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自衛隊270人を中東に派遣 国会審議なく実戦へ ヘリ搭載護衛艦やP3Cも

 安倍政府が中東への自衛隊派遣をめぐって、270人規模の部隊(海上自衛官中心)を投入する準備を進めている。ヘリ搭載型護衛艦一隻とP3C哨戒機一機も派遣する方向で、年明けすぐに安倍首相が中東各国を訪問し自衛隊派遣について説明する計画も浮上している。現在、中東海域では米軍の原子力空母が活動を開始しており、いつ軍事衝突が起きるかわからない緊張状態にある。そのような所へ「安全」といって派遣し、来年1月下旬からは米軍主導の「対イラン有志連合」と連携し、事実上、自衛隊を「センチネル(番人)作戦」の前面に立たせる動きが顕在化している。安倍政府は今月20日にも閣議決定し、国会承認も得ないまま自衛隊中東派遣を強行しようとしている。

 

 安倍首相は10月中旬の国家安全保障会議(NSC)で、自衛隊中東派遣の具体化を指示した。このとき派遣先は「オマーン湾・アラビア海の北部の公海および、バブルマンデブ海峡の東側の公海を中心に検討する」とし、アラビア海全域を対象にした。しかし派遣計画は「有志連合に参加しないが米国とは緊密に連携する」「新規装備の艦艇(交戦能力を備えたイージス艦等)派遣や既存の海賊対処部隊の活用を検討する」という漠然とした内容だった。

 

 ところがそれ以後、国民の知らぬ所で派遣計画の具体化が進行していた。そして表面化したのは、ヘリコプターが搭載できる中規模護衛艦(4000~5000㌧級)とP3C哨戒機一機を派遣する計画だった。派遣自衛官は約270人(護衛艦乗員=約250人、司令部要員50人も含む、P3C哨戒機=約20人)で、派遣護衛艦は「いずも」(基準排水量1万9500㌧)のような大型ヘリ搭載護衛艦ではなく、中型護衛艦を投入する。

 

 派遣手続きは、防衛省設置法で定めた「調査・研究」を適用(国会承認が不要)し、国会論議をせずに派遣する手法を具体化している。ただ「調査・研究」の名目のままでは「船舶の護衛」ができないため、派遣後に「日本関連船舶が攻撃を受けるなど不測の事態が生じた場合」に「必要な行動」をとる「海上警備行動」(国会承認が不要)に切り替える方向だ。こうして派遣時の名目は「調査・研究」だが、時期を見計らって「海上警備行動」に切り替え、中東海域における米艦防護や武力行使を常態化させる意図が露わになっている。

 

 米国が主導する対イラン有志連合結成の動きは、6月にイラン沖で起きた「日本のタンカーを含む2隻への攻撃」が直接のきっかけとなった。だがこの事件は核兵器開発を疑われていたイランと米・英・仏・独・中・ロが2015年7月に結んだ「イラン核合意」から米国が一方的に離脱し、イランへの経済制裁を強めたことと無関係ではない。

 

 イラン核合意はイランが核開発を大幅に制限する一方で、米欧が16年1月に金融制裁や原油取引制限を緩和するとり決めだ。イランが核兵器に転用できる高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを15年間は生産しないことなども盛り込んでいた。しかし米国は当初の合意にはなかった「弾道ミサイル開発の制限」などを主張。2018年5月には「致命的な欠陥がある」と非難し、核合意を一方的に離脱してイランへの制裁を再開した。そのなかでイランは今年5月、核合意の一部履行停止を表明した。この直後に発生したのが「日本のタンカーを含む2隻への攻撃」だった。

 

 すぐさま米国側は「イラン革命防衛隊がタンカーに機雷を仕掛けて爆破させた」と主張したが、動画や写真は不鮮明なものばかりで、どれも証拠として認められなかった。イラン側は攻撃を受けたタンカーの乗員を救助し、米国の主張には「事実と違う」と全面否定し続けた。

 

 ところが米国は「イランは以前からホルムズ海峡の原油輸送を阻害すると示唆していた」と敵愾心を煽り「有志連合」の結成へと突き進んだ。そしてホルムズ海峡の安全確保で恩恵を受けている国として日本と韓国を名指しし「すべての国国は自国の船を自分で守るべきだ」「アジアの国が役割を果たすことが重要」と主張した。しかし7月下旬に開催した第2回目の有志連合関連会合は、米国が60カ国以上に招集をかけたにもかかわらず、参加国は30数カ国にとどまった。現在、有志連合への参加を表明しているのは英国、バーレーン、豪州など7カ国にとどまっている。

 

 中東地域をめぐる米トランプ政府の対応は、イスラエルの主張にそったエルサレムの首都認定(17年12月)、シリアへの空爆(18年4月)、イラン核合意離脱(18年5月)、ゴラン高原をめぐって「イスラエルに主権がある」という宣言への署名(19年3月)など、近年、とくに攻撃や挑発をエスカレートさせてきた。今年5月にも原子力空母をペルシャ湾に派遣しイランに軍事恫喝を加えている。こうして軍事緊張を煽るだけ煽っておいて自衛隊派遣を執拗に迫り、日本を戦争に引きずり込むのが米国のプログラムである。それに応じれば「日本のタンカーの安全を守る」どころか、日本全土を戦争に巻きこみかねない危険をはらんでいる。

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この記事へのコメント

  1. 安藤かがり says:

    先日、facebookに掲載された長州新聞の紹介を読み、恥ずかしながら、初めて御社のことを知りました。現在の政治・社会情勢の下で創刊当時の志を曲げずに、真実を伝える御社の姿勢にとても心を動かされました。

    海外在住のため、定期購読ができず残念です。近い将来、ネット購読も可能になることを祈っています。

  2. 戦後80年、90年、100年・・・と戦争も紛争もない日々を送りたいものです。

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