いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

「普天間返還」合意から30年で何が進んだか 参院沖縄北方特別委で参考人質疑 沖縄国際大学教授・前泊博盛 

(2026年7月8日付掲載)

大規模な設備更新工事が進む米軍普天間基地(2025年3月、沖縄県宜野湾市。前泊博盛教授撮影)

 1995年の米兵による少女暴行事件を契機にした沖縄県内の基地撤去世論を背景に、日米両政府が1996年に米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)を「5~7年以内」に全面返還するとの合意を発表してから30年を迎えた。だが「普天間の危険除去」は「辺野古移設」に変貌し、辺野古新基地建設をめぐって超法規的な強権を振るう国と沖縄県との攻防が続く一方で、沖縄をはじめ全国の基地強化とともに南西諸島などへのミサイル配備が急速に進んでいる。参院沖縄・北方特別委員会は3日、佐喜真淳・宜野湾市長、前泊博盛・沖縄国際大学教授、川名晋史・大東文化大学教授を参考人招致して、この問題について議論した。前泊教授は、日米政府に普天間返還の意思がないことを実態をもとに指摘し、日米安保の歪(いびつ)な構造を転換する必要性を説き、川名教授は代替機能として那覇空港の使用が現実味を帯びていることを指摘するとともに解決課題を提起した。両教授の発言と、議員との質疑要旨を紹介する。

 

・辺野古に国民の目を縛り付けて進む沖縄全土の基地化


        沖縄国際大学教授 前泊博盛

 

前泊博盛教授(3日)

 私は毎日、研究室から普天間基地を見ている。実際に普天間基地を見れば、この基地が返ってくるとまともに考える人はいないだろう。その問題を改めて問い直したい。

 

 学生と一緒に海兵隊の幹部とも毎年ディスカッションをしているが、軍人の彼らは「辺野古(新基地)ができても普天間は返さない」と平気でいう。政治家がいえない本音を話してくる。

 

 普天間基地では今、滑走路(2800㍍)だけではなく、誘導路、着陸帯、駐機場、駐車場、プール、航空機用ガソリンタンク、照明装置、貯油槽、送油施設、消防、修理場…司令部施設も含めて全面的に施設が更新されている。私が確認した工事関係者の話では、基地の下には核シェルターもあるという。この基地は石灰岩の上にあるが、その下には100本ほどの鍾乳洞があり、鍾乳洞をこえるようなホールもある。返還後にこれが観光施設になるという話もあるが、肝心の返還の話は一向に進んでいない。

 

 私が沖縄国際大学に赴任して15年になるが、基地周辺では交通渋滞がひどい。国道58号線、330号線を挟んで3㌔余りを普天間基地が遮断しているからだ。それなら返還後の渋滞解消策にもなるので「基地の下にトンネルを2つ作れ」という話をしてきた。伊丹空港でも、広島空港、岡山空港でも、飛行場の滑走路の下にはトンネル(アンダーパス)がある。このような日常的困難の解消すらせず、何の保証もない返還の話ばかり30年間もやっている。

 

 30年前、つまり基地司令官たちが新兵のころに返還の話が出てきて、彼らが司令官クラスになって普天間基地を見たとき「これを返して、あの役に立たない辺野古を何のために作っているのか」という話になる。「30年で時代も変わる。ドローンやミサイルで戦争をする時代にあんな基地が何の役に立つのか」とストレートにいってくる。「これは日本の建設業界の利権問題に変わっているだけで、われわれにとって必要なものかどうかという論議はまったくされていない」のだと。政治家の中に、辺野古の新基地がどれだけ軍事的な抑止力に効果を発揮するかということをまともに説明できる人がいるだろうか?

 

 そして、この基地建設に最終的にいくらかかるのか――総理経験者や防衛大臣経験者たちとも議論をしたが、当初3600億円で計画されたものが9300億円に上がり、それでも40%の進捗率であるなら、おそらく沖縄県が試算している通り総額は2兆5000億円に達するのではないかという話だ。政治的にはアウトの案件だが、経済学的に見るとこれほどおいしい事業はない。1200㍍級滑走路2本程度の飛行場に2兆円もかけてくれる公共事業は全国どこを探してもない。

 

 国交省の事業評価には「B/C(費用便益比)」がある。この事業が果たしてその巨額の投資に見合うものなのかを元防衛大臣たちとも議論した。2兆円もの予算があれば、空母打撃群が4つつくれるれるほどの規模だ。固定された小さな基地を新設する議論よりも、なぜそこを議論しないのか。私は現憲法を守る立場にいるが、防衛力という観点から見ても、辺野古ごときの議論に30年も使っている場合ではないはずだ。「沖縄でなければ」「辺野古でなければ」解決できないという古い発想に固執する政治家に、もはや誰も期待していない。われわれは次の知恵ある世代にこの問題を先送りするしかないのだろうか。

 

新施設が続々建設される普天間基地

 

 数字のうえからみても、辺野古基地計画は完全に時代遅れだ。「辺野古移設」は30年前に出てきた話が、さらに遡れば1960年代に米海兵隊と海軍が辺野古に新基地を作る計画を持っていた。歴代防衛局長に「この計画くらい見たのか」と私は問いかけている。

 

 海兵隊と海軍が1966~67年に作成した計画書の中では「浅瀬に3000㍍級の滑走路2本」を計画していた。ベトナム戦争のさなかに計画自体は頓挫したが、当時の計画では、現在深みにはまって問題となっている「軟弱地盤」のエリアはあらかじめ外されていた。現行計画がそれすら考慮していなかったために何兆円もかかる事態になっているという事実をどれだけの国会議員が把握しているだろうか?

 

1960年代に米海兵隊が辺野古に計画した飛行場建設のマスタープラン

 私はこの15年間、大学の研究室の窓から普天間基地をずっと見続けてきた。毎年のように工事が進み、今や辺野古をこえる進捗状況ではないかと思うほど、新しい施設が次々とできあがっている。滑走路のかさ上げ工事が終わり、滑走路の中間には戦闘機用のストッパーまで作られた。新しい司令部施設には2~3年をかけ、それこそ40億~50億円を投じて更新が進んでいる。屋根の防水工事もどんどん進められているが、この資金が「思いやり予算」から出ているのか、それとも米軍が直接出しているのか。もし米軍みずから出しているならば、この基地を10年で手放すなどということはあり得ない。普天間基地の状況をどれだけの議員が視察し、把握したうえでこの議論に関わっているのかを強く問いたい。

 

 辺野古新基地に2兆5000億円もの巨費を投じる余力が、今のこの国にあるのかどうかも議論されるべきだ。自民党の幹部からも「この問題はすでに軍事の問題ではなく、利権の問題である」という発言をいただいている。このように一度利権が動いてしまうと、それを止めることがいかに難しいか。私も半ば恫喝のようにいわれた。「これを止めると、沖縄の皆様の中から死人が出る。この工事がどれだけの人の生活を支えているかをご存じか?」と。

 

 実際に、現場では多くのダンプカーが土砂を運んでおり、その運転手には若い女性も含まれる。生活をそこに依存する構造が作られてしまった以上、工事を止めるリスクは大きくなっている。それに代わる新しい公共事業や代替となる産業を提示しない限り、この工事は止められない。

 

 また、新基地周辺の動きを見ると、辺野古弾薬庫の建設はすでに完了している。古くなった弾薬庫をとり壊し、新しい施設を建設する計画は、米海兵隊の報告書や計画書にも記載されている。「13の弾薬庫をとり壊し、新たに12の弾薬庫と武器の組み立て区画をつくる」というもので、周辺での基地機能の強化はすでに完了している。

 

 一時期、地元紙がこれをドローンで撮影した際、「核弾薬庫ではないか」という疑惑も指摘された。しかし、その後は施設が埋められて見えない状況になり、さらにこうした報道の後、国はドローン規制法によって飛行自体を禁止し、実態を見えなくしてしまうという措置をとっている。さらに辺野古の隣にあるキャンプ・ハンセン、キャンプ・シュワブの陸上エリアでも新たな施設が次々と建設されている。

 

 普天間問題や辺野古問題に国民の目が縛られている間に、沖縄の基地全体はどんどん強化されているのが実態であり、これは当初の「負担軽減」の話とまったく異なる。

 

世界一危険な基地とは?

 

 そもそも普天間を「世界一危険な基地」と定義したのは誰なのか。以前も参議院の当委員会において、この数字について議論した。1972年から昨年までに沖縄県内で発生した米軍機事故は累計946件にのぼる。そのうち「世界一危険」な普天間基地で起きた事故は19件。一方、嘉手納基地では655件の事故が発生している【表参照】。

 

 普天間の30倍もの事故が起きている嘉手納がなぜ問題にされないのか。「世界一危険」というのであれば、明確な証拠を示すべきだ。それこそが私たちが学生たちに伝えるべき実証的なデータだ。ラムズフェルド米国防長官(2003年当時)が上空から普天間基地を見て「世界一危険だ」といったからといって、それを鵜呑みにして一人歩きさせていいはずがない。本当に「世界一の危険を除去」したいのであれば、嘉手納基地の方をどけるべきだ。それをいう迫力も、その力もないまま、普天間ごときで30年も議論を続けているわが国の政治に対して、人々は期待を失い、学生のほとんどが関心を持っていない。

 

 現在、普天間基地が動かない最大の理由は、地元の関心が薄れてしまったことにある。30年も期待させて何一つ動かせない政治を誰が信用するだろうか。覚悟を決めて動く政治家がいないということが、この国の非常に残念な点だ。

 

広大な面積を持つ米軍嘉手納基地(沖縄県中部)

米国と交渉できない国

 

 2004年に発生した沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事件で起きたことを覚えているだろうか? あの時、日米地位協定を盾に現場は封鎖され、日本の警察や大学側は事故調査すらさせてもらえなかった。消火活動の段階では宜野湾市の消防署に依存しておきながら、鎮火した後は現場を制圧し、一切の立ち入りを拒んだのだ。

 

 彼らが現場で何をしていたかというと、ヘリの部品に含まれる放射性物質を含む部品を必死に探していた。私は当時の写真を米軍司令官たちとの勉強会の際に見せて「米軍が沖縄で嫌われるのは、こういうことをするからだ」と指摘した。黄色い防護服を着た兵士が放射性物質を含む部品を捜索している横で、通常の作業服の袖をまくし上げている兵士たちが平然と立っている。私は皮肉を込めて「彼らは特別に放射線に強い体質なのか?」と問いかけた。このような不条理がなぜまかり通るのか。学生たちの命を守ることがなぜ最優先されないのか。この国の政治が一体何を優先して基地問題を議論しているのかを改めて問わなければならない。

 

沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落現場(2004年、宜野湾市)

 中谷元・元防衛大臣は過去に、「(基地を)分散しようと思えば九州でも分散できるが、抵抗が多くてできない。理解してくれる自治体があれば移転できる」と発言している。また、民主党政権で最後の防衛大臣となった森本敏氏も、「(海兵隊の)MAGTF(海兵空地任務部隊)が機能すれば、沖縄でなくても良い」と同趣旨の発言をしている。今の政治の中に、こうした本質的な議論をし、本気で普天間の危険を除去する力を持った政治家がいるのであれば、ぜひ名乗りを上げていただきたい。

 

 アメリカと対等に議論し、危険を除去できる政治家がいれば、この問題を30年も長引かせることはなかったはずだ。アメリカとまともに交渉できる政治家がいないことこそが、この問題の最大の弱点だ。

 

沖縄から家族退避させる米海兵隊

 

 沖縄振興や安全保障の議論において、沖縄は常に「太平洋の要石(キーストーン)」としての役割を求められてきた。

 

 しかし実際には、米軍内部からも沖縄からの撤収を示唆する論文が出されている。米海兵隊の幹部は、論文のなかで「中国が戦争をする場合、真っ先に沖縄(嘉手納と普天間)を標的にする。多くの家族が暮らす嘉手納基地や家族住宅は、初期段階で格好の標的となる滑走路や司令部施設と不快なほど近い。第一列島線に家族を同行させるべきではない」という主旨のことを論じ、海兵隊家族の撤退を提案している。実際、私が本日朝一の飛行機で上京する際にも、多くの米軍家族が同乗していた。

 

 浦添市にあるキャンプ・キンザー(牧港補給地区)の米軍家族住宅は一時もぬけの殻のようになり、最近ようやく少し戻ったようだが、敷地内の小学校は廃校になる。つまり、実質的な撤退はすでに始まっているのではないかと考えられる。

 

 沖縄は以前から「標的の島」といわれてきたが、基地には最初に攻撃を引きつける「マグネット効果」がある。ウクライナ戦争でもイラン戦争でもしかりだ。現在、沖縄にいる米兵やその家族の具体的な数すら公表されなくなっており、実態が不透明なまま安全保障議論がされているが、米軍が有事を見据えて、いつの間にか家族を退避させているのだとすれば、われわれ住民にとっては非常に大きな懸念材料だ。

 

 われわれは攻撃を受ける地域に住んでいる。政府はシェルターを作る予算を付けてくれたが、宮古・八重山(先島諸島)の12万人を一体どうやって避難させるのか。そこにリアリティはない。

 

 さらに、日米両政府は核使用を想定したシナリオまで作成しており、日本側が米軍に対して「核の脅し」をもって中国に対抗するよう再三要求しているという『共同通信』の報道もあった。この核時代に沖縄で旧来のミサイル防衛の話をしていること自体が時代錯誤も甚だしい。

 

 以前、中国の軍事専門家と対談した際、「日本は中国が核保有国であることを知らないのか?」といわれた。台湾有事をめぐる戦争になれば、それは南西諸島だけで終わる話ではない。「台湾有事は日本有事」という高市首相の発言に対して「日本が火だるまになるだろう」という中国外交官の発言もあった。現代の戦争は局地戦では終わらない。政府は最近、陸上自衛隊第15旅団を師団に格上げしたが、沖縄に1万人規模の兵力を配備し、一体何をしようとしているのか? またあの沖縄戦をくり返すのかという懸念が沖縄では非常に強くなっている。

 

 デジャブのような歴史をくり返すのではなく、そろそろ対話によって解決する外交大国を目指すべきときに来ているのではないか。自衛隊員やミサイルの数を増やすのではなく、せめて各国並みに外交官の質と数を高め、仮想敵をつくって対立を深めるのではなく、仮想敵を味方にしていくような政治を、そして、近隣諸国との間で「アジアでは一滴の血も流さない」という血の誓いを結ぶような外交を展開することが、この国の安全保障にとって唯一の道であると考える。

 

・「国連軍」掲げ、那覇空港の軍事利用を目論む日米政府 大東文化大学教授・川名晋史(別掲)

 

◇◇     ◇◇

 

・議員との質疑応答より

 

前泊教授と川名教授

 質問 沖縄の国への納税額は2024年に過去最高になったが、国の沖縄振興予算は毎年減らされている。2020年における沖縄関連予算(各省庁にまたがる予算を内閣府がまとめて予算付け)は2678億円。それに対して納税額は5285億円で約2倍だ。県内経済が上向いて国に貢献していると思うが、県民所得は全国最低水準、子どもの貧困も3人に1人、非正規雇用が多いという状況がある。この現実について見解を。

 

 前泊 日本復帰後、沖縄では「自立経済」という言葉が投げかけられた。「政府に依存しないで自分たちで生きていく力を身につけよ」という意味だ。当時の沖縄の基地依存度は15・5%、(国への)財政依存度は23・5%、合わせて39%だった。これをどこまで減らせるかが課題とされたが、直近の令和四年では基地依存度は6・4%まで落ちたが、財政依存度は49%に上がっている。つまり、自立経済に逆行している。

 

 自立するための制度が作られていない問題がある。復帰時に4大石油メジャーが沖縄に入ろうとしたとき、当時の通産省が「輸入制限を加える」と圧をかけ、米アルミ産業アルコアが入ろうとして雇用創出が期待されたが、これも通産省が止めている。当時の担当者にインタビューすると「大の虫を生かすために小の虫が犠牲になるのは当然だ」という発言があった。さまざまな規制を盾にあらゆる企業の進出を止めていたことがわかったが、その規制は小泉政権になると全国的に撤廃されている。沖縄だけが発展することは常に阻害されてきた。沖縄の発展のためには「一国多制度」という考え方も再度提案することが必要ではないかとも思う。

 

 基地が不経済であることはすでによく知られている。普天間基地の経済効果(軍用地代や軍雇用者の所得など)は1㌶当り2000万円程度だが、フェンスの外側の宜野湾市の民間地域では同1億4000万円だ。今後10年でこの遺失利益は1兆円をこえ、地元にとって大きな損失になっていることも議論の焦点の一つにしてもらいたい。

 

「当事者能力」の欠落

 

 質問 去る3月、名護市許田の野球場で午後9時ごろ、普天間基地所属の米軍UH1型ヘリが不時着し、野球の夜間練習をしていた子どもたちが自主的に避難したと報じられた。地位協定の観点から見て、この事態をどう考えられるか?

 

 前泊 米軍機の不時着事故は多いときには100、200件起きている。墜落事故が1件起きる前には、表沙汰にならない多くの不時着事故が起きている。

 

 沖縄国際大学に墜落したCH53ヘリは、その後に北部でも墜落炎上した。米国の軍事費削減という事情もあり、老朽化した軍用機が更新されることなく、沖縄で運用されている。だから、すでに部品の供給も止まっているCH53のような老朽ヘリがいまだに飛び回っているのだ。こうした機体を市街地のど真ん中にある基地で運用することをやめさせるべきだ。

 

 オスプレイについても、構造上1000カ所ほどの不具合があることを開発担当者自身が指摘している。欠陥機であり、米本国では30分以内に基地に帰還できる場所でしか運用が認められない基準があるにもかかわらず、日本では当たり前に全国を飛び回っている。この二重基準を見ても、この国のチェック機能を疑わざるを得ない。

 

 普天間第二小学校に米軍ヘリの窓枠が落下する事故が起きたが、当時の安倍政権は沖縄県からの「学校上空を飛ばないでほしい」という飛行ルート変更の要請を受け、それを米側に求めるのではなく、小学校に監視員を置き、ヘリが来ると「退避!」と呼びかけて子どもたちを校舎内に入れるようにした。「そんなことしかできないのか」といえば、今度は校庭に新しいシェルターがつくられた。ヘリが飛ぶときはそのなかに避難するのだ。これがこの国ができる「国民を守る」方策だ。

 

 日米安保で駐留する米軍ヘリの管理、飛行ルートすら変更させることのできない総理だったことが明らかになり、「日本政府には当事者能力がないことがわかった」というのが当時の翁長知事の嘆きだった。

 

 裁判所が「住民の受忍限度を超えている」と認める航空機の爆音被害を受けながら、日本がその補償を肩代わりし、米軍の飛行は止められない。いじめを止めてほしくて先生に訴えているのに「いじめっ子は有力者の子どもだから咎められない。でも被害が出れば賠償金は出してあげるからまたおいで」というような恥ずかしい顛末だ。

 

 せめて配備されたヘリの欠陥や整備状況を査察するくらいの管理制度は敷くべきだ。同じ敗戦国でもイタリアやドイツでは、国内における米軍機の飛行許可権限を持っているのが、日本にはそれがない。政府が安全保障を論じるなら、まず当事者意識を持って主権を行使することを望む。

 

米軍機から身を守るために普天間第二小学校に設置されたシェルター

 質問 子どもたちがいる野球場にも米軍機が着陸するようなケースは、どの米軍駐留国でも起きることか。米軍がいる限り仕方ないことなのか。

 

 川名 世界的には非常にまれなケースだ。通常は市街地に飛行場を置くことはしない。むしろ砂漠地帯など民間人との接触がほぼない場所で飛行場は運用されるものだ。

 

 冷戦期にはスペインのマドリードにも米軍の飛行場があったが、ものすごい反発を受けて結局、米軍は撤退した。だから米国は市街地に飛行場を置くことが問題であることは十分に承知している。もし重大事故が起これば、飛行場だけでなく、その法的根拠(日本では日米安保条約)にも影響がおよぶことは彼らがこれまでも経験してきたことであり、それを避けたいと彼らは考えている。

 

 日本が米国との同盟関係を重視し、米軍のプレゼンスを重要視するのであれば、そのような事故を起こしてはならない。すでに市街地に二つもの軍用飛行場がある以上、緊急時に那覇空港をどのように運用するのかを考えることは避けられない。

 

アジア外交にこそ活路

 

 質問 もしご自身が総理や担当大臣などの交渉できる立場であれば、トランプ大統領の米国とどのように渡り合うのか?

 

 前泊 まず日本にとって大切なのは、アジアの中に友人を作ることだ。もし私が総理大臣であれば、まず中国へ行って謝罪する。中国から責められているこれまでの「発言」について、まず謝ったうえで、共通の利益を目指してアジアの中で一つのチームを作っていくことを提案したい。そのための恒常的な議論のテーブルを作る。

 

 ワシントンへ行った際、何度もされたのは「日本は友だちがいない国である」という指摘だった。「米国しかいないのだから、米国のいうことを聞いた方がいい」という話だ。「なぜか?」と問えば、「隣国の韓国とは未だに戦後処理が終わっておらず、北朝鮮からはミサイルを撃たれ、中国とはいつまで経っても緊密な対話ができる体制が整っていない。アジアから日本がどう見られているのかを考えた方がいい」という点を指摘された。

 

 これまで日本は、戦後復興の段階において、その技術と復興力を駆使して作り上げた成果をアジアに惜しみなく提供してきた。技術支援をおこない、政府開発援助(ODA)で資金を出し、アジアの発展に貢献した。それらがアジアから信頼される国としての基礎を築いてきたと考える。

 

 しかし現在、軍事力を強化してミサイルを配備し、周辺の中国に対して「敵」と見なすような発言をすることがどのような意味を持つのか。まずは自らの足元を固め、アジアの中で連携を取っていれば、ディールで交渉してくる米国にとっても簡単に買い叩けないような国になるはずだ。

 

 約101カ国と安全保障の関係を結んでいる米国に対して、かつては米国としか関係を結んでいない国という時期があった。「いくら自分が本妻だと思っていても、実は相手には大事な人がたくさんいて、自分はその1人にすぎないという認識が日本には欠けているのではないか」と米国側からいわれる始末だ。その意味では足場を固めて、「日本は極めて重要な国であり、唯一無二の国である」と米国に思わせるような外交交渉をおこなうべきではないか。

 

 質問 国は「普天間の危険性を1日も早く除去する」とくり返すが、昨年の外来機の飛来は3826回と過去最多。宜野湾市に寄せられる苦情の数も1134件で過去最多だ。慰霊の日の前日には、陸自オスプレイ3機が普天間基地に飛来し、宮古空港や石垣空港にも展開して患者や物資を輸送する訓練をした。これでどうやって外来機の規制を米側に求めるのか?

 

 前泊 「沖縄慰霊の日」を前後した6月20日から30日までの間、日米は統合演習レゾリュート・ドラゴンを実施した。この時期に沖縄で大規模な軍事演習をすること自体、日米において沖縄がどういう位置づけなのかを象徴的に表している。

 

 米国は沖縄の統治をする際、沖縄の歴史について徹底的に調べた。政治歴史学者G・H・カーは自著『琉球の歴史』の中で「日本の政府はあらゆる手段を持って琉球を利用するが、琉球のために犠牲になることは好まない」と書き、沖縄は日本にとっての「エクスペンダブル(消耗品)」だとのべている。だが今、日本全体が米国にとっての「エクスペンダブル」ではないかと思っている。

 

米軍基地から付近の河川に流出したPFOS含有の泡消火剤(2020年、宜野湾市)

 普天間基地では、航空機だけでなく、PFAS問題もある。鍾乳洞が地下に広がる基地内でPFAS含有の泡消火剤をずっと使ってきたため、豊かな水源が汚染され、その下流にある田芋畑でも、市民の菜園でも豊かな地下水が使えない。

 

 また、嘉手納基地の中から流れてきたPFOS問題が、30万~40万人が飲む水道水の汚染にまで繋がっている。汚染の出所が嘉手納基地であることはほぼ断定されているのに、調査すらさせることができない。この国は命に関わる水源の管理すらも米国人任せだ。

 

 米国が嘉手納を抑えたのは、幕末に沖縄にきたペリーが調査し、水源が豊かな地域であることをあらかじめ確認していたからであり、沖縄戦後、迷わず嘉手納を選んで占拠して基地を作っている。その豊かな水源を自分たちで汚染し、そのうえで自前処理を放棄して沖縄県や自治体に基地内への給水増を要請している現状だ。「綺麗にして自分で飲みなさい」と彼らにいえる政治家がここから出てきてほしい。

 

 せめてフェンスの内側の調査権を行使できるくらいの体制をこの特別委員会としてとってほしい。普天間問題よりも深刻な嘉手納が与えている沖縄県民に対する命の危険をもたらすような汚染に対し、現状この国は何の役にも立っていない。政治の力をもう少し発揮してほしい。

 

日韓の共通課題として

 

 質問 朝鮮国連軍(以下、国連軍)のことについて聞く。この問題は、日本人には本当にわかりにくい。国連軍といっているが、現在の国連の常設軍(正規の国連軍)ではない。先週の予算委員会で高市総理への質問で、この朝鮮国連軍との地位協定における「事前協議」について取り上げた。これに関する密約「朝鮮議事録」について日本政府は事実上失効しているという見解をのべているが、失効したという合意は存在しない。

 

 日本では国連軍の存在自体が政治家にも認識されていないが、韓国では今、かなり大きな変化が起きている。尹錫悦前大統領は2024年、国家行事で日本の国連軍後方基地を「(北朝鮮や中国に対する)自動報復装置」と呼び、賞賛した。だが、当時野党であった現在の李在明大統領は「国連軍は韓国の主権を侵害している」と明確な批判を表明し、面白いことに「日本に再侵略の口実を与える極めて危険なものだ」という批判をしている。そして、李在明大統領が野党であった時の問題意識が、韓国の公式な対外外交姿勢に反映される可能性が非常に高まっている。これはわれわれにとって一つの好機ではないか。私はこれを日韓の「主権のねじれ」と捉えている。

 

 日本側の主権問題は、事前協議なしに多国籍軍(国連軍)が日本国内の基地から自動的に出動する仕組みになっている。われわれの意思とは関係なく、日本が自動的に交戦国となり、反撃の対象になってしまう問題だ。

 

 一方、韓国では、韓国の主権を超えた国連軍の動きに対し、国内のリベラル派と保守派の双方が懸念を持っている。リベラル派は、国連軍を明確に「南北の融和や平和の障害」と捉えている。保守派も同じように、国連軍は戦時作戦統制権を米国から奪還するうえでの障害と捉えている。このように双方ともに主権の問題として捉えており、そこに韓国側の「日本の介入に対する懸念」が加わっている。現在の韓国の政権が存続する間に、日韓両国が「主権の回復」という共通の認識のもとに、この「冷戦の遺物(ゾンビ)」である国連軍を解消するためにどう協力できるだろうか?

 

 川名 「朝鮮議事録(米軍が出撃するさい日本との事前協議をバイパスする仕組み)」について、米側はおそらく「失効した」とは見ていないと私も考える。朝鮮議事録は、主語が米国ではなく、「国連の統一司令部の下に入った米国」という形になっている。だから国連軍に変身した米軍については「事前協議をしなくてよい」ということを1960年の日米安保改定時に取り決めている。

 

 日本側としては、佐藤政権(1969年)の段階でこれに代わる声明を発しているため、これによって置き換えられたという立場をとっているようだが、そこから10年後の1979年の段階における米国側の資料を見ても、「事前協議をバイパスする仕組みとして、国連軍は依然として重要である」と米国側は考えている。だから、やはりこれは有効なのだろう。

 

 他方で、韓国側は当然ながらこの問題に非常に詳しい。私がこの国連軍の問題に遅ればせながら気づいたきっかけも、韓国の軍人から指摘されたからだ。韓国では「国連軍の再活性化」という言葉が使われるが、それに対して「安全保障上の担保になる」という考え方と、「韓国にとって重大な主権侵害に当たる」という考え方の二つが存在する。

 

 私としては、やはりこの問題は日韓で何らかの形で議論すべきと考える。しかし、韓国は国連軍そのものではない。したがって、日本と国連軍地位協定を結ぶ当事者でもないため、制度的に非常にややこしい問題だ。

 

 ただ、米国が少なくとも東アジアの安全保障を「面」で捉えているという意味において、国際法上の国境線は安全保障上の境界線ではない。私たちは国際法上の境界線に従って物事を考えがちだが、米国にとって日本と韓国は同じ面に属す一つのシアターだ。もし「現在の安全保障環境が非常にドラスティックに変わりつつある」のであれば、われわれも頭の中を変えて、国連軍を結節点にした日韓の戦後一貫した関係性について建設的な議論をするため、その土台となるテーブルを設ける必要がある。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。