(2026年4月13日付掲載)

米国が攻撃を予告したイラン北部タブリーズ発電所を「人間の鎖」で取り囲む人々(7日)
2月末から続いてきた米国とイランの戦争は8日、イランへの大規模攻撃を仕掛けていたトランプ米政府が、パキスタンの仲介の下、イラン側の提案を交渉の土台にすることを受け入れたことにより15日間の停戦に入った。原発攻撃や地上軍派遣をほのめかしながら「イランを石器時代に戻す」「今夜ひとつの文明が終わる」と最後通牒をくり返していたトランプ大統領だが、徹底抗戦の構えを崩さないイランの反撃に対処できず、湾岸諸国からの停戦要求、ホルムズ海峡封鎖による世界的な原油価格高騰、米国内の支持率低下を受け、一転して譲歩へ舵を切った。パキスタンの首都イスラマバードでの和平交渉は米国側が一方的に打ち切る形となったが、軍事的な敗北を喫したトランプはイランの要求を受け入れない限り、国内外での孤立をさらに深めることになる。以下、現代イスラム研究センター理事長・宮田律氏の解説を紹介する。
自ら墓穴を掘り歴史的敗者となったトランプ大統領

宮田律氏
イランと米国・イスラエルは2週間の停戦状態に入った。今回の停戦合意が示すことは、トランプ大統領とネタニヤフ首相が仕掛けた戦争が、最初からいかに不当で無謀なものであったかということに尽きる。アメリカとイスラエルの側が追い詰められたのは明らかで、イラン側の姿勢は一貫して変わっていない。
停戦合意後もイスラエルはレバノンへの大規模な攻撃を継続し、これにイランが激しく反発し、当初開放されると期待されたホルムズ海峡は「再封鎖」となった。合意された停戦条件にレバノンへの攻撃停止も含まれることは、仲介国パキスタンのシャリフ首相が明言した通りであり、攻撃を続けるイスラエルに対しては、欧州各国や中東諸国の首脳も「停戦合意違反」と強く非難している。
米国とイスラエルは「イラン・イスラム共和国体制を打倒する」といって不当な戦争を開始し、ハメネイ最高指導者を開戦当日の2月28日に殺害したが、最高指導者を選ぶ専門家会議はハメネイ師の息子のモジタバ・ハメネイ師を後継者として即座に選出した。
米国とイスラエルは、文民から登用されたアジーズ・ナシールザーデ国防相をやはり開戦当日に殺害し、後任にはマジド・エブネ・レザー革命防衛隊将軍が就いた。
また、米国とイスラエルは、現実的な文民のアリー・ラリジャニ国家安全保障最高評議会事務局長も殺害し、その後任には強硬派のモハンマド・バゲル・ゾルガドル元革命防衛隊将軍が就任した。米国とイスラエルは、イランの中道・穏健派の政治指導者たちを次々と殺害したことで、極右の反米・反イスラエルの強硬派の人物に置き換えていった。実に愚かしいといわざるを得ない。
イランでは1月に反政府デモが高揚し、デモ参加者や治安維持要員に犠牲者が出る中で、国際的に孤立したが、米国とイスラエルの不当な攻撃、あるいはトランプ大統領とネタニヤフ首相の凶暴な言動によって、国際社会の多くはイランに対して同情的になり、特にイスラエルはガザ戦争の「前歴」に加えて、いっそうのパーリア国家(嫌われ者国家)になった。また、米国の国際的指導力も著しく低下した。国際社会の中で、米国・イスラエルではなくイランを非難するのは日本の高市政権ぐらいなものだった。
イランは中東の13の米軍基地を攻撃し、そのほとんどが著しく破壊された。米軍基地はホスト国を守るどころか、かえって重大な危険にさらすことが判明した。米軍の将兵たちは基地から離れ、近隣のホテルに避難したものの、湾岸地域の情報を収集するイランはその米軍関係者たちが滞在するホテルをも攻撃の対象とした。
イランのアラグチ外相は、湾岸諸国に米軍基地の閉鎖を求めたが、湾岸諸国の少なくとも国民レベルでは米軍基地の存続を望まないムードが高まった。イラクのシーア派住民たちはイランを支持しており、イラク戦争の舞台となったイラクでは元々米軍の駐留に対する反発が強い。
イスラエルでは軍の情報統制によって被害状況が明らかにされていないが、ハイファ製油所は被害を受け、テルアビブでもイランのミサイルやドローンの着弾が頻繁に報告された。イスラエルが誇ってきたアイアンドーム、アロー迎撃ミサイルなど迎撃態勢が万全なものではないことが明るみになった。イスラエルは迎撃ミサイルを使い果たしたと見られ、それも2週間停戦に繋がった要因と考えられる。
情勢はイランに追い風
米国・イスラエルの戦争によって、石油価格が上昇したことはイラン経済にとって追い風になったことは確かで、この点でも米国・イスラエルの戦争はイランを利することになった。また、イランはホルムズ海峡の通航料を新たに得ることになったが、湾岸諸国の石油施設の修復状況が不透明であるために、来年も油価は高止まりする可能性がある。
石油価格が上がる中で、トランプ大統領はイラン産原油に対する経済制裁を解除せざるを得なくなった。石油をめぐる情勢が厳しければ、このままイラン制裁解除ということにもなりかねない。日本も再びイラン産原油を必要とする事態になるかもしれないが、そのためにも良好な対日感情は維持すべきだ。しかし、トランプ大統領に抱きつく首相がいたり、駐日イラン大使の前で「我が国の外交は日米同盟を基軸として」などと話す元首相(岸田氏)がいたりする。イラン大使の面前でイランを攻撃する国との同盟関係を強調する外交センスを疑わざるを得ないが、日本の政治家たちは中東というか、外交を知らない人が多すぎる。
イランはこの戦争で、米国・イスラエルの攻撃への抑止力としてホルムズ海峡封鎖や、湾岸諸国の石油掘削リグなど石油関連施設の破壊をほのめかすようになり、これがトランプ大統領に停戦を決断させる有効な手段であることが判明した。
ロシアと中国は、ベトナム戦争時代にソ連と中国が北ベトナムに軍事・経済援助を与えたように、イランを支援していくことだろう。これら2国にとって米国・イスラエルに対抗し得るイランは貴重な「資産」となるからだ。中国は世界のドローン部品の8割ぐらいを生産すると見られているが、中国もロシアも地理的に近いイランへの支援は容易で、さらに中央アジア諸国はイラン、中国、ロシアと良好な関係にある。中央アジアもイラン、中国、ロシアのトライアングルとの協調を継続することだろう。
イランには12万~19万人の革命防衛隊に加えて、40万人の正規軍が存在する。さらに40万~80万人のバシジ民兵組織も活動しているが、これらの軍体制が米軍・イスラエル軍の攻撃によって弱体化したようには到底思えない。
トランプ大統領はSNSに「今夜一つの文明が消滅するだろう」と投稿したが、人権弁護士でコロンビア大学講師のジャミール・ジャファー氏は、それは「テロリズムの定義そのものに当てはまる」とのべ、民主党のペロシ元下院議長ら70人がこの発言を問題視し、憲法修正25条の発動による副大統領への権限委譲を主張した。ラーソン下院議員は声明で「トランプ氏は罷免に値する要件をはるかに超えており、日増しに不安定になっている」と語った。
政治的敗者は明らかにトランプ大統領の方であり、米国・イスラエルを非難しない日本政府も国際社会には同様に「敗者」と映っていることだろう。(4月10日)
始まったイスラマバード交渉――手詰まりに陥る米国とイスラエル

和平交渉のためイスラマバードに到着した、ガリバフ議長やアラグチ外相らイラン代表団(11日)
パキスタンの首都イスラマバードで11日、イランと米国の戦争終結に向けた協議が始まった。これまでも協議の途中で何度も軍事攻撃を受けてきたイランは、米国との協議に半信半疑にならざるを得ないだろう。
2週間の停戦が発効すると、トランプ陣営とパキスタン政府は停戦合意内容を公表し、パキスタンのシャバズ・シャリフ首相はSNSに「イラン・イスラム共和国とアメリカ合衆国、そしてその同盟国は、レバノンを含む全地域で即時停戦に合意し、即時に発効することを喜んで発表します」と書き込んだ。
トランプ大統領もまた、パキスタンでおこなわれる和平交渉がイランの10項目プランに基づくものであることを受け入れ、それを「交渉の実用的な基盤」と表現した。

10項目におけるイランの要求の一つは「イランおよびその同盟国への攻撃の終了」だが、これにはイスラエルによるヒズボラ(レバノン)への攻撃も当然含まれる。
米国とパキスタンの協議に基づけば、イスラエルはレバノンへの攻撃をおこなってはならない。だが、不誠実にもネタニヤフ首相は、自分が「勝利」と主張できるものを示すまで戦争を終わらせるつもりはない。ネタニヤフ首相は、イスラエルがイラン戦争では決定的な勝利を収めることができなかったため、レバノンの占領地域を拡大し、ヒズボラの脅威をイスラエルから遠ざけることによって国内での支持を集めようとしている。
現在、イスラエルはイラン、レバノン、ガザ、ヨルダン川西岸と数えただけでも4正面で敵と対峙している。3月末にイスラエル軍のエヤル・ザミール参謀総長は、兵力不足によるイスラエル軍崩壊の可能性について言及したが、イスラエル軍はレバノン南部での軍事作戦を拡大し、またガザ地区のおよそ半分を占領し、軍の任務は絶えず拡大する状況にある。中道政党イェシュアティドを率いる野党指導者のヤイル・ラピド氏は、正規軍は完全に崩壊状態にあり、軍には任務を遂行するのに十分な兵力がないと閣議に報告したザミール参謀総長の発言を議会で強調した。
米国とイスラエルは、ハメネイ最高指導者などイラン政府高官を殺害すれば体制転換が進むと甘く踏んでいたが、そうはならずイランがホルムズ海峡を支配し、石油やガスを含む湾岸地域の船舶の通航を遮断したことで、トランプ大統領の米国は地上作戦か、交渉かの選択に追い込まれた。
しかし、地上作戦は米軍が賛同せず、結局交渉しか選択肢がなくなった。そのトランプ政権も「レバノンは停戦合意の中に含まれていなかった」と主張するようになり、中東情勢が極めて不安定な中で停戦協議が始まった。
6週間で覆った目論見
イスラエルのネタニヤフ首相は、2月11日にトランプ大統領にイラン戦争の甘い見通しを語ったが、それらのほとんどが6週間にわたる戦争で覆ることになった。
ネタニヤフ首相は、イランが弾道ミサイルを6週間で撃ち尽くすか、米イスラエル枢軸軍が破壊するとのべたが、イランは弾道ミサイルを発射し続けた。また、ネタニヤフ首相は、イランの体制は弱体化し、ホルムズ海峡を封鎖できないほどになるだろうとも説いたが、戦争が始まって以来、イランの許可なしに海峡を通過した船舶はない。
また、ネタニヤフ首相は、イランが近隣の湾岸諸国における米国の利益に損害を及ぼす危険性は極めて少ないともトランプ大統領に力説していたが、イランはクウェート、サウジアラビア、UAE、カタールにおける米軍の航空機、レーダーシステム、部隊に継続的に攻撃を加えた。
ネタニヤフ首相は、イスラエルの情報機関モサドのイラン国内での工作と、イスラエルと米国が軍事攻撃をおこなえば、イランの反体制勢力がイスラム共和国体制を内側から打倒することができると考えていたが、イラン革命防衛隊への支持は弱まるどころか、かえって強固なものになった。
結局のところ米国・イスラエルの空爆は、イランの人々の反米・反イスラエルのナショナリズムを強め、体制変動を遠いものにした。米国やイスラエルが頼みとする元イラン国王の息子レザー・パフラヴィーはイランが空爆されている間、米国の保守的な寡頭勢力と会食し、イランへの投資話を進めた。
停戦に関与せぬ高市政権
もし米国が戦争に失敗すれば、その責任追及はトランプ大統領に向かうことは確実だ。SNSの投稿では大統領の弾劾を求める声が広がっている。また、3月末に『ピュー研究所』がおこなった世論調査では、60%の米国の成人がイスラエルに好感を持っておらず、昨年の53%から上昇した。さらに、59%の人々がネタニヤフ首相が正しいことをおこなっているという信頼を持っておらず、こちらも昨年の52%から上昇した。民主・共和両党の50歳以下の多くの人々が、イスラエルとネタニヤフ首相を否定的に見ていることが判明している。
仮に米国・イスラエルがイランへの攻撃を再開することがあっても、イランはホルムズ海峡を封鎖し、さらにイエメンのフーシ派を使ってバーブ・エル・マンデブ海峡(紅海とアラビア海を結ぶ海峡)やスエズ運河の通航を遮断する可能性がある。
他方、トランプ大統領はヨーロッパの支持を得ておらず、また7日、ロシアや中国は、バーレーンが提出した「ホルムズ海峡の安全確保を求める」安保理決議に拒否権を行使した。ベネズエラのマドゥロ大統領を連行したり、イランを攻撃したり、さらにはグリーンランドの領有を口にしたりするトランプ大統領の振る舞いに世界は反発するようになり、米国は外交的にも手詰まりの状態にあり、その影響力は大いに低下した。
イランとも良好な関係にあり、日米同盟を結ぶ日本には、本来はパキスタンのように停戦の調停役ができ、日本外交の腕の見せどころのように思われる。また、和平が実現すれば、それは多くの命を救うことになり、ホルムズ海峡の通航は日本のエネルギー安全保障にとっても死活的な意味を持つものだが、高市首相や茂木外相には和平協議への関心やそのための気概が見られない。彼らはまったくの他力本願のようだが、イスラエルのレバノンでの殺戮やホルムズ海峡の安全な通航にも何の役割も果たせない日本外交は日本の政治家がよく使う「遺憾」という言葉がふさわしい。(4月12日)





















