(2024年11月22日付掲載)
れいわ新選組の山本太郎代表は11月16日以降、北海道苫小牧市と宮城県名取市で増税反対デモ、さらに苫小牧市、仙台市でおしゃべり会、埼玉県さいたま市で街宣をおこなった。街宣やおしゃべり会では、参加者からパワハラ失職で衆目を集めた兵庫県知事選(17日投開票)の結果や、与党と国民民主党の政策協議で進む「103万円の壁」の引き上げをどう考えるかなどの質問が上がった。他にも、外交・防衛問題をはじめ日本の安全保障をめぐって踏み込んだ議論もくり広げられた。以下、参加者とのやりとりのなかで山本代表が語った見解の概略を紹介する。
情報に翻弄される側から社会変える主体へ
質問 兵庫県知事選でパワハラ疑惑の斎藤知事が再選した。本人も「SNSの影響がすごく大きい」といっていたが、彼を応援したインフルエンサーも含め、取り巻きは新自由主義的な自己責任論をよく口にする面々だ。それが世論を煽ることでこれほどの影響が出ることは非常に怖い。どう考えるか?
山本太郎 そのような勢力がどのように拡大したかという経緯について検証じみたものは一定必要かとは思う。だが、そのようなものを脅威に思う前に、れいわ新選組を広げた方がいい。唯一対抗できるのは、れいわしかないからだ。
30年の不況、その間に所得中央値が131万円も下がってしまうという先進国唯一の異常事態を作り出したのは、自民党だけではない。国会の中で徹底的に対抗しなかった野党の側にも責任がある。よく見てみれば、経済を悪くしてきた自民党と立憲民主党のものの考え方はほぼ同じで、実質は自民党A・Bだ。それを野党と信じ込んで応援するということには抵抗がある。「緊縮」によって社会を壊すという意味では同じだからだ。
カオス(混沌)状態になっている社会に不安を感じることもあるだろう。コツコツと政治活動をおこなう人がいるなかで、それらを一気に飛びこえて議席をとったり、党勢が拡大されるということを横目に見たとしたら、その不安が深まるのも当然の感覚だと思う。
だが、そういう状況に心を揺さぶられ続ける状況は好ましくないし、あまり意味がないと私は思う。まずは自分自身がシンプルに社会を変える主体になる。メディアやネットなどいろんなものに翻弄され、踊らされ続けるところから降りることが必要だ。「れいわだってネットで拡大しているじゃないか」という寝ぼけたことをいう人もいるが、それは事実と異なる。ネット等はあくまで補足的なもので、実際には地に足を付けて応援してくださる皆さんや「この状況をなんとかしたい」と願っている皆さんが確実に横に広げてくださるからここまで拡大できた。ネットの盛り上がりだけでそんなことにはならない。
一時的な盛り上がりを作ることはそれほど難しいことではない。むしろ一回だけの花火なら誰でも打ち上げられる。新しく政党が登場したときは結構盛り上がるが、それをこの先もずっと維持し続けるためには積み上げしかない。その意味で、れいわは五年間でしっかりと皆さんと一緒に積み上げて、14議席が生まれた。それが社会が壊れていくスピードに追いついていないことに歯がゆさや焦りも感じる。ただ、一つだけいえることは、私たちは一回も負けていない。皆さんが負けさせていないということであり、そこに自信を持っていただきたい。
「財源は国債で可能」に触れぬ茶番
質問 山本代表の身の危険が心配だが、ボディーガードを付ける必要はないのか?
山本 今回の衆院選で3倍増と躍進したことで「相変わらずうっとうしい奴らだ」という気持ちは高まっているとは思うが、「タマ(命)をとる」ほどの脅威にはまだなり得ていないのではないか。逆に命をとってしまえば、その存在がクローズアップされる可能性があるため、潰したい側からすれば、むしろスキャンダルで政治的に失脚させ、支持者をがっかりさせることの方がより効果的だ。火のないところにも煙は立つし、それで終わらず大炎上にも発展し得る社会なので、誰に対してそういう事が起きたとしても、そのまま鵜呑みにせず、中身をしっかり冷静に見る必要がある。
今回の選挙でキャスティングボートを握った国民民主党代表の何かしら問題(不倫報道)が出てきたことについて、「ハニートラップではないか?」「103万円の壁を178万円に引き上げることを財務省が許さなかったのでは?」という憶測の声もあるが、もしそんな話ならば選挙前にぶっ込んでいるはずだ。28議席をとってキャスティングボートを握ってからくじこうとしても難しい。逆にいえばそれを遅らせた。つまり、国民民主党の政策は財務省が本気で潰そうと思うほどの内容ではないということだ。
なぜなら今、103万円の壁引き上げに関しては、「国債発行は死んでもいわないゲーム」みたいになっている。「103万円の壁を引き上げることによって七兆円、八兆円の税収が減り、それで一番困るのは地方政府だ」みたいな話に対して、「財源は政府が考えるべきだ」「余計にもらった税収を国民にお返しするべきだ」みたいな訳のわからない話をしている。
本来、103万円の壁の撤廃によって地方政府が減収になるなら、「国債発行で補填する」で終わりだ。7、8兆円規模で国が破綻するならとっくの昔に破綻している。2020年だけでコロナ対策として発行された国債は112兆円だ。それでも国は破綻しない。馬鹿にするなという話だ。
日本は発行した国債償還のために毎年新たに国債を発行している。円建て国債だから、円を発行して返せばいいだけの話だ。それを永久債のようにずっとやり続けている。自国通貨を持つ先進国はみんなそうだ。
消費税廃止のために必要な26兆円の財源も国債発行で十分だ。一方、不況時には社会にお金が回っていないのだが、これで景気が上がっていけば、社会に回るお金が増え、溢れてしまう可能性がある。それを間引くために税がある。減ったところにお金を追加し、増えすぎたところのお金を減らすという景気の調整をするのが税だ。
それなのに国民民主党は今、「財源がなければお金なんて出せるわけがない」という話ばかりして「税財源をどうするか」というところをより強化している。「国債発行」という手段を絶対に口にしないゲームをいつまでも続けていること自体が不誠実だ。不倫相手にも国民への財源の説明に対しても誠実さが必要だ。
「喜べ!もっと働けるぞ」でよいか?
質問 103万円の壁撤廃には反対だ。最低賃金でより長く働かされるだけではないか?
山本 現在、パート・アルバイトの賃金が上がっているので、所得課税され、扶養から外れる「年収103万円」の壁が低すぎるという現状を考えれば、これを緊急的に引き上げることには反対しない。一方で、この壁をどんどん上げていくというのは「喜べみんな! もっと働けるぞ!」という話だ。これには大反対だ。いい加減にしろ、と。もう十分働いているじゃないか。
パート・アルバイトで働く人の多くは、暇で仕方ないから働いているわけではない。学業、家事・子育てなど、いろんなことをしながらも生活費を稼ぐために働かなければいけない状態にあるから働いている。これを拡大するだけでは学生から勉強の時間を奪い、親たちからも子育てや家事の時間を奪うことになり、今以上に両立が難しくなる。103万円を意識せずに働けることに安心して歓迎する気持ちはわかるが、それで一番喜んでいるのは、その裏にいる資本側だということに注目してほしい。
「103万円の壁を178万円へ」に関しては、給与所得控除と基礎控除の二つがメインだ。給与所得控除を考えると、その壁を引き上げたら、稼ぎが大きい人たちに対してより恩恵が大きい。だから諸外国は20~30年のうちに改めている。
稼ぎが大きいところを優遇しても貯蓄や投資に回るだけだ。そういうことのために仕組みを利用するのは良くない。岸田政府が「1億総株主」を目指して金融所得倍増計画をうち出し、その政策をそのまま受け継いだのが石破政府だ。国民民主党がいうように103万円の壁を178万円にして高所得の人たちに対して恩恵が大きいという方向に持っていけば、金融市場もより好況になっていくだろう。だが、本当に目指すべき所はそこではない。30年間消費と投資=「需要」が弱っている国においては、よりお金を消費に回してくれる主体に対して生活の底上げをしなければならない。そうすることで、誰かの消費が誰かの所得になる。
消費性向(所得に対する消費の割合)が1番高いのは、年収350万円の周辺の人たちだ。入ってきたお金が右から左に出ていく層ともいえる。つまりこの国の経済の底上げに一番貢献する層だ。だから、たとえば年収300万円までは住民税も所得税もかからないという話にするのが一番早い。その人たちがもっとも景気を喚起するのだから。
控除という部分を考えるならば、基礎控除部分を引き上げることを考えるべきだ。もっといえば、この国から「ワーキングプア」をなくさなければならない。
つまり、今の状態で手取りが増える政策を国が打たなければいけない。それが消費税の廃止や悪い物価高が収まるまでの現金給付、社会保険料の減免だ。それによってみんなにお金を使ってもらい、30年間失われてきた需要をとり戻していくことが必要だ。
国民民主党のような小粒で高所得者優遇の政策では、今の社会の問題の一番本質的な部分を見ていないことになる。皆さんの生活を底上げすると同時に景気を良くする政策なのか、それとも結局は一部の人たちしかおいしい思いをせず、働かせる側を喜ばせる政策なのかということに気を配る必要がある。本当に国を立て直すための政策をやっていかないといけない。
膨らむ軍事予算 細る食料安全保障
質問 軍拡を進めると軍拡競争に発展するといわれるが、日本が軍縮したところで、中国や北朝鮮、ロシア、アメリカが軍拡をストップすることなどありえない。なぜ軍縮に賛成するのか?
山本 「平和」は国の発展や国民生活の安定のために絶対に必要だ。この1~2年の間に、日本政府は43兆円の軍拡を決めた。また、それだけでなく海外からローンでの武器購入も決めている。それらを含めると予算は全部で60兆円規模になるのだが、そのことをめぐって「財源はどうするのか」という話はあまり出てこない。一方で、いまや「国難」とまでいわれる少子化問題の解決には毎年8兆円の予算が必要だといわれているのに、そこについた予算はわずか3兆円だ。
「安全保障」とは、他国との関係性や国防を考えるだけでなく国民の生活や経済も考えなければならない。しかし今の日本では、経済や食料の安全保障はズタズタにされている。自分たちのやりたいことにだけカネを出し、注目させたいことしか話をしない。アジアの緊張が高まっていることは事実だが、そういいながら日本海側には原発が林立している。今の時代の戦争における原発攻撃は普通に存在する。「アジアの緊張が高まっているから軍拡しろ」という者が原発についてはなにもいわない時点で、誘導されているということに気づかなければならない。
軍事だけ飛び抜けてもうけるというような考え方ではだめだ。特定の分野だけもうけ続けたとしても、そこから波及する経済効果の範囲は狭い。軍事をこの国の成長産業にしてはいけない。医療や介護、保育、教育など、もっと成長させなければならない分野は他にたくさんある。無限にお金は出せないなかで優先順位は必要だが、この国を立て直すのは軍事ではない。
食料に関しても、輸入に多くを頼っている状態で、食料自給率は4割を切っている。さらに種や苗というレベルで見ると、自給率は一割を切っている。一番の安全保障は食の安全保障だ。今や日本を破滅させるのにミサイルは必要ない。
農林水産関係にもっとお金を投入する必要があり、少なくとも倍増は必須だ。作った食料はすべて国が買いとるくらいのことをしないと、新規参入する人もいなくなる。農家が赤字のままコメを作っている現状のなかで、農家が増えるわけがない。この国に欠かすことができない産業に対しては国が徹底的に支援していくことが必要だ。
誰が国益脅かしているか 中国脅威論を巡って
質問 日本はアメリカだけでなく、中国の尻馬に乗っていると思う。日本国内には中国人が持っている土地がたくさんある。
山本 日本国内のさまざまな資産が中国人に買われているという問題については、ネット上で中国を叩くために煽られている部分があるということに気をつけてほしい。経済の弱い国が、経済の強い国に食われるのは当然のことだ。日本が世界の約20%のGDPを握るほど経済が強かった時代には、世界中の有名な建物や絵画、映画会社など、価値があるモノを買いまくっていた。“アメリカの魂”と呼ばれていたビルまで買うほどだった。皆が世界中に旅行に行き、どこでモノを買っても安かった。だが、今の日本は経済が弱い。安いから世界中から人が来る。
日本国内の重要な土地や地域、施設を日本人以外が買えないように規制することは必要だ。だが、日本そのものの資産価値が落ち、経済が絶好調の国に買われるのは当たり前という状況のなかで、ある特定の国を名指しで叩くのは間違っている。むしろ一番怒らなければならない相手は、日本経済をここまで弱らせてきたバカな政治家たちではないか。そしてそのバカな政治家たちをカネと票で飼い慣らし、自分たちの利益を拡大するために労働環境を破壊し、税金のとり方を歪めてきた日本の資本家たちも反省しなければならない。
「今だけ、カネだけ、自分だけ」を拡大する者たちによって日本社会がここまで食い荒らされてきたなかで、その憎悪の矛先を「中国が日本を奪いに来ている」という話で終わらせようとしているということに気づいてほしい。一番の原因は日本の政治にあるし、自国を切り売りする者たちこそつるし上げなければならない。
土地に関していえば、米軍が一番広大な敷地を持っている。東京の六本木でも膨大な敷地を所有しているし、沖縄の基地にしてもそうだ。一等地を支配され続けている。中国に対する警戒も必要だが、現にアメリカの侵略が続くなかで、もっとも日本を食い散らかしているのはアメリカだということにみんなが気づかないといけない。
質問 米軍が日本で犯罪を犯したり航空機の墜落などを起こした場合、日本で罪を償うために日本の刑務所に入れるようにしてほしい。
山本 米軍は世界各国に駐留しているが、当然それぞれの国のルールに従わなければならない。一方で日本に駐留する米軍は、日本のルールに従う必要がない。例えば、米国内では住宅街や学校の頭上での超低空飛行などは絶対にできないが、日本では米軍に対して日本の航空法が除外されるため、そうした飛行もやりたい放題だ。自分の家でもやらないことをよその家でやるような人を友だちと呼べるだろうか。
また、昔からの密約で米軍が望めば日本のどこにでも基地を置けるようになっている。日本のことなのに日本側に決定権がない。それによって失ったのが北方領土だ。プーチン大統領と安倍元首相がおこなった27回の会談では、最終的にロシア側から「ロシアが北方領土を返還したとして、そこに米軍が基地を置いたり訓練区域にするのはやめてくれ。日本はそのことを米国に約束できるのか?」と聞かれ、そのまま交渉が終わってしまった。なぜなら日本は米国に対してそのような交渉ができないからだ。このことは日本国内のニュースでも報道されている。
いまだに米国に対して隷属的な地位協定を結んでいるのは世界で日本だけだ。ドイツとイタリアでは、冷戦後に「補足地位協定」として、第二次大戦後の占領時代からあった米軍基地の管理権と制空権を全面的に自国にとり戻している。だが日本の空だけはいまだに米国のものだ。「横田空域」と呼ばれる一都八県の空域も米軍が仕切っている。
私は米国との関係を切れといいたいわけではない。同盟国であるならば対等であるべきだ。そのためには既存のルールを対等なルールへと置き換えていく必要があると考える。