いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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欧米各国はコロナ禍で手厚い給付金 10万円+マスク2枚だけとは歴然の差

 新型コロナウイルスが全世界で猛威を振るい始めて2年目に入っている。昨年末からのワクチン接種開始で欧米ではコロナ禍からの出口が見えてきた国もあるなかで、日本ではまだまだ出口は見えず、緊急事態宣言延長で自粛や休業要請が続き、どうやって生活を維持し、事業を継続していけばいいのか途方に暮れる声が巷には溢れている。1年目はなんとか耐えしのいだものの、2年目に入って行く先が見えずやむなく店を閉めたという事例も多い。失業したり収入が大きく減少するなかで自殺者が増大している。生活保護申請もリーマン・ショック以来11年ぶりに増えている。菅首相は就任当初から「自助、共助、公助」を掲げてきたが、コロナ禍という非常事態下においても「自助・自粛」を強いるばかりで公的な支援・救済策はゼロに等しい。コロナ禍における公的な支援策、救済策を欧米をはじめ世界各国と比較してみた。

 

アメリカの場合 給付金は3回で35万円超

 

 感染者数、死者数とも世界最大のアメリカでは日本の定額給付金にあたる直接給付を3回実施している。1回目は2020年4月で、確定申告の年収が独身者7万5000㌦以下、夫婦の場合は合計で15万㌦以下であれば、大人一人当り1200㌦(約13万2000円)、未成年者(17歳以下)に500㌦(約5万5000円)が支給された。2回目は2020年12月で、成人・非成人ともに一人当り600㌦(約6万6000円)。3回目は今年3月で、給付条件は1回目とほぼ同じで成人・非成人ともに1400㌦(15万4000円)が給付された。給付総額は成人で一人当り3200㌦(約35万2000円)となっている。

 

 第1回目の大型支援策は、新型コロナウイルス経済救済法として2020年3月に成立し、史上最高額の2兆㌦(約220兆円)を投入した。

 

 直接給付のほかに失業者への失業保険も増額した。

 

 コロナ禍で世界恐慌以来の雇用危機に陥ったアメリカでは、失業保険として従来の支払い額に毎週600㌦(約6万6000円)が一律に加算された。平均的な働き手は就業時よりも収入が増えることになったケースもある。

 

 また、通常は失業保険を申請できない個人事業主(フリーランス、自営業、個人請負業者)にも失業保険が適用された。2020年2月2日~12月31日の期間で、最長39週間まで給付金を受けることができた。

 

 失業保険には総額2500億㌦(約27兆円)が投じられた。

 

 中小企業救済策としては3500億㌦(約37・6兆円)を融資し、雇用を維持すれば返済不要とした。従業員の給与、賃料、保険、公共料金等の支払いのために一事業者当り最大1000万㌦のローンを提供した。中小企業が事業と雇用を維持すれば、年1%の利払いだけで元本の返済が必要ない融資を2年間受けることができる。

 

 返済免除となる対象の内訳の一部は、給与、健康保険、年金プラン、退職金、給与税、オフィス賃料、電気・ガスなどの光熱費など。

 

 企業が支払う給与などを事実上政府が肩代わりするシステムで、融資の形をとった実質的な補償措置だ。従業員数500人以下の企業や個人事業主・自営業者、宿泊・外食サービス業で従業員が500人未満の企業等が対象となる。

 

 今年1月に登場したバイデン政府は、3月にコロナ禍で打撃を受けた国民への支援を目的として1兆9000億㌦(約200兆円)規模の新型コロナウイルス経済対策法を成立させた。

 

 3月から一人最大1400㌦(約15万4000円)の支給を開始し、週300㌦(約3万3000円)の失業保険の追加給付期間を9月6日まで延長させる。州政府や自治体には3500億㌦(約38兆5000億円)、学校には1300億㌦(約14兆3000億円)を支給する。

 

 また、影響の大きい飲食店向けには3兆円規模の経済支援策を発表した。従業員の給与の支払いや家賃の補填などにあてられる。

 

 現金給付の総額は4000億㌦(約44兆円)規模、失業給付の特例加算も2000億㌦(22兆円)規模の追加財政出動になる。また、子育て世帯への1000億㌦(約11兆円)規模の税制優遇措置も加えると、家計支援は1兆㌦(約110兆円)弱となっている。

 

ヨーロッパ 国が従業員の給料補償

 

 イギリスでは、今年1月に3度目のロックダウンを実施し、飲食店や生活必需品以外を扱う店舗は営業停止、不要不急の外出も禁止された。同時に昨年末からワクチン接種を開始し、今月1日には死者ゼロとなった。これは昨年7月以来のことだ。

 

 ロックダウン中は政府は小売や飲食、観光などの企業に対して一店舗当り4000(約56万円)~9000ポンド(約126万円)の支援金を支払った。従業員の賃金の8割を肩代わりする以前からの制度も4月末まで延長した。支給は一度きりだが、月額で最大42万円の補助や、従業員の給与80%の肩代わり継続はこれらへの上乗せになる。

 

 イギリスでは、昨年3月のロックダウン中には小売・観光・娯楽事業者に対し、一社当り最大2万5000ポンド(約331万円)の助成金が給付された。このとき全事業者を対象に、休業をよぎなくされる従業員の給与の80%を一人当り月2500ポンド(約33万円)を上限に政府が肩代わりすることを発表した。予算規模は3500億ポンド(約47兆円)にのぼる。

 

 加えて、低所得者の住宅賃料支払い支援など家計に向けた直接的な支援もうち出している。

 

 フランスでも昨年3月にロックダウンを実施し、食料品店と薬局以外すべての店舗が強制休業となった。休業した場合、従業員の給料は国が補償し、手取りの84%が休業期間中支給された。オーナーには所得補償はないが、1500ユーロ(約18万円)の補助金が出た。加えて月の売上の3倍程度の額の融資が出た。1年で返済すれば利息なし。6年以内での返済で、2年目から通常通りの1・5~2%の金利となる。

 

 また、昨年11月末に外出制限や小売店の営業制限は大幅に緩和したが、レストランやカフェは店内での営業が引き続き禁止された。政府は飲食店やホテルを対象に休ませている従業員の給与の70%を肩代わりする対策を続け、昨年11月末に店の規模や売上の減少幅に応じて最大で20万ユーロ(約2500万円)を支給した。

 

 フランスの経済・財務相は「支援が必要なすべての分野に措置をおこなう意志がある」と表明して以下のような政策を出した。

 

▼企業が休職する従業員に支払う手当を法定最低賃金の4・5倍を上限に国が100%補填する

▼企業倒産を避けるために設立する連帯基金に2カ月間で約20億ユーロ(約2400億円)を拠出

▼コロナ対策で休業をよぎなくされたレストラン、食品を扱わない小売、観光関連業のうち年間売上高が100万ユーロ(約1・1億円)に満たない企業に1500ユーロ(約17万5000円)の支援金を即時支給

▼法人向けの新規銀行融資に総額3000億ユーロ(約35兆円)の公的保証を付与。

 

 ドイツでは、従業員が5人までの自営業者・企業には最大9000ユーロ(約105万円)を補助、10人までの企業には最大1万5000ユーロ(約175万円)を補助した。そのほか、保育設備・学校の閉鎖や労働時間短縮により収入が減った家庭への経済支援もうち出した。

 

 また、仕事が減った従業員について、賃金が減った分の最低60%を国が雇用主を通じて給付する制度を拡充し、支給期間を最大24カ月に延長して、雇用の維持を図った。昨年11月から営業が禁止されている飲食店などに対しては、前の年の同じ月の売上の最大75%を支給し、今年1月からは賃料など店舗を維持する経費の最大90%を支援している。

 

 カナダでは、売上が3割減少したすべての企業と非営利団体の従業員の給与75%を3カ月補償した。また収入を失った個人(フリーランス・個人事業主含む)に対して月2000㌦(約15万円)を最長4カ月間給付した。

 

世界19カ国が消費税の減税を実施

 

 このほか、日本の消費税にあたる間接税=付加価値税の減税の動きが世界各国であいついでいるのも特徴だ。昨年7月段階ですでに19カ国が減税措置を実施している。

 

 イギリスでは昨年7月15日から今年1月12日までの半年間、飲食や宿泊、娯楽などの業種に限って付加価値税を20%から5%に引き下げた。

 

 ドイツは昨年6月、付加価値税を昨年末までの期間限定で19%から16%に引き下げ、食品などに適用される軽減税率は7%から5%に引き下げた。

 

 オーストリアは昨年7月から年末まで飲食や出版などの付加価値税を20%から5%に削減した。

 

 ブルガリアも2021年末まで飲食店などの税率を20%から9%に引き下げる。

 

 韓国は年間売上6000万ウォン(約540万円)以下の個人事業主の付加価値税納税を免除した。

 

 ウクライナは文化イベントについて20%から0%に減税、チェコもスポーツや文化イベントで15%から10%に減税している。

 

 このほかベルギー、コロンビア、コスタリカ、キプロス、ギリシャ、ケニア、リトアニア、モルドバ、ノルウェー、トルコ、ポルトガル、中国などが付加価値税減税措置をとっている。

 

コロナ対策せぬ日本 GDPも最悪の落込み

 

 こうした各国のコロナ対策とは対照的に日本政府は前の安倍政府時代に一人10万円の定額給付とマスク2枚を配った以外は、国民の手に確実に届いた支援策はないといえる。

 

 ただ財政出動の額だけ見ると、次のような状況だ。IMF(国際通貨基金)が1月28日に公表した財政報告によると、昨年9月以降の新型コロナに関連した世界各国の経済対策は昨年末時点で総額13兆8750億㌦(約1445兆円)に達した。大半が先進国による支出で、日本はアメリカの4兆130億㌦についで二番目で2兆2100億㌦規模の財政支出となっている。

 

 しかし内訳を見ると、アメリカが失業給付の拡充や中小企業への融資、現金給付を3回実施しているのに対し、日本はGoToトラベル延長費用がおもで、それも途中で感染拡大の要因になっているとしてうち切られており、国民生活の救済には回らず、大部分は大企業が吸収した結果になっている。

 

 厚生労働省の調査で、2020年度の1年間の生活保護申請件数が22万8081件となり、前年比で2・3%(5039件)増えている。申請件数増加はリーマン・ショックによる世界金融危機の影響が出た09年度以来11年ぶりのことだ。同省は、コロナ禍で失業や収入減少となった「働き手世代」の申請や受給が増えたとしている。

 

 申請が急増したのは政府が初めて緊急事態宣言を出した昨年4月で、1カ月で約2万1000件にのぼった。前年の同月と比べて25%(4287件)増えた。飲食や観光関係の経営者や従業員の申請が目立った。9月以降は7カ月連続で申請が増加した(対前年比)。とくに「第三波」により一部の自治体で飲食店への時短要請がおこなわれた12月からは各月約1100~1800件増えた。

 

 生活保護受給世帯は今年3月時点で164万1536世帯(前年同月比6336世帯増)となった。このうち高齢者や母子世帯などを除いた「その他世帯」が24万7682世帯で、前年同月比で6521世帯増えたのが目立っている。

 

 また、コロナ禍の影響を受けた倒産は6月2日現在で、全国で1553件。そのうち1億円未満の小規模倒産が876件で56・4%を占め、負債100億円以上の大型倒産は5件(0・3%)にとどまっている。業種別では「飲食店」(259件)がもっとも多く、「建設・工事業」(150件)、「ホテル・旅館」(90件)、「アパレル小売」(77件)と続いている。

 

 また、厚労省が今年3月に発表した昨年1年間の自殺者数は2万1081人で、前年から912人、率として4%余り増えた。自殺者が増加するのはリーマン・ショック直後の2009年以来のことだ。とくに女性の自殺者が7026人で前年より935人、率として15%も増加したことが目立っている。目立って増えたのが若い世代で、20歳未満が311人で44%、20代が837人で32%増加した。高校生までの児童・生徒の自殺も過去最多となっている。

 

 こうした数字はかならずしも実態を正確に反映しているとはいえないが、コロナ禍のもとで国民生活が極限的に逼迫している実情を映し出している。

 

 新型コロナウイルスの感染拡大という世界的にも国内的にもこれまで経験したことのない非常事態に直面するなかで、政府が国民の命と安全を守り、安心して生活を送れるように補償するのは当然のことであるし、世界の各国政府はそのために国家財政を大規模に支出している。日本政府の一人10万円とマスク2枚だけの給付は世界的に見ても異様な対応と受け止められている。

 

 国民生活を困窮のどん底に陥らせている政府のコロナ対策はGDP(国内総生産)も戦後最悪に落ち込ませている。2021年の1~3月期のGDPは前期より1・3%減少、年率換算では5・1%減少し、リーマン・ショックが起きた08年の3・6%減少も上回った。大きく落ち込んだ要因は個人消費が1・4%減、設備投資も1・4%減、政府支出は1・8%減と、内需の大幅な落ち込みだ。

 

 日本とは対照的にアメリカの1~3月期のGDPは年率換算で6・4%増となった。内需の7割を占める個人消費が10・7%増と大幅に伸び、住宅投資も10・8%、設備投資も9・9%伸び、政府の大型経済対策効果が消費に反映している。

 

 国民の生活を安定させ消費購買力を伸ばすことは、国全体の経済成長にも深くかかわっている。安倍前政府は消費税5%を8%に上げ、さらに10%に上げるなど国民から絞り上げることには熱心だったが、コロナ禍のなかで国民が死活の局面にあっても、国民を救済するために国家財政を支出することはことごとくしぶってきた。それを継承した菅政府も同様だが、無謀なコロナ禍でのオリンピックなど即座に中止し、その金を国民救済のために回すべきだ。まずなにより国民の生活を守るために、国民が必要とする十分な生活補償を出すことが差し迫って求められている。

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