樹木の伐採本数36万5000本、切りとられる山の高さ・最大60㍍、埋める谷の深さ・最大80㍍、造成による土砂の移動量1300万立方㍍(10㌧ダンプで220万台分)という巨大開発だ。保水力を持ち、水源涵養などさまざまな役割を果たす山林を大規模に伐採すれば、土砂災害を誘発する危険性が増す。それでなくても予定地は「山林災害危険地区」に指定されている。さらに河川や地下水、海の汚染の恐れもある。しかしFIT法では、太陽光はアセスの対象にならず、建設場所の規制もないなど法整備も不十分だ。

 

 しかも住民説明会で事業者は、合同会社の構成企業の公表を拒み、住民の質問時間をわずか10分間で打ち切るという対応で、住民の不安は一向に払拭されなかった。そこで住民たちは2018年3月、鴨川の山と川と海を守る会を結成、「再生可能エネルギーの名の下、高い買取価格を狙った巨大山林開発という本末転倒の事業」として地域全体に実情を知らせるチラシを何回も配った。

 

 そのなかで鴨川漁協が「メガソーラー計画に反対する陳情書」を市長に提出、安房淡水漁協も反対署名426筆を市長に提出するなど、生産者の動きも活発になっていった。昨年11月には豪雨災害を受け、守る会や漁協など五団体が3週間で5500筆の署名を集め、市長と県知事に計画の凍結と見直しを迫っている。

 

 また、岡山県岡山市では、2017年7月に開かれたリニューアブルジャパン(東京)の住民説明会で、計画面積186㌶、森林伐採面積78㌶、太陽光パネル枚数28万枚のメガソーラー計画が明らかにされた。

 

 直後から第一町内会で反対署名の話が持ち上がり、隣接する第三町内会に連絡。そして大井地区連合町内会の会議の場で、建設反対決議をあげ、全住民への周知と署名運動の要請をおこなうことを決定した。その後、岡山大学などの環境問題の専門家を招いて数度の学習会を重ね、建設反対の幟をつくり、反対署名を広げていった。

 

 大井地区連合町内会の役員たちが訴えている最大の問題は、大規模な山林伐採により下流に位置する集落の人々の生存権が脅かされるということだ。多くの集落が土石流特別警戒区域に含まれており、現状でも災害の危険性が高い。過去にも大雨でため池が複数決壊し、大水害が起きている。真砂土で崩れやすい山林は、一度更地にすると樹木が育ちにくく、大規模に伐採することで斜面崩落、土石流などの危険が増す。また、ため池、井戸水、農業用水へ泥水が流入し水質が悪化する危険性もある。つまり地元のことを考えない、地元に負担だけ押しつける開発だとして、計画の撤回を求めている。

 

 連合町内会の反対署名は、2018年6月に市議会、県議会への反対の陳情に行ったときまでに6519筆に達し、そのうち大井地区441世帯中、92・9%が署名に応じていた。岡山市議会は反対の陳情を全会一致で採択。岡山県議会は継続審議となった。

 

 連合町内会「里山活性化研究会」は同時に、「足守洪庵さくらまつり」「足守メロンまつり」「里山めぐりで自然散策」など地域活性化のとりくみも活発におこなっている。

 

風力発電 北海道で1300基計画

 

 風力発電をめぐっては、政府が洋上風力発電を促進するため、計画予定海域の30年間の占用を認める促進区域を全国につくろうとしている。経済産業省と国土交通省が「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」「秋田県由利本荘市沖(北側)」「秋田県由利本荘市沖(南側)」を有望区域として指定するなか、今後おこなわれる入札に向けて大企業がこの地域に殺到しているという。

 

 住友商事とウェンティ・ジャパン、国際石油開発帝石、JR東日本エネルギー開発、東京電力リニューアブルパワー、成田建設はコンソーシアムを結成、能代沖に総出力で最大48万㌔㍗の着床式洋上風力をつくる計画を発表した。また、北九州市若松区に22万㌔㍗の洋上風力を計画している九電みらいエナジーが、ドイツのRWEリニューアブルズの日本法人と合同で、由利本荘沖に最大70万㌔㍗の洋上風力をつくる計画をうち出した。さらに中部電力と三菱商事パワーなどが、能代沖に8000~1万2000㌔㍗×最大60基を、由利本荘沖に8000~1万2000㌔㍗×最大105基をつくると発表している。由利本荘市沖では、すでにレノバ社(東京)が、8000~9500㌔㍗の風車を70~90基つくる計画を発表している。

 

 これに対して秋田県でも、風力反対の住民運動が広がりを見せている。由利本荘・にかほ市の風力発電を考える会とAKITAあきた風力発電に反対する県民の会は合同で、1万筆をこえる署名運動や講演会、市長や県知事への陳情などを連続してとりくんでいる。両会のメンバーが陸上風車が建っている地域の住民から健康被害の聞きとり調査をしたところ、これまでに18人が頭痛やめまい、吐き気、睡眠障害などを訴えており、実名を公表して被害を広く訴える人もあらわれている。

 

 北海道では、陸上でも洋上でも、数十基から100基をこえる風力発電建設計画が道内各地で目白押しだ(表1参照)。合計すると風車を約1300基建てる計画が動いている。これは今年1月現在だが、その後も増えているという。

 

 

 このなかで、石狩湾を巨大洋上風車の海にするなと、住民たちが石狩洋上風車建設反対道民連絡会を結成し、北海道知事と札幌・石狩・小樽市長にあてて署名運動を開始した。連絡会を構成するのは、石狩湾岸の風力発電を考える石狩市民の会、銭函海岸の自然を守る会、北海道自然保護協会、日本野鳥の会札幌支部・道北支部など12団体。署名運動のなかでは「健康被害がおおいに懸念される。私たちはモルモットではない!」「景観が台無し。失われる海辺の自然の風景、日本海に沈む夕陽の風景」「漁業への影響はもっと心配! サケ、ニシン、シャコ、カレイ、ホッキは大丈夫?」と訴えている。

 

 四国もあいついで巨大風車計画が浮上し、大企業の草刈り場と化している。すでに156基の風車が稼働し、加えて計画中の風車は323基にものぼる(表2参照)。

 

 日立サステナブルエナジーが今ノ山風力発電事業を計画する高知県土佐清水市と幡多郡三原村の境の尾根筋は、住民が自伐型林業をおこなっているところだ。その一人は「風車のための作業道を設置するのに50㌶以上の山林が皆伐される。以前の豪雨災害では山林の崩落が多数発生して、滝串湾に大量の土砂が流れ込んだ。今後、土砂が水源地に流れ込めばとりかえしがつかない。すべて都市部の企業が田舎にやってきて、利益も都市部に吸い上げる構図だ」と憤っている。

 

 高知県の四万十ふるさとの自然を守る会は昨年9月、オリックス(東京)が同県高岡郡四万十町と四万十市の境の尾根筋に大規模風力発電を計画していることに対し、計画の中止をオリックスに申し入れるよう求める要望書を、9000筆の署名とともに、同町長に手渡した。守る会は、風力発電の健康被害や、土砂流出による漁業への影響とともに、「巨大風力計画は町がとりくむ移住・定住促進施策に真っ向から反する。愛媛県では風力発電がつくられた地域でIターン・Uターンともに減り、集落消滅の危機にさらされている所がある」とのべている。

 

 また、四万十町の住民は、オリックスが住民説明会を各地で開いたが、その集落以外の住民は同じ町民でも参加してはいけない、会場で配った資料の著作権はオリックスにあり、勝手にコピーして配ってはいけないといって、住民同士が横に繋がることを恐れていると指摘している。

 

 全国各地でメガソーラーや大規模風力発電に反対して行動している人たちは、高い売電価格を目当てに東京から大企業が田舎にやってきて、もうけのために地方をないがしろにしているといって怒っている。それにお墨付きを与えたのが、再生可能エネルギーを国策とした政府・経産省だ。

 

 政府は日米FTA、日欧EPAで農産物輸入を拡大し、第一次産業を成り立たなくしたうえに、地方を風力や太陽光事業者の草刈り場にしようとしている。それは地方はつぶれてしまえというようなもので、田舎に人が住めなくして、コンパクトシティ、大都市一極集中をさらに強めることにならざるをえない。しかも風力や太陽光は、不安定電源のため原発の代替にはならない。国内の風力製造メーカーがなくなった今、GEやヴェスタスなどの欧米企業に在庫一掃の場を提供することにしかならない。

 

 だが、ここにきて再生可能エネルギーは袋小路に陥っている。4月以降、長野県諏訪市・茅野市、兵庫県姫路市でメガソーラー事業者があいついで撤退を表明している。住民の反対運動が強まるなかで、各自治体がメガソーラーの規制を強化していること、同時にFITそのものが終了して売電価格が引き下げられ、当初予定していた利益が得られなくなったことが背景にある。

 

 Looop社を撤退に追い込んだ長野県では、「このまま放っておくと、またいつか金もうけのために企業が飛びついてこないともかぎらない。そこで今後は水源涵養や洪水防止機能を持つ森林を、地域の共有財産として守っていく運動を起こしていきたい」と語られている。地方の住民生活を脅かしてはばからない大企業に対して、農林漁業を振興し、安心して暮らせる故郷を次の世代に受け継がせようとする住民の運動が各地で発展している。

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