(2026年3月30日付掲載)

米国とイスラエルの爆撃を受けたイランの民間施設(3月、イラン赤新月社)
日本の中東研究者有志は24日、「米国とイスラエルによるイラン攻撃に抗議し、国際法の遵守と中東の平和を求める声明」を発表した。中東研究者有志は、2023年10月以来、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区でのジェノサイドに抗議し、即時停戦を求めるアピールを4度発表してきた。今回の米国とイスラエルによるイラン攻撃に抗議する声明は、日本政府および各国政府、国連をはじめとする国際機関に宛てて戦争を止めるための行動を求めるものだ。声明はとくに、中東諸国と歴史的に友好関係を築いてきた日本政府が、戦争の終結のために役割を果たすべきであると強調している。
声明は、「米国とイスラエルが2月28日に開始したイランに対する一方的な攻撃を契機に、中東全域に戦火が広がり、子どもや女性を含む民間人にも多大な犠牲が生じている」「外交交渉が続いている中で突如行なわれた今回の攻撃は、国連憲章をはじめとする国際法に明らかに違反する暴挙、明白な侵略行為である」として、次のようにのべている。
「戦争の理由や目的について、米国大統領は公的な場で首尾一貫した説明をしていない。“切迫した脅威”との見解を裏付ける客観的な証拠は示されず、“核開発”問題に関しては、昨2025年6月に米国がやはり一方的に行なった攻撃の際に“完全に破壊した”と発表したはずである。今回の事態は、中東で唯一核兵器を保有しているイスラエルと、それを黙認する核保有国の米国とが、イランに核保有の嫌疑をかけて攻撃を仕掛けるという理不尽なものである」
「また、米国やイスラエルはイラン国内の人権状況を口実に“体制転換”を掲げたが、体制転換を行なう権利があるのはイラン国民だけであり、外部から武力で政権を転覆することは国際法違反である。イランの憲法に規定される“最高指導者”の殺害や、児童を含む市民に対する殺戮は戦争犯罪である」
根底にパレスチナ問題
「忘れてはならないのは、今回の攻撃の一方の当事者であるイスラエルのネタニヤフ政権は2023年10月以来、占領下のガザ住民に対する死者7万人を超える殺戮と破壊を行なってきており、国際社会ではこれがジェノサイド(集団殺戮)として批判され、国際司法裁判所でも審理が進行中だという事実である。今回のイラン攻撃や、並行して開始されたレバノンへの空爆・侵攻は、ガザへの弾圧と一体の作戦として遂行されている。問題の根底にはパレスチナ問題が存在し、国際法違反の占領を続け、パレスチナの人びとの権利を否定し続けると共に、自らに批判的な国家や勢力を中東から消し去って自らを中心とする“新中東”秩序を作り出そうとするイスラエルの政策が存在する」
「戦火の拡大の結果、域内の石油・天然ガス施設に甚大な被害が生じ、世界のエネルギー供給の大動脈であるホルムズ海峡の通航が困難になるという事態も生じている。米国大統領はホルムズ海峡の“安全確保”のための関与を欧州・アジア諸国の政府に求めているが、これは対立をさらに拡大・激化させ、世界を分断することにつながるだろう。ホルムズ海峡の安全を回復するために必要なのは、イランに対する攻撃の即時停止である」
声明は、以上のことを指摘したうえで、「国連をはじめとする国際機関や各国政府は、米国およびイスラエルによるイラン攻撃が国際法違反であることを批判し、攻撃の即時停止を求めること」「各国政府は、米国およびイスラエルによるイラン攻撃に対し支援を行わないこと。軍事基地の使用許可や便宜の提供、共同軍事行動等を行わないこと」を要求している。
声明はまた、「イラン攻撃の帰趨にかかわらず、パレスチナに対する占領の終結を求めた国連総会決議(2024年9月19日)が遵守されること。パレスチナ人の民族自決権の実現、完全な主権を備えたパレスチナ国家の樹立によって中東に平和と公正がもたらされること」を要求している。
中東研究の蓄積生かせ
さらに声明は、「日本政府は、国際法違反のイラン攻撃に加担せず、在日米軍基地がイランや中東への出撃基地として用いられないようにすること。ホルムズ海峡情勢等を理由に自衛隊の中東派兵を行なわないこと」を要求し、次のようにのべている。
「日本はこれまで中東外交の場では豊かな実績を積み重ね、中東諸国と友好関係を築き、パレスチナ問題をはじめとする中東地域の課題に関しても平和で公正な解決を求めて努力してきた」
「今回、米国と歩調を合わせて軍事介入に参加するようなことがあれば、このような蓄積を台無しにして中東の人びとの信頼と友情を一瞬で失う結果となり、日本の社会・経済に深刻な影響が及ぶことになるだろう。今、日本外交が果たすべき役割は、今回の中東不安定化の最大の原因であるイラン攻撃を停止することを求め、パレスチナ問題の平和的かつ公正な解決のために働きかけ、かつ事態の鎮静化と緊張緩和とを求める諸国・諸機関と協力して、地域安定化のための調整、対話の試みに率先して取り組むことではないか」
「中東の平和と繁栄、中東に生きる人びとの命と幸福のために、日本が外交、経済、そして文化面で貢献できることは多い。日本の中東研究の蓄積もそのためにこそ活用できるはずだと、私たちは信じている」
声明を発した中東研究者有志は、以下の15人。
飯塚正人(東京外国語大学)、鵜飼哲(一橋大学)、臼杵陽(日本女子大学)、大稔哲也(早稲田大学)、岡真理(早稲田大学)、岡野内正(法政大学)、栗田禎子(千葉大学)、黒木英充(東京外国語大学)、酒井啓子(千葉大学)、長沢栄治(東京大学)、長沢美抄子(ライター)、奈良本英佑(法政大学)、三浦徹(お茶の水女子大学)、山岸智子(明治大学)、山本薫(慶應義塾大学)
【リンク】中東研究者有志による声明全文




















