いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

戦争国家アメリカ・イスラエルが敗れた日 制裁も軍事攻撃も機能せず 現代イスラム研究センター理事長・宮田律

(2026年6月22日付掲載)

 

宮田律氏

 6月17日に署名された米国とイラン間の「覚書」は、戦争開始当初にあったアメリカ・トランプ政権の自己中心的な目標とは明白な対照をなすものだった。

 

 2月末にアメリカとイスラエルは、イランの核・弾道ミサイル計画の完全な破壊、ヒズボラ、フーシ派、ハマスといったイランの代理勢力へのイランによる支援の終結、そしてイスラム共和国体制打倒という目標を掲げ、戦争に踏み切った。戦争開始当初に、アメリカとイスラエルはその軍事力に絶対的な自信を示し、トランプ大統領は「次のイラン最高指導者を任命する」と自信満々に語った。また、彼はイラン文明を滅ぼすと脅し、イランを石器時代に戻すほど爆撃するとも言い、無条件降伏を要求したほどだった。

 

 ハメネイ最高指導者を殺害し、イラン国内の900以上の標的を対象とした作戦後、トランプとネタニヤフはイスラム共和国の軍事力を徹底的に壊滅させたと語った。トランプは「勝利が間近だ」とくり返し訴え、イランには「軍事的に何も残っていない」と主張した。

 

 トランプはイラン国民に対し、支配者が間もなく去ると語り、国を「体制転換」へと導いていると主張し、イラン国民に体制打倒のために立ち上がるように呼びかけたが、イラン人たちは社会・経済インフラなどを対象とするアメリカ・イスラエルの攻撃によってイスラム共和国体制というよりもイランそのものが攻撃されているのではないかと思うようになり、アメリカ・イスラエルの呼びかけに応じることは一切なかった。

 

 イランは地域全体にある米軍関連施設やイスラエルにドローンやミサイルで報復攻撃をおこなうことで対応し、決して屈する姿勢を見せなかった。

 

 覚書では、イスラム共和国体制の存続が認められることになっている。イラン政府が無傷である現実に直面し、トランプはG7サミットでは「政権交代には関心がなかった」と言い出し、イランの交渉担当者を「合理的で、強く、賢明」と持ち上げた。ハメネイ最高指導者の死後、イランは主に最高国家安全保障会議を中心とした集団的指導体制で機能しており、ペゼシュキアン大統領とガリバフ国会議長が主導し、新最高指導者モジタバ・ハメネイ師の政治への介入はごくわずかなものだ。故アリー・ハメネイ最高指導者は息子がその職を継ぐことに強く反対し、王朝のような権力相続を否定していた。

 

 覚書には「アメリカ合衆国は、国連安全保障理事会決議、IAEA理事会決議、およびすべての一方的なアメリカ制裁(1次・2次)を含む、イラン・イスラム共和国に対するあらゆる制裁を、最終合意のスケジュールに基づき解除することを約束する」とあり、イランは長年の懸案だった経済制裁解除まで手に入れた。イラン経済がインフレや失業など経済的苦境に陥っていたのは、アメリカによって科せられていた経済制裁のせいであり、制裁が解除されれば、イラン経済が好転する可能性は高い。

 

イラン原油が輸出可能に

 

 トランプ政権の経済制裁によってイランからの原油の輸入を断っていた日本も石油をはじめイランとの経済交流ができることになるが、また、覚書には「アメリカ合衆国は、地域のパートナーとともに、少なくとも3000億米㌦(48兆円)の最終的な相互合意計画を策定し、イラン・イスラム共和国の再建と経済発展を図ることを約束する」ともある。

 

 イランの戦後復興を担うのは、米国、湾岸諸国、アジア(日本など)、南米、アフリカの民間企業や投資家による「復興・開発ファンド(民間基金)」とされるが、実現されれば、日本企業も含めてイランをベースにするビジネスが展開されることになる。

 

 ホルムズ海峡の閉鎖は今後もイランの敵対者にとって強力な抑止力となることだろう。覚書には、イランの弾道ミサイル計画の放棄もイランが地域の代理勢力と関係を断つことへの要求もない。また、アメリカの海上封鎖の即時解除と、イランの原油輸出再開を可能にするために米財務省の緊急免除措置の実施を義務づけている。さらに、覚書はアメリカに対してイランの領土保全を尊重し、内政干渉を控えることを明確に義務づけた。

 

 アメリカの制裁も軍艦外交も戦争さえも機能しなかった。世界はアメリカ抜きの秩序を模索するようになった。戦争は、イランをイスラエルだけでなく世界最大の超大国アメリカに立ち向かい、敗れなかった国としてその地位を高めることになった。この戦争はイスラエルと、その最大の後ろ盾であるアメリカとの間に大きな亀裂を生み、アメリカ国内のイスラエル・ロビーの力を弱め、アメリカ国内外でイスラエルを支持する世論をさらに大きく後退させた。

 

 覚書の内容が実行されれば、日本も2019年5月以来断っていたイラン産原油の輸入が可能となる。王政時代のイランは日本の最大の原油輸入先だった。イラン戦争中、出光興産のタンカー、出光丸がホルムズ海峡を通過できた背景には、出光とイランが1953年の日章丸事件以来築き上げた信頼関係があった。

 

 日本もイラン戦争によって、エネルギー確保という観点から、アメリカ一辺倒の外交では立ち行かないことが判明したと思うが、それでも変わることがなければ、この戦争から何も学んでいないことになる。

 

 人々に正義を施せ
 汝もし正義を与えざれば むくい受ける日ありなん

 

   ―サーディー『薔薇園』(沢英三訳、岩波文庫)

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。