
当書評欄では以前、『過疎ビジネス』を紹介した。福島県の国見町を例に、少子高齢化・人口減少が進む地方において、自主財源の乏しい「過疎自治体」は国からの補助金や交付金に頼らざるをえず、そこに目をつけた都会のコンサル企業が「総務省認定の地域力創造アドバイザー」などの看板でその自治体に入り込み、行政機能をぶんどって事業のアウトソーシング(外部委託)を巧みに持ちかけ、公金を我が物にする――そうした手口が全国で蔓延していることを報告したものだ。
地方自治総合研究所特任研究員の著者は、この本のなかで、「この事件の背景には、現在の国と自治体との関係が象徴されている」とのべている。この事件には、国の地域政策に貫かれている価値観――自治体財政を維持するために、地域社会で「稼ぐ」ことは自治体の責務である。「稼ぐ」ことができない自治体は消滅するしかない――が見え隠れする、と。それは最近、国が盛んにおこなっている自治体へのアドバイザー派遣とセットだ。
事実、国見町へ企業版ふるさと納税をした事業名は、「稼げるまちづくりプロジェクト」となっていた。
計画策定で地方を統制 官から民へを謳い
こうした言葉が最初に出てくるのは、地方創生政策で国が最初に策定した「まち・ひと・しごと創生総合戦略2015年」改訂版で、「ローカル・アベノミクスの実現」の中に「稼ぐ力を引き出す」という言葉が出てくる。そして2019年の同第2期総合戦略では、基本目標の第一に「稼ぐ地域をつくる」という言葉が入った。
さらにさかのぼると、小泉内閣が2003年から始めた「地域再生」に行き当たる。小泉内閣は「官から民へ」のスローガンのもと、公共投資や公共事業の削減を進めた。2005年に制定された地域再生法は、「企画」と「実施」を分離して、「実施」部門の公務員を削減し、地域活性化については国行政の外部に国の関連団体をつくり(官僚の天下り先でもある)、それらの団体から「地域力創造アドバイザー」「地域再生マネージャー」、民間事業者の社員やコンサルなどをアドバイザーとして自治体に送り込んできた。
著者は、この時期以降の国と自治体との関係を「計画統制」と呼ぶ。それは、国が自治体に計画を策定させることを通じて、自治体の活動を制約したり、特定の方向に誘導し、みずからは自治体の監督者となった。脱炭素の政策もそうだが、こうして自治体は国から求められる計画策定が急増し、その地域の必要から策定される計画がないがしろにされるようになった。
地方消滅で潤った東京 安倍内閣で加速
典型的なのが、安倍内閣のときの地方創生政策だ。
2014年5月に日本創成会議が「増田レポート」を発表し、「消滅可能性都市896全リスト」がメディアで大々的に宣伝された。こうして「人口減少」→「地方消滅」→「自治体消滅」というロジックが成立した。これは、「アベノミクスの使命」である「成長戦略」を大胆にパワーアップするという文脈の中で出てきたものだ。
政府は全国の自治体に、2015年中に5カ年計画の地方版総合戦略・地域再生計画を策定し(そうしなければ地方創生関連の交付金を申請できない)、2016年度から具体的な事業にとりくむことを求めた。しかし、計画を立案して国の認定を受けるためには、国が作成した長文のマニュアルを短期間のうちに読み解き、事前に国との間で内容の調整をしなければならない。こうして全国の半数以上の市町村が、これらの作業を東京に本社のあるコンサル企業に委託し、計画策定経費だけでも地方に交付されたはずの数十億円の国費が「中央」に回収された。
結局、人口減少対策といいながら、地方創生政策10年で人口減少はいっそう加速し、東京一極集中の是正どころか、東京圏では大規模な再開発が目白押し。地方はただ利用されただけで、一部の者が潤い、政策としては大失敗といわざるをえない。同時にこの過程で自治体は体質が変化し、地域住民の必要性から政策を練り上げるのではなく、国が示した計画に準拠して計画を立て、国に補助金や交付金を申請し、国の認可を受けて事業を実施するというパターンが確立した、と著者は指摘する。
この本の中に貫かれるのは、自治体は何のためにあるのか、という問いだ。
自治体の本来の仕事は、その地域で暮らす人々が安心して生活を維持できるようにすることだ。条件の悪い地域を含め、全国どの自治体で暮らしていても住民が最低限の文化的生活を送れるように条件整備をすることが国の役割だ。国が自治体に「稼ぐ」ことを強要するのは、こうした国の役割を放棄し、自治体に責任を転嫁することになる、と著者は強調している。
著者は先人の残した言葉――「一人ひとりが自由で平和な日々を過ごすためには、自治体こそが重要な社会インフラになるのだ」「さらに主権者としての住民が参加することで、自治体を橋頭堡として、日本の統治構造を転換できるのではないか」を念頭に、職場・学校・地域の多様な組織の自治など、今後のめざすべき方向も提起している。
(岩波新書、218ページ、定価940円+税)





















