(2026年8月19日付掲載)

下院予備選の三候補と選挙集会に参加したバーニー・サンダース上院議員(中央)とゾーラン・マムダニNY市長(前列右から2人目、6月18日)
アメリカでは、11月の中間選挙に向けて民主党の公認候補を決める予備選挙が佳境に入っている。このなかで「民主社会主義者(DSA)」のメンバーを中心とする進歩派候補が、旧来の民主党指導部を支持して大企業の後押しを受ける現職候補をあいついで破っている。さらにニューヨークやロサンゼルス、ワシントン、シアトルなどの大都市の市長選でも、民主社会主義者の候補があいついで当選するなど、全米でかつてなく支持が拡大するとともに、そうした運動のなかで労働者、市民運動の組織化が進んでいる。「エスタブリッシュメント(既得権益層・主流派)」への抵抗を前面に押し出し、わずか1%の大企業や富裕層らによる寡頭政治を終わらせるために、政党や人種の枠組みをこえて市民のための政治をとりもどす世論と運動が全土に拡大している。
マムダニ旋風、全米各地に波及
バーニー・サンダース上院議員や、オカシオ・コルテス下院議員など、みずからを「民主社会主義者」と自称する政治家の活動や発言は、これまでも米国内で存在感を発揮してきた。だが昨年11月におこなわれたニューヨーク市長選でゾーラン・マムダニ氏が当選したことにより、その勢いと影響力は一気に増している。
ニューヨーク市長選では、イスラム教徒で元ニューヨーク州議会下院議員のマムダニ氏がほとんど無名だったにもかかわらず、同じ民主党で元ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ氏(無所属で出馬)や、トランプ大統領が支持する共和党候補を抑えて当選した。マムダニ氏もみずからを民主社会主義者と自認し、選挙ではサンダース氏やオカシオ・コルテス氏が応援に回った。
公約には、ニューヨークで働く市民が住み続けられるための安価な住まいを確保するための住宅政策、高速で運賃無料のバス整備、保育料無料化、利益追求ではなく低価格維持に重点を置いた市営食料品店ネットワークの構築、富裕層や大企業への課税強化などを中心に据えた。
こうした政策に対する市民の支持が急速に広がった。選挙期間中に実施された有権者調査では、ニューヨーク市の有権者の約4分の1が民主社会主義者であると回答し、30歳未満では約4割が同様の回答をした。
選挙では大企業による膨大な選挙資金に頼るのではなく、市民による草の根運動で横に広げる運動が活性化。選挙当日時点で、マムダニ陣営には10万人以上の市民ボランティアが所属し、その多くは市内の大学キャンパスに拠点を置く全米自動車労働組合(UAW)の大規模な支部の組合員だった。その他の労働組合や市民団体も後援に回り、こうしたボランティアたちによって300万件の戸別訪問、450万件の電話呼びかけが展開された。
巨大資本が牛耳る「資本主義の本拠地」で繰り広げられたこの選挙戦の結果は、米国内のみならず世界的にも衝撃を与えた。そしてニューヨーク市長選をきっかけに、他の主要都市の選挙でも次々に民主社会主義者の候補者が支持を集め、同じ民主党の主流派候補を抑えて当選を果たすようになっている。

(左から)シアトル市長のケイティ・ウィルソン氏、ロサンゼルス市長選候補のニティヤ・ラマン氏、ワシントン市長のジェニース・ルイス・ジョージ氏
ニューヨーク市長選直後に投開票を迎えたシアトル市長選では、「社会主義者」を自称するケイティ・ウィルソン氏(43)が当選。シアトルといえば、アマゾンやマイクロソフトなどの大手テクノロジー企業をはじめ、コストコやノルドストロームなどの小売大手、スターバックスなど世界的な有名企業のメッカでもある。こうした大企業が現職市長を後押ししたが、政治経験がないウィルソン氏が多くの支持を集め当選を果たしている。
6月におこなわれたワシントン市長選の民主党予備選挙では、民主社会主義者のジェニース・ルイス・ジョージ氏(38)が市史上屈指の圧倒的な勝利を収めた。11月の本選でも同氏が有力視されている。予備選では6500人以上のワシントン市民がジョージ氏の陣営に寄付しており、この数字は前市長が樹立した過去最高記録(3656件)を倍近くも上回っている。
同月、ロサンゼルスでも民主社会主義者候補であるニティヤ・ラマン氏(44)が同市の市長選本選挙に進出。本選では同じ民主党の現職カレン・バス市長との一騎討ちとなるが、事前の世論調査では「LAのマムダニ」と呼ばれるラマン氏がこの民主党分裂選において優勢となっている。
この間の民主社会主義者候補の台頭は、ニューヨークやロサンゼルス、ワシントン、シアトルといった主要都市で起きている。既得権益層よりも労働者や市民のために機能する政治を求める世論が若い世代を中心に拡大しており、旧来の企業型選挙ではなく、ボランティアや個人献金などに依拠した地道な戦略によって勝利を勝ち取っているのが最大の特徴だ。
直近では、今月4日におこなわれたミシガン州の上院議員候補を決める民主党予備選で、急進左派の公衆衛生専門家アブドゥル・エルサイード氏が勝利を確実にした。この選挙は11月におこなわれる中間選挙に向けたもので、同氏は民主社会主義者のサンダース上院議員や、オカシオ・コルテス下院議員などといった急進左派の指導者たちや、全米自動車労働組合の支援を受け勝利した。
同氏の公約は、国民皆保険、資産10億㌦以上の富豪ビリオネアへの増税、イスラエルへの無条件の軍事支援停止、選挙における企業献金の役割縮小などが含まれている。
エルサイード氏は、過去最大規模の資金を投じた親イスラエルのロビー団体「米国イスラエル公共問題委員会」系の政治団体などの支援を受けた対抗馬の現職下院議員を抑えた。同氏は「私たちは世界を揺るがした」「私たちを結束させるものは、私たちを分断するものよりもはるかに大きい」と訴え、2024年の大統領選で民主党のカマラ・ハリス前副大統領を支持した有権者から、共和党のドナルド・トランプ大統領を支持した有権者まで、多くの人々を巻き込んだ広範な運動を構築すると表明した。
エルサイード氏はイスラム教徒で 「政治的な意見が異なる有権者でも、物価高対策や医療問題、そして大企業による大口献金に依存した影響力への反対という点では結束できる」と主張。11月の中間選挙で争うことになる共和党候補者を名指しし、「誰かの靴を舐める上院議員がほしいなら、マイク・ロジャース氏に投票すればいい。だが、ドナルド・トランプに立ち向かう上院議員がほしいなら選択肢はまさにここにある」と訴えた。
この他にも、今年6月にはニューヨークで中間選挙での連邦下院議員選挙の民主党候補を決める予備選がおこなわれ、市内の3つの選挙区(第7、10、13)では、いずれもマムダニ市長が支援した3人の候補が勝利している。3人はいずれも民主社会主義者を公言したり、政治活動のなかで協力・連携してきた候補者だ。選挙結果をめぐり、政治専門誌『ポリティコ』は 「ニューヨーク、そしてそれ以外の地域における民主党主流派への巨大な打撃」 と評している。
約40の予備選で勝利 民主社会主義者候補
民主社会主義者の候補者は今年に入り、ニューヨーク州、オレゴン州、カリフォルニア州、アリゾナ州、ジョージア州、ノースカロライナ州、ペンシルベニア州、バーモント州、ユタ州、メリーランド州、ワシントン州、コロラド州など、米国内約40の予備選挙で勝利している。
今年6月のニューヨーク州での下院予備選で勝利した後、民主社会主義者のバーニー・サンダース上院議員は自身のソーシャルメディアに、この選挙から得られた教訓の一つは「労働者階級の人々が団結し、組織化し、反撃すれば、既成の政治家や莫大な資金、政治的影響力を打ち負かすことができるということだ」と投稿した。そして「われわれは前進している。今われわれが取り組むべき課題は、その勢いをさらに高めることだ」と訴えた。また、別の投稿では、この間の民主社会主義者候補の躍進とそれを支える市民・労働運動の拡大をめぐり、以下のようにのべている。
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政治エスタブリッシュメント――民主党と共和党――が神経質になっている。彼らが所有する寡頭政治家や企業メディアもそうだ。彼らが支配する世界が、彼らの足元で揺らぎ始めている。変化が訪れている。彼らはそれが気に入らない。
火曜日(6月23日)のニューヨークで見たもの、全国で今見ているものは、普通の人々が政治プロセスに関与し、エスタブリッシュメントの候補者たちに挑み、そして勝っているということだ。エスタブリッシュメントにとってとくに恐ろしいのは、多くの候補者とその支持者が若いということだ。未来は彼らのものであり、彼らはその未来が今日とは大きく異なるものになることを望んでいる。
それは複雑ではない。進歩派と民主社会主義者が選挙に勝っているのは、アメリカ人の大多数が現状の政治と政策が機能していないことを理解しているからだ。経済学の博士号がなくても、アメリカで今日、超富裕層がますます富を増やしている一方で、私たちの大多数の人々が基本的な必需品、医療、住宅、食糧、教育、公共料金の支払いに苦しんでいることは理解できる。社会学者でなくても、若い世代が親の世代よりも低い生活水準になる可能性が高いことに気づくことができる。政治学者でなくても、私たちの腐敗した選挙資金調達システムが、億万長者と彼らのスーパーパック(特別政治活動委員会・政治資金管理団体)に選挙を買わせ、民主主義を損ない、彼らの特権的な地位を守っていることは理解できる。
政治的立場をこえたアメリカの人々全体が、エスタブリッシュメントによる超資本主義イデオロギーや価値観、優先事項を拒否している。彼らは、一部の富裕な選挙資金提供者だけのためでなく、すべての人々のために機能する経済と政治を望んでいる。
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全米の労働者や若い世代のなかで社会主義的な志向や政治要求が高まっていることは、いくつかの世論調査でも明らかになっている。
7月30日に発表された『CNN』と世論調査会社『SSRS』の世論調査によると、民主党員および民主党よりの無党派層の約3分の1が「民主社会主義者」であると自認しており、そのうち59%は45歳未満だった。
また、民主社会主義者を自認する人々の66%は大学の学位を持っておらず、76%は年収10万㌦未満となっており、この数字はどちらも民主党員全体の水準を大きく上回っている。
民主社会主義者は、「エスタブリッシュメント」への反対を政策の軸に据え、現在の民主党指導部を交代させ、より若い候補者を擁立する動きを強めているのが大きな特徴だ。この間、全米各地でおこなわれてきた市長選などでも旧来の民主党指導部および膨大な資金力を有する大企業が支援する候補者をうち破って勝利を収めている。
7月30日に発表された大手商業紙ワシントン・ポストと市場調査会社『イプソス』の世論調査結果によると、登録有権者の約40%が、大統領選挙で民主社会主義者候補への投票を検討していることが明らかになった。30歳未満の有権者で見ると46%という高水準となっている。
また、民主社会主義者の候補者たちは皆、トランプ政府による戦争政治に真っ向から反対を表明し、イスラエルへの軍事支援の即時停止を求めている。こうした訴えは、イラン戦争およびアメリカが支えるイスラエルによるガザ地区でのジェノサイド反対を訴える全米市民の世論と結びついている。そのためトランプ政府のみならず、イスラエル支持の立場をとり続けている旧来の民主党主流派に対する批判も強まっており、イスラエルに対する姿勢の違いが、民主党内でも大きな分かれ道となっている。
みずからを民主社会主義者と認識する人々の48%が、イスラエル支援の民主党指導部と一線を画し、イスラエルへのアメリカの支援削減を支持する候補者を強く支持すると答えている。また支持政党を問わず全米で反戦世論は高まっており、キニピアック大学が7月末に公表した世論調査では、66%がトランプ大統領の戦争への対応に反対しており、これは米国が2月28日にイラン攻撃を開始して以来、最高値となっている。
改革進むニューヨーク マムダニ市長の公約

今年1月1日にニューヨーク市長に就任したマムダニ氏は、約8カ月間で選挙公約の実現に着手し、実績をあげている。公約の内容などから選挙の過程や当選後も「過剰な左派ポピュリスト」との攻撃も強かったが、公約実現に向けた歩みを着実に進めるなかで、米国内の他の州や地域での選挙戦における民主社会主義者候補への信頼も強まっている。
ニューヨーク市では、マムダニ氏の中心的な公約だった住宅政策の拡充が進む。同市は今月11日、2026年の上半期6カ月間で1万2491戸の低価格住宅の建設と維持に資金を提供したと発表した。これには、かつてホームレスだった市民のための住宅2000戸以上が含まれている。整備された住宅の半数以上は、地域の中央所得の50%未満という極めて低所得の市民を対象としたものだ。さらに同じ期間にマムダニ市政は、4370人の元ホームレスを含む9970人の市民を、手頃な価格の住宅に入居させた。
またニューヨーク市住宅公社は、今年1月から6月にかけて32件の公営住宅大規模改修プロジェクトを完了させた。暖房設備、エレベーター、屋根、外壁、廃棄物管理、コミュニティセンターの改修などを実施し、29の団地に暮らす5万人以上の住民に恩恵がもたらされたという。
さらに7月には、これも公約の一つだった市営食料品店をめぐり、2029年までに5つの店舗を開店予定だとし、生鮮食品、肉類、魚介類に加え、約20種類の保存食料品、乳製品、冷蔵品などを3割引で販売すると発表した。この割引は所得に関係なくすべての人に適用され、民間の食料品店のように週ごとに価格が変動するのではなく、価格は固定され予測可能となる。これらの割引により、市民の平均食料品費は15%削減されるという。
子育て世帯への支援拡充も実現させている。ニューヨーク市は今月13日、保育料補助金受給世帯の保育料自己負担分を市が全額負担すると発表。これまで補助を受けながら所得に応じて料金を支払ってきた約2万2000世帯の低所得家庭が、追加の手続きなしで無条件に9月から完全無料で保育サービスを受けられるようになる。これまで対象世帯が負担してきた年間520万㌦は、2028会計年度から、市が負担することとし、すでに624万㌦の予算を計上している。
また、ニューヨーク市は4月には市内の2歳児向け保育プログラムを終日・通年制にすると発表。さらに市当局は、市内で初となる無料保育事業の実施を進め、これまで空きだった7つの保育施設を開設し、5つの行政区全体で新たに2000人の3歳児向け保育枠をもうける計画を進めており、新たに240人分の3歳児向け保育枠を追加している。
また、ニューヨーク市はマムダニ氏が公約に掲げた中小企業支援も進めている。同市は今月17日、市内全域の中小企業と商業地区を支援するため、840万㌦以上の助成金拠出を決めた。今回の投資は、ニューヨーク市中小企業サービス局(SBS)史上最大規模の小規模事業者向け助成金交付の一つであり、公共芸術、街路清掃、照明および案内表示インフラ、商業地区のマーケティングキャンペーン、小規模事業者間の関係構築、その他の地域改善を支援するものだ。
資本主義の総本山であるニューヨークで、労働者や市民のための政治を取り戻す運動が全米に先行して進められるなか、これに呼応するように各地で民主社会主義者への支持が拡大し、選挙戦でも着実に結果を残している。既得権益層による二大政党制を打ち破る第三勢力として、11月に控える中間選挙に向けた今後の米国内の動きにも大きな注目が集まっている。





















