いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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ザルにもならない五輪の水際対策 抜け穴だらけのバブル方式 後は野となれのコロナ五輪 

 東京五輪の開幕が7月23日に迫るなか、東京都内の新型コロナウイルス新規感染者数は6月中旬から再び増え続け、今月14日に1149人、15日には1308人となり、4~6月の「第四波」ピーク(5月8日)を上回った。1000人超えは2カ月ぶりとなる。批判世論の高まりを受けて政府や組織委はやむなく東京五輪の無観客開催に舵を切ったが、開幕まで1週間を切り、世界200カ国以上から7万人もの選手や関係者、報道陣が続々と入国するなかで、検疫(感度の低い抗原検査)や隔離をくぐり抜けて市中にくり出しており、すでに選手団、選手村、合宿地などでも感染やクラスターが発生している。国内ではワクチン不足に陥り、30万人ともいわれる五輪スタッフやボランティアにもワクチン接種が行き届いていないのが現状で、五輪を契機にして東京が変異株の巨大なエピセンター(感染震源地)と化すことが現実味を帯びている。

 

 政府や大会組織委員会は、五輪参加のため海外から入国する選手団や関係者は、全期間を通じて限られた施設や動線内のみで行動し、外部との接触を遮断する「バブル方式」をとることで集団感染を防ぐとしてきた。ところが入国時から、五輪関係者と一般客との接触を物理的に遮断する機能はない。

 

 玄関口となる成田空港の検疫所では、検疫にあたって五輪関係者と一般客の取り扱いに明確な区別はない。羽田空港も同じく、入国後の動線に区別はなく、トイレもコーヒースタンドも五輪関係者と一般客が混在している実態が明るみに出ている。

 

 さらに入国直後の検疫でおこなわれる検査は、PCR検査よりも感度が低い抗原検査のみ。米疾病対策センター(CDC)の報告(1月)では、発熱などの症状がある人の場合は抗原検査でも80%の確率で陽性者を捕捉できるが、無症状者の場合は59%の陽性者が見落とされるとしている。また米ナショナルフットボールリーグ(NFL)の所属医師たちも6月、過去63万2000回にのぼる検査の結果として、PCR検査では73~82%の確率で陽性者を捕捉できたが、抗原検査では陽性者の42・3%が陰性となっていたことを米内科学会誌に報告している。検疫ではPCR検査がいまや世界的な常識だ。

 

 最初に感染が発覚したウガンダ選手団の選手一人も、抗原検査では陰性となり、そのまま貸し切りバスで大阪府泉佐野市の合宿地に移動。その後にチーム内で出た陽性者の濃厚接触者として受けたPCR検査でデルタ株の感染が判明した。そのため選手団だけでなく、送迎バスの運転手や添乗員、市職員の7人までも濃厚接触者となった。

 

 それでも政府が抗原検査を推奨する要因として、PCR検査のかわりに昨年度の第二次補正予算で確保した179億円分の抗原簡易キットが大量に在庫として残っていることが指摘されている。だが水際対策において最も肝心な入国時検疫で、PCRよりも感度が半分程度の抗原検査を用いている時点で「バブル方式」は入口から崩壊しているといわざるをえない。

 

 また東京五輪パラの「公式プレイブック」(第三版)では、選手以外の大会関係者やメディア関係者に対しては、「来日後3日間は宿泊施設で自己隔離」「来日後の14日間は大会用に定められた宿泊施設や移動手段を使用し、他の宿泊施設を利用する場合は申請して許可を取る。来日後14日間は細かな行動計画を大会組織委員会に提出して許可される必要がある」「計画に記載されている以外の行動は基本的に取ってはならない」としている。

 

 ところが、宿泊施設でルームサービスや食堂が利用できない場合などには、個室があるレストランやテイクアウト、コンビニ等の利用を認める例外規定があり、これに事前届出は必要なく、適用基準も曖昧で、政府は「監督者の帯同の下、条件を満たせば利用が認められる」(内閣官房)としている。これもVIP待遇のIOC関係者(約3000人)やスポンサー関係者の要求を忖度したためで、隔離規定すらも開幕前からなし崩し的に破綻している。

 

 NHKの14日朝のニュースでは、東京・築地を散策している外国人へのインタビューで、質問に答えた男性がアフリカから来日した大会関係者であり、入国したのは「今朝の二時」で「ずっとホテルの中にいたので、ちょっと足を伸ばそうと歩いているだけ」と平然と語る様子が流されて物議を醸した。それもそのはず、14日間の隔離規定はプレイブックで定めているものの、自己隔離中の宿泊施設からいつ外出し、その後どのような行動をしたのかはあくまで自己申告制。5万人以上もいる海外からの大会関係者の行動を厳格にチェックする機関やシステム、帯同する監督者もない。

 内閣官房は13日、今後も組織委員会として大会関係者の行動の調査や記録はおこなわないと明言している。

 

 13日には、大会公式オフィシャルサポーターの英企業「アグレコ」のスタッフとして来日したアメリカ、イギリス国籍の男性4人がコカインを使用した麻薬取締法違反の疑いで警視庁麻布署に逮捕される事件も起きた。発表によると、3日未明に1人が酒に酔って都内のマンションに不法侵入し、警官の職務質問と尿検査でコカイン陽性反応が出た。職質前日には六本木のバーで飲酒していた。全員が14日間の自己隔離期間は終わっていたものの、プレイブックでは、入国後15日目以降も食事の場所は原則「大会会場における食事施設」「宿泊先内レストラン」「自室内でのルームサービスやデリバリー」に限定している。

 

 もし薬物使用で逮捕されなければ、このルール違反も摘発されておらず、氷山の一角と見ることができる。すでに都内では海外から訪れた外国人(大会関係者)が溢れており、そこから変異株の感染が広がることは時間の問題となっている。

 

 五輪の安全対策の肝として打ち出されたバブル方式は、当初から実態がともなわない机上の空論に過ぎず、水際からして「ザル」以下の杜撰(ずさん)さを見せている。開催を既定事実としたものの必要な対策はともなわず、「後は野となれ、山となれ」で見切り発車した後は、「検査せず」「摘発せず」「発表せず」の段階へ移行する様相だ。

 

すでに続々と感染者が 情報の詳細は非公表

 

 政府は、13日に開村した選手村(東京都中央区晴海、大会期間中に約1万8000人が利用)について、入村している選手や関係者の国籍や人数などの詳細情報は「把握できない」とし、選手内で感染者が出た場合も陽性者の国籍や競技、症状の有無、入院情報などは「非公表」とする方針を示した。これまでに明らかになっているだけでも、選手村で勤務する大会組織委の職員と業務委託スタッフを含む約20人の大会スタッフが陽性となっている。

 

 内閣官房によると、選手でも2月にフランス2人、4月にエジプト1人、5月にスリランカ1人、6月にガーナ1人、ウガンダ2人、7月にセルビア1人、さらに今月15日には来日選手1人(国籍非公表)が入国後の検査で陽性となっている。選手や関係者の7割超が14日間の自己隔離免除を希望し、入国直後から合宿や予選大会、開催準備に参加している。

 

 各国選手団の合宿地となっている全国のホストタウンでも感染が確認されている。13日には、静岡県浜松市にあるブラジル柔道代表の宿泊施設で、従業員2人とその家族など8人が陽性となり、クラスターと認定された。

 

 また14日、南アフリカ代表が入国時に搭乗していた飛行機に、コロナ感染者がいたことが分かり、選手14人全員とスタッフ4人の計18人が濃厚接触の候補者となったため、合宿地である鹿児島市入りを見送った。

 

 同日、福岡県宗像市で事前合宿をおこなっている7人制ラグビーのロシア選手団のスタッフ1人の陽性が確認された。神奈川県藤沢市でも、事前合宿で滞在しているエジプト代表のフェンシング選手団1人がスクリーニング検査で陽性となった。

 

 各国選手団の事前合宿や事後交流を予定しているホストタウンは、内閣府によれば6月4日時点で479自治体ある。当初の545自治体だったが、安全対策のために122の競技団体、選手団が事前合宿などをとりやめた。政府は「選手団の管理責任は受け入れ自治体にある」としているが、入国検疫ではPCR検査もおこなわれないため、各自治体の負担は想定以上に増しており、集団感染によって保健所や医療機関の逼迫を招くことに神経を尖らせている。

 

 宮城(サッカー)、茨城(サッカー)、静岡(自転車)の3県だけは有観客で競技をおこなうことになっており、宮城県では仙台市が感染対策のために無観客を主張し、県医師会、仙台市医師会、東北大学病院も無観客とする要望書を県に提出している。

 

ワクチン2回接種は20% 医療体制逼迫の危機

 

 主な五輪競技の開催地である東京都内の感染現状は、早くから専門家が警告していた通り、6月下旬から再拡大の様相を見せ、7月15日には1月以降で最多の1308人を記録した。さらに同日、東京都は都内で新たに177人が、デルタ株の疑いがある「L452R」の変異ウイルスに感染していたことを発表。1日としては過去2番目に多く、検査実施件数に占める割合は約30%となった。

 

 14日までの直近1週間の新規感染者を年齢別に見ると、10~30代までの若年層だけで全体の6割以上を占めており、若年層にワクチン接種が進んでいないことや感染力の強いデルタ株のまん延が要因とみられている。四度目の緊急事態宣言を発令しても、特例だらけの五輪開催の強行や、酒類制限の要請に応じない飲食店に酒を提供している酒類販売業者に協力金を出さない規定や金融機関を通じて圧力をかける方針に対する反発もあり、自粛要請の効果は薄れ、人流も減る傾向にない。

 

 15日の都モニタリング会議では、専門家による分析結果として、新規感染者の7日間平均(14日時点で817人)が2週間後の28日には1・72倍の1402人、4週間後の8月11日には2・94倍の2406人にのぼると指摘された。入院患者も14日時点で2013人(1週間前から350人増)となり、6月下旬の1200人台からわずか3週間で約2倍に急増した。

 

 専門家は「6月以降、若年、中年層を中心とした新規陽性者数の急速な増加にともない、入院患者も急増している。この状況が続けば若年・中年層の中等症患者が増加し、遅れて重症患者が増加する可能性があり、医療提供体制が逼迫の危機に直面する。このことを踏まえた入院医療体制の強化が必要だ」と指摘した。

 

 また、政府が唯一の頼みの綱としていたワクチンの接種状況(15日現在、政府発表)は、2回目接種が終わったのは2502万3470人で全人口の19・68%にとどまる。東京都内でも15・14%にとどまっているが、政府は各自治体に供給できるワクチンが不足しているとして接種速度を見直すように要請した。

 

 大規模接種や職域接種で使っているモデルナ制のワクチンは、当初は6月までに4000万回分が供給できるとしていたが、各国の需要逼迫で5月上旬には輸入量が1370万回分に激減。だが政府は「1日100万回接種」「7月末までの高齢者接種完了」「11月までに全国民への接種完了」などの目標を打ち出しており、需給バランスがパンクする事態に至っている。

 

 国民の生命を預かる日本政府が、IOCやスポンサーの要求を丸呑みし、国内でパンデミックが収束せず、感染防止対策も整っていない段階で、世界200カ国から7万人もの人間を集めて五輪開催を強行すること自体が非常識な判断であり、無観客にするにせよ、中断するにせよ、その判断が遅れれば遅れるだけ「五輪パンデミック」のリスクは巨大に膨らみ続けている。

 

 「平和の祭典」は、みなが安心できる状態をつくったうえでおこなうべきものであり、変異株の感染に怯えながら、これまで多大な犠牲を払って疫病禍に対峙してきた国民の努力までも水泡に帰しかねない状況で、金メダルもなにもあったものではない。国内の感染を抑止して国民や選手の身の安全を守り、日本を変異株感染の震源地にさせぬためにも一刻も早い中止判断が求められている。

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