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救える命を救わぬ政治災害 新型コロナ自宅療養中の死亡が多発 公費検査の拡大、野戦病院の設置が急務

 国内での新型コロナの新規陽性者数は20日、2万5876人となり、3日連続で過去最多を更新した。連日5000人ごえの東京を筆頭に、19日には宮城、千葉、大阪、兵庫、福岡、沖縄など27府県で過去最多となり、「もはや制御不能」「災害レベルで感染が猛威を振るう非常事態」(東京都モニタリング会議)というお手上げ状態に陥っている。厚生労働省が確認した重症者数は21日には全国で1888人となり、9日連続で過去最多を更新。首都圏など都市部を中心に医療体制の逼迫に拍車がかかり、自宅療養は全国で10万人近くにのぼっており、医療にアクセスできず自宅で死亡する例が多発している。五輪パラ開催のために数兆円を投じて数々の大規模施設を建て、人員を投入できる国が、なぜ国民の命を守るために医療や検査体制を拡充できないのか――この政治の機能不全を解消する以外にコロナ禍の出口は見えない現状にある。

 

 現在の医療崩壊は、防疫対策の入口である検査や隔離体制の脆弱さに起因している。感染症対策では「検査」「隔離」「治療」「免疫力強化」が鉄則といわれるが、ワクチン接種や治療薬の開発が進まないなかでは「検査」「隔離」以外に感染拡大を防ぐ方法がない。緊急事態宣言による全社会的な「行動自粛」にはさまざまな面で限界があり、それも一時的な抑制効果しかないことが実証されている。宣言は過去4回おこなわれてきたが、その間に政治は何をしてきたのか? が問われている。

 

 東京都をはじめ首都圏の自治体では、「感染第三波」が始まった1月から保健所業務や医療の逼迫を理由に、濃厚接触者などを追跡する「積極的疫学調査」を縮小し、重症化リスクの高い場所に限定している。検査体制が拡大する市中感染に対応できておらず、政府分科会の尾身会長も「(感染者の急増に対して)検査の供給体制が間に合っていないことが間違いなくある。実際に報告されたよりも実態の感染者はもう少し多い」(18日、国会)と認めた。

 

 東京都のモニタリング会議(20日)でも、専門家は「制御不能な状況が続いている。検査が必要な人に迅速に対応できていないおそれがあり、把握されていない多数の感染者が存在する可能性がある」「医療提供体制は深刻な機能不全に陥っている」と指摘した。

 

 「新型コロナをコントロールできているか」「検査が足りているか」をはかる指標の一つに、PCR検査陽性率(1日の検査数に対する陽性者の割合)がある。陽性率が高ければ高いほど見逃している症例が多く、低ければ低いほど捕捉率が高いことを意味する。WHO(世界保健機関)は「5%未満を維持すること」を推奨し、国は「10%」をステージ4(爆発的感染)の判断基準としている。

 

 この検査陽性率(直近1週間平均)は20日時点で、40都道府県で10%をこえており、神奈川県では34・8%、東京都が23・3%、兵庫県が23・3%、千葉県が22・0%、京都府が20・9%、富山県が19・9%と極めて高くなっている。受検者の3~5人に1人が陽性者であり、市中感染拡大のスピードに検査体制が追いついていない。

 

 この検査とは別に、無症状者が自主的に民間業者に依頼する自費検査が、行政検査(症状がある人を対象にした公費検査)に匹敵する規模でおこなわれているが、これは行政への届出が義務化されていない。新型コロナ感染者のうち、概ね3~4割が無症候性感染といわれ、無症候性感染者からの感染は全体の24%と試算されている。にもかかわらず、政府が公費検査の対象を絞り続け、無症状者の捕捉は自費検査頼みになっているのが現状であり、公による感染症対策の「入口」が崩壊していることを示している。

 

 市中感染を抑え込むためには、無症状を含む感染状況を把握しなければ始まらない。検査数を増やすための検査体制を拡充するだけでなく、感染者を診断、隔離、治療するための医療機関や医療従事者、療養ホテルの確保、また接触者を追跡するための保健所スタッフの増員を合わせておこなうことが必須となる。

 

自宅療養者全国で10万 重症化も入院できず

 

 だが政府は逆に陽性者を原則自宅療養とし、「中等症Ⅰ」以下の患者の医療へのアクセスを制限する方向へ舵を切った。

 

 そのため20日現在で、新型コロナ患者の自宅療養者は全国で約9万7000人にのぼる。埼玉、千葉、東京、神奈川の首都圏四都県で約5万8000人と全体の約6割を占めているが、大阪でも9000人、福岡でも5000人をこえるなど各地で増加傾向が続いている。
 首都圏では7月以降で少なくとも18人が自宅療養中に死亡する事態となった。

 

 17日には、新型コロナに感染した親子3人全員が自宅療養となっていた東京都内の家庭で、40代の母親が死亡した。女性には糖尿病の基礎疾患があり、ワクチンは未接種だった。都によると、亡くなった母親は家庭内感染で今月10日に陽性が判明し、夫と子どもも感染して自宅療養をしており、11日の保健所による健康観察では、せきと発熱の症状のみだったが、17日に女性が倒れているのを夫が発見して死亡が確認された。「軽症」と判断されたが、容体が急変したとみられている。

 

 千葉県柏市でも、新型コロナに感染した妊娠8カ月の30代女性が、入院先が見つからずに17日に自宅で早産し、新生児が死亡した。柏市保健所によると、女性は9日に発熱などの症状が出て、11日に検査で感染が確認されたが、当初は症状が軽かったため自宅で一人で療養していた。保健所の健康観察で、血中酸素濃度から、入院対象となる「中等症相当」と判断され、保健所が15日から入院調整に乗り出した。だが、入院先が見つからないまま2日間が過ぎ、17日朝に女性が腹部のはりや出血を訴えたため、かかりつけ医が複数の医療機関に受け入れを要請したがやはり見つからず、夕方に自宅で男児を出産。消防隊員が駆けつけたが、男児は心肺停止状態で、搬送先の病院で死亡が確認された。

 

 厚労省は、早産や重症化リスクが高い妊婦のコロナ感染について「入院勧告」の対象としているが、今年2月、病床逼迫地では、医師が入院の必要がないと判断した場合は「宿泊施設や自宅での療養も差し支えない」との見解を都道府県などに示していた。

 

 首都圏では、すでに「中等症Ⅱ」(血液中酸素濃度が93%以下で自力での呼吸が難しく酸素投与が必要)でも入院できず、重症化して救急搬送されるケースがあいついでいる。中等症病床の逼迫によって入院調整から実際に入院するまで数日を要する状態となり、医療機関や専門家は「新規陽性者数が現状のまま継続するだけでも、医療提供体制の限界をこえ、救える命が救えない」と現状を訴えている。

 

 原則自宅療養とされる「中等症Ⅰ」(呼吸困難や肺炎の所見があり、38度以上の発熱、血中酸素濃度96%未満)でも、酸素濃度が下がっているのに苦しさを感じない「サイレント・ハイポキシア(サイレント低酸素血症)」の場合があり、放置すれば死に至る可能性があるため、厚労省みずから医師に対して「入院の上で慎重に観察」「低酸素血症があっても呼吸困難を訴えないことがある」と注意点を「診療の手引き」に記している。

 

 デルタ株に罹患した場合、軽症段階で早期に治療に乗り出さなければ重症化は防げないことが以前からわかっている。発症後7日以内に打たなければ効果がない抗体カクテル療法も、重症化を防ぐレムデシビル(抗ウイルス薬)も病院以外では使えない。軽症者を医療から切り離すことで初期段階で適切な治療が受けられないため、自宅で重症化していきなり重症病床に搬送される。また治療によって重症状態から脱した患者も中等症の病床に空きがないため戻ることができず、さらに重症病床が逼迫するという悪循環を作り出している【図①参照】。東京都の18日時点の重症病床の使用率は89%と、ほぼ満床状態が続いている。

 

50代以下の重症者急増   家庭内感染も増える

 

 18日におこなわれた厚労省の専門家会議では、東京都北区保健所長の前田秀雄氏が、感染の急拡大によって「保健所の業務量は第三波の2倍をこえている」とのべ、「病床や宿泊療養施設がひっ迫しているため、新規に入院や宿泊療養へ処遇される陽性者は減少し」「自宅療養や入院・療養等調整中と、在宅で処遇される陽性者はさらに激増している」と現状を報告した【グラフ②参照】。

 

 7月段階と比べて、8月は自宅療養が4倍になり、入院や宿泊療養をすべきなのに受け入れ先がない「入院・療養等調整中」は10倍にも膨れあがっており、これによって保健所の医療調整に要する業務量も急増し、限られたスタッフで在宅患者の健康確認などに追われるため、濃厚接触者の追跡検査などの「積極的疫学調査」は極めて限定的になっているという。十分な検査がおこなわれないため、無症状者が野放しとなって感染がさらに広がり、入院先がないため治療が遅れ、重症者が増えるというドミノ現象となっている。

 

 また、自宅療養が増えるに従って家庭内感染が増えている。東京都のデータによると、8
月10~16日までの1週間の新規陽性者のうち、濃厚接触者における感染経路では、「同居」が全体の64・4%を占め、職場(15・4%)、老人ホーム等の施設(5・5%)、会食(3%)を大きく上回っている。

 

 東京都内の入院患者も、21日時点で3964人と過去最多に達し、日々急激なペースで増加している。そのうち東京都の基準による重症者(人工呼吸器やエクモを装着した患者)は270人だが、国の基準による重症者(集中治療室で治療を受ける患者)は18日時点で1077人にのぼる。これも過去最多だった「第三波」を大きく上回る。

 

 五輪開幕直前の7月21日、菅首相は、「感染者が急増しているなかで五輪パラを開催して国民の命を守れるのか?」との記者の質問に対して、「守れると思う。今日も(都内感染者が)1000人をこえているが、65歳をこえる重症化の一番多いといわれる高齢者の感染者は4%を切っている。ワクチン接種の大きな効果が出ている」として意に介さなかった。その後、4倍、5倍と感染者が増え続けても、政府が検査や隔離、医療体制の抜本的な拡充に動く気配はない。

 

 だが、東京都内の重症患者を年代別に見ると、確かにワクチンの効果もあって60代以上の高齢者の割合は減っているが、逆に50代以下の重症者が急増している【グラフ③参照】。50代が最多で、40代でも人工呼吸器を装着するほどの重症化に陥るケースが増しており、入院患者の年代別割合【グラフ④参照】でも同様の傾向にあることがわかる。デルタ株の出現により、「高齢者だけが危険であり、若年層は重症化しない」という前提は崩れていることは早くから専門家が指摘したことであり、国が急ぐべきは医療へのアクセスを制限することではなく、医療とともに、検査・隔離体制を拡大することにほかならない。

 

 医療機関では、新型コロナ用の病床・スタッフを確保するために、手術の延期など他の診療にも影響が出ており、救急車を呼んでも搬送先が見つからず、心筋梗塞や脳卒中になったり、交通事故にあって救急車を呼んでも病院にたどり着けない、手術を受けられないというケースも現実に生まれている。コロナ医療の逼迫を解消しなければ、コロナ以外の患者にも命の危険が及ぶことになることは必至で、「高齢者の感染が少ないから大丈夫」という認識だけで現状に対応することはできない。

 

 東京都医師会をはじめ、医療関係者の多くがその解決策として、海外のようにコロナ専門の「野戦病院」をつくるなどの緊急的な医療体制の拡充を提言しているが、政府は抜本的な対策を打ち出していない。コロナ禍に五輪パラの開催を強行し、4兆円を投じながら、国民の命を守ることに対しては極めて消極的な見殺し政策を貫いている。コロナ禍の「制御不能」、医療の「機能不全」は、深刻な政治の機能不全を意味しており、救える命を救おうとしない政治災害といえるレベルに達している。

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